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世界のスーパーマーケット最前線――5

就労支援活動が生み出した
ブリュッセルのBIOスーパー

Feature / MovementSep. 27, 2018

text & photographs by Maki Miyazaki

数々のサステナブルな取り組みで注目されるブリュッセルのBIOスーパー「The Food Hub」は、移民が多く住むエリアに位置しています。というのも、社会的弱者の就労支援を行うNPOの活動から誕生したという経緯があるからです。人を活かし、地球を生かす。今、最も先進的なスーパーの姿を追いました。


徹底的に無駄を省いた殺風景さは信念の証。

コンクリート打ち放し、天井板も張られていない殺風景な空間に、搬送用のコンテナが整然と置かれている。それらを台にして、生鮮食材が並ぶ。野菜や果物のはちきれんばかりのみずみずしさもさることながら、店の造作にお金をかけていないのが一目瞭然だ。
壁際にワインやオリーブオイル、ジュースといった加工食品が陳列され、壁には生産者の写真とプロフィールが記されたポスター。どんな生産者が作っているのかを理解した上で商品を購入できるわけである。
別の壁には、牛乳や肉を収めた冷蔵ケースが設置されている。そして、店の奥には量り売りのコーナーがあって、米、粉類、ワインもオリーブオイルも量り売りで買える。

ここ「The Food Hub」は、100%BIOを掲げるBIOスーパーである。が、日本人がイメージするような、お洒落なBIOスーパーとはかなり様相が異なる。

天井も柱も床もむき出し。搬送コンテナがディスプレイ材。冷蔵ケースはある。文字通り、必要最小限の内装だ。

ご覧の通り、商品は充実。しかも抜群のクオリティ。

壁には、生産者の顔写真とプロフィールを紹介するポスターが貼られている。

奥の壁際が量り売りのコーナー。オイル類、粉類など、ワインも量り売りで買える。

必要最小限の内装の理由のひとつはサステナブルを貫くためだ。
何が要るのか、要らないのかを考え抜いて、徹底して無駄を省いた。
乳製品や肉を並べるための冷蔵ケースは、要る。
野菜を並べる台は、搬送コンテナを使えばいいから、要らない。
天井板はなくても困らないから、要らない。
生産者情報は、トレサビリティ上も生産者を知ってもらう上でも、要る。



搬送コンテナのディスプレイで困る客はいない。「売るのは商品で内装ではないから」と販売スタッフ。

そして、他所にはなくてここにはあるのが、価格の内訳表示である。
ヤギのチーズを例にとってみよう。
値段が28、31€/kg、その内訳は、生産者63%、「The Food Hub」31%、税金6%。
瓶詰め商品のように遠方から運ばれてくる加工品の場合は、運送費も内訳に入る。
生産者名、産地名はもちろん、「The Food Hub」 からの距離も明記してある。
徹底した価格の透明性を打ち出しているのである。

イチゴ、チェリー、ブルーベリーの低脂肪ヨーグルト3,10€の内訳は、農家67%、The Food Hub22%、運送費5%、税金6%だ。生産者スワロー、生産地ロベンドゲム、距離66㎞。

価格表示カードの価格内訳グラフはこんな感じ。鍬を担いでいるのが生産者、トラックが運送費、カゴがThe Food Hub、BTWTVAが税金。



店の裏には畑。鶏小屋や養蜂施設も!

仕入れはベルギー内の中小農家から直接購入する「地産地消」「ショートサーキット(短い流通)」「ゼロ・エミッション(廃棄汚染ゼロ)」を基本としつつ、国外の優れた中小農家からの有機製品も4割ほど入れているという。
野菜や果物は、有機農家の協同組合から仕入れる他、店舗の後ろにある1500㎡の畑でも栽培されていて、これ以上ないほど新鮮な採れたてを提供できる点も強みだ。

かつてビール醸造所だった建物と高層アパートとに挟まれた区画を耕した畑には、温室や鶏小屋、養蜂施設(!)まであり、野菜に水を供給するための巨大な雨水の貯水槽や、レストランやサンドイッチ店から出た野菜クズのコンポストもある。 収穫量は週当たり約100kgにものぼり、自社3店に供給する以外に、ブリュッセルのオーガニック市場や他のレストランにも卸しているというから驚く。ソーシャル・プロジェクトと位置付けられていて、大学の農学部を卒業した28歳のベントさんが采配を振るう。
「僕以外にも2人がこの業務に就いています。種蒔き、草取り、収穫時にはボランティアの助けを借りつつ、必要に応じて人も雇います。実は、この畑以外にも、ブリュッセルの屠場の屋上を利用した農園が今春オープンしたんですね。4000㎡というヨーロッパ一広い“屋根の上の農園”です。水耕栽培と露地栽培の両方を行うほか、アクアポニックス(水耕栽培と水産養殖の組み合わせ)も導入しているんですよ。ただ、露地栽培の野菜は、屋根の上に盛った土での栽培なので、EU基準の『土壌』とはみなされず、正式な有機とは認定されていませんが、ここと同じ100%有機です」

店の裏手、建物と建物の谷間にある畑。鶏小屋もあれば、養蜂施設もある。白い布は鳥に食べられないように。ここで栽培された野菜が採れたてで店頭に並ぶ他、市場やレストランにも卸している。

The Food Hubの農園部門を統括するベントさん。限られた敷地の菜園における病虫対策は、コンパニオン・プランツ(共生植物)で対処。土壌の生物相が多様で肥沃になり、生長が促進されるという。

畑の隅にはこのようなコンポスト用のコンテナがいくつもあり、レストランやサンドイッチ店からの野菜クズが随時運ばれてくる。

畑にある鶏小屋から新鮮な卵が店へ直行。持ち帰り用の容器は客が持参する。



ことの始まりは、貧しい人々のための就労支援。




「The Food Hub」があるのは、観光メッカであるグランプラスからメトロで2駅、徒歩でも20分弱の運河に面した場所だ。ブリュッセル首都圏を構成する19の自治体のひとつモーレンビーク区に属する。モスクがあるなど、イスラム系移民が多く住み、2015年11月に起こったパリ同時多発テロ事件ではここの出身者がテロ実行に関与したと報道されたエリアだ。

ことの始まりは、1980年代、NPO「失業者対策センター」が行なっていたボランティアによるダイヤルサービスだった。仕事をしたくても、学歴がなく、手に職もない人や移民など、通常の手順では就職ができない人々のための駆け込み寺である。彼らの相談にのり、指導や研修、ワークショップを開催するなど、貧困から抜け出す手助けをしていたが、対象がアーティストや長期失業者まで広がっていったため、1993年、別のNPO「社会文化振興ワークショップ」とグループ化し、モーレンビーク区に本部を構えた。スローガンは「雇用」「有機食品」「ノーフードロス」。2011年にはモーレンビーク区から「貧困を排除する賞」を受賞している。

2015年、「木工ワークショップ」と「キッチンワークショップ」を本部建物内に設立。手に職をつけるための支援を本格化させる。トレーニングを修了して、大工や家具師、調理人や飲食業サービスのスキルを得た人たちの職場として、本部建物の1階に有機食品のスーパー「The Food Hub」、サンドイッチ店「Bel’O(ベル・オ)」、別棟にレストラン「Bel Mundo(ベル・ムンド)」がつくられた、というわけである。
「The Food Hub」の内装にお金がかかっていないのは、こんな背景から生まれたスーパーだからという経緯も関係している。

レジも簡単な台で、今のところは現金支払いのみ。自転車で来る買い物客も多いという。

熟れすぎですぐに食べる必要がある野菜はレジの横に置き、30%引きに。



レストランのスープは格安、ランチはお値打ち。

「The Food Hub」前の運河に沿って数百mほど歩いた赤レンガ造りの建物の1階にレストラン「ベル・ムンド」がある。オフィス街が近いこともあって、テラスも店内もランチをする人で溢れていた(夜は木曜と金曜のみ営業)。明るい店内は北欧風のインテリアで、バーカウンターをはじめ、テーブル、椅子、ランプシェードなど、すべて再生木材を使って「木工ワークショップ」で作られたものだ。壁側のショーケースには手作りの小物や絵が置かれ、地元の飲み物やフェアトレード商品も提供している。

レストラン「ベル・ムンド」の外観。ベルギー人は天気が良いと争って外で食事をする。

「木工ワークショップ」で作られたテーブルと椅子。再生木材が使われている。白木の北欧風。

さて、メニューだが、大きなボウルに入った本日のスープは1,50€と格安で、本日のランチも8€とお値打ちだ。パスタやベジタリアン料理も数種類ある。木曜と金曜の夜はアラカルト、3皿コース(19€)や飲み物付き5皿コース(29€)もある。

本日のランチは「豆腐団子」か「鶏肉のソテー」。2種類ともオーダーしようとしたところ、「女性1人では量が多くて食べ切れない」と言われ、隣の男性のランチを見たら、なるほどかなりの量だ。「両方試したい」と言ったら、「それじゃ、子供ポーションではどうか?」と提案してくれた。
「豆腐団子」は、豆腐とナッツを丸めて葉で巻いたもの。薄味だが、パプリカ風味のソースが効いている。マカロニサラダのチェリートマトが甘くておいしかった。バゲットが付いてくるので、子供ポーションで十分だった。機転を利かせてくれた店員さんに感謝! デザートは日替わりで、ホームメイドの菓子やチョコレートムースなど。

本日のランチは、豆腐とナッツの団子。彩りも良く、味も良い。新鮮な野菜もたっぷり。これで子供ポーションとはお値打ちすぎる。

ランチメニューの別バージョン。柔らかい鶏肉はケバブのような味付けで、レモン風味のソースもなかなか。ニンジンやキュウリ、サラダ菜のほかにオレンジやリンゴも添えられている。

数人の客に感想を聞いてみた。「有機栽培の野菜やハーブは、味や香り、そして食感がこんなに違うかと驚いた。以来、毎日のように来ています」と女性。奥さんに連れられて来て、すっかりベジタリアン料理にはまり、10キロ痩せたと笑う男性。仕事帰りに「The Food Hub」で、パンやチーズ、野菜を買うという人もいるほど、常連が多い。
ちなみに「ベル・ムンド」では、企業やイベントのケータリングも請け負う。ルームレンタルのサービスもある。

「The Food Hub」のすぐ隣にあるのが、サンドイッチ店の「ベル・オ」である。インテリアは「ベル・ムンド」同様、「木工ワークショップ」が再生木材を使って手掛けた北欧風だ。
新鮮な野菜やハーブが豊富なサンドイッチが2,5~3,5€とリーズナブル。ミーティングやレセプション用のサンドイッチやケーキも注文できる。
給仕をしてくれた黒人女性は「ここが初めての職場だけれど、語学研修とパソコンの手ほどきを受けたおかげで、来月からは他の職が決まっているの」と目を輝かせていた。

サンドイッチ店「ベル・オ」。ロゴはグリーンピース。豆の色がみな違うのは「多様性」を表している。カラフルなテーブルと椅子がキュート。

「ベル・オ」の店内。グランプラスに近いので、時には観光客も立ち寄る。昼時は店の外まで行列ができるほど人気。

「ベル・オ」のツナサンド。30cmはありそうなバゲットに、タマネギのみじん切り入りのツナとたっぷり野菜。男性でもこれ1本で満足の量。



スーパーマーケットのあり方を考えさせてくれる。

3店は現在、NPO「アトリエ・グルート・アイランド」に属している。広報担当者に話を聞いた。
「私たちは、ヨーロッパ社会基金やベルギー連邦政府、ブリュッセル首都圏、フランダース連邦政府が母体となったソーシャルプロジェクトの一員です。ブリュッセルに住む最も弱い住民が、その人の出身地、性別、国籍、経歴、宗教的信念、性的志向にかかわらず、社会の一員として快適に暮らしていけるよう、仕事に就くための研修やコーチングをしています。また、有機栽培の食材を使った質の高い食事を提供することで、一般の市民へも私たちの任務を理解してもらえるように努めているんです」

9月でちょうどオープンから1年。このスーパーがかぎりなくサステナブルなのは、もしかしたら就労支援から始まっているからかもしれない。必要最小限の設えで営まなければならなかった分、天井板はなくていいよね、棚もなくていいよね、といった具合に、なくてもいいものが見えてきた。それがスーパーマーケットのあり方を考えるひとつのモデルとなって、私たちの思考を刺激してくれる。「The Food Hub」はこれからもきっと、働く人にとって、生産者にとって、住民にとって、地球にとって、望ましいスーパーを模索し続ける。


SHOP DATA
◎ The Food Hub

23,Quai du Hainaut 1080 Bruxelles Belgium
水~金 11:00~19:00
土   10:00~18:00
日   10:00~16:00

◎ べル・オBel'O
29,Quai du Hainaut 1080 Bruxelles Belgium
月~金 11:00~17:00

◎ ベル・ムンドBel Mundo
41,Quai du Hainaut 1080 Bruxelles Belgium
月~金 12:00~14:00
木と金 18:00~21:00

www.thefoodhub.be
https://www.facebook.com/thefoodhubbrussels
http://www.ateliergrooteiland.be/fr/ateliers-generalites/









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