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アイヌの女性達が世界へ発信!
食の力を架け橋に、アイヌ独自の文化を伝える。

Feature / MovementOct. 2, 2018

text & photographs by Motoko Iwasaki

イタリア・トリノでスローフード協会が主催するイベント『テッラマードレ』の会場。その一角で、アイヌの女性は折り畳み椅子に静かに腰を下ろすとこう言いました。
「アイヌとしての誇りをどんな時に感じるかよく聞かれます。以前は『アイヌであるが故に強い差別を受けてきた私たちにどう誇りを持てと言うのだ』と答えていました。それがこの一年で変わったんです!」
アイヌ女性会議『メノコモㇱモㇱ』代表でアイヌ文化伝承者の多原良子さんが晴れやかな表情で口にした『この一年』、アイヌの女性たちは知恵を持ち寄り、力に変え、海を渡りました。長く険しかったアイヌ女性たちのエンパワメント活動に、新たな取り組み方を生んでくれたのは、彼女たちの記憶に残っていたアイヌの味覚でした。そこに込められた様々な思いを追いながら食の力を見つめます。 


先住民族アイヌの食文化にプライドを。




『テッラマードレ』はスローフード協会にとって、食をとおして人と地球への尊重を育む重要なプロジェクト。社会的に弱い立場の先住民とその文化のアピールも大切な課題です。9月20日から24日まで開催されたこのイベントにアイヌ女性会議『メノコモㇱモㇱ(アイヌ語でメノコは『女性』、モㇱモㇱは『目覚める』の意味)』が参加したきっかけは、スローフード日本の代表 伊江玲美さんからの呼びかけでした。沖縄出身の彼女は、2016年に現職に就いた時から日本の先住民族アイヌの『テッラマードレ』参加を切望していました。沖縄の琉球民族も独自の食文化を持ち、様々な取り組みを経て今では日本食の一つとして受け入れられるまでなった。アイヌの人々にも自分たちの食文化にプライドを持つきっかけを作り伝承へとつなげていって欲しいという願いからでした。

『テッラマードレ』開催中に行われた地球温暖化が先住民に及ぼす影響についてのカンファレンス。写真中央、青い服の女性が『メノコモㇱモㇱ』代表の多原良子さん。過去のアイヌの食生活にはじまり、鮭やシカなどアイヌの主食の狩猟を和人に禁止された歴史、和人の開拓がアイヌの食環境を狭めてしまった現状、そして、消えゆくアイヌの食文化を伝えようとする彼女たちを地球規模の環境の変化が阻んでいる現状を訴えた。

アイヌのブースに立ち寄る世界各国からの来場者。

多原さんの娘でアイヌ文化研究家の香里(かおり)さんが、足繁くアイヌのブースに足を運んでいたモホーク族の男性からの質問に応える。彼は、セタエント(アイヌの人々がお茶にしたりおかゆにいれたりするシソ科の植物、ナギナタコウジュのこと)に興味津々。

2017年秋には『テッラマードレ』参加に先駆け、札幌で『アイヌ・フード・フェスティバル』をメノコモㇱモㇱとスローフードニッポンで共催。会場でアイヌの味覚を知ってもらおうとお弁当の製造販売が企画されました。独特の風味が受け入れられるか不安もありましたが、果たしてお弁当は一時間で完売。今年4月には『メノコモㇱモㇱ』監修によるお弁当がJR札幌駅限定で販売開始されています。

そしていよいよ『テッラマードレ』から世界に向け、アイヌの食文化発信のステップを踏むに至りました。ここでは東京・西麻布のフレンチ『レフェルヴェソンス』の生江史伸シェフがプロデュースに加わります。大地の声を高い見地で料理に落とし込むミシェル・ブラスの下で研鑽を積み、『ミシェル ブラス トーヤ ジャポン』でスーシェフを務めていた経験から北海道の地域性にも明るい。アイヌの食文化を世界に繋ぐには、これほど心強い協力者はいません。

アイヌの失われた幸福な日々を食文化で。




昭和の日本に滞在し日本文化に造詣の深いイタリア人、人類学者で写真家のフォスコ・マライーニ(1912-2004)は、著書『Lo iyomande degli Ainu(アイヌ達のイヨマンテ)』*に1954年に彼が見たイヨマンテを克明に記載。村に子熊が到着した日の様子をこう記しています。

『…オート三輪がクマを載せて戻って来たときの村人たちの喜びは例えようがなかった。その光景はまさに感動的で、あの時初めて、アイヌにとってこの動物が持つ大きな意味を理解したと思う。女性たちは目に涙を浮かべ、その傍らで子供たちがはしゃいでいた。残念ながらそのクマは儀式に使うには小さ過ぎたが、これは我慢するしかない。男たちは、疲れも忘れてまる一日をかけ、湖畔にきれいな檻を作った。そこにクマを入れ、女性たちが、上等な食べ物(干し魚や餅など)を持ってきて、その『小さな神』に食べさせた。…』 

が、同じ本の中で、それが真のイヨマンテとしては最後の一つであり、あの時すでにアイヌ文化は失われつつあったと述懐しています。

北海道庁の統計によると道内のアイヌ人口は2013年に16,786人、2017年には13,118人。多原代表は、そんなに激減するわけがない。調査方法の確立が未だ困難な上に、差別による苦しみからアイヌとして申告するのを躊躇する人がいるためではないかと話します。
「とくに女性は、アイヌである民族差別と同時に女性への差別という複合差別に苦しんできました。そのため家庭内でもアイヌであることを隠している人もいます。」

左がアイヌ女性会議『メノコモㇱモㇱ』代表の多原良子さん。中央が多原さんの娘の香里さん。(写真:『メノコモㇱモㇱ』提供)

多原代表も隣に座っていた娘の香里さん(国際的に活躍するアイヌ文化研究家)も、話題が差別問題におよぶと伏目がちになります。
「今ではアイヌ料理を家庭で食べることはあまりなく、アイヌの伝統行事の時に食べるくらいです。これまでアイヌ語や舞踏、伝統工芸などは伝承されても食は日常的であるが故に蔑ろにされてきた。そう思い当たり、ならば自分がとアイヌ料理の研究に乗り出しました。私も以前はアイヌの人権を直接訴えてきましたが、時にはギスギスするでしょ。でもアイヌの味覚をとおして伝える文化はポシティブに受けとってもらえるんです。」

心の奥にしまっていた冷蔵庫から、子供の頃に記憶した味を『メノコモㇱモㇱ』に持ち寄った女性たち。家庭の味の出来を云々せず、楽しみながらレシピの復活作業を進められたと言います。
「昔はオハウという具沢山の汁物をよく食べました。石狩鍋や三平汁の原型です。鮭やシカ肉はアイヌにとって主食ともいうべき大切な食材でした。野生植物や野菜も独特の使い方をします。今の人たちには食べ慣れないものも多く、娘などは私の冷蔵庫の匂いを嫌がったりするんですよ。」
ふと、母娘が互いに目を見合わせ楽しそうに笑いだしました。

―何の匂いがダメだったのですか?―
「ポッチェイモとか。畑に放置したジャガイモは冬に凍結と解凍を繰り返して黒くなります。それを発酵させて作ったお団子で私は好きなんだけど娘は嫌がるのよね。」
多原さん母娘はさらに楽しそうに笑っていました。

お弁当をアイヌ文化の独自性への架け橋に。




夕方、お弁当の販売開始と同時にあちこちらから人が集まって来ました。『メノコモㇱモㇱ』のメンバーは緊張の面持ちで最後の盛りつけにかかります。生江シェフが出来上がったお弁当を手にブースから出て、訪れた人たちに説明を始めました。



仮設キッチンにてアイヌ弁当の仕込みを。多原さんがハスカップをご飯に混ぜ、生江シェフはシケレペ(キハダの実)のソースを準備。

お弁当販売開始と同時に買い求める客が殺到し、お弁当の盛りつけに大わらわ。

出来上がったアイヌ弁当80個は12ユーロで販売。

今回のアイヌ弁当を飾ったのはこの5品。香ばしいイナキビのおにぎり、歯ごたえと甘みが心地よいハスカップのおにぎり、不思議なうま味の干し行者ニンニク入り卵焼き、豚肉のソテーにはキハダの実『シケレぺ』のソースを。ほのかな苦みと独特のうま味が食欲をそそります。そして、『コンプシト』。コンプは昆布、シトは餅。素揚げ昆布の甘いペーストを今回はゆり根の代わりの白玉餅に合わせました。それぞれの品をメンバーの一人が担当。彼女たちの思いを優しい一皿に詰めました。





豚肉のシケレぺソースが気に入ったとイタリア人男性。一年間のアジア料理研究の旅を終えフランスに帰国するというカップルは、コンプシトに心を奪われます。誰もが一般的な和食の観念とは違う新しい魅力に驚きました。

「お弁当は食べやすくアレンジしてあります。食は、その民族のルーツへの入り口です。でも、初めての味が食べ易くないと先に進みづらくなる。つまり食はその文化の独自性への架け橋なんです。」と、生江シェフ。
「日本列島は昔から災害があまりに多いために、人は外から加わる力に抵抗せず、調和を重んじ、他と協力して変化を受け入れることで生き延びてきました。アイヌも本来穏やかな民族で強い抵抗はせず差別に耐えてきたと思います。」
そう言い残し、別れの挨拶をして厨房に戻っていった生江シェフ。ところが明るい笑顔で引き返してきました。
「お弁当、完売したそうです!」



*出典『Lo iyomande degli Ainu(アイヌ達のイヨマンテ)』フォスコ・マライーニ著2001年BUR La Scala出版(岩崎訳)
注)タイトル中のイヨマンテは、アイヌの儀礼のひとつで「神に捧げる熊祭」の意です。





◎ アイヌ女性会議~メノコモㇱモㇱ~ Menoko Mosmos
https://menokomosmos.webnode.jp/
https://www.facebook.com/menokomosmos









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