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Journal / ilGolosario





パオロ・マッソブリオのイタリア20州旨いもの案内

vol.14 フリウリ・ヴェネツィア・ジュリア州
トリエステのコット(加熱ハム)

text by Paolo Massobrio
translation by Motoko Iwasaki

文化の交差点で生まれたスモークハム

イタリア人なら加熱したスモークハムを「プラハのプロシュット(Prosciutto di Praga)」と呼ぶ。
ところがプラハでこのハムを注文しても、一体それはどんなハムかと怪訝な顔で聞き返されるだろう。
それもそのはず、実はボヘミア地方の州都の名がついたこのハムは、2世紀前からトリエステを中心に生産されている特産品のことだからだ。

このトリエステのハムの歴史は今でもその全貌が明らかになっていないが、様々な文化の絡み合う伝統的な食品だ。
事実、この町の料理自体がヴェネト州、スロヴェニアそして特に中央ヨーロッパのオーストリアやハンガリーの文化が交差し生み出されている。

トリエステの海は、同じ湾でも対岸のヴェネツィア付近がラグーナ(潟)で形成されているのとは大きく違い、岩礁が多く、沖合で甲殻類が豊富に獲れる。
またカルニア地方(Carnia:フリウリ・ヴェネツィア・ジュリア州北西部、ヴェネト州との境)の山々からは、行商人が織物や香辛料(香辛料は生菓子店で使用された)などでいっぱいになった壺と一緒に地域で作られるチーズなどの酪農品をもたらした。

トリエステの町の食文化には、例えばユダヤの影響も色濃く、サルデ・イン・サオール(イワシ・フライの酢漬け)には干しブドウや松の実を加えるし、スモークしたロース肉を茹でてスライスしたカイザーフライシュ(kaiserfleisch:皇帝ためのお肉の意)やクラシックにすね肉の料理にジャガイモを添えて食べることから、中央ヨーロッパの豚肉文化の影響をかなり強く受けていることが見て取れる。
たが、最も有名な食品は何かと聞かれればおそらくは、この「プラハのプロシュット」またの名を「コット・ディ・トリエステ(Cotto di Trieste)」つまりトリエステ産のハムだろう。



その発祥は本当にボヘミア地域だったのかもしれないが、それがトリエステにもたらされた経緯を確証づけるものは何も残っていない。
ナポレオンがトリエステに侵攻した際に連れていたボヘミア出身の料理人がもたらしたという者もいれば、いや、トリエステの豊かな中産階級が高給で料理人を雇い入れることに惹かれ、ボヘミアから移住した女性料理人たちがこのハムを伝えたのだと力説する者もいる。

このハムは、1800年代には町中の工房でも生産されるようになり、製法はより洗練されていった。
祝いの日の一品として日曜日には家族が集まり、温めたハムをスライスして食した。ファウスタ・チャレンテ(Fausta Cialente)の小説『ヴァイセルベルガー家の4姉妹(Le quattro ragazze Wieselberger)』には、娘たちの父親がまだ湯気の立つハムの入った包みを手に家路を急ぐ下りがある。
トリエステの日常習慣を描いた最も美しい記述の一つだ。



トレンティーノ仕込みの燻製技が光る名物ハム

さて、トレンティーノ地方に住んでいたマゼ家(Masè)の兄弟は、地域の伝統的な燻煙技術を身に着け、1870年にトリエステに移り住んだ。
そこでこの素晴らしいハムに出会って以来、今日まで一家はその生産に関わり続けている。



当時、兄弟がトレンティーノ仕込みの技術で作ったハムは、あっという間に食料品店、さらに「ブッフェ(Buffet)」などで扱われるようになった。
「ブッフェ」はどんな時間帯でも温かい料理を口にできるトリエステの大衆食堂のことだ。

たいていは豚肉料理が主体で、暖炉にかけてあるカルダイア(caldaia)という大鍋から肉を引き上げ皿に盛ってさっと出す。
マゼ兄弟も1874年に自分たちのブッフェを開店し、たちまちに町の人気店になった。
彼らのコクの深い「コット・ディ・トリエステ」や「サルメリア・ヴィエンネーゼ(salumeria viennese:ウィーン風豚肉加工品)」と名づけたやはり加熱された豚肉加工品が目当ての客で店は溢れた。



マゼ家の工房は1900年代に入ると生産体制も変わり、小さなブッフェも豚肉加工専門店に姿を変えた。
現在、デジタル通信分野で活躍していた若きステファノ・フルシール(Stefano Fulchir)が経営に加わり、ドイツ、オーストリアやアルバニアにも輸出を果たしている。
だが、生産品のメインはあくまでもこのプロシュット「コット・ディ・トリエステ(Cotto di Trieste)」だ。

豚肉はイタリア国内産にこだわって上質のものを買い付け、生産工程では、塩水を手作業で大腿部動脈から注入する。
この方法ならアロマが肉にゆっくりと浸透し、自然な味わいを生んでくれるからだ。
そして回転式ドラムでザンゴラトゥーラ(zangolatura:攪拌。回転式のドラムに生の塊肉を入れ、おしくらまんじゅうさせながら回転させるマッサージ方法)という24時間を要するマッサージで塩水を肉にまんべんなく吸収させる。

その後、手作業で紐をかけ、成形し、オーブンで蒸気を用いてじっくり12時間低温加熱する。また同時にブナのおが屑を燻煙材にスモークする。
こうして出来上がったプロシュットには、辛子や秘伝のスパイスを加えたパン生地で丸ごと包んでさらに加熱した、見た目のなんともフレンドリーなタイプもある。

どうだろう、ファンタスティックだと思わないかい?
僕だったらポテト・ピュレを添えてこれだけをじっくり楽しみたいね。
お伴には、そうだな、フリウリ産の白ワイン、リボッラ・ジャッラならピッタリだと思う。



パオロ・マッソブリオ Paolo Massobrio

イタリアで30年に渡り農業経済、食分野のジャーナリストとして活躍。イタリア全州の優れた「食材生産者」「食料品店」「ワイナリー」「オリーブオイル」「レストラン」を州別にまとめたベストセラーガイドブック『Il Golosario(イル・ゴロザリオ)』を1994年出版(2002年より毎年更新)。全国に50支部6000人の会員をもつ美食クラブ「クラブ・パピヨン」の設立者でもある。
http://www.ilgolosario.it



Shop Data:
Masè srl

Via J. Ressel, 2
San Dorligo della Valle
34018 - Trieste (ITALY)
Tel +39 040 2821011
Fax + 39 040 8323224
info@cottomase.it





『イル・ゴロザリオ』とは?

photograph by Masahiro Goda


イタリア全州の優れた「食材生産者」「食料品店」「オリーブオイル」「ワイナリー」を州別にまとめたガイドブック。1994年に創刊し、2002年からは毎年更新。全965ページに及ぶ2016年版では、第1部でイタリアの伝統食材の生産者1500軒を、サラミ/チーズ/肉/魚/青果/パン及び製粉/パスタ/米/ビネガー/瓶詰め加工品/ジャム/ハチミツ/菓子/チョコレート/コーヒーロースター/クラフトビール/リキュールの各カテゴリーに分類して記載。第2部では、1部で紹介した食材等を扱う食料品店を4300軒以上、第3部はオリーブオイル生産者約700軒、第4部ではワイン生産者約2700軒を掲載している。
数年前にはレストランのベスト・セレクション部門もあったが、現在では数が2000軒以上に達したため、単独で『il GattiMassobrio(イル・ガッティマッソブリオ)』という一冊のレストラン・ガイドとして発行するようになった。



(『Il Golosario』はパオロ・マッソブリオの作った造語ですが、この言葉はイタリア人なら一見して意味を理解し、口元に笑みを浮かべる人も多いでしょう。『Goloso』という食いしん坊とか食道楽の意味の言葉と、『dizionario(辞書)』、『glossario (用語集)』など言葉や情報を集めて一覧にしたもの示す語尾『−ario』を結んだものです。食いしん坊の為においしいものをそこらじゅうから集めてきたという少しユーモラスな雰囲気の伝わる言葉です。)







The Cuisine Pressの出発点である雑誌『料理通信』は、2006年に「Eating with creativity ~創造的に作り、創造的に食べる」をキャッチフレーズに誕生しました。
単に「おいしい、まずい」ではなく、「おいしさ」の向こうにあるもの。
料理人や生産者の仕事やクリエイティビティに光をあてることで、料理もワインもお菓子も、もっと深く味わえることを知ってほしいと8人でスタートした雑誌です。

この10年間、国内外の様々なシェフや生産者を取材する中で、私たちはイタリアの食の豊かさを実感するようになりました。
本当の豊かさとは、自分たちの足下にある食材や、それをおいしく食べる知恵、技術、文化を尊び、受け継いでいくこと。
そんな志を同じくする『イル・ゴロザリオ』と『料理通信』のコラボレーションの第一歩として、月1回の記事交換をそれぞれのWEBメディア、ilgolosario.itと、TheCuisinePressでスタートすることになりました。

南北に長く、海に囲まれた狭い国土で、小規模生産者や料理人が志あるものづくりをしている。
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