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JOURNAL / JAPAN

日本 [岩手] 日本の魅力 発見プロジェクト ~vol.6 岩手県 一関・平泉エリア~

長い歴史の中で起こる変革にも負けない「ものづくり」の魂

2017.12.11

翁知屋は、秀衡塗発祥の地と伝えられている旧衣川村の増澤集落で代々漆器の製造販売を営んでいたが、昭和30年ダム建設に伴い、平泉・中尊寺から歩いて5分ほどの場所に移転。現在も製造から販売まで一貫して行う。

奥州藤原氏によって興された文化や伝統と同様に工芸の技術は日本の遺産だ。奥州藤原氏の繁栄に伴って花開いた工芸品の数々は、約800年の時を経た現在でも、その花をほころばせているのであろうか。移り行く時代の荒波に揉まれながら、伝統という種を未来に継承し続けるということは、時に厳しく、その伝統が長ければ長いほど、その伝統が素晴らしければ素晴らしいほど、重い重圧が両肩にのしかかるに違いない。しかしながら、その運命を真正面から受け入れ、純粋に愛情を持ち、その運命を楽しめるかどうかが鍵なのかもしれない。平泉とその周辺地域に伝わる伝統工芸の工房を訪ねた。

秀衡塗(ひでひらぬり)
蘇った平安の美 – 眠った種を再び芽吹かせた職人の熱意

江戸時代各藩の殖産政策によって漆の採取・漆器の製造が盛んに行われた結果、漆器文化が広がったと考えられ、47都道府県のうち、半分以上の都府県に漆器の生産地がありジャパン(Japan)が漆器を意味する言葉としてよく使われる。岩手には藤原氏三代目当主藤原秀衡が京都から職人を招聘し、一関で採れる漆と金をふんだんに使って器を作らせたことが起源とされる秀衡塗(ひでひらぬり)がある。特徴は、金箔で描かれた有職菱紋と呼ばれる菱形と源氏雲に、縁起が良いとされる草花や果実の艶やかな意匠。煌びやかな模様と、高台が高くて大き目のどっしりとした感のある秀衡塗の椀が奥州藤原氏の平泉の屋敷の食卓を飾っていたことを想像するだけで、歴史のロマンを感じるが、江戸寛政年間以降、一旦歴史の表舞台から姿を消した。そして近年、平泉周辺に伝わる秀衡椀を集め、研究することで秀衡塗は蘇った。平安時代の美を踏襲しながらも、新しい魅力を作り出している二つの工房を訪れた。

翁知屋(おおちや)

翁知屋は、秀衡塗発祥の地と伝えられている旧衣川村の増澤集落で代々漆器の製造販売を営んでいたが、昭和30年ダム建設に伴い、平泉・中尊寺から歩いて5分ほどの場所に移転。現在も製造から販売まで一貫して行う。


秀衡塗の復元に成功し、昭和天皇皇后両陛下の御前で実演をした初代から技術と、情熱を引き継ぐ四代目当主の佐々木優弥氏。従来の形に囚われない新しい秀衡塗や漆製品の可能性を追求し、グッドデザイン賞を受賞。パリの「メゾン・エ・オブジェ展」やドイツの「アンビエンテ展」などにも積極的に参加し新風を吹き込んでいる。


翁知屋では、敷地内に子供から大人までを受け入れる「うるし塗体験工房KURAS」がある。また秀衡塗の伝統技法を未来にも存続させるために、職人コースを設け、漆塗装と絵付けを指導している。平泉はただ「過去の貴族文化を見学する場所」ではない。素材と卓越した技術によって作られた美は時空を超えて、我々現代人の生活に潤いを与えるということを教えてくれた。



◎ 有限会社 翁知屋(おおちや)
http://www.ootiya.com/
岩手県西磐井郡平泉町平泉字衣関1-7
☎ 0191-46-2306
営業時間 9:00~18:00 水休




丸三漆器(まるさんしっき)

明治37年御膳造りを主とした漆器工場として創業。丸三漆器もまた、その高い木工技術を活かし、製造から販売まで一貫して行う。



豪奢な秀衡塗の椀や盆も、元を正せば、ブナやケヤキ、トチ等の天然木の丸太であることに木地を見て改めて気付かされる。木地に生漆を塗り込めることによって木の防水性を高め、木地の薄い所や摩擦が大きく傷み易い箇所には、布を貼って補強。その上から何回も何回も漆を塗り重ね研磨していく。表面からは見えない様々な行程があるからこそ、美しく丈夫な漆塗りの製品となる。

丸三漆器では、伝統的な形の椀や盆はもちろん、洋風化した現代の日本人の生活にも則した新しい製品も作る。その一つが、漆で彩を加えられたワイングラス。




◎ 有限会社 丸三漆器
岩手県一関市大東町摺沢字但馬崎10
☎ 0191-75-3153
営業時間 9:00~17:00 無休
≪工場見学は要予約≫




南部鉄器 佐秋鋳造所(さあきちゅうぞうしょ)
黄金の国ジパングのもう一つの資源「黒い石」から作る極上の日用品

佐秋鋳造所が主に作る鉄瓶の良し悪しは、鋳型で決まる。鋳型は奥州市周辺で採れる良質な粘土で一つ一つ手作りされるため、オーダーメイドにも対応している。

南部鉄器は、茶道具が主の盛岡市と、日用品が主の平泉近辺で作られる。奥州藤原氏初代の清衡が近江国(現在の滋賀県)から鋳物師を招聘して始まった。北上山地で砂鉄が豊富に採れたことで鉄器が作られ、奥州藤原氏の遺跡からは鋳型も出土している。

鉄瓶は、デザイン画を起こすところから始まる。デザインを元に出来上がった木型から粘土の鋳型を作り出す。「紋様押し」、「肌打ち」と呼ばれる方法で、鋳型の内側に紋様を付け、鉄器の内部を形づくる型をはめ込み、そこへ溶けた鉄を流し込む。

釜鉄瓶工房 佐秋鋳造所 佐藤圭氏


木炭炉の中で製品を焼き、稲穂を束ねて作られた「みご」という道具で漆を塗りつけると、表面に特有の色が出る。様々な工程を経て出来た南部鉄器は、使用で生じるサビですら、奥深い美しさを感じる。大量生産、大量消費で忘れがちな、一つのものを長きに亘って大切に使うという、この国に住まう人々が大切にしてきた「日本の心」を再認識させてくれた。



◎ 釜鉄瓶工房 佐秋鋳造所(さあきちゅうぞうしょ)
岩手県奥州市水沢区羽田町字小屋敷15-1
☎ 0197-23-6663




岩谷堂箪笥(いわやどうたんす)
木と鉄を融合させた美しい技術の結晶


岩谷堂箪笥の岩谷堂とは、岩手県奥州市の町の名前だ。奥州藤原氏を起源とし18世紀の後期、岩谷堂城主が不作の年に農民が飢饉に苦しまないよう稲作以外の産業を興すべく、塗装を研究、箪笥や車付きの箪笥を作らせた。その後、鍛冶職人によって考案された彫金金具を付けた箪笥が原型となり、現代に受け継がれている。表面は美しい木目の欅、ひき出し内部は桐だ。引き出しを開けると風圧で別の引き出しが空いてしまうほど精巧に作られる。

下絵を描いた鉄や銅の板に金槌と鏨(たがね)を使って絵模様を打ち出してつくる手打金具や、手打金具をもとに作った鋳型に鉄を流し込んでつくる南部鉄器金具の美しい装飾がされる。


岩谷堂箪笥 金具部門 伝統工芸士 及川洋氏
岩谷堂箪笥は、金具だけで既に独立した芸術品だ。鏨(たがね)を鎚で打ち、輪郭を彫り細かい線を刻み、裏から打ち出して模様を浮き出させていく。150本以上の鏨を使い分け、強弱をつけながら、鉄に絵を描いていくかのように、一打ち一打ち彫っていくことによって、岩谷堂箪笥の木目をさらに艶やかにする彫金金具。牡丹の花、桐の葉、唐草、龍、唐獅子などが定番であるが、好きな図柄をオーダーすることも可能である。




◎ 株式会社岩谷堂タンス製作所
http://www.its-iwayado.jp/
(ショールーム)岩手県奥州市江刺区愛宕字梁川204-1
☎ 0197-35-7357
E-mail:its-iwayado@gol.com
10:00~17:00  水休
(工場)岩手県奥州市江刺区愛宕字海老島63-1
☎ 0197-35-6016
第2/第4土、日休
≪工場見学は要予約≫

◎ 彫金工芸 菊広
http://www.chokinkogeikikuhiro.com
岩手県奥州市江刺区愛宕字前中野224-1
☎ 0197-35-0381
≪工場見学は要予約≫




明治以降の『新しい』伝統

一関には奥州藤原氏の流れを汲まない新しい伝統も生まれている。新しいとは言っても平成の世から見れば、明治、大正に始まったものも既に伝統である。平安文化が息づくこの地域で、若い世代が牽引する工房二軒を訪ねた。

小山太鼓店
太鼓の音色は木から

小山太鼓店の店舗兼工房の倉庫に、所狭しと保管されている様々な大きさや種類の太鼓は圧巻。


初代は15才の時に青少年義勇軍として訪れた満州で桶作りの技術を修得。その後、捕虜としてシベリアへ抑留、強制労働をさせられている間に革なめしの知識と技術を身につけ帰国。「人が死んでも音楽と祭は行き続ける」との考えの基に、作りはじめたのが太鼓だった。小山太鼓店の太鼓作りは岩手の山に登り、原木を選ぶところからはじまる。木の個性を活かし、自らなめした馬や牛の皮を張る。材料それぞれに特徴があるので、太鼓と一言に言っても、同じ音色の太鼓は存在しないのだ。

太鼓作りに対する初代の熱意は孫である三代目小山健治氏に継承されている。




◎ 小山太鼓店
http://oyamataiko.com/
岩手県一関市矢越字千刈田46-4
☎ 0191-64-2056
≪工場見学は要予約≫




京屋染物店
それぞれのニーズに応える - 顧客のアイデアを高い技術で実現


モダンな外観の工場がとても印象的な大正8年創業の京屋染物店は、デザインから染め、縫製に至るまでの全ての工程を請け負うオーダーメイドの染物店。祭の半纏、法被、浴衣、手ぬぐい、のれんなど、大きな物から小さな物まで、取り扱いの幅も広い。染め方の種類も豊富。染めは大きく分けて「浸染(ひたしぞめ)」「引染(ひきぞめ)」「手捺染(てなっせん)」の3種類。


長い歴史の中で、取引した顧客の要望に答えてきた結果、その全てを可能にした。京屋染物店の辞書には、「できない」という言葉がない。時代の流れとともに、様々な布の素材に対応できるよう、毎日技術を研鑽していると語るのは、4代目の蜂谷悠介氏。工場見学とともに、藍染の絞り染めを体験できる。どんな模様に仕上がるのかを想像しながら、手ぬぐいの生地に輪ゴムを使って絞っていく作業は楽しい。

誂染 京屋 専務取締役 蜂谷淳平氏




◎ 株式会社 京屋染物店
http://www.kyo-ya.net/
岩手県一関市大手町7-28
☎ 0191-23-5161
月~金 9:00~19:00  土日 10:00~17:00
≪工場見学は随時可能≫






※本プロジェクトは、経済産業省関東経済産業局が実施する「平成29年度地域とホテルコンシェルジュが連携した、新たなインバウンド富裕層獲得のための支援事業」と連携して、グランド ハイアット 東京 コンシェルジュ/明海大学ホスピタリティ・ツーリズム学部教授 阿部佳氏のアドバイスを得て実施しています。



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