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FEATURE / MOVEMENT

ARITAが見据えるこれからの400年

究極の器で至福の佐賀の食弓野窯編

1970.01.01

text by Kei Sasaki / photographs by Hide Urabe



自分が信じるやり方で切り拓いた「中島青磁」の世界。




青磁というと、透明感のある青緑色を思い浮かべますが、中島宏さんの青磁には微妙にトーンが異なるさまざまな色合いがあります。独特の形と貫入(かんにゅう)が生む表情も相まって、その作品は「中島青磁」と呼ばれるように。2007年には重要無形文化財「青磁」保持者(人間国宝)に認定されました。自ら「異端」を名乗り、青磁もほぼ独学で学びましたが、書物という書物を当たり、中国や韓国に赴いてさまざまな青磁に触れるなど、これまで誰もしてこなかったやり方で、自らの作品世界を築き上げてきました。現在、佐賀県陶芸協会の会長を務める中島さん。鋭く、厳しい言葉には、ものづくりに関わるすべての人々へのメッセージが込められています。



町の喧噪とは無縁、しんとした静謐が辺り一帯を包み込む竹林のなかに弓野窯はあります。



青い空に映える竹林は、石垣の上に築かれた茅葺の門を覆うほど。中島さんが、有田町の隣の武雄市にある弓野古窯の跡に登り窯を築いて独立したのは1969年、28歳のとき。以来、40年以上、この場所で作陶を続けています。



手入れの行き届いた庭、数々の作品が並ぶ展示室、選ばれた家具や調度品すべてから、中島さんの洒脱で、妥協を許さない美意識が伝わってきます。

今は年に数回使うのみという登り窯も、一切の乱れがなく、あるべき場所にあるべきものがある。この清高な空間で、中島青磁はつくられています。







焼き物づくりは、自然に対する尊大な挑戦。


有田焼をはじめ、日本の陶磁器の特筆すべき点は、すべて土地にあるものでつくられる点にあると中島さんは言います。「生地から釉薬、燃料まで、必要なものはすべて作家の足もとにある。日本の焼き物文化が世界に類を見ないほど多様な要因は、この点にあります」。ひと山、ひと谷越えると焼き物が変わる。それは有田に唐津、波佐見を例に見てもわかります。その土地に暮らす人の生活、思想、アイデンティティ。それらすべては「器を見ればわかる」と、中島さん。だからこそ作陶には、材料選びから仕上げまで、一切の妥協があってはならないと言います。器に限らず、工芸とは「自然の材料に付加価値を付けること」とも。

「箸ならば、木を削っただけのものはただの使い捨てですが、木を吟味し、削って形を整え、漆で色を付けたら、単なる食べ物を口に運ぶ道具以上に、人をよろこばせるものになりますよね。有田の文化は後者であるはずだし、これからもそうあり続けなければならない」。使う人が日々よろこびを感じられるもの、「大事にしたい」と思い入れを抱けるようなものをつくること。それが作家の使命だと言います。「とりわけ陶磁器のつくり手は心して」。そう中島さんが話す理由は、焼き物は、一度火を通したら二度と土に返らないからです。木にせよ鉄にせよ、時間が経てば土に返るのに、同じ自然の素材からつくられても、陶磁器だけは、5万年、10万年の時を経てもびくともしない。細かな破片でも、半永久的に残ります。「作陶とは、それだけ自然に対して尊大で、傲慢な行為であるということ。このことを肝に銘じなければいけない。そうすれば、いい加減なものづくりはできないはずなんです」

器が使われる場面を意識して作陶する。



「中島青磁」の器には独特の厚みや質感、手触りがあり、その色合いと矛盾するかのような温もりを感じさせてくれます。

大きな美術作品も数多く手掛ける中島さんですが、器についてはどのような考えを持っているのでしょうか。「作家の中には器を軽視する人もいるけれど、私はそうは思いません。器こそが焼き物の中心。壺などはそこから派生したものに過ぎません」。四季ごとの食材がある豊かな和食の文化。器はそれに寄り添い、引き立てるものである。これが中島さんの器に対する考えです。

「器に料理を合わせるのではなく、料理に器を合わせる。これが理。春の淡い食材には、明るい器がいいだろうと、私も作陶するときには、常に使われる場面を意識しています」。中島さんは料理と器に関して、ふたつの興味深いエピソードを話してくれました。「ある病院で、食器を樹脂のものから陶器に変えたら、残飯が少なくなったというんです。また小学校の給食に陶器を導入したら、子供たちの行儀がよくなったと(笑)」。美食の世界からはやや離れますが、食べるという行為の動機付け、味わう楽しみ。それらに器がいかに影響を与えうるものなのかがよくわかります。「器こそが大事」と、中島さんが言葉を強める理由は、そんなところにあるのかもしれません。





いい器に盛り付けると、
いつもの料理が洗練されて見える
~料理家・渡辺麻紀さん~

料理を盛り付ける器を選ぶとき、器の持つあらゆる要素が選択基準になる。料理家の渡辺麻紀さんはそう話します。色味や図柄の季節感、形や質感……。「磁器のすっとしたクールな感じには、生野菜や冷菜が合うんじゃないか。ぽってりとした厚みがあれば、寒色の器でもアツアツの料理が合うこともある。教科書的な理論から、直観まで、すべてを総動員して考えます」自分の中で間違いのない組み合わせならば、仕事も早くなんの不安もない。その一方で、つくり慣れた料理が器を変えることで、一気に新鮮になることもあるので、冒険もやめられないと言います。「冒険といっても、やみくもに合わせるわけではないから、結果だけでなく過程にも発見がある。とかく忙しいときは定番に寄りがちですが、色々な器に触れることで、特別なことをしなくても確実に料理の幅が広がるように感じます」





中島さんの器に料理を盛り付けて。器を変えていつもの料理が新鮮に見えた瞬間、新しい器への愛着が生まれるのかもしれません。

料理と器は和洋の垣根を軽々超える。これは経験から導き出した渡辺さんの答え。料理と器の格を合わせるのは基本だけれど、ワンランク、あるいは“半ランク”いい器に盛り付けるだけで、いつもの料理がぐっと洗練されて見えることも経験済みだとか。器の探求には、終わりがないようです。





生涯、作品主義を貫く作家人生を。

佐賀県陶芸協会の会長を務める中島さんは、有田焼をはじめ、陶器に関するさまざまなイベントに関わってきました。しかしながら今回の有田焼創業400年を記念して行われるUSEUM ARITA(ユージアム アリタ)には、特別な期待を寄せていると言います。「焼き物の魅力を伝えるとなると、だいたい“代表作を展示しましょう”“いちばんの代表作を”言われることが多いのですが、今回はイベントで、来場された方が食事をする器を作らせていだけるという。これは大変ありがたいことです」

材料があって、すぐれた作家がいても、使う人がいなければ、焼き物文化は発展しない。造形、芸術、前衛……いろんな創作があっていいけれど、有田焼400年の歴史を支えたのは、器の文化であると、中島さんは確信しているからです。その上で「有田焼ほどすぐれた焼き物は、世界中のどこにもない」と胸を張ります。「有田焼は古い、と揶揄する人もいますが、では古いとは、新しいとは何かを考えなければなりません。たった今、完成したばかりのものでも古臭く陳腐に見えるものもあれば、何百年前のものであっても、今生きる我々の目に斬新に映るものもあるのですから」

伝統ある窯の生まれでもなく、独力で道を拓き、人間国宝まで上り詰めた中島さんは、常に“作品主義”を主張します。「家柄も修業先も、年功序列も関係ない。作家は作品がすべて。私が会長になってからは、陶芸協会の名簿もアイウエオ順です(笑)」。その言葉には、今の地位に安住せず、まだまだ前へ進もうという自らへの叱咤激励が込められているように感じます。

究極の器で至福の佐賀の食!
佐賀県が誇る人間国宝と三右衛門の器をUSE(使う)!




佐賀の食材にこだわったメニューを、佐賀県が誇る人間国宝と三右衛門の器をUSEして(使って)提供します。“使う”をコンセプトにしたUSEUM ARITAならではの貴重な体験です。

会期      2016年8月11日(木)~11月27日(日)

場所      九州陶磁文化館 アプローチデッキ 「USEUM ARITA」

営業時間    10:00~16:30  ※月曜休館/月曜日が祝日の場合は会館

メニュー    朝御膳、昼御膳、スイーツセット

お食事時間帯 メニュー 税サ込価格
10:00~11:00 ブランチタイム 人間国宝、三右衛門の器を使った和食の「朝御膳」をお楽しみ頂けます。 1,500円
11:30~12:45 ランチタイム 人間国宝、三右衛門の器を使った和食の「昼御膳」をお楽しみ頂けます。 2,500円
13:00~14:15
14:30~16:30 カフェタイム 有田焼創業400年事業「ARITA EPISODE 2」開発商品はどで、スイーツとドリンクのセットがお楽しみ頂けます。 1,000円




予約受付ダイアル(USEUM ARITA内)
0955-41-9120
受付時間:10:00~16:30

お問い合わせダイアル((株)佐賀広告センター内)
0952-27-7102
受付時間:平日10:00~16:30



■USEUM ARITAでは、佐賀の食材を使った料理を、井上萬二窯(井上萬二氏)、弓野窯(中島宏氏)、今右衛門窯(今泉今右衛門氏)、柿右衛門窯(酒井田柿右衛門氏)、中里太郎右衛門陶房(中里太郎右衛門氏)という佐賀を代表する究極の器で体験頂くことができます。
待ち時間無く、快適にお席にご案内させて頂くために事前予約をお勧めしております。
■予約は、朝御膳(10:00~11:00)と、昼御膳(11:30~12:45/13:00~14:15)のお席のみとなります。
■御膳・昼御膳は、井上萬二窯セット、弓野窯セット、今右衛門窯セット、柿右衛門窯セット、中里太郎右衛門陶房セットのいずれかでのご提供となります。器は予約時にはお選び頂くことが出来ませんので、予めご了承ください。
■朝御膳・昼御膳・スイーツセットは、各日提供数を限定していますので、無くなり次第終了となります。
■20名以上のご予約キャンセルにつきましては前日50%、当日100%のキャンセル料が発生いたします。
■USEUM ARITAへの入場は無料です。





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