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  カカオに魅せられた人々

    vol.2 アマゾンカカオが教えてくれる大切なこと

Feature / MovementFeb. 5, 2018

「フロリレージュ」「シンシア」「コートドール」「ラ・ブランシュ」「アロマフレスカ」……
いずれ劣らぬ人気レストランのシェフたちが使うカカオがある。
ペルーで働いた経験をもとにアマゾンの奥地へと足を踏み入れ、独自にカカオ生産者と交流を深めてきた料理人、太田哲雄さんのカカオだ。
太田さんのカカオとの向き合い方は、お菓子の素材という枠組みをはるかに超えて、大きくて深い。


カカオを一食材として捉える料理人発想。

太田哲雄さんは2004~2015年、イタリア、スペイン、ペルーで修業を重ねた。イタリアの地元に根付くレストランや「エル・ブジ」で経験を積み、ミラノの有力セレブのプライベートシェフを務め、ペルーでは土着料理店、南米ガストロノミーの頂点「アストリッド・イ・ガストン」でも働いた。11年に及ぶ多彩で稀有で密度の濃い修業の終止符を打つにあたり、「やり残したことのないように」とアマゾン奥地へ足を踏み入れる。そして、アマゾンのとりこになった。

カカオと出会ったのは2015年12月、2度目のアマゾン旅でのことだ。
ペルーのタラポト県にある小さな村。村人のほとんどがカカオに関わる仕事に従事しているという“カカオ村”へとガイドに案内された。
村人たちが無農薬でこまめに世話をしながら栽培している。聞けば、クリオロ種だという。そのカカオ豆を食べた時、おいしさに心を動かされた。
「とはいえ、名もない小さな村のカカオ豆は市場価値が高いわけでなく、村はまったく潤っていなかった」
太田さんは200キロのカカオの購入を決めた。その後、さらに3度目の旅で1トンを購入するに至る。

村人たちが総出でご馳走を作ってくれている。締めて毛をむしった鳥を焼いたり煮たり。

「チョコレートの材料としてではなく、一食材としてカカオを捉えられないか」と太田さんは考えたという。
現代人にとっては“カカオ=チョコレートの原材料”という図式があまりにも当たり前だ。確かにカカオをおいしく食べる手段がチョコレートに仕立てることなのは間違いない。人類は長い年月をかけてチョコレートの技術を進歩させてきた。けれど、カカオ自体で食べられないわけではない。
「ペルーでカカオを食べた時、“今のカカオの位置付けが違うんじゃないか”と思った。一食材としてカカオを捉えたら、別のアプローチがあり得るんじゃないかって」

思考の背景にはいろんな要素がある。
消費国ではチョコレートが高額で売られているのに、カカオ生産国はなぜこんなに貧しいのか。チョコレートとカカオが切り離されているように、太田さんには感じられた。
また、ペルーでは、コカ栽培をカカオ栽培へと転換させられた経緯があるためか、カカオ村でもアメリカからやってくる技術者によって栽培や発酵の指導がなされ、小さな工場でチョコレート作りも行なわれている。しかし、いかんせんチョコレート製造の難易度は高い。欧米のメーカーやショコラティエの技術とは比べようもない。

「そこで勝負するのはやめようよ、と村人たちに言いました」
豆そのもので勝負しようじゃないか。

「“それは本当に必要なのか? もしかしたら必要ないんじゃないか?”を考えることは大事です。たとえば、チョコレートに香料や脱脂粉乳が含まれていて当たり前と思うかもしれないけれど、それって、今の話ですよね。元々、入っていたわけじゃない。じゃ、カカオを食べる上で本当に必要なこととは何なのか? カカオはチョコレートにしなければ食べられないのか? 今の当たり前をいったん壊して、何もないところから考えたほうがいい」
ピーナッツであれば、生、茹でる、煎る、砕く、挽いてピーナッツバターにする、などいろんな手段と段階がある。
「カカオも、どの段階で食べるのがいいのか、もう一度ゼロから考えてみてもいい」

パルプ(カカオ豆を包み込む白い綿の部分)は現地の女性たちが煮詰めてジャムにする。

太田さんは、購入したカカオを豆のままではなく、カカオマス、カカオニブ、ココアパウダー、ハスク(皮)の状態にして送ってもらっている。村人に加工までやってもらうことも大切だと思うからだ。
届いてきたカカオマスを使って、太田さんはジェラートやドリンク、フォンダン・カカオに仕立てる。キャラメルポップコーンにニブを入れる。一般的にはチョコレート(クーベルチュール)にしてからお菓子作りへと展開するところ、太田さんはカカオマスからストレートにお菓子や料理を作る。

カカオマスと水と砂糖で作るカカオドリンク。確かにチョコレートというよりカカオそのものを感じる味わい。

ちなみに、ジェラートもドリンクも、カカオマスを水と合わせて作る。ガナッシュも水で作る。現地でのカカオの使い方を見ていて、カカオは水と相性がいいと思ったのだという。
「アマゾンで僕が料理を作ってあげると、『なんでこんなに雑な味がするんだ。全然クリアじゃない。これで舌が疲れないのか?』って言われます。彼らは最小限の調味しかしないから、いつも素材をピュアに味わっている。その感覚からすると、僕らの味付けは余計なものが多いように感じられるのでしょう。そこで僕はまた思う、本当に必要なものは何なのかって」

カカオには水を合わせよう。ミルクより水のほうがカカオの味をピュアに出せるんじゃないか。
「僕は思い出したんです、コートドールの斉須政雄シェフの著書『十皿の料理』に書かれていたフレーズを。斉須シェフとベルナール・パコーさんが一緒に働いていた頃、2人が厨房でなぞかけをする。『マサオ、この世で一番優れたフォンってなんだと思う』『知ってるよ、それは水』……」
塩と水だけで料理して三ツ星を獲ったら凄いだろうなぁ。アマゾンは太田さんにそんなことを考えさせる。
「アマゾンは学びの場なんですよ」



太田さんはアマゾンへ足を運ぶ度に料理を学んでいる。それらをいつか本にして世界の人々に伝えたい。

太田さんのスペシャリテのひとつ、「チチャロンサンド」。豚バラ肉の唐揚げを挟んだ、ペルーのストリートフード。


みんなに使ってもらうことで村を潤したい。

200キロものカカオを自分一人では到底使い切れない。そこで、太田さんはシェフ仲間に卸し始めた。「フロリレージュ」「シンシア」「コートドール」「ラ・ブランシュ」「アロマフレスカ」「ラ・シーム」……いずれ劣らぬ人気店ばかり。太田さん自らカカオを持参して、現地の様子を説明し、「使ってみて、いいなと思ったら、買ってください」と打診する。
太田さんがカカオを一食材として捉えるようになったのは、料理人であることに起因するかもしれない。パティシエの常識に縛られずにカカオを見ることができたし、そもそも料理人は素の食材と向き合うものだ。卸し先のシェフたちも、太田さんが持ってきたカカオマスを、たとえばオリーブオイルのような、自然の収穫物の一次加工品として使いこなしてくれる。

太田さん(左)と「フロリレージュ」の川手シェフ。アマゾンカカオに真っ先に理解を示したのが川手シェフだった。

そんな一人、東京・外苑前「フロリレージュ」の川手寛康シェフは、昨年、太田さんの案内でアマゾンを訪れた。
「太田さん、これ全部を扱うのは無理だと思うって、彼が言うんです。それはよくわかっている」
小さな村ではあるけれど、カカオの生産量は年間300トン。太田さんは年間2トンしか扱えていない。彼らの懐ろに然るべき対価がきちんと入る取り引きを増やすには、どうしたらいいんだろう?

太田さんは村人に「これから先どうなりたいのか?」を聞くそうだ。
「彼らはものすごい変化を求めているわけではないんです。自分たちが栽培したカカオがちゃんとした価格で売れればいい。でも、ちゃんとした価格で売っていくには、施設があまりに貧弱なのも事実……」。
世界に流通させようと思ったら、いろんな国の規格や基準に適合させなければならなくなってくるだろう。消費国の基準を押し付けたくはないけれど、最低限クリアしなければならない要件はある。少なくとも設置したほうがいいことがわかっているのが金属探知機だという。

「固まる前のカカオマスを彼らは金網で漉すのですが、金属片が残留していないことをチェックする機械が必要だという。それが300万円かかるらしい」
太田さんはそれを導入してあげたい。しかし、自分にもそんな金はない。そこで、太田さんは今、資金集めのプランを計画中だという。1月中旬に出版された自身の著書『アマゾンの料理人』(講談社)の出版記念パーティを開かないかと言われている。そんなことができるなら、出版記念よりアマゾンのカカオ村の設備投資のためのチャリティーにできないか、 太田さんのカカオを使うシェフたちに協力を呼びかけ始めたところだ。

太田さんはアマゾンの食をもっと学びたいと言う。人間が自然の一部となって生きる暮らし方に生の根源を見、必要に応じて生き物を捕らえて食べる、食べられる側と食べる側の命の向き合い方に食の根源を見るからだ。それを太田さんは「すごくクリエイティブだと思う」。その一方、村人たちが少しでも今より潤うようにしたい。
「ふんぎりをつけました、アマゾンのカカオともっと向き合おうと」
そのために、太田さんはそう遠くない将来、海外に進出したいと思っている。自分が過ごしたことのあるヨーロッパの国々の人々にも、あの村人たちのカカオを知ってほしい。
「これまでは自分が山を登ることに夢中だった。最近、少し周りを見る余裕が出てきたのかなと思う。海外進出は、自分がアマゾンに対して何ができるのかを考えた、現時点での答えです」











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