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「和食;日本人の伝統的な食文化」――1

和食と「コク」の関係

Feature / MovementDec. 6, 2016

photographs by Eiichiro Tomigami,Tsunenori Yamashita

和食の知恵のひとつに、旨味を生かす技があります。旨味を生かせば、よりおいしくて、よりヘルシー。世界中が和食に夢中になるのは当然なのかもしれません。

旨味に目覚めた人々が次に注目し始めたのが「コク」です。
「コクは、おいしさにとって重要なキーワード。日本のおいしさや満足感の中心に位置していると言えます」と語るのは、味覚研究の第一人者・伏木亨先生。和食のおいしさの核心に迫るべく、伏木先生に「コク」についてレクチャーしていただきました。


伏木 亨 氏  龍谷大学農学部教授
『コクと旨味の秘密』『味覚と嗜好のサイエンス』など、おいしさを科学する数々の研究で知られる。

コクとは何か?




「コクがあっておいしい」「深いコク」「コクとキレ」といった表現からもわかるように、日本には昔からコクの感覚が存在してきました。「コクがない」と言ったら褒め言葉ではないことを考えると、コクとは好ましいものに違いありません。

では、コクとは何か? 私は「コクとは単一の味覚ではなく、複合的に絡み合った総合的な感覚」と捉えています。砂糖とみりんで考えるとわかりやすいでしょう。「砂糖よりみりんのほうがコクがある」と言って否定する人はいないと思います。砂糖がほぼショ糖でできているのに対して、みりんはブドウ糖、マルトース、イソマルトース、コウジビオース、トレハロースなど多種類の糖で構成されていて、甘さに幅があるからです。砂糖が多ければ鋭い甘さになるけれど、みりんが多い場合には分厚い甘味、つまりコクがある状態になります。

コクが「分厚く」「深い」理由




コクの形容詞としてよく「分厚い」「深い」「奥行きのある」といった表現が使われます。それはコクには空間的な拡がりと時間的な拡がりがあることと関係しています。人間の舌は、舌の先と奥とで異なった神経系につながっていて、味の感じ方も部位によって同じではありません。しかも、味を感じるのは舌だけでなく、口腔の上側や、口と鼻の穴の合流点、喉の奥でも感じます。加えて嗅覚や食感までもが味わいに参加する。また、口に入れた直後の味、少し経ってからの味、後味や余韻といったように、時間差でも異なる味を感じ取ります。それらを総動員してダイナミックに味をキャッチする。その際に、ひとつひとつの味が認識できないくらいたくさんの味が混じり合い、何も突出せずにバランスがとれている時、人はコクがあると感じるのです。



しょうゆとみりんはコクの立役者




みりんがそうであるように、和食の調味料はいずれもが料理にコクをプラスする役割を果たします。しょうゆの場合、発酵によって、小麦や大豆のタンパク質はアミノ酸に、でんぷんは糖に分解されて、旨味や甘味が生成されます。かつ、メイラード反応が様々な成分を作り出して、豊かな香りを発現させる。いわばコク成分が凝縮しているんですね。しょうゆもみりんも発酵によって作られるわけですが、日本は発酵によって得られる旨味やコクを実に巧みに活用してきました。

昔、日本は肉食を禁忌としていましたから、獣肉や脂肪に乏しい、食材的には粗食と言える食環境にあったと言えます。砂糖は高価で十分に普及していませんでした。そんな中で、大豆や麦を発酵させることでもたらされる旨味やコクが大きな満足感を与えたことは想像に難くありません。獣肉や脂肪は乏しくても、しょうゆやみりんの旨味やコクが満ち足りた気持ちにさせていたに違いないのです。

合わせ技でパワーアップ




コクをもたらす代表的な要素として、旨味、甘味、脂肪が挙げられます。だし、糖、油脂ですね。これらは単体でもコクを増強しますし、一緒に使えばよりパワーアップします。たとえば、しょうゆとみりんで作る照り焼きのタレや焼き鳥のタレなどは、旨味と甘味の合わせ技です。ウナギの蒲焼やブリの照り焼きのように、脂がのった素材に使えば、最強でしょう。テリヤキソースが世界的にヒットしているのを見ると、しょうゆとみりんが一緒になって生み出されるコクは、民族を超えておいしいんだなと感慨深くなります。日本の食材で作るグローバルなおいしさというわけですね。ラーメンのコクも近いものがあります。旨味と脂肪が重層的で、その圧倒的なコクが今、世界中の人々を魅了しています。

ブリの照り焼き
コクを形成する3つの基本要素、旨味・甘味・脂肪が一体となって生み出すおいしさ。味が重なり合った分厚いコクは万人を虜にする。そのわかりやすいおいしさは、いわば「初歩のコク」。



しょうゆと煮切ったみりんを合わせて沸かしたタレを数回に分けて回しかける、かけ焼き。丁寧に塗り重ねるように、色と味をまとわせていく。

わかりやすいコク、わかりにくいコク




一方、コクは一直線上のものではなく、個々に存在するものと気付かせてくれるのが、吸い物のコクです。澄み切って凜とした味わいが口いっぱいに拡がって、深いコクを感じる。しかし、ラーメンなどの分厚いコクとは別物です。要素を削ぎ落とせるところまで削ぎ落として、旨味に特化させたコクなんですね。吸い物を口にして「もの足りないなぁ」と感じる人も多いことでしょう。照り焼きのコクやラーメンのコクが民族を超えて魅了する、つまり、わかりやすいコクであるのに対して、吸い物のコクはわかりにくいコクと言えるかもしれません。

なぜ、あそこまで削ぎ落としてしまうのか?

ひとえに素材の個々の味わいを立たせるためなんですね。春なら筍や山菜、秋には鱧や松茸を、だしの味で染めてしまいたくない。素材の純粋な味わいを生かしたい。なぜって、日本人は筍や山菜の味わいで「春が来た」と思うのですから。だから、和食の料理人は、削ぎ落として削ぎ落として、だしの旨味だけでコクを出そうとするのです。

かにしんじょうのお椀
味の要素を徹底的に削ぎ落として、旨味に特化させただしには、澄み切った中にも深いコクが一本貫く。洗練の極み。食べ手の側に素養や修練が求められる、いわば「極致のコク」。

コクに見る日本人の美意識




同時に、「満たされすぎは無粋」と受け止める美意識が根底にあるような気がしてなりません。余分なものをいっさい取り払ったところに洗練があり、品位があるとする美意識です。料理人はその洗練を目指す。茶の湯の精神として、「雪間の草」の歌が挙げられます。

花をのみ 待つらん人に山里の 雪間の草の 春を見せばや (藤原家隆)

雪で覆われた隙間に若草が顔を覗かせる様を詠んだ歌ですが、はちきれんばかりに咲いた満開の桜よりも雪間の草のほうに美を見出し、慈しむ……。この歌の心と日本料理の吸い物との間に、私は同じ構造を見るのです。極限まで削ぎ落とされた椀物と向き合い、だしや椀種を口に含んだ時、食べ手は頭の中に春の景色や秋の景色を思い浮かべて、「春が来たなぁ」「秋が深まったなぁ」と感慨を覚える。食べ手はエッセンスだけ受け取り、イマジネーションを膨らませて、おいしさを感じ取る、ということです。それは、食べ手にイマジネーションが求められることであり、季節感や情趣を理解する素養や修練が求められることでもあります。文化的に高度であると言ってもよいかもしれません。



価値観を逆転させる日本人




わかりやすくコクのあるものを食べ続けるほうが幸せを感じていられるはずなのに、なぜ、吸い物のようにわかりにくいコクへと向かうのか? 私は不思議で仕方がありませんでした。でも、コクは品位と関係していると悟った時、コクの全体像が見えた気がしたのです。先ほど述べた、「昔、日本は肉食を禁忌としていたから食的に粗食と言える食環境にあったけれども、発酵による旨味やコクで満足感を得ていた」こともそうですが、日本には、制約を逆手にとって新たな価値を生み出していく発想や知恵があるように思います。

ないから諦めるのではなく、ないことを価値に変えていく逆転の発想です。“ないから貧しい”のではなく、“ないことが美しい”といったように。木と紙で作られる日本の家屋は寿命が短い。そのことを貧しさと捉えるのではなく、この世のはかなさ、無常の美学へと転化させていく。日本人にはそういうメンタリティがあります。そんな日本人にとって、「満たされすぎは無粋」なのであり、料理人は吸い物のコクをもの足りないくらいまで削ぎ落としていくのでしょう。
こうして見ると、コクとは、味覚だけで語り切れる事柄ではないことがわかります。日本人の精神性にまで関わってくる高度な概念であり、それを使いこなしてきた和食とは、とても文化的に発達した料理なのではないかと思うのです。

ブリの照り焼き




遠火の弱火でじっくり焼き上げます。かけ焼き(照り焼きには、タレを刷毛で塗る付け焼きと、身をタレで覆うように流しかけるかけ焼きがあります)にすることで、たっぷりとした艶やかな照りを出します。

【材料】
ブリ……4切れ
塩……少量
照り焼きのタレ*……適量

*照り焼きのタレの作り方(作りやすい分量)
米麹こだわり仕込み 本みりん……150ml
いつでも新鮮 味わい贅沢生しょうゆ……100ml
1 鍋に「米麹こだわり仕込み 本みりん」を入れて煮立て、アルコール分を飛ばす。
2 「いつでも新鮮 味わい贅沢生しょうゆ」を加えて、沸かす。
3 冷ましてから使う。

【作り方】
1 ブリに塩をふり、30分ほど置く。表面を洗い流して、水気をふき取る。
2 熱した焼き網の上にのせる。
*遠火の弱火でゆっくり火を入れる。
3 表面の色が変わり始めたところで、網から外して、ブリの表面全体を覆うようにタレをかける。
4 網に戻して、焼き続ける。
5 再びタレをかけて、網に戻す。3~4回繰り返して、芯まで火を入れながら、照りを出す。
*一気に照りを付けようとすると焼きムラができるので、数回に分けてタレを塗り重ねていく。



かにしんじょうのお椀




椀ものは、だしが主役の料理。調味も椀種もだしの邪魔をしないように考えられています。調味は1リットルのだしに対して、塩ひとつまみ、「いつでも新鮮 しぼりたてうすくち生しょうゆ」10滴、酒20滴という繊細さ。口に含むと、だしの滋味がじんわり沁み入ります。

■吸い地

【材料】(作りやすい分量)
水……1リットル
利尻昆布……15g
マグロ節……15g
カツオ節(血合い入)……15g
海塩……ひとつまみ
いつでも新鮮 しぼりたてうすくち生しょうゆ……10滴
日本酒……20滴(3g)

【作り方】
1 昆布を水に浸けて一晩置く。
2 弱火にかけて、30分煮出す。アクが浮いてきたら取り除く。
*弱火でじっくり旨味を引き出す。
3 80℃に冷まして、マグロ節とカツオ節を入れて1分。アクを取り除いてから、漉す。
4 塩、「いつでも新鮮 しぼりたてうすくち生しょうゆ」、酒で調味する。

■かにしんじょう

【材料】(作りやすい分量)
白身魚のすり身……300g
昆布だし……250ml
片栗粉……50g
大和芋……100g
卵白……3個
カニ……適量
ユリ根……1個

下準備
・昆布だしと片栗粉は溶き合わせる。
・卵白は泡立ててメレンゲ状にする。
・カニは茹でてほぐす。
・ユリ根は1片ずつに外して、酢を加えた湯でゆがき、ザルに上げて水分を飛ばす。

【作り方】
1 すり鉢に白身魚のすり身を入れ、片栗粉を溶き合わせた昆布だしを5~6回に分けて加えながら、すりこぎで混ぜ合わせる。
2 大和芋をすり鉢の内側ですりおろしながら加え、すりこぎですり混ぜる。
3 卵白(メレンゲ)を加え、すり混ぜる。
4 カニとユリ根を加えて、混ぜ合わせる。
5 猪口の内側にラップを敷いて、4を入れて、茶巾状にする。蒸し器で15分ほど蒸す。

■仕上げ

椀にかにしんじょうを入れ、ゆがいて昆布だしをくぐらせた芽蕪(分量外)とユズ(分量外)をのせ、吸い地を張る。


〈調理〉
◎「九段 おおつか」
東京都千代田区九段南2-4-12 アビスタ九段2F
☎ 03-5215-5137





① キッコーマン「いつでも新鮮 味わい贅沢生しょうゆ」330ml
生しょうゆのおだやかな香りを持ちながら、豊かな旨みと深いコクのある、まろやかな味わいのしょうゆです。

② キッコーマン「いつでも新鮮 しぼりたてうすくち生しょうゆ」450ml
通常のうすくちしょうゆよりも色が淡く、素材を活かしたい料理を一層きれいに仕上げます。

③ マンジョウ「米麹こだわり仕込み 本みりん」450ml
米麹用の米を2倍使用し、濃厚な成分でコク豊かな味わいが特徴。上品でやわらかな甘味です。


キッコーマンお客様相談センター
☎ 0120-120358 (月~金 9:00~17:00 祝日を除く)

キッコーマンについて
https://www.kikkoman.com/jp (日本語)
https://www.kikkoman.com/en (英語)

キッコーマン商品やレシピの情報はこちらから
https://www.kikkoman.co.jp









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