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Journal / ilGolosario





パオロ・マッソブリオのイタリア20州旨いもの案内

vol.19 モリーゼ州 土着ブドウ品種ティンティリア

text by Paolo Massobrio
translation by Motoko Iwasaki

世界で最も豊かな土着品種をもつ国の
再発見されたブドウの物語






イタリアではここ数日、ブドウの収穫ヴェンデミアの話題が自ず人々の口に上らずにはいられない。
夏の猛暑で収量が軒並減少しているからだ。
少なくとも25%、多いところで40%減だという。
干ばつ被害は、今年に限ったことではない。
こんな状態が続けば、イタリアの栽培醸造は新たな解決策の模索を余儀なくされる。
だが、イタリアには忘れてはならない状況がある。
何世紀もかけて、地域の風土に適合させた性質を培いならが厳しい自然環境への抵抗力をつけたブドウ品種が豊富なことだ。
そして、これらイタリアの土着ブドウ品種の再発掘が、イタリアのブドウ栽培に深く変化をもたらした。



現在、ブドウの土着品種として登録されているのは約350品種(しかも、その数は増加にある)。
ブドウ品種数でみれば、イタリアは世界で最も豊かな国なのだ。
しかも、それら土着品種のそれぞれにストーリーがある。
モリーゼ州のティンティリア(tintilia)は最も優れた再発見の例だろう。
ティンティリアの物語の始まりとして、まず、1700年代にタイムスリップしてもらうか。

この時代、ナポリ王国を目指す商業船がモリーゼに寄港した際に、このブドウの苗木も持ち込まれたようだ。
ナポリ王国と言えば、アブルッツォ、カンパーニア、プーリア、バジリカータ、そしてカラブリアを含む広大な領土を誇り、18世紀初頭はブルボン王朝に支配され、かつスペイン王室の影響下にあった。
まさに交易が、ティンティリアをモリーゼに根づかせ、この地で独特の性質を育んでいった。



その名の由来も、これを裏付けている。
ティント(tinto)だからティンティリア、tintoはスペイン語で赤。
このブドウから作るワインの、深い赤を髣髴とさせたのだろう。
野性味が強く、寒く、寒暖の差が大きな気候を好むティンティリアは、モリーゼの風土にすぐに馴染んだ。
ボディーがあり、色合いやストラクチャーの弱いワインに色を加えられるためアッサンブラージュにもってこいのブドウ品種として重宝された。

ところが、一つだけ欠点があった。
収量が少ないこと。
そのため、第2次大戦後、農家の人たちは可能な限り生産量を増やす必要から(当時のブドウの価格は今よりもずっと低かったのだよ)この品種は、だんだん見放されていった。
50年代に入ると、ブドウ品種リストからもその名を消されてしまうかに見えた。
しかし90年代に入り、数人の生産者によるグループが、古い品種の発掘に興味を持つようになった。



こうして少量での試験醸造で、ティンティリアは、その色と柔らかさで素晴らしい特徴を発揮し、1998年にはDOC(原産地統制呼称)の認定を得ている。
モリーゼは、世界で唯一のティンティリア・ワイン生産地域だと耳にしたことがあるが、どうもそうではないらしい。
スペイン領カナリア諸島では、いまだに火山灰土壌で生産しているようだ。
香りが高く、とてもフレッシュで早飲みに適している。

ティンティリア再生の旗手たち
それぞれの選択






いっぽうモリーゼが歩んだティンティリアの生産方法には様々な道がある。
代表格のワイナリー「テッレサクレ(Terresacre)」のアルフレード・パッラディーノ(Alfredo Palladino)は、僕も旧知の仲だ。
彼はこう語る。
「僕たちのティンティリアの畑は、どれも標高は400mを超えた所に点在し、一つひとつが違う特徴を備えています。例えば、石灰質土壌の畑のものはステンレスタンクで醸造します。 別の樹齢22年を迎えた畑のものは、熟成期間の半分は小樽を使用し、1年半を過ぎたころから独特のバランスが見られます」



クラウディオ・チプレッシは、10年以上前、このワイン再生の旗手となった男だ。
彼は、古代ティンティリア種のクローンを手に入れると、カンポバッソ県(Campobasso)サン・フェリーチェ・デル・モリーゼ(San Felice del Molise)の標高450mにある畑に植えた。
彼のティンティリアは、畑からさほど遠くない海岸から吹き上がる夜風に愛撫されて育っていった。



チプレッシはこう語る。
「ティンティリアは、とても素朴なブドウで、従来の赤ワインとしての醸造法に加え、ロゼあるいはデザートワインなど、いろんな方法で醸造することが出来ます。僕たちが現在取り組んでいるのはシャンパーニュ製法による発泡酒です。僕のワインの中では『マッキアロッサ(Macchiarossa)』に最もこの品種の特徴が表れていると思います。ティンティリア100%をステンレスタンクのみで熟成させてボトリングしました。長期熟成をすることで、この品種の良いところをより引き出すことが出来ます」
僕たちは、ティンティリア再生からまだ日も浅かった2003年に「ワイン・トップ100」賞を授与している。



さらに、リーパリモザー二村(Ripalimosani)で今、新しいワイナリーがすくすくと育っている。
ロドルフォ・ジャンセッラ(Rodolfo Gianserra)の作った「ヴィニカ(Vinica)」だ。
彼はある日、モリーゼの丘の上に横たわる手つかずの林に分け入り、その奥に広がる土地を見つけ、心を奪われた。
10年前にその土地を購入すると同時に彼は、ワイン生産のためにブドウのオーガニック栽培を選んだ。
「この土地に立った時に、畑でも醸造でも、何かしらの化学的処理を考えつくのはおかしい」と彼は言う。
そして、ティンティリアは是非とも植えたいと思った。





今日、標高600メートルの地点に広がる彼の畑は、灌漑も施さず、ひっそりと緑豊かな林に囲まれて眠るように存在する。
醸造には野生酵母のみを用い、澱引きも必要最小限、発酵と熟成は共にステンレスタンクで、温度管理を行わない。



「VI.NI.CA」というワイナリーの名は、ロドルフォの2人の息子ヴィットリオ(Vittorio/19才 )、ニコラス(Nicolas/16才)、そして娘のカロラ(Carola/11才)の名からそれぞれ頭の2文字ずつをとってつけた。
この土地が、子供たちと共に希望の賛歌となってくれるようにとの願いが込められている。
子供たちも勉強の合間に畑仕事を手伝っている。



そんな話をしているうちに、シチリアの優れたワイン生産者、サルヴォ・フォーティが語ってくれたエピソードを思い出した。
若く裕福な女性から投資としてエトナ山の麓で土地を購入し、ワイン作りをしたいからアドバイスをして欲しいと頼まれた。
フォーティは彼女にこう答えたそうだ。
「シニョーラ、それならまず子供をつくることから始めなさい!」
大地は次の世代に受け継がれて行くべきものだから。



パオロ・マッソブリオ Paolo Massobrio

イタリアで30年に渡り農業経済、食分野のジャーナリストとして活躍。イタリア全州の優れた「食材生産者」「食料品店」「ワイナリー」「オリーブオイル」「レストラン」を州別にまとめたベストセラーガイドブック『Il Golosario(イル・ゴロザリオ)』を1994年出版(2002年より毎年更新)。全国に50支部6000人の会員をもつ美食クラブ「クラブ・パピヨン」の設立者でもある。
http://www.ilgolosario.it


Winery Data
[ティンティリア種のワインの造り手たち]


Terresacre
Contrada Montebello
Montenero di Bisaccia 86036 (CB)
+39 0875 960 191
http://www.terresacre.net/
Info@terresacre.net

Claudio Cipressi a.r.l.
Contrada Montagna 5/B
86030 San Felice del Molise (CB)
Tel +39 0874 874535
http://www.claudiocipressi.it/
info@claudiocipressi.it

VI.NI.CA s.r.l
Contrada Costa Bianca, 4
86025 Ripalimosani (CB)
Tel +0874 1866935
Cell +39 3382803618
https://www.vinica.it/it/
Info@agricolavinica.it





『イル・ゴロザリオ』とは?

photograph by Masahiro Goda


イタリア全州の優れた「食材生産者」「食料品店」「オリーブオイル」「ワイナリー」を州別にまとめたガイドブック。1994年に創刊し、2002年からは毎年更新。全965ページに及ぶ2016年版では、第1部でイタリアの伝統食材の生産者1500軒を、サラミ/チーズ/肉/魚/青果/パン及び製粉/パスタ/米/ビネガー/瓶詰め加工品/ジャム/ハチミツ/菓子/チョコレート/コーヒーロースター/クラフトビール/リキュールの各カテゴリーに分類して記載。第2部では、1部で紹介した食材等を扱う食料品店を4300軒以上、第3部はオリーブオイル生産者約700軒、第4部ではワイン生産者約2700軒を掲載している。
数年前にはレストランのベスト・セレクション部門もあったが、現在では数が2000軒以上に達したため、単独で『il GattiMassobrio(イル・ガッティマッソブリオ)』という一冊のレストラン・ガイドとして発行するようになった。



(『Il Golosario』はパオロ・マッソブリオの作った造語ですが、この言葉はイタリア人なら一見して意味を理解し、口元に笑みを浮かべる人も多いでしょう。『Goloso』という食いしん坊とか食道楽の意味の言葉と、『dizionario(辞書)』、『glossario (用語集)』など言葉や情報を集めて一覧にしたもの示す語尾『−ario』を結んだものです。食いしん坊の為においしいものをそこらじゅうから集めてきたという少しユーモラスな雰囲気の伝わる言葉です。)







The Cuisine Pressの出発点である雑誌『料理通信』は、2006年に「Eating with creativity ~創造的に作り、創造的に食べる」をキャッチフレーズに誕生しました。
単に「おいしい、まずい」ではなく、「おいしさ」の向こうにあるもの。
料理人や生産者の仕事やクリエイティビティに光をあてることで、料理もワインもお菓子も、もっと深く味わえることを知ってほしいと8人でスタートした雑誌です。

この10年間、国内外の様々なシェフや生産者を取材する中で、私たちはイタリアの食の豊かさを実感するようになりました。
本当の豊かさとは、自分たちの足下にある食材や、それをおいしく食べる知恵、技術、文化を尊び、受け継いでいくこと。
そんな志を同じくする『イル・ゴロザリオ』と『料理通信』のコラボレーションの第一歩として、月1回の記事交換をそれぞれのWEBメディア、ilgolosario.itと、TheCuisinePressでスタートすることになりました。

南北に長く、海に囲まれた狭い国土で、小規模生産者や料理人が志あるものづくりをしている。
イタリアと日本の共通点を見出しながら、食の多様性を発信していくことで、一人ひとりが自分の足下にある豊かさに気づけたら、という願いを込めてお届けします。











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