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シェフたちはなぜ、コラボするのか?

「コラボ」という名の「セッション」

Feature / MovementSep. 19, 2017

シェフ同士のコラボレーションが活発化しています。
あるシェフが言いました、「コラボによって、僕たちのクリエイションは前進する」。
その言葉を聞いた時、最近のレストランシーンにおけるコラボの意味は、思っている以上に大きいのかもしれない、と気付かされました。
異なるバックグラウンドを持つ同士が、互いのカルチャーを理解し合い、感性や思考を刺激し合い、新しい表現を生み出していく――コラボはいわば「セッション」です。
ミュージシャンがセッションを通して表現を磨くように、料理人はコラボを通して様々な可能性を切り拓いています。
そんなシェフたちのコラボに込めた思いと狙いを追いました。




アウェイへ出向いていく理由。




8月31日、東京・外苑前の「フロリレージュ」では、シェフの川手寛康とシンガポールを代表するパティシエ、ジャニス・ウォンのコラボレーションディナーが行なわれていた。客席が食後の歓談に興じていると、突然、照明が消えて真っ暗に。と同時に、「Happy birthday to you……」の歌声。この日はジャニスの誕生日なのだという。34歳を迎えたジャニスを祝おうと、フロリレージュのスタッフが用意したのは、彼女のお気に入りシェイクシャックのハンバーガーを積み上げたバーガーケーキ(?)。ジャニスがろうそくを吹き消して、店内は拍手に包まれた。

オープンキッチンでのコラボは、料理のみならず、シェフ同士が共に調理する姿からスタッフたちの交流の様子まで、一部始終を目の当たりにできる。まさにコラボの醍醐味だ。「フロリレージュ」の場合、スタート時間が決まっているわけではなく、挨拶があるわけでなく、進行は普段と変わらない。調理というコラボレーションそのものが目の前で展開されるため、何の説明の必要もいらないのである。コラボ増加の背景には、レストランのオープンキッチン化も関係しているのかもしれない。



シンガポール政府観光局から川手に「シンガポールのシェフとコラボしてほしい」とのリクエストが寄せられたのがきっかけ。川手からジャニスを指名した。今回のコラボは「これまでになく試作を重ねた。互いに作る料理の綿密なすり合わせをしてコラボに臨みました」と川手。



料理人とパティシエのコラボならでは、「Sucre et Sale(甘いとしょっぱい)」がテーマ。甘味と塩味が際立つように計算された料理が、アミューズでは交互に、前菜からは合作の皿として提供された。写真は、「ハーブ/バニラ/グレープフルーツ」(ジャニス)×「緑のガスパチョ/帆立」(川手)。2人で1つの皿を作り上げる。ホタテのタルタル、バニラアイス、ユーカリの泡に、万願寺唐辛子やキュウリ、トマトなどで作るガスパチョをかけて。



川手は、ここ1、2年、積極的にコラボに取り組んできた。
海外からシェフを迎える以上に、果敢に海外へ出掛けていく。今年だけでも、2月バンコク、6月フィリピン、8月ベルギー、9月台湾と香港といった具合である。台湾では、15人のアジアのシェフが集まり、2人ずつ4ハンズのコラボが繰り広げられるという。
海外のシェフとコラボするのは、「自分を試せる機会と捉えているから」。
アウェイで力を発揮できるのか? カルチャーの異なる国で評価を得られるのか? 川手はコラボで自分を試す。
「コラボは相手の国の文化を知る絶好の機会でもありますね」
川手は必ず出向いた先の食材で料理する。何も用意せずに行き、現地の食材を見て料理を考える。コラボ相手のシェフが、食材の背景について学ぶシチュエーションを用意し、適切な使い方を導いてくれるという。
「料理の新しい可能性を見出すチャンスになる。それが自分の糧になる」
川手にとって、コラボは料理人として前進する手段なのである。

「そして、新しい流れを発信していくためでもあります」と、コラボを重ねるもうひとつの理由を語ってくれた。
「日本のレストランのクオリティの高さ、技術レベルの高さは、海外からよく指摘される。でも、そのわりに、日本から世界に対して新しい流れが生み出せていない。日本の発信力は弱いなって思うんです」
日本への評価は高いのに、潮流は南米やアジアの他国にある。日本にヒントを得てクリエイションする海外のシェフは山ほどいるのに、日本から発信されている感は薄い。評価と潮流が一致していない。川手はそこがもどかしい。
日本が世界のガストロノミー界でポジションを獲得していくには、どうすればいい? 川手は自分のこととしてではなく、自分に続く世代のために、それを考える。
「NARISAWAの成澤由浩シェフが世界のトップと対等に渡り合ってきたおかげで、彼らが日本に眼を向けたという側面がある。僕たちは成澤シェフの後ろを追いかけられた。でも、今、僕たち自身が世界に食い込めないと、後輩たちの活躍の場を作ってあげられない」
The World’s 50 Best Restaurantsで順位を上げなければと思うのも、海外へ出向いてコラボするのも、世界の人々に“日本発”の印象を少しでも残したいと思うからだ。



コラボを通して世界と日本が行き来する。




世界への突破口としてのコラボに対して、世界の窓口としてのコラボを行なうのがブルガリの「イル・リストランテ ルカ・ファンティン」である。
「イル・リストランテ ルカ・ファンティン」では、2015年より「Epicurea(エピクレア)」と題して、世界トップとのコラボレーションを繰り広げてきた。2015年はコンテンポラリー・イタリアン、2016年は世界のコンテンポラリー、今年は女性のトップシェフをテーマとして人選。これまで登場したシェフには、The World’s 50 Best Restaurants 2016で1位に輝く「オステリア フランチェスカーナ」のマッシモ・ボットゥーラ、前衛的にして思索的な料理で知られる「ムガリッツ」のアンドーニ・ルイス・アドゥリスなど錚々たる顔ぶれが揃う。「エピクレア」は世界のガストロノミーのショーケース的な役割を果たしていると言ってよい。



「オステリア フランチェスカーナ」のマッシモ・ボットゥーラは、2015年と2016年、2年連続で「エピクレア」に参加。「同じイベントに2度続けて出るのは我ながらめずらしい。それくらいここで料理することが気に入っている」と語った。



マッシモによる「レンズ豆 オールモスト ベター ザン ベルーガ」。レンズ豆をキャビアに見立てた料理。「豆の食材としてのポテンシャルはキャビアにも匹敵する」とマッシモ。プレゼンテーションもキャビアそのもの。ユーモア溢れる、かつメッセージ性の強い料理は、世界のトップガストロノミーの本領発揮だ。



「エピクレア」としての開催以外にも、海外の大物からのオファーが寄せられるため、ルカのコラボキャリアは他に類を見ない。コラボ当日までの流れを聞いてみた。
「電話で何度かやりとりをして、まず、来日の季節を決めます。特に南半球のシェフの場合、季節が逆になるため、いつどんな食材があるかなど、食材情報の共有が大前提となる。日程が決まったら、次はテーマですね。どんなフィロソフィを伝えるのかを話し合う。その上で、向こうからメニューを提示してもらい、それを受けて、自分の料理を考えるのです」

食材が重ならないように、調理法が重ならないように、味の偏りがないように、なおかつ、ひとつのコースとしてのまとまりを持つように。ゲストシェフの料理とのバランスを考えて、自分の料理を組み立てていく。イタリア人シェフとのコラボの場合、ほとんどのシェフがプリモにはパスタを用意するから、ルカはリゾットで変化をつけるといったように、迎える側としての配慮は細やかだ。
「おかげで、リゾットのレパートリーが増えました(笑)。コラボはどちらがおいしいという比較ではない。ひとつの体験としてのダイナミズムが発揮されることが大切なのです」



「ムガリッツ」のアンドーニと。「コラボはスタッフの潜在能力を引き出してくれる」とルカ。ゲストシェフはたいがい、スーシェフとパティシエ、2人か3人でやってくる。どうしたって、迎える側のサポートが必要になる。それが幸いして、スタッフがみなコラボを我が事と捉え、積極的にゲストシェフのサポートに回る。コラボが終わると、ゲストシェフは必ず「君のスタッフはNo.1だよ」と言って帰っていくそうだ。



8月25日、26日、「イル・リストランテ ルカ・ファンティン」でコラボを行なったのは香港の三ツ星、予約困難で知られる「8 1/2 Otto e Mezzo BOMBANA(オット・エ・メッツォ・ボンバーナ)」のウンベルト・ボンバーナ。ボンバーナはコラボを「メンタリティがオープンになる場」という。
「今の時代、どこへ行っても調理道具は同じです。違うのは、食材と調理法、そして、人の思い。ならば、外へ出て行って、学ぶべきだと思うのです。人と交わることは自ずとアイデアの交換になる。生きる姿勢を前向きにしてくれる」
ベテランのボンバーナにとって、ルカは新世代のシェフとして興味があった。一度、厨房を共にしてルカの料理を見てみたかった。
「実のところ、私は新世代のコンテンポラリーな料理があまり好きではありません。表面的なテクニックに注力するケースが多くて」
では、コラボしてみて、ルカはどう写ったか?
「食材の細部への意識、何より味を最大に重視する姿勢がとても好きになった」



ウンベルト・ボンバーナ。客の目の前で黒トリュフを削って厨房へ戻るところ。「私はおいしい刺し身が食べられれば、それで幸せという人間。刺し身はただ切るだけという調理の中に、どこで釣れたか、どう処理されたか、どう保存されたか、という重視すべき要素が如実に表れる。そういった事柄こそ大事にする料理人でありたい」と自らを語る。



ボンバーナが「ウナギの使い方に目を見張った」と絶賛したルカのリゾット。ルカは「イタリア人シェフとのコラボのプリモはいつもリゾット」と笑う。日本人が思い描くウナギの姿はないが、ふんわりしっとりの食感と味わいは白焼きに通ずる洗練ぶり。



「共に調理する時間も大切だけれど、日本で過ごす時間を楽しんでもらうことも、ゲストシェフを迎える側の責任」とルカは言う。ルカ自身、コラボで海外を訪れることは多いが、空港とコラボ会場の行き来で終わるケースも少なくない。だから、自分が迎える時は、日本とは何なのかをゲストシェフに体感してほしいと思う。そのために、築地や合羽橋はもちろん、日本の伝統的な料理店へも案内する。ルカを窓口にして、世界と日本が行き来する、そんなイメージだ。



コラボの先の広がりを見据えて。




シェフたちが見据えるのはコラボの先である。
「コラボは、自分を知ってもらって、鹿児島の店まで足を運んでもらうための手段」と位置付けるのは、鹿児島市「cainoya dal 1931」のシェフ、塩澤隆由である。
「cainoya dal 1931」とは「甲斐乃家」。1931年に祖父が創業した時の屋号を、自分の代になって独創的なイタリア料理店としてスタートを切った際に英字表記に改めた。
今年2月14日、塩澤は、東京・恵比寿「TACUBO」で田窪大輔とのコラボを開催した。「東京の★に鹿児島の猫が噛みつく!」と題されたディナーは、ワイン込み50,000円。思い切った価格設定の内容は、互いの得意とするところを出し切るパワー全開のスペシャルコース。ことに塩澤は、「鰻2015」「ピーチ純血チンタセネーゼ豚のラグー2003」「オナガ鴨のアイアンステーキ2010」など、これぞという自身のコレクションで構成した。迎え撃つ田窪は「蒸し穴子と王様しいたけ コンソメスープと黒トリュフ」「炭焼き河豚のスパゲッティ カルボナーラ」「田窪牛と赤牛サーロインの熾火焼き」など心踊る食材が続く。赤々と薪の炎がたぎる「TACUBO」のカウンターは、コラボのタイトル通り一種の闘いに。シェフ同士の熱気が、客の気持ちを駆り立て、興味をかき立てたことは間違いない。





上は塩澤の「ヴィシソワーズ2007」。下は田窪の「熟成 エゾ鹿のタリアータ トリュフリンと蕎麦の蜂蜜と紅玉」。定番的なアイテムでオリジナリティを発揮する塩澤、素材の取り合わせと卓越した火入れが持ち味の田窪。個性の違いこそコラボの妙。



「人と人の結び目。文化の結び目」――シンガポールのレストラン「Andre(アンドレ)」のアンドレ・チャンは、コラボをそう表現する。
昨年12月、アンドレは自らがプロデュースする、出身地・台湾の「RAW(ロウ)」スタッフを連れて、「フロリレージュ」でコラボを行なった。
「ロウ」は台湾の食文化を新しい解釈で提示するレストランだ。「食材・人材・建材」という素材のすべてを台湾産でまかない、24節気に則ってメニューを考える。土地と自然と共に生きることが地球も人も健全でいられる術との考えからである。
自分たちと同じ方向を向いているか。一緒に共通のテーマを考えられる相手かどうか。アンドレはコラボの相手に理念を求める。たとえば、コペンハーゲンの「Amass(アマス)」、アムステルダムの「Rijiks(ライクス)」、ペルーの「Central(セントラル)」。「フロリレージュ」をコラボ相手として選んだのも、自分たちの理念の延長上にあると捉えたからだ。
アンドレにとって、コラボはフィロソフィやメッセージを広めていく手段。
「同じ理念を持つ同士がコラボすることによって、メッセージはより明確になり、強くなり、共感を促すことができる。結び目が大きくなって、点から線へと発展していく。コラボの先の展開が重要だと思うのです」

ミュージシャンがセッションによって表現世界を切り拓いていくように、料理人はコラボによって表現や領域を開拓していく。
アンドレのシンガポールの店の支配人を務めてきた長谷川憲輔は昨年、その職を辞して帰国した。「10年ぶりに日本に帰って、日本のシェフやレストランのクオリティの高さを改めて認識した。もっと世界で知ってもらわなければもったいないと思う」。そこで長谷川は、大阪を拠点にワインやサービスのアドバイザーとして活動する傍ら、シンガポール時代の経験と人脈、台湾人である妻の人脈を活かして、日本人シェフの海外でのフェアやコラボのプロモーターとして機能すべく計画中だ。コラボは今、レストラン界を動かしていく重要なファクターになりつつある。





Data
◎ フロリレージュ

東京都渋谷区神宮前2-5-4 SEIZAN外苑B1
☎ 03-6440-0878
12:00~13:30LO 18:30~20:00LO
不定休
http://www.aoyama-florilege.jp/

◎ Janice Wong Singapore
93 Stamford Road, National Museum Singapore, 01-06, S178897
☎ +65 9712 5338
http://janicewong.com.sg/

◎ JANICE WONG dessertbar
東京都渋谷区千駄ヶ谷5-24-55 NEWoMan SHINJUKU2F エキソト
☎ 03-6380-0317
平日11:00~15:00LO 17:00~22:00LO ドリンク22:30LO
土日祝 11:00~22:00LO ドリンク22:30LO
定休日はNEWoMan SHINJUKUに準ずる
http://www.janicewong.jp/

◎ ブルガリ イル・リストランテ ルカ・ファンティン
東京都中央区銀座2-7-12 ブルガリ銀座タワー9階
☎ 03-6362-0555
11:30~14:00LO 17:30~20:30LO
10~12月:日曜、祝日休、連休最終日はディナー休
1~9月:日曜、月曜休
https://www.bulgarihotels.com/ja_JP/tokyo-osaka-restaurants/tokyo/il-ristorante

◎ Osteria Francescana
Via Stella, 22, 41121 Modena MO, Italy
☎ +39 059 223912
https://www.osteriafrancescana.it/

◎ Mugaritz
Aldura Aldea, 20, 20100 Errenteria, Gipuzkoa
☎ +34 943522455
https://www.mugaritz.com/

◎ 8 1/2 Otto e Mezzo BOMBANA
Shop 202, Landmark Alexandra, 18 Chater Road, Central, Hong Kong.
☎ +852 2537 8859
http://www.ottoemezzobombana.com/hong-kong/en/homepage/

◎ cainoya dal 1931
鹿児島県鹿児島市城山町2-11 ドルチェヴィータ B1F
☎ 099-223-5277
12:00~15:00 19:00~23:00
月曜、火曜休
http://cainoya.kagoshima.jp/index.html

◎ TACUBO
東京都渋谷区恵比寿西2-13-16 ラングス代官山1階
☎ 03-6455-3822
12:00~13:00LO(水、土、祝日のみ)
18:00~23:00LO
日曜休(月祝の場合は日曜営業・月曜休)
http://tacubo.com/

◎ RAW
No.301, Le Qun 3rd Road, Taipei City, Taiwan
TEL.+886-2-8501-5800
http://www.raw.com.tw/indexContent.aspx#firstPage









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