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2018年「パスタ・ワールドチャンピオンシップ」に見るパスタの未来形

Feature / MovementDec. 6, 2018

text & photographs by Masakatsu Ikeda

世界パスタデーに17カ国の若手シェフがミラノに集結

去る2018年10月24日、25日の両日、ミラノでパスタ世界一を決める「パスタ・ワールドチャンピオンシップ」が開催された。これはイタリアを代表するパスタメーカーであるバリラが10月25日の「世界パスタデー」にあわせて主催している大会で、今年が第7回目。従来はパルマにあるアカデミア・バリラで開催されていたが、近年は回を重ねるごとに規模が拡大。バリラ創立140周年にあたる2017年からは参加資格を満35歳以下、実務経験3年以上のシェフ、と大会規定を改定。今年は会場をミラノ中心部モスコーヴァ地区に移し、「Eat Positive(ポジティブに食しよう)」をテーマに若手シェフによるパスタ世界選手権の規模にふさわしい運営で開催されたのだ。


ミラノは近年、イタリア発ガストロノミーの首都として存在感を強めている。2015年のミラノ万博以降、世界的なフードイベントが頻繁に行われ、毎年2月にイタリアはじめ世界のトップシェフが毎回集うガストロノミー・イベント「イデンティタ・ゴローゼ」もミラノが本拠地だ。また、外資系ホテルのファイン・ダイニングがリードするミラノ・レストラン界も動きが非常に活発で、毎年のように話題のレストランやシェフが登場している。そんなミラノでパスタ世界一決定戦が行われるというのだから、いやがおうにも注目は集まった。



今大会に参加するのは世界各地の地区予選を勝ち抜いた18人のシェフ。日本からは石川県七尾市「ヴィラ・デラ・パーチェ」の平田明珠(めいじゅ)さんが日本地区予選で優勝し、本大会へと進んだ。平田シェフは1986年東京生まれ。東京のイタリア料理店で研鑽を積み、2016年に七尾市に移住。現在は生産者と料理人を結ぶ「能登F-Fネットワーク」理事として地元の活性化にも貢献している。



平田さんが日本地区予選を勝ち抜き、本大会でも披露したのは能登の甘海老を使った「Spaghetti alla Carbonara con Gamberetti 甘海老のカルボナーラ」。半干しした甘海老を煮出しただしでスパゲッティを茹で、乾燥甘海老のパウダーや能登の魚醤「いしり(いしる)」、ピンクペッパーで香りのアクセントを加えた一皿だ。

第1回戦はトーナメント形式

今年の「パスタ・ワールドチャンピオンシップ」のルールは極めてシンプル。まず各国予選を勝ち抜いた若手シェフが1対1で対決する1次ラウンドでは、1時間15分の制限時間内に「Master of Joy(喜びのマスター)」をテーマに各自のオリジナリティを表現するシグニチャーパスタを調理、審査員が試食して勝者が2次ラウンドへと進む。敗者復活戦とも呼べるワイルドカードを経た準決勝では「Master of Wellbeing(健やかさのマスター)」をテーマにしたパスタを調理。その中から2名のみが決勝へと進み、「Master of Mastery(創造のマスター)」とも言うべき、イタリア的パスタの象徴である「スパゲッティ・アル・ポモドーロ」を互いに披露して世界一の座を争う。





イタリアで行われるフードイベントは豪華審査員が毎回話題になるが、今回は地元ミラノからEATALY内にある魚介専門レストラン「アリーチェ」のヴィヴィアナ・ヴァレーゼ、「ルーメ」のルイジ・タリエンティ、そしてヴィチェンツァ「エル・コック」のロレンツォ・コーゴと、いずれもミシュランの星を持つスターシェフ、さらにイタリア国外から2名の審査員を招聘し、合計5人が若手シェフたちのパスタを審査する。



また、今回ユニークだったのは「インフルエンサー」の存在だ。これは主にインスタグラムなどのSNSで影響力を持つ招待者で、リアルタイムで大会の進行をレポートする役割が期待されていた。日本のインフルエンサーとして参加したのは、ミラノの一ツ星「TOKUYOSHI」オーナーシェフで、いまやイタリアにおける日本人シェフの代表格・徳吉洋二さんと、イタリアフード界で精力的に発信を続ける「PepeRosso」(東京・三軒茶屋)の今井和正さん。彼らの登場も大会を彩り、平田さんを勇気付ける重要なファクターとなった。



平田さんは初日午後に登場し、ドイツ代表の女性シェフと対戦。平田さんが調理を始めるとすぐに徳吉さん、今井さんらが応援にかけつけ、審査員であるロレンツォ・コーゴやルイジ・タリエンティも甘海老パウダーやいしり(いしる)について平田さんに質問、味見しながら調理ぶりを審査するという友好的な雰囲気の中、戦いは始まった。



ユニバーサルフードとしてのパスタの可能性

日本料理とイタリア料理は、食材の季節感と鮮度を重要視する点が非常によく似ていると言われているが、それは大局的に見ると極めてレアケースであり、季節感のない国のほうが圧倒的に多い。北欧、東欧、アフリカ、アラブ、中央アジア、熱帯地域、そうした国々の予選を勝ち抜いてきたシェフよりも、イタリアやスペイン、フランス、そして日本のシェフのほうが食材に関しては有利。大会前の予想ではそう思われていた。



しかし、パスタが20世紀以降これほどまで世界中で受け入れられた大きな理由として、どんな食材とも相性がいいという応用性の高さがある。いかに不利な自然環境にあり、限られた食材でも工夫次第で素晴らしい料理となりうる無限の可能性を秘めているのがパスタなのである。
ゆえにパスタの技術と創作性を競う大会では、食材的有利は絶対的有利とは必ずしもならない。日本代表として健闘した平田さんは残念ながら1次ラウンドでドイツ代表女性シェフに敗れ、敗者復活戦でも2次ラウンド進出ならず。決勝は中国代表とアメリカ代表の争いとなり、アメリカ代表女性シェフ、カロリーナ・ディアスが見事「第7回パスタ・ワールドチャンピオンシップ」優勝者に輝いたのだ。







優勝したカロリーナはこんなコメントを残した。「実は、私はこれまでイタリアに来たことはないんです。私の家族はメキシコ出身。なので、自分のルーツであるメキシコ、そして今の自分がいるアメリカ、さらに、パスタのルーツであるイタリアの3カ国の要素を私らしく表現したパスタを目指しました。その結果、優勝できたことは、とても嬉しいことです」。つまり、パスタの世界ではイタリアでの修業経験があってもそれが絶対的有利とはならないのだ。



世界で評価される料理とは?

決勝戦を見終えた平田さんはこのように語った。
「本音をいえば2次ラウンド、決勝と、最後までパスタを作りたかったです。機材とか慣れない環境ではありましたけど、自分の力は全部出し切りました。終わってから自分なりに分析し、今度やるならこうしようと色々考えましたが、一番思ったのはグローバルスタンダードな味についてもっと考えなくてはいけないということです。と同時に、日本を代表して料理を作る上で、もっと表現力を磨かなくてはいけないと。審査員も選手たちも皆、日本の食材や文化を知りたがっていました。早く店に戻って地元の食材をもっともっと勉強し、自分の料理をブラッシュアップしたいです。まだまだ自分は成長しないといけない、そう強く感じたことが今回得た一番重要なことかもしれません」







1次ラウンドのテーマ「Master of Joy」に対して、平田さんのパスタは食卓を囲む喜びだけでなく、パスタを通じて様々な人々が幸せになる包括的な食環境の提案がコンセプトとなっている。
「料理を決める前に大会テーマについてじっくり考えました。私は地方で活躍するシェフや生産者と知り合い、もっと生産者と交流して料理を作れるよう能登に移住しました。能登はもちろん食材も素晴らしいのですが、何よりもそこに暮らす人たちがいい。そこで考えたのが、流通にのらない規格外の甘海老を新鮮なうちに乾燥させて活用したり、いしり(いしる)のような能登の食材を積極的に使うことで、食べる人はもちろん、食材を作る人たちも幸せになるといい、そう考えてこの料理を作りました」と平田さんは語ってくれた。







一方、大会の最後に、徳吉さんは平田さんの戦いぶりをこう分析した。
「平田さんは技術も高いし、煮汁を使ったパスタの火入れも彼しかやっていなかったのでいいなと思ったんですが、僕らが思う繊細な味は審査員には単調な味、と映ったようです。イタリア人にはイタリア人がおいしいと感じる味があるので、自分のおいしさの範疇だけでは彼らを満足させられない。また、シンプルでミニマルな平田さんの料理に対し、相手のドイツ代表女性シェフはいろいろな食材を使い、たくさん仕事をしていました。どちらかひとつを選べと言われたらやはりより多く仕事をした料理を選ぶ、と審査員も話していましたから、そういう視点も足りなかったかもしれませんね」
徳吉さんはかつて「オステリア・フランチェスカーナ」でマッシモ・ボットゥーラの右腕としてさまざまなワークショップや料理デモンストレーションを経験し、自分のレストランを開店後、1年目にしてミシュラン一ツ星を獲得。イタリアをベースに国際経験豊かなシェフならではのコメントだった。



2日間の大会を通じて一番感じたことは、勝敗は決して重要ではない、ということだ。もちろん優勝できれば料理人としての今後のキャリアにひとつタイトルが加わるが、それよりも同年代の世界のシェフたちが何を考え、どれくらいのレベルで仕事をしているかを知ることで自分の現在地がわかるし、彼らと知り合えることが何よりも財産になるはずだ。

言葉や国境の壁を超えて若手シェフたちが戦った今大会、決勝の後は選手、審査員、関係者全員参加のパスタ・パーティーが開催され、カルボナーラやアマトリチャーナ、ジェノヴェーゼなどイタリアを代表する郷土料理が次々にふるまわれた。パスタは国境を超え、ともに食卓を囲めば共通言語となる。パスタが持つコミュニケーション能力の高さを再認識した2日間だった。



「パスタ・ワールドチャンピオンシップ」が、世界中の若手イタリアンシェフの成長を支えていることは言うまでもない。日本のシェフたちも今後、この大会にぜひチャレンジして、その力と志と魂を世界の舞台で輝かせてほしい。

パスタを通してイタリアの食文化を世界に伝える
~バリラ本社@パルマを訪ねて~

「パスタ・ワールドチャンピオンシップ」終了後は、一部参加シェフとともにバリラ本社とアカデミー・バリラを訪問するフードツアーが行われた。1887年パルマで創業したバリラは、現在まで4世代に渡ってバリラ家が経営する、イタリアを代表するファミリー企業だ。現在ではイタリアを代表する国際企業として世界中にシェアを持ち、単なる一食品メーカーの枠を超えて様々な分野で社会貢献している。世界各地の契約農家とのサスティナブルな農業の推進、食物連鎖とフードロスについて取り組むダブル・ピラミッド・モデルなど、「あなたに良いもの、それは地球にも良いもの」をテーマに地球規模の環境に配慮した活動は多岐にわたる。また、パスタ関連の貴重な資料が保管されているアカデミー・バリラではパスタ研究とともに出版、講演などパスタ文化を広める活動が日々行われている。




◎ パスタ・ワールドチャンピオンシップ2018(英語サイト)
https://www.barilla.com/en-us/world-pasta-masters

◎ 平田さんのレストラン
Villa della Pace(ヴィラ・デラ・パーチェ)

石川県七尾市白馬町36-4-2
http://villadellapace-nanao.com/

◎ バリラジャパン
HP http://barilla.co.jp/
Facebook http://www.facebook.com/BarillaJP/









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