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FEATURE / MOVEMENT

食のバリアフリープロジェクト:FREEなレシピ 2

ベジタリアン以外のゲストも満足させる。

「エディション・コウジシモムラ」下村浩司シェフ × ベジタリアン

2017.09.14

photographs by Masahiro Goda

連載:食のバリアフリープロジェクト


テーマ:【 ベジタリアン 】

ガストロノミックなフランス料理を長年手掛けてきたシェフが作るベジタリアンメニューには、食べ手を飽きさせない創意工夫が満載です。「エディション・コウジシモムラ」の下村浩司シェフに教わりました。


満足感を与える要素は無限にあります。

きっかけは、常連の女性のお客様が、ある時から肉を召し上がらなくなったことです。
「何日か肉を食べずにいたら体調がいいの」とおっしゃる。ちょうどその頃、外国人のお客様が増え始めて、食材のアレがダメ、コレがダメという方が多くなった。そこで、本格的に取り組む前に、ヨーロッパの高級レストランのベジタリアン料理を食べてみようと、2012年、視察に行きました。

まず訪れたのが、ミラノの「ジョイア」。スイスの名店「ジラルデ」で修業し、「マルケージ」でも働いたシェフの店です。かつて僕自身もマルケージで働いていましたので、親近感もあったのです。ここは、スタッフ全員が動物性タンパク質を摂らないことで知られていました。但し、乳を発酵させたチーズだけは使う。ここの料理はすばらしいクオリティでした。
その後、ミュンヘン、ロンドンと回ったのですが、ロンドンは都市全体のベジタリアン志向が進んでいると感じましたね。ベジタリアンたちが普段使いする店から、「ザ・グリーンハウス」「ハイビスカス」のような、高級モダンガストロノミーレストランのベジタリアンコースも食べました。

驚いたことに、視察の間中、まったく肉や魚を欲しなかったんです。
「もしかして、オレ、ベジタリアンじゃないの?」って思ったくらい(笑)。
ヨーロッパは元々、民族と宗教が混在する上に、ここ10年の間にアラブ資本が強くなったり、グローバル化が進んだり、はたまた環境問題がクローズアップされるなど、多様な食志向に対応することが当たり前という感覚があります。グランメゾンもベジタリアン対応が必須です。僕自身が取り組むのであれば、「ガストロノミーベジタリアン」だなと思っていたので、ヨーロッパの星付きレストランのベジタリアン料理はとても参考になりました。

下村浩司シェフ

僕が目指すのは、ベジタリアンもそうでない人も、テーブルを囲む全員が満足できる料理です。
たとえば、同席の4人の中で1人だけベジタリアンがいたとする。その1人にベジタリアンメニューを出し、他の3人には普通の料理というのではなく、4人すべてがおいしく召し上がれるベジタリアンメニューを提供する。そういった感じです。
そのために僕が大切にしている11項目をお教えしましょう。

1 普段以上に素材感を重視
2 色彩を考慮する
3 塩味を効かせる
4 旨味を意識する
5 ほのかに辛味を効かせる
6 食感を考慮する
7 乳化でクリーミーに仕立てる
8 ナッツ、穀物を使う
9 多種類の植物性油脂を活用
10 フレッシュなハーブを使う
11 スパイスの香りを効かせる


特に有効なのが辛味と食感、と僕は考えています。
辛味は料理にインパクトをもたらし、メリハリを付けてくれます。コクや旨味が物足りなくてもヴィヴィッドな印象を与えてくれる。愛用するのはペルーの唐辛子です。辛いだけでなく、香りとコクと旨味があるんです。ペルーのシェフとのコラボで知りました。ほどよい辛さとあっさりした後味の黄色いアヒ・アマリージャ、辛さ控えめの赤いアヒ・パンカ、激辛の赤いロコト、3種のペーストを活用しています。

もうひとつがナッツです。ナッツは食感とコクの両方を与えてくれます。そのまま使えばアクセントになり、ペーストにして使えばソースになる。混ぜて風味付けにしてもいい。ヘーゼルナッツ、クルミ、アーモンド、ピスタチオ、ピーナッツ、松の実……多種多様に使い分けてますね。

オリーブ油、ピーナッツ油、クルミ油、柑橘油など植物油をヴィネガーやスパイスと合わせたり、黒米、キヌア、ブルグル麦(トルコやアラブ諸国で食べられている挽き割り小麦)でボリューム感やアクセントを持たせたり、採るべき手段は、実は多々あるんです。
(本記事1枚目の写真の)ベビーコーンのように、手で持って食べるといったプレゼンテーションも効果的でしょうし、器やカトラリーで飽きさせない工夫にも心配りたいところです。

もはや、大豆ミートを使うといった置き換えベジタリアンの時代ではないと思うのです。そのためには、食材の幅を広げ、使い方を工夫し、新しい調理法にチャレンジすること。最近は南米料理などまだ私たちが十分に知り得ていない国の料理も注目を集めるようになっています。ヒントは山ほどあるのです。

<RECIPE>

(料理・上)
■トウモロコシのコンポジション
トウモロコシとアーモンドミルクで作るムース&ソルベには、ポップコーンやケシの実をアクセントに。ヤングコーンはスパイスオイルを塗りながらで焼きトウモロコシにして、スパイスオイルを垂らしたピュレを付けて食べる趣向。

◎ムース&ソルベ(作りやすい分量)
A ムース

トウモロコシ……大1本
 a 水……1L
  アーモンドミルク……200ml
  塩……10g
オリーブ油……15ml
タマネギ(スライス)……60g
ニンジン(芯を除いてスライス)……80g
塩……適量
米……20g
野菜のブイヨン *1……200ml
アーモンドミルク……100ml
水……90ml
アガー……6g

*1 タマネギ、セロリ、ニンジン、トウモロコシの芯の輪切り、白コショウ、グリーンカルダモン、パセリの茎、塩、水を鍋に入れ、強火で15分煮て、漉す。

1 トウモロコシは皮を剥き、を入れた鍋で茹でる。茹で汁に浸けたまま冷ましてから、実を外す。実260gを使用する。
2 鍋にオリーブ油を熱し、タマネギ、ニンジン、塩を入れ、汗をかかせるように弱火で炒める。
3 米を加え、全体が透明になるまで炒める。野菜のブイヨンを加え、落とし紙をして煮る。
4 1のトウモロコシとアーモンドミルクと水を加え、ひと煮立ちしたら、アガーを加えて馴染ませる。
5 ミキサーでピュレ状にして、漉し器で漉す。半分をソルベ用に取り分けておく。残りを器に注ぎ、冷やし固める。

B ジュレ
野菜のブイヨン*1……200ml
アガー……4g

野菜のブイヨンにアガーをよく混ぜ合わせる。

C ソルベ
ムース液……Aの半量
塩、カレー粉……適量

1 取り分けておいたムース液に塩をとカレー粉を加えて混ぜ、冷凍庫で冷やし固める。
2 パゴジェットでソルベにする。

≪組み立て≫
1 ムースの上にジュレを薄く流し込み、冷蔵庫で冷やし固める。
2 1の上にソルべを盛り、ケシの実、豆乳チーズ、塩とカレー粉(全て分量外)をまぶしたポップコーンなどをあしらう。

◎焼きトウモロコシとピュレ(1皿分)
ヤングコーン……1本
オリーブ油……適量
塩……適量
自家製スパイスオイル *2……適量
トウモロコシのピュレ *3……適量

*2 炒った白ゴマ、アヒ・パンカ、フライドオニオン、塩、カソナード、パプリカパウダー、オニオンパウダー、すりおろしたニンニクとショウガ、有機菜種油、太白ゴマ油を鍋に入れ、軽く温め、温かいままミキサーにかける。粒感が少し残るくらい。

*3 トウモロコシの実を、水、アーモンドミルク、塩で茹でる。茹でたトウモロコシにアーモンドミルク、塩をさらに適量加え、ミキサーで滑らかになるまで回し、裏濾しする。

1 トウモロコシは実を抜き出せるように切って皮を剥く。毛は取り除く。
2 オリーブオイルと塩で香りがするまでグリルする。皮も軽くグリルする。
3 スパイスオイルをまぶして軽くグリルする。皮の中に戻す。
4 器にトウモロコシのピュレを盛りつけ、自家製スパイスオイルをたらす。

■ナスとネギ (1皿分)

落花生オイルやオリーブ油でコクをプラス、松の実の香ばしさや桜のチップの薫香で香りをプラスして、淡白な野菜が充実の味わいに。脇役的な野菜が立派な主役になる仕立て方はガストロノミーならでは。

A 小ナスのロースト
小ナス(縦2等分)……2本
オリーブ油……適量
塩……適量
桜のチップ……適量

1 小ナスは、塩水(分量外)に浸けて、アク抜きし、オリーブ油を引いたフライパンで焼く。
2 桜のチップでスモークにかける。

B 焼きネギ
ミニポワロ……1本
塩水……1L
オリーブ油……適量

1 ミニポワロは軽く下茹でして、オリーブ油を加えた塩水に冷めるまで浸ける。
2 上部はオリーブ油を引いたフライパンで焼く。
3 根は、180℃のオリーブ油でさっと揚げる。

C 軟白ネギと松の実のエチュべ
軟白ネギ(白い部分)……3本
落花生オイル……大さじ1
松の実(茹でたもの)……大さじ1.5
塩……適量

1 フライパンに落花生オイルを熱し、松の実を炒める。
2 香りが立ったら、8mm角に切った軟白ネギを加え、火を通して、塩で調味。

D 万能ネギのぐるぐる
万能ネギ……2本
塩水……1L
にがり……大さじ1/2

1 万能ネギを沸かしたにがり入りの塩水で茹でる。茹で汁ごとボウルに移し、氷水に当てて冷やす。
2 万能ネギの青い部分を白い部分にぐるぐる巻きにする。

E ネギソース
軟白ネギの青い部分……3本
にがり……大さじ1/2
塩水……1L

1 にがりを入れた塩水を沸かし、ネギを茹でる。
2 煮汁と共にミキサーにかけ、裏漉ししてボウルに移し、氷水を当てて冷やす。





◎ エディション・コウジシモムラ
東京都港区六本木3-1-1 六本木ティーキューブ1F
☎ 03-5549-4562
12:00~13:30LO 18:00~21:30LO
不定休
昼13000円~、夜15000円~
カード可、28席(個室有)、禁煙
東京メトロ六本木一丁目駅より徒歩3分
https://www.koji-shimomura.jp/ 



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