HOME 〉

FEATURE

〉

FEATURE / MOVEMENT





世界のスーパーマーケット最前線――3

独自のビオ認定を推進するスーパー
「C.BIO」がフィレンツェに誕生

Feature / MovementNov. 28, 2017

text by Manami Ikeda / photographs by Masakatsu Ikeda

フィレンツェ料理界の重鎮と言われるリストランテ「チブレオ」のオーナーシェフ、ファビオ・ピッキが、今年9月にビオ食品を中心とするスーパーマーケット「C.BIO」(チー・ビオ)をオープンさせた。昨今、イタリアでは雨後の筍のごとくビオ食品を扱う店が増えているが、ファビオ・ピッキの「C.BIO」はほかのビオの店とどう違うのか。


生活感溢れる地区に登場した「チブレオ」ブランドのビオスーパー





フィレンツェ旧市街には二つの市場がある。一つは大聖堂や駅に近い「サン・ロレツォ中央市場」、もう一つは、街の東に位置し、中央市場よりずっと小規模な「サンタンブロージョ市場」だ。
ファビオ・ピッキの「C.BIO」は、サンタンブロージョ市場のすぐ近くにある。中央市場のある中心地に比べるとツーリストは少なく、旧市街でも最も生活感のある区域だ。市場の広場の一角に、リストランテ「チブレオ」、トラットリア「チブレオ」、カフェ「チブレオ」、トスカーナ料理とアジア料理のフュージョンビストロ「チブレオ」が集まり、そこはさながらファビオの王国といった様相だが、「C.BIO」はその王国の一角とは別の区画に、以前は木材組合の事務所兼倉庫だった場所にオープンした。旅行者がたまたま通りかかるというルートにはないが、開店当初から噂を聞きつけた住民が熱心に通っている。

規模は小さいが、一度の買い物でほしいものが揃う





店はさほど広くはない。入り口からすぐ目に飛び込んでくるのは、野菜や果物が並べられた平台、その周囲の壁にはパスタやトマト缶、米、粉類、オリーブオイルや調味料の棚。掃除ブラシや洗剤、エプロンやビオ・デグラダービレ(地中で自然分解する材質)のゴミ袋など日用雑貨も陳列されている。
その向こう側に、自家製パンとケーキのコーナー、自家製の総菜コーナー、そして、チーズや乳製品、肉(真空パック)や加工肉製品が納められた冷蔵ケース、ジャムやはちみつ、オイル漬けや酢漬けの保存食の瓶詰め類の棚、ワインとクラフトビールも並んでいる。



パン販売コーナー。店内の工房で職人が1日に380キロのパンを焼き、完売する。奥の棚には、モデナ森林で栽培されているトウモロコシや雑穀を使ったグルテンフリー食品も並ぶ。

パーネ・ディ・モナチ(修道士のパン)。ギリシャのアトス山に伝わる製法をアレンジしたもの。トーストすると非常に香りがいい。スープに浸して食べる。


パルミジャーノとほぼ同じ製法だが、製造地がパルミジャーノでもグラナ・パダーノの指定地区でもないため、名前がない牛乳製チーズ。ベルガモで作られているので、便宜上、ベルガモ・ロッソと呼ぶ。コクがあってものすごく美味しい。


日用雑貨コーナーになるビオ・デグラダービレ(土中で分解可能な素材)のゴミ袋。生ゴミ専用。

ぱっと見た瞬間に全体の様子がわかるほどの規模なのだが、一度の買い物で必要なものがほぼ全てまかなえる品揃えである。ちなみに、魚は、トスカーナの海辺で獲れる新鮮なサバ、イワシ、ヒメジといった近海ものが金曜土曜限定で売り出される。魚は週末に食べるものという伝統に忠実なところが、いかにも地元密着らしい。



ビオであると同時に美味しくなければならない




しかし、そもそもどうして、ビオ食品のスーパーをやろうと思ったのか。今や街のあちこちでビオ食品は溢れ、大手チェーンのスーパーでもビオ食品は目立つところに並べられている。
「たしかに、ひと昔前に比べたら、ビオ食品は手軽に買えるようになった。自分が料理の道に入った1979年当時は、皮も使えるレモンなんてどこにもなかったからね。それが次第に環境や体への悪影響をなるべくなくそうという動きが広がって、ビオの食品のバリエーションも増えた。ビオだけでスーパーマーケットができるくらいの品揃えが可能になったというのが、第一の理由だ」とファビオ。

しかし、だからこそ、新たなコンセプトでビオの店をやる必要があるとも思ったという。「ひとつは、味。ただ、ビオであればいいというわけではない。人間は生きるために食べるだけでなく、食べるためにも生きている。安全で美味しいものを食べれば、体と心の両方に栄養が行き渡る。最大のリフレッシュになるんだ」。料理人という経験と味覚を生かし、自信を持って美味しいと言えるビオ食品をセレクトすること、それが「C.BIO」の第一コンセプトである。



ビオ農家への応援とフードロス対策




第二コンセプトが、「全員が幸せになること」。食べる人だけでなく、作り手も幸福でなければならない。そのためにファビオが仕掛けたのは、生産者が持ち込んだものは全て買い取り、返品は絶対にしないというルールだ。
「見た目が悪かったり、ちょっと萎びてたり、そんなことは薬を使わない作物なら当たり前。イタリアでは“ブルッティ・マ・ブオニ”(見た目悪くても美味しい)という言葉があるように、外見ではなく実を取る文化がそもそもある。だから、そういう多少見た目が悪い野菜や果物もどんどん並べる。健康に作られたものは日持ちもする。食べられる期間が長ければロスは確実に減るんだよ。それでも売れ残ったものは、レストランや総菜の材料に回し、絶対に廃棄処分はしない。結果的にフードロスへの対策にもなっているんだ」。

売れ残った野菜は惣菜として有効活用。ウサギのカッチャトーラ風やポルペッテのケイパー煮などが並ぶ。

当初、農家に「すべて買い取る」と言うと、皆懐疑的だったという。「どこかに落とし穴があるに違いない」と警戒する農家を説得するのは大変だったよ、と笑う。「農家は、大地に根ざして生きている。いきなり遠くの壮大な未来を話しても通じない。だから、我々が彼らに保証したのは、“けして、今よりも悪くなることはない”ということだ」。
ファビオは本気を示すためにさらに、作物はいつ持ってきてもいい、と約束した。一般的には搬入は朝一番である。しかし、小規模農業では朝収穫しても運び込めるのは昼過ぎということもある。「C.BIO」では搬入時間制限をなくし、都合のいいときに持ち込めるようにしたのだ。

その結果、平均すると日に50回以上の搬入があり、その度に従業員が品物の並べ替えをする。手間はかかるが、結果的に細やかな商品管理につながり、売れ残りそうな食材を計画的に厨房に回すことができる。この随時搬入の利点はもう一つ、農家が営業時間中の店内を見ることで、どのようなものが売れ、どんな人が買って行くのかを実際に確認できることにもある。場合によっては生産者と買い手が直接会話することもできる。「ここは店であると同時に、広場でもある。誰もが自由に集まり、情報交換ができる広場なんだ。農家にとって幸せ、お客にとって幸せ。これは次のミレニアムに続くプロジェクトなんだ」。

小規模農家をサポートする独自のビオ認定




「C.BIO」の第三コンセプトは、第一の「美味しいビオ」と第二の「作り手と買い手双方が幸福になること」を補完する役目も果たす、「C.BIO式ビオ認定」である。
イタリアでビオ食品(あるいはビオ製品)を名乗るには、EU共通の認定条件を満たし、国から委託を受けた各州にある認定機関による審査をパスする必要がある。たとえば、野菜や果物などについてのEU共通のビオ認定条件では、化学的合成物を使用しないのはもちろんのこと、使用が認められている有機肥料で土壌改良し、土を耕すときは深さ30cmまで(自然の土中の水路を保護するため)、連作は禁止(合間に豆栽培や緑肥の期間を設ける)、害虫などからの被害を防ぐために生け垣や並木を一定間隔で配備することなどが決められており、牧畜も同様に細かくルールが設けられている。

農学者のピエル・フランチェスコ・カヴィッキオーニ。C.BIOが認定するビオ農産物の選定に携わる。「進歩や技術に異を唱えるのではなく、自然の摂理に合致する技術や考え方と取り入れて自然とともに生きるべき」と語る。

しかし、これら要件を満たしながらも、ビオ認定を受けていない生産者は少なくない。特に個人でやっているような極小規模の農家では、認定を受けるための書類手続きに時間とコストがかけられないという。こうした生産者には、「C.BIO」の協力者である農学者が現場に出向いて審査し、EUのビオ認定条件を満たしている場合に「C.BIO式ビオ」と認定する。そしてその作物は「C.BIO」の店頭で、EUビオ認定とC.BIOビオ認定とに分けてそれぞれの平台に並べられる。買い手はその違いを理解した上で買うという仕組みだ。ちなみに、どちらも売れ方に差はないという。「チブレオ」への高い信頼感を示す例だと言っていいだろう。

C.BIO式ビオ認定の野菜が集まる棚。 

隣接する棚には、ビオ認定の野菜が並ぶ。

量り売りの豆や、栗もビオ認定。

21世紀の食のルネサンスの拠点を目指す




2階テラスにある苗木の販売コーナーに展示されている、失われた品種の果物。

「C.BIO」の試みはそのほかにも様々ある。たとえば、失われた、あるいは絶滅の危機にあるトスカーナ伝統の果物や野菜の苗木を店舗2階のテラスで販売している。ビオ認定は取得していないが、実質ビオ農法で実践する若手育苗家が時間をかけて集めてきた稀少な植物ばかりだ。手間がかかる、生産性が悪いといった理由で作られなくなった品種はしかし、独特の味や香りを持つものも多い。



育苗家のジャコモ・フィオリーニ。83年から化学物質は使っていないが、ビオの認定は受けていない。ビオ認定を得ると自分たちがやりたいと思うことが制限される場合もあるので、あえてビオは名乗らない。

こうした苗木を通して豊かな生物多様性を身近に感じてもらおうというのが狙いだ。また、床や什器の木製棚には、「モデル森林」と呼ばれる管理森林の間伐材を使っている。モデル森林はイタリア各地に数カ所あるが、木を切る人、農業をする人など森に携わる全ての人たちがルールを決めて、活用しながら保護する森である。
フィレンツェ郊外東部にあるモデル森林では、自然の森の合間に畑や放牧地があり、麦や果物、豚が生産されている。さらに、フィレンツェの北にあるムジェッロ自然公園でも穀物栽培や牛の放牧が行われており、「C.BIO」ではこれら森林や公園の農産物加工食品も扱っている。



ファビオが惚れ込んだ、ムジェッロ自然公園内で製造された牛乳。消化が良く、頭も痛くならないとか。



国や自治体の管理下にあるため、これまでは積極的な販売や商品開発を行ってこなかった機関とも連携し、トスカーナの新たな魅力発見につなげようという試みだ。一方で、地産地消の枠にとらわれ過ぎないというのも「C.BIO」の重要な戦略である。トスカーナに以外にも優れた農産物はイタリア各地に存在する。

「C.BIO」とは、Cibo buono, italiano e onesto(美味しく、正直な、イタリアの食べ物)の略であり、たとえ遠方の産物でもファビオたちが「知ってもらいたい、食べてもらいたい」と思うものを紹介する、それがこのスーパーマーケットのベーシックな枠組みなのである。さらに、その枠からはいろいろと自由に発展形を作っていくつもりだという。

「もうすぐ、日本の素晴らしい鰹節が届く。イタリアのものじゃなくたっていいんだ、美味しく、正直であればどんどん紹介していく」とファビオ。「ルネサンスの時代、異国から様々な優れたものがフィレンツェにやってきた。それらを取り込んで今のフィレンツェがある。C.BIOは21世紀のルネサンスの拠点としてフィレンツェの人はもちろん、多くの外国人にも来てもらいたい」。そう語るファビオは「C.BIO」プロジェクトを水面に向かって石を投げる水切りに例える。「遠くへと飛びながら、水面に波紋を幾つも残す。先へと進みながら広げていくんだ」。
サンタンブロージョという小さな地区から発信された波紋はどこまで広がっていくのか。楽しみである。


インタビュー中に談笑するファビオさんの様子をちらっとお届けします!


SHOP DATA
◎ C.BIO

Via Della Mattonaia 3/a 50122, Florence (FI)
+39 055 2479271
月曜~土曜 8:00~20:00 日曜日定休
http://www.cbio.it/ (伊・英語対応) 









FEATURE / MOVEMENT





JOURNAL / EUROPE





JOURNAL / AMERICA





PEOPLE / PIONEER





PEOPLE / CHEF





FEATURE / WORLD GASTRONOMY





PEOPLE / CREATOR





PEOPLE / LIFE INNOVATOR





JOURNAL / JAPAN





JOURNAL / AUSTRALIA





JOURNAL / ASIA





MEETUP / REPORT





ログイン

まだ会員になっていない方

現在登録しているメールアドレス

パスワード

パスワードを忘れた

パスワードを忘れた方へ

パスワードを忘れた方は以下のフォームに登録時のメールアドレスを入力し、送信して下さい。
ご登録されているメールアドレスに仮パスワードをお送りします。

まだ会員になっていない方はこちらから新規会員登録

パスワードを忘れた方へ

パスワードを忘れた方は以下のフォームに登録時のメールアドレスを入力し、送信して下さい。
ご登録されているメールアドレスに仮パスワードをお送りします。

ご注意:送信ボタンは一度だけ押してください。

まだ会員になっていない方はこちらから新規会員登録

パスワードを忘れた方へ

ご登録されているメールアドレスに
仮パスワードをお送りいたしました。

まだ会員になっていない方はこちらから新規会員登録