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FEATURE / MOVEMENT

香川県が育むサステイナブルな牛肉 世界のシェフも注目する「オリーブ牛」の魅力  | The Cuisine Press WEB料理通信

1970.01.01


text by Reiko Kakimoto / photographs by Daisuke Nakajima



日本のオリーブ栽培発祥の地、香川県小豆島で始まった「オリーブ牛」の取り組み。
オリーブ油を搾油した後の搾り果実を乾燥させて飼料にして牛に与え、それを食べて育つ牛はクリアな脂の良質な肉に育ちます。そしてオリーブ畑や野菜畑には牛糞を使った堆肥が使われる、循環型農業のかたちがあります。
そんなサステイナブルでしかもおいしい「オリーブ牛」は、今や世界からも注目される食材。
2016年9月4日(日)、香川県「高松国際ホテル」で開かれた「特別美食会 〜讃岐牛・オリーブ牛とさぬき食材」には119人が出席し、オリーブ牛を堪能しました。その中には、米国・ニューヨークのシェフや現地メディアの姿もありました。




オリーブ栽培を起点に回る、
循環型農業が育む 香川県ブランド「オリーブ牛」

(1)全国の収穫量の99%を占める香川県産オリーブ。(2)オリーブ栽培をはじめ、農地ではオリーブ牛の牛糞を堆肥に活用。(3)一つひとつ手摘みされたオリーブの実はその日のうちに搾油される。(4)高温の乾燥機で乾燥させると、渋味が強かった搾りかすがほんのり甘く、カラメル風味の飼料になる。(5)出荷前2カ月以上、1日100g以上のオリーブ飼料を与える。(6)オリーブ飼料で肥育すると、脂がのっていながらくどくない、あっさりした肉に。

オリーブ牛は小豆島の小さな肥育農家さんの手から生まれました。
もともとオリーブに含まれるオレイン酸を肉牛に与えたいという思いから、搾りかすを試行錯誤して加工して飼料にしたのが、小豆島の肥育農家の石井正樹さん。その結果、肉質が劇的に向上し、特長のある味わいが実現しました。さらに、オリーブの搾りかすを与えた牛の糞から堆肥を作り、オリーブ畑や野菜畑で使用するという循環型農業の仕組みを実現したのです。
オリーブ牛肥育農家の一人で、「讃岐牛モデル農家連絡協議会」の会長、合田政光さんはもともと、セロリ農家。牛を飼い始めた理由をこう振り返ります。
「畑に必要なのは、農作物を育てる“地力”です。それには畜産は必要だと思いました。昭和46年に2、3頭の牛から飼い始めて今では250頭ほど。5年前からオリーブ牛に取り組み、堆肥を周辺の25軒の農家で使っています。米の農家にも堆肥を入れ、農家からは稲わらをもらって牛の餌にすることも。野菜の品質が上がり、収入が増え、後継者も生まれています」。

オリーブ栽培を中心に回る循環型農業は、農業の未来を切り拓く、サステイナブルな取り組みでもあるのです。


トップ・シェフ2人が語り、表現する、「オリーブ牛」の魅力

米澤文雄シェフ 東京・六本木「ジャン・ジョルジュ 東京」料理長。
イタリアンレストランを経て2002年に渡米。NYの三ツ星レストラン「Jean-Georges」で日本人初のスー・シェフに。同店の東京出店を機に現職に就任。

松原 勉シェフ 香川・高松「高松国際ホテル」洋食総料理長。
香川県・さぬき市出身。2004年にドイツで開催された世界料理オリンピック大会に日本代表チームのメンバーとして出場し、3部門において銀メダルを獲得した実力派。


美食会で料理を提供したのは、地元「高松国際ホテル」の洋食総料理長である松原 勉さんと、東京・六本木「ジャン・ジョルジュ 東京」料理長の米澤文雄さん。松原シェフは地元のシェフだけに、オリーブ牛が流通した当初から使い続け、その特性を知り尽くしています。米澤シェフは今回のイベントを機に、オリーブ牛の様々な部位で試作を重ねたと言います。
「オリーブ牛は、さっぱりとした脂質と赤身がバランス良く含まれ、初めて食べた時には純粋に『おいしい』と感じました。今回、オリーブ牛の生産者を訪問し、牛舎を見学しました。飼育環境の良さ、しっかりとした管理体制が印象に残りましたね。オリーブ牛が高品質である理由の一端を見られました」と、米澤シェフ。松原シェフは、「オリーブ牛の様々な部位を味わって、いろんなおいしさを知っていただきたくて、米澤シェフとは違う部位や調理法を選びました」。
オリーブ牛を知り尽くすエキスパートと若き感性のコラボレーション。
トップシェフ2人による、オリーブ牛の魅力を引き出す珠玉の皿はこうして練られていきました。
オリーブ牛を使った前菜は、米澤シェフによる、内モモ肉を使ったコンテンポラリーな一皿から。

【米澤シェフ 前菜】塩麹でマリネしたオリーブ牛 うちもも肉の炙り 枝豆と讃岐白味噌のピュレ  軽いコリアンダーの香り
モモ肉は比較的硬い部位だが、塩麹の力で軟らかく仕上げた。オリーブ牛の脂と赤身がバランス良く口中でほどける。炙った表面の香ばしさ、ピュレのまろやかさ、爽やかなコリアンダーがアクセント。

【松原シェフ 前菜】オリーブ牛 ミスジ肉の軽いポシェ仕立て  オリーブ牛と讃岐コーチンのコンソメジュレと共に
松原シェフは、濃い旨味を持つ部位、ミスジ肉を清涼感あふれる演出で。オリーブ牛のミスジはよくローストで使うという松原シェフ。今回は軽くポシェして薄くスライスするタリアータで。冷製コンソメと合わせることで赤身肉のクリアな旨味の輪郭が立っている。




肉をがっつり食べる食文化だからこそ違いがわかる
NY のシェフとフードジャーナリストが注目する“Olive-fed Beef”

NY「アロンダ」シェフ、クリス・ジェイクル氏(写真右)、料理情報WEBサイト「EATER NY」のシニアエディター、ニック・ソラレス氏(写真左)も、オリーブ牛を絶賛。


今回の美食会には、ニューヨークのイタリア料理店「all’onda(アロンダ)」のオーナーシェフ、クリス・ジェイクルさんと、料理情報サイト「EATER NY」のシニア・エディターで肉料理担当のニック・ソラレスさんも出席しました。二人の目にはオリーブ牛はどう映ったのでしょうか?
「オリーブ牛の印象ですか? 本当に素晴らしい! 日本のものはもちろん、豪州など外国産“WAGYU”を含めて様々な和牛を食べてきましたが、オリーブ牛はたくさん食べても脂が重く感じられないですね」と、クリスさん。
「ニューヨークのトレンドとして、良質な脂肪分に注目が集まっています。オリーブ牛は良質な脂がのって、栄養面でのバランスもいい。この点からも興味を持っています。昨年、店でメディアや料理関係者を招き、オリーブ牛を試食するセミナーを開催したところ、参加者の反応はとても好意的なものでした。だって、たくさんの量を食べられるでしょう。アメリカ人は一度にたくさんの量の肉を食べますから、くどくない、良質な脂質を持つオリーブ牛を食べて『これは他の和牛とは全然違うぞ』と気づいたのです」
ニックさんも言います。
「僕は肉担当なので、和牛は何度も食べてきました。でも最初にクリスの店で食べたオリーブ牛の味わいは別物でした。繊細で穏やかだけど、肉らしさも感じられて……。オリーブ牛の牧場を視察しましたが、牛の表情が穏やかで、大事に育てられているのが伝わってきました」
クリスさんもこう振り返ります。
「牛たちがとにかく幸せそうで。牛が人を怖がらないというのに驚きました。手をかけて、慈しんで育てられているからでしょうね」

「EATER NY」は一日あたり約50万PVを誇るNY屈指のウェブサイト。ムービー撮影でオリーブ牛の密着取材 を敢行。

米澤シェフ(写真左)松原シェフ(写真右)が参加者の目の前で料理を仕上げる “競演”もつぶさに撮影


部位を食べ比べて知る赤身の旨さ

オリーブ牛というと、さっぱりとした脂質という点に評価が集まりがちですが、赤身部位のおいしさも忘れてはならないところ。
米澤シェフはオリーブ牛の赤身をこう評価します。
「脂がさっぱりしているからこそ、肉の味が前面に出ます。穏やかですが、赤身の旨味をしっかり感じます」
松原シェフもうなずきます。
「焼いた時に出る、牛肉特有の香りが少ないので、牛肉が苦手だと思われる方にも食べやすい肉だと思います。しつこさがない、クリアな旨味があるのではないでしょうか」

【米澤シェフ 肉料理】オリーブ牛 サーロインロースト パルメザン風味のズッキーニとホットチリバターソース バジルのアクセント
米澤シェフのメイン料理は、サシが美しく入ったサーロインを使用。辛味と酸味のあるエスニックなソースが、サシの脂に軽やかなアクセントをつける。脂身が多い部位でも軽やかな印象なのは、良質な脂だからこそ。

【松原シェフ 肉料理】ピオーネのコンフィチュールを纏ったオリーブ牛フィレ肉の低温調理 エスニックな香り さぬき赤ワインソースで
松原シェフのメイン料理は、脂身が少なくやわらかな肉質のフィレを使用。低温調理でじっくり火入れされ、驚きの食感に仕上がった牛肉に、ピオーネの上品な風味とカレーのようなスパイシーな香りを纏わせた。添えられたアスパラガスも香川の名産品。

(写真左上)【アミューズ】香川産タコと胡瓜のカクテル仕立て モロヘイヤをアクセントに
(写真右上)【魚料理】軽く昆布でマリネしたマナガツオのポワレ 仁尾酢(におす)風味の三豊(みとよ)茄子のピュレ添え
(写真左下) 【米澤シェフ デザート】シャインマスカットとココナッツのパンナコッタ 小豆島オリーブオイルのアイスクリーム
(写真右下)【松原シェフ デザート】讃岐の夢小麦と高瀬茶を使用した豊水梨のタルト

タコやキュウリはアミューズに、マナガツオやとろりとした食感の三豊茄子は魚料理にと、さぬきの食材もふんだんに使われた。料理に添えられたパンは「讃岐の夢」品種の小麦粉を使用。もちろん、小豆島産E.V.オリーブ油を付けて。
デザートも2人のシェフの競演で。米澤シェフは旬のシャインマスカットを使ったパンナコッタと、青々しいオリーブ油の香りが印象的なアイスクリームを。松原シェフは、パンにも使われた「讃岐の夢」と高瀬茶、ナシを使って、緑茶の苦味がアクセントのタルトを作り、さぬき食材の豊かさ、多彩さを表現しました。

(写真左から)シャンパン:ランソン・ブラックラベル・ブリュット、日本酒:かわつる純米原酒13、白ワイン:シャブリ・ラ・シャンフルール2014、赤ワイン シャトー・ヴィラ・ベレール 2011、ノンアルコールスパークリング:ジー・モット

料理に合わせた、ペアリングのドリンクも用意。「オリーブ牛の優しい味わいに合わせて、前菜には香川の日本酒『かわつる純米原酒13』を用意しました。原酒ながらも、優しく軽やかな味わいです。メイン料理にはボルドーの赤『シャトー・ヴィラ・ベレール2011』を。しっかりしたボディで、樽のニュアンスが溶け込み、オリーブ牛の上品な香りと合います。ノンアルコールドリンクには、地元・瀬戸田産のレモンと希少糖を使用した微炭酸ドリンク『ジー・モット』を。甘さが控えめなので、シャンパンのようにお楽しみいただけます」(高松国際ホテルの高橋宗民ソムリエ)。


「オリーブ牛」を海外にも知られるブランドに

浜田恵造知事(中央)を囲んで


美食会には、浜田恵造香川県知事も参加。オリーブ牛が評価されている背景を聞きました。
「和牛はこれまで、地名がブランド名になっていて、香川県にも『讃岐牛』があります。すばらしい和牛ですが、どのような特徴があるか、その名前からは判断することができません。
「オリーブ牛」というブランド名は、地名だけでなく、餌にオリーブを使っていること、その味わい、成分に根拠があることを示すことができる名前だと自負しています。今後は海外へも積極的にプロモーションを行い、ブランド力を強めたいですね」
約120名が一堂に会した美食会。良質な脂質と馥郁たる香りを持つオリーブ牛を堪能する、充実のプログラムでした。世界も注目するオリーブ牛。その類まれなる味わいをぜひ、お試しください。



◎オリーブ牛に関してのお問合わせ
讃岐牛・オリーブ牛振興会

☎ 087-832-8980
http://www.sanchiku.gr.jp/whats/olive/










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