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『料理通信』TRIPPA通信

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2017.9.8

・「食のフレキシビリティ」

誰もがおいしく、食事を楽しめる空間を提供したい ――
「HANZOYA」加藤英二シェフが挑む、「食のフレキシビリティ」



(photographs by Kouichi Takizawa)

新横浜のフレンチレストラン「HANZOYA」加藤英二シェフは、自身の店舗で「食のフレキシビリティ」に挑戦しています。ここで言う「食のフレキシビリティ」とは、年齢や、アレルギー、ハンディキャップ、宗教など食事に制限のある方それぞれに対応した食環境の場を提案すること。

「誰もが同じ食空間を共有して、食べる事を目一杯楽しんで頂きたい」そんな思いから、加藤シェフはこの活動に至ったといいます。


ステップを極力少なくしたという店内。スタッフがさりげなくお客様をサポートできるよう、体制も万全に整えている。

「訪れるお客様の中には、アレルギー体質、入歯、糖尿病、摂食嚥下障害をお持ちの方もいらっしゃいます。そういった方々にも安心してお食事して頂けるメニューはもちろん、同じテーブルのお客様同士で同じお料理のコースを召し上がっていただけるようなメニュー開発に務めています」。

お客様に事前にヒアリングをし、それぞれに合わせた調理法で料理を提供するだけではなく、ハード面でも車椅子や盲導犬をお連れの方、目の不自由な方にも利用しやすい店作りに務めるなど、フレキシブルな食環境づくりも同時に行っています。

たとえば、店のトイレ。

「この活動を始めて、うちの店のトイレは外開きに変えました。ドアの作りが内開きだと、車椅子の方がドアを閉められない、もしくは入れても開けられない状態になってしまう。これは車椅子のお客様から直接いただいた声です。こういった日常の不自由さへの理解は、想像ではなかなか追いつかない。最近、少しの配慮で 安心できる心配りや、声がけの方法などを 学ぶ為の『フレキシビリティーセミナー』を店をあげて実施しはじめました」。

普段の営業時にも、サービス、調理担当ともに店を訪れたお客様と丁寧にコミュンケーションを取り、現場でお客様のニーズをすくい上げる。もちろん、現場ですぐにニーズに対応できるように準備も欠かしませんが、その時に対応が難しければ、率直にお客様へと伝え、次なる課題としてスタッフとともに実現するための対策を練る。

「また来てくれた時にはなんなく応えられるように」と加藤シェフは話します。


|大切なのは、ハンディキャップの実態を知ること


入院生活で、「食べること、その意味は単にお腹を満たすための手段だけではない。おいしいものへの高揚感やそれに付随する楽しい食空間は、生きるモチベーションを高めてくれるものだ」と強く実感したといいます。

これらの活動を行うようになったきっかけは、加藤シェフ自身の入院でした。

「2010年初旬にくも膜下出血で入院したんです。経過が良くてその年の12月には退院したんですが、その時に病院で出された回復食のごはんが全然おいしくなかった。どろどろで、ただ食材をミキサーにかけただけみたいな。それを、不自由な状態でポツリとひとり病室で食べるんです。仕方のないことなんですけど、ごはんの時間が苦痛で苦痛で……。その時にふっと、誰もがおいしく食べられる料理や環境について、もっと作り手側が考えてもいいんじゃないかって思ったんです」

退院直後、参加した震災のボランティアで現在の活動に影響を与える鶴見大学歯学部高齢者歯科学講座を担当する飯田良平 助教授と出会います。

「飯田先生も、児童の支援で被災地に来ていたんです。一緒に児童の支援をする中で「摂食嚥下障害」という食事の際の飲み込みに不具合の出るハンディキャップの存在を知りました。

『加藤さん、今、摂食嚥下障害の介護食って、まだまだ充分においしいものがなくて困っている人、たくさんいるんですよ』ってボランティア中、聞かされていて。はじめ、ふーん?って思ってたんですけど、ふと、僕が食べた回復食のような食事を普段から食べている人たちがいるのか……と」。

まずは、飯田先生達と摂食嚥下障害についての勉強会を開くことから始めた加藤シェフ。その中で、ハンディキャップを持つ人の実態を知ることの重要性に気付かされたといいます。

「摂食嚥下障害ってね、食べることに関するセンサーや、機能がうまく働かなくなることなんです。『嚥下』と聞くと、器官に物が入ってむせてしまう、いわゆる『誤嚥(ごえん)』という具体的な症状を思い浮かべる方が多いかと思うのですが、広くは『食べる機能の障害』という意味なんですね。

まず、私たちの口内で何が起こっているかというと、口の中に侵入者(食べ物)が入って来たら、その形や大きさ、硬さを唾が察知してそれがそのまま体内に入っても害のないものなのか判断する。摂取しても害はないけどちょっと大きすぎるぞ、硬すぎるぞ、となれば唾液を沢山分泌して、奥歯で咀嚼を促す。充分小さくなってから、はい、喉元を通ってOKですよって指令が出る。

そしたらいよいよ体内に摂取して栄養にするために、口から喉、そして食道へと絶妙なタイミングで器官が連動して飲む込むのですが、摂食嚥下機能に障害が起こると、まだ充分に咀嚼できておらず、飲み込みのOKが出ていないのに食べ物を体内に送り込んでしまったり、逆にOKが出ているのにいつまでも咀嚼物を口内に留めてしまうということが起こります。

また、脳卒中などでは口や喉の麻痺もしばしば起こりますので、結果として誤嚥してしまう……といった不具合につながります。たとえば、ソースの滑らかさを考える時、僕たち料理人は、舌先の感覚だけしか意識していませんが、食べる機能を研究する先生方は喉元まで意識するんです。舌先では滑らかだけど、飲み込んだ後に喉に張り付いて残ってしまうような粘り気を感じれば、このソースは使えませんねって判断をする。食べるためにはどんな身体の機能がどう働いているのか。料理を作る側が知識としてそのことを知っていれば、調理法はずいぶん変わってきますよね」。

そしてそれは、摂食嚥下障害だけではなく、すべてのハンディキャップに言えること。だからこそ、食についての科学的知見を料理に落とし込むことへも積極的な姿勢を示します。

「EN大塚製薬から出ている『あいーと』という咀嚼力が低下した方のための商品の存在を知ったんです。『酵素均質含浸法』っていう技術を使ってるんですけど、びっくりした。酵素剤を使って、食品を見た目はそのままで柔らかくする手法なんですが、肉も、野菜も、上顎と舌で潰せるくらい柔らかい」。

「この技術をフレンチにも使用できないか」さらに「フレンチの手法でもって食べやすさや喉ごしの良さを実現できないか」と、考えた加藤シェフ。その結果、出来あがったのが摂食嚥下障害の方のためのコースメニューである「"Le Menu Soulage" ムニュ・スラージュ」と柔らかく食べやすいケーキ「フェリシテ」です。

|フレンチの視点から考える、これからの介護食


写真は、フレジエ(ホール4号2,500円~)。 噛む力のない方でも飲み込むことができるよう、滑らかなクリームと柔らかいスポンジを使用し、唾液の分泌を促進する酸味のあるフルーツを使用。「フェシリテ」はフレジエ意外に、モンブラン、ショコラ、フロマージュ、全部で4種類の味わいが楽しめる。手軽に味わえるカップケーキも。パティスリーの機能も持つ「HANZOYA」だからこそできるリッチな味わい。

「よく考えたらね、介護食ってフレンチの得意分野なんじゃないかって思ったんです。フレンチが意識して高めてきた方向性として、柔らかく、とろけるような食感、流動性がある。ク-ド・ブフとか、ピュレ、ムースやポタージュ、それから、ペクチン、ゼラチン、殿粉などのゲル化する食材を使うこと。フレンチではポピュラーなこれらの手法が介護食にも当てはまるんじゃないかと」。

見方を変えることで、メニューは飛躍的に増えたといいます。

「ポイントがあるんです。肉ならスジが多い部位を選ぶ。柔らかくするために赤ワインビネガーを加え、1時間圧力鍋でじっくりと煮込む。付け合わせのマッシュポテトは、トムフレッシュというチーズを加えて『アリゴ』という料理に。ちなみに、これはフランスの郷土料理で、介護食ではないですからね。でも、摂食嚥下障害の方でも食べられる」。

他にも、野菜はムース仕立てに、魚は繊維が繊細で食べやすいマスや金目鯛を使用するなど工夫を凝らします。


「ムニュ・スラージュ」は3コース。20日前までの要予約にて提供している。

ハンディキャップを持たない方が食べても、満足できるボリュームと味わい。
「食事の時間は30分だけ、と言っていた摂食嚥下障害を持つお客様が、2時間も3時間もうちで食事を楽しんでいかれるんです。同テーブルのご家族の方も同じお食事を召し上がって、あれおいしかったね、ケーキの方は今度こっちにしよう、なんて話をされている」。


「介護食とフレンチ、そこに明確な境界線をひく必要はないのではないか」と、シェフは話します。最も大切にすべきなのは、テーブルを囲んだ全ての人にとっておいしい料理で、無理なく楽しめる食空間であること。

「まだまだ試作と勉強の毎日です。そしてエビデンスの蓄積。それにつきますね。他ジャンルでも『食のフレキシビリティ』への挑戦者が出てきたら嬉しい。将来、ファストフードで食べやすい食事が選択肢としてあるような世界になっていたらいいなって」。

シェフの挑戦は、続きます。

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イベントのお知らせ
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 2017年10月20日(金)「HANZOYA」では、テタンジェとお料理のマリアージュイベントを開催。供されるのは、この日のためだけのスペシャルコースメニュー。合わせるシャンパーニュは、洗練されたキレ感のある「テタンジェ ブリュット レゼルヴ」とエレガントな芳香と味わいを纏う「コント・ド・シャンパーニュ ブラン・ド ・ブラン」。料理の一部を少しだけご紹介。



アミューズ(写真右手前)
セロリと松茸のキャビア仕立て
Caviar de Matsutake et Celeri

小さなダイス状のセロリと松茸のプチプチとした舌触りが楽しい。一口含むたびにはじける、セロリの爽やかさと松茸の芳醇な香り。「テタンジェ ブリュット レゼルヴ」とともに。

魚料理(写真中央))
真ハタの鉄板焼き 冬瓜と山葵 蕎麦の実添え
Filet de Merou a la Plancha, Courge a la Cire au Wasabi et  Ble Noir Roti , Sauce Glace de Poisson 

真ハタの身はふんわりと柔らかく、低温のオリーブオイルで焼いた皮目はカリカリの食感。さっぱりとしたセロリのソースを合わせて。添えるのは、アサリとホッキ貝のだしで炊いた冬瓜。蕎麦の実のローストと山葵が香り豊かなアクセントで彩る。「コント・ド・シャンパーニュ ブラン・ド ・ブラン」とともに。

◎HANZOYA
http://www.hanzoya.co.jp/restaurant/

◎イベントページ
http://www.hanzoya.co.jp/restaurant/1451/

※尚、このイベントは「食のフレキシビリティ計画」をテーマとするものではありません。
予めご了承ください。
  • 2017年9月8日
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  • カテゴリ・EVENT(食の世界の様々なイベント)
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