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DINING OUT RYUKYU-NANJO with LEXUS

暮らしに息づく祈りと感謝。

Feature / MovementJan. 15, 2019

photographs by Hide Urabe

11月23~24日、沖縄県南城市で開催された「DINING OUT RYUKYU-NANJO with LEXUS」。ホスト役を務めた中村孝則さん自身が「これまでのDINING OUTの中で最もインパクトを受けた」と語るほど濃密な時間が流れていました。DINING OUT史上初の女性シェフの登場と共に映し出された琉球の精神風土は、これからの時代への示唆と言って過言ではありません。

立ち戻るところ、取り戻したいもの。

南城市・知念城跡でのディナーは、ホスト役・中村孝則さんの祈りから始まりました。
知念城跡の海側にある祈りの場、御嶽(ウタキ)へと中村さんが向かう間、静寂が会場を包み込み、さきほどまで鳴いていたコウモリも声をひそめ、風の音と波の音だけが響き渡りました。



知念城跡の海側にある友利御嶽(トモリウタキ)で、参加者を代表して中村孝則さんが拝む。「DINING OUTの成功とスタッフやゲストの健康を祈願しました」。



琉球神道が今も息づく沖縄では、人々の暮らしは祈りと共にあります。そんな沖縄の精神風土にならって、今回のDINING OUTは祈りに満ちていました。
ディナーに先立つ久高島でのレセプションも、参加者全員が祈りを捧げるところからスタート。それは、寺院や神社、教会での祈りとはまた違って、我が身を取り巻く大いなる力に向かって祈る、自然との対峙と言ったほうがいいかもしれません。

沖縄本島の東南端にある知念岬から船で15~20分の海上にある久高島は、琉球の祖神アマミキヨが降り立ったとされる聖地。琉球の始まりの地です。「神の島」と呼ぶ人もいます。
「神の島」と呼ばれる事実を納得させてしまうエピソードのひとつが、久高島に個人所有の土地はないという事実でしょう。国有地・村有地を除き、すべてが共有地とされ、住民に利用権はあっても所有権はありません。土地が持つ神性を、島のみんなで守り伝えてきた歴史が厳然と存在しています。
沖縄の人々にとってすら近づきがたい言われる久高島で、このようなイベントが行われるのはもちろん初めてのことでした。



田中一村やアンリ・ルソーの絵を思わせる久高島の景色に包まれて、レセプションが行われた。



琉球開闢の祖アマミキヨが降り立ったとされる久高島の最北端ハビャーン(カベール岬)。荒々しくも美しい自然の造形に息を飲む。



人はなぜ、祈るのか。
それは、自分の力ではどうしようもできないからにほかなりません。地球や宇宙の大いなる営みに身を任せざるを得ない生き物として、人間は祈ってきました。
その様相が今、変わりつつあります。
テクノロジーの進歩によって、神の領域とされてきたところにまで人為が及ぶようになった。人類はかつて経験したことのない地平に足を踏み入れようとしています。
だからこそ、久高島の暮らしは示唆に満ちている……。
「資本主義の対極にあるような久高島の成り立ちにはまぶしさを感じます。人間社会が凄まじい勢いで変革していく一方で、現代人が必死で取り戻そうとしているものがここにある」と、DINING OUTのプロデューサー大類知樹さんは語ります。
「日本に眠る愉しみをもっと。」がキャッチフレーズのDINING OUTですが、久高島の凄さは“眠っていない”ところでしょう。原初的にして、ある種の理想として人類が立ち戻る社会形態が、ここでは生きているのです。



キーワードは「共食」。




DINING OUT史上初となる女性シェフ、「志摩観光ホテル」の樋口宏江総料理長の起用は、琉球の祖神アマミキヨが女性であるとされる伝説と重ね合わされています。
同時に、伊勢神宮という大和の国の聖地をお膝元とするシェフであるがゆえに、琉球と大和という2つの聖地の結び付ける役割も果たすことになりました。
「共通するのは“神人共食”の文化です。神に供え、共に食べる。それによって、人は神に守られる。命あることと自然の恵みに感謝し、息災を祈る。どちらの土地もその感覚が身近に存在していると感じます」という樋口シェフの言葉が、今回のDINING OUTのテーマ「Origin~いのちへの感謝と祈り~」を端的に言い表しているのかもしれません。

「志摩観光ホテル」の樋口宏江総料理長。1991年に志摩観光ホテルに入社し、2014年現職に。2016年には「G7伊勢志摩サミット」のディナーを担当。



女性ならではのたおやかさと芯の強さを併せ持つ樋口シェフ。日本におけるフランス料理の名門で鍛え上げた技術がいかんなく発揮された。



樋口シェフの言葉の中の「共食」は大切なキーワードです。
“神人共食(神と人の共食)”“人人共食(人と人の共食)”、その両方が琉球の暮らしには生きています。

模合(もあい)という言葉を聞いたことはあるでしょうか? 頼母子講と言えば、わかるかもしれません。グループを作って、決まった額のお金を出し合い、メンバーが順番に受け取っていくという互助システム。これが沖縄では存続し続けているのです。受け取ったお金は、進学や新築・改築、新規事業などに活用されます。人生の節目節目にかかるお金が、金融機関ではなく人間関係によって賄われるという社会のありようには驚くばかりですが、模合の会合も、人生の節目の出来事も、人は集まって共に食べる……。沖縄には共食文化が深く根を張っています。そして、その場に欠かせないのが山羊肉。
「沖縄では、祝い事や集いの場で山羊刺しや山羊汁をふるまう習慣が今も受け継がれています」と語るのは、山羊農場「糸数カプラファーム」代表の仲村嘉則さんです。「糸数カプラファーム」の山羊肉は、樋口シェフがディナー用に真っ先に選んだ食材のひとつでした。



山羊の骨と肉から取ったコンソメと卵で作る、ギリギリの硬さのフラン。中には山羊の内臓が潜む。



フランに山羊のコンソメを注ぎ入れる。山羊の風味をあえて残すため、ショウガのような香りを持つ沖縄ならではのやさしいハーブ、月桃(ゲットウ)をタイムとローリエの代わりに使っている。



「山羊刺しや山羊汁はポピュラーでも、実は山羊農場はめずらしい存在なんですよ」と仲村さんは言います。
「山羊が身近な分、プライベートで飼われているケースが多く、産業化されてこなかったんです」
産業化されていないから、肉屋さんで売られているのは輸入の山羊肉だったりする。しかし、低カロリーで高タンパクな山羊はこれからの肉として注目されるポテンシャルがあるはずだ。ならば、自分たちで飼育して流通させたら、ニーズがあるんじゃないか――そう考えて立ち上げたのが「糸数カプラファーム」というわけなのです。ちなみに、仲村さん、それまでは建築関係の仕事に就いていました。棟上式の度に山羊刺しや山羊汁が登場していたそうです。



「糸数カプラファーム」代表の仲村嘉則さん。山羊肉レストランにも取り組む。山羊肉を県内なみならず本土にも流通させたいと考えている。



「いつも通る道沿いに、放置されている鉄骨ハウスが4棟あったんですね。通りかかる度に気になっていました。もったいないなぁ、この建物、何かに使えるんじゃないかって」
思い付いたのが、山羊の飼育。
「私は牛乳ではなく山羊のミルクで育ったんですね。小学生の頃から山羊に食べさせる草刈りや乳搾りが日課でした。山羊は何を食べるのか、どんな性質なのか、よくわかっていた」
なにせ産業化されてこなかった領域だけに、許認可や補助金の申請が難航したそうです。様々な苦労を経て、昨春から120頭の飼育に漕ぎ着けています。

案内されたヤギ舎がすばらしかった。
湿気や暑さを少しでも回避できるよう、ケージは高床式。衛生や防疫面を考慮して、床を網状にすることで糞が下に落ちるようになっています。床下に落ちた糞はベルトコンベアで運ばれる仕組み。温かみのある木造りの柵には、ヤギたちが顔を出すための窓が開けられています。



天井からラジカセが吊るされ、常時音楽が流れる。「山羊はデリケート。人が入って来る音でびっくりしないように」。



網状の床を通して糞が下に落ちるため、ケージの中はいつも清潔。下に落ちた糞はべルトコンベアで運ばれていく。



温かみのある白木の柵には顔を出すための窓が。日本ザーネン種、ボア種、ヌビアン種の3品種を飼っている。山羊乳は地元のチーズ生産者に卸している。



エサは、雨が降らないかぎり、刈りたての青草を。
「ハーブも与えています。南城市はハーブの里で、沖縄長生薬草本社というハーブ栽培から手掛ける健康食品会社があって、その製造残渣を飼料に混ぜているんですね」
県の研究機関での検査の結果、ハーブを与えることによって、肉は柔らかくなり、旨味成分を増し、ヤギ特有の匂いも軽減されているとの結果が出ているそうです。



人にも豚にもストレスのない育て方を。

一方の“神人共食”の代表的な食材と言えば、豚と言われます。豚を供えて無病息災を祈願し、祈った後の供え物を分け合って食べる伝統がありました。

樋口シェフが選んだのは、国頭郡金武町にある「なんくる農場」の「黒金豚」。
「家族の健康を気遣ってご飯を作るように、豚の健康を気遣ってエサの発酵熟度を高めようと調製する姿に、豚への愛情を感じました」
なんくる農場を訪れた樋口シェフは、そう語ります。

「なんくる農場」は我喜屋宗一さんが2004年に立ち上げた養豚場。3人の息子さんと共に営んでいます。
47歳の時にストレスから病気になって会社員を辞めたことが、養豚を始めたきっかけとあって、ストレスのない育て方がモットー。
金武湾が見える高台の木々が繁る中にある農場は、豚舎、中庭、ふれあい広場、そして自然のままの放牧場から成り、「晴れている時はできるかぎり土の上で過ごさせる」と我喜屋さんは語ります。





我喜屋宗一さん(左)、宗昭さん。緑が茂る向こうに金武湾が見える。見晴らしの良い場所に農場がある。



自由に動き回れる遊び場がたっぷり。解放感のある場所でのびのび育つ。



中庭の真ん中に桑の木が生えている。桑の実がたわわに実った枝を切って与えると、喜び勇んで食べる。



沖縄アグー種を約40頭、目が届く数しか飼いません。「ビスカ」「プチ」など繁殖豚には一頭一頭名付けて育てています。
「出産の時に、名前を呼びながら、カラダをさすってあげると落ち着くんですよ」
ふすま、米ヌカ、田芋の残渣に、焼酎のもろみとサトウキビの糖蜜を加えて発酵させたエサに海草を混ぜた独自飼料、そしてバナナの葉や茎、桑の葉や実も大好物で雑草も好んで食べます。抗生物質やワクチン投与は一切行わず人為的なものをできるかぎり与えないのは、健康な豚を育てているという確たる自信の表れでしょう。
「訪れてくれた人が豚と触れ合う中で心の癒しを得られるような、メンタルケア農場を開くことが夢なんです」



「黒金豚」のロースは樋口シェフが志摩から持参した備長炭で焼き、肉汁に焦がした砂糖とサトウキビビネガー、ハチミツを加えたガストリックソースをかけて。バラ肉は真空で12時間の火入れ。




DINING OUTを通して見えてくる。

DINING OUTをつくり上げる過程は、土地の文化や自然を掘り起こし、洗い出していく作業です。
「琉球神道、琉球王朝、民間伝承が折り重なるように歴史を形作ってきた沖縄では、伝統や文化が複雑で厚く、歴史のどの部分を切り取るかでまったく異なる姿が立ち上がってくる感覚がありました。10回シリーズにでもしなければ伝えきれないと思うほどだった」と大類さん。
「DINING OUTとは、ソフトとハード両面の遺跡の発掘と再編集を行っているようなものかもしれません。でも、化石なのではない。見えにくくなっているだけで、今も生きている。それは、その土地に入り込むほどにわかります。とりわけ今回はそうでした」
そして、それは間違いなく、人間が失ってはいけないものと言ってよいでしょう。こんな時代だからなおさらです。



ディナーの間中、知念城跡の石垣の上から演奏が流れ続けた。ステージではタイミングよく琉球舞踊が披露された。



料理に合わせて、「エビスマイスター匠の逸品」など、充実した味わいの酒がサーブされた。




提供された料理から

久高島イラブーのシガレット
複数の工程を経て下処理したイラブーの身を叩き、豚肉と豚足、だし、ポテトピュレを加えて棒状に。皮を巻き、昆布粉末とイラブーの粉末で表面を覆って揚げる。



琉球の海の幸 四季柑の香りを添えて
沖縄ならではの海産物、ヒメジャコ貝、シマダコなどをカクテル風の冷たい前菜に。トマトのムース、カラマンシーのジュレの酸味が魚介を引き立てる。



“ぬちぐすい”
「ぬちぐすい(命の薬)」という言葉からインスパイアされた一皿。在来の野菜や野草を主に30種以上、持ち味を引き出すように調理。島豆腐と共に盛り込んだ。





マングローブ蟹のジューシー
伊勢志摩から持参した米「イセヒカリ」とマングローブ蟹を丸ごと炊き込んで。炊き上がりをテーブルでプレゼンテーションした後に、身をほぐして、シマネギを散らして提供。



島バナナのソルベと沖縄ラムのババ、黒糖の香り
島バナナを、持ち味であるねっとりしたテクスチャーが楽しめるソルベにして。沖縄産ラム酒を浸み込ませたババと黒糖のシートを添えて。



食後には、沖縄県国頭村でスペシャリティコーヒーを栽培・生産する「アダ・ファーム」の徳田泰二郎さん自ら焙煎・抽出した香り高いコーヒーが提供された。







◎ ONESTORY公式サイト
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