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日本 [青森]

食の新たな価値創造
青森 南部地方を訪ねて

Journal / JapanSep. 6, 2017

text by Melinda Joe / photographs by Luuvu Hoang / translation by Yuko Wada

青森県八戸市の東端に位置する種差海岸。風が吹きすさぶこの海岸は太平洋に面し、変化に富んだ地形が12kmにわたって続きます。中須賀では、海岸沿いの岩間からオレンジ色のスカシユリやマルバアサガオが咲き乱れ、隣接する浜を白砂がおおっています。晴天の日の朝には、海面まで伸びる露をまとった草地が、青く広がる海と空を背景に、エメラルドグリーンにきらめきます。

日本の蒸し暑い夏のさなかだというのに、空気は凛としていて涼やか。多くの画家や詩人たちの感性を刺激してきた、絵画のように美しい種差海岸。この地域の活力源をつねに担ってきたのは、漁業です。

昔、八戸の町は、北海道南東沖で漁をする船のための港として栄えました。その伝統は、天然食材の質を際立たせるシンプルな調理法で海の恵みをいただく郷土料理に今も息づいています。


種差に到着したのは夕暮れどき。種差海岸駅の向かいにある民宿石橋の夕食にちょうど間に合う時間でした。民宿石橋は、90代のほがらかな老婦人、石橋チサさんと、その娘の英子さん、孫の慶子さんが経営する小さな宿。客室は、美しい海の景色が楽しめる清潔で快適な畳の間です。石橋さんたちの温かいもてなしもさることながら、この宿の大きな魅力はなんといっても、食堂の共同テーブルでいただく、趣向を凝らした食事です。


夕食では、素材を活かした魚貝類をふんだんに使った料理が、惜しみなく並べられます。たとえば醤油で甘辛く煮たカレイ、ホタテのヒモとキュウリの酢の物、アンコウの供和え。ワサビがのったバフンウニのゴルフボール大のかたまりは甘くてクリーミー。英語では「海のパイナップル」と呼ばれる赤みがかったオレンジ色のホヤは、ついさっきまでそれがいたはずの海の味がします。最高に新鮮なホヤは、そのさわやかな塩味に病みつきになる人もいます。

「ウニとホヤは新鮮さが命。1日で味が変わってしまうんですよ」と石橋チサさんは教えてくれました。




朝5時、陸奥湊駅前の朝市は、がやがやとした活気に満ちています。第二次世界大戦の終戦とともに開かれて以来、イサバのカッチャ(魚を売る地元女性を意味する方言)たちが変わらず商売を営んできた市場。その露店を、編みかごを背負った小柄な老女たちが見てまわっています。わたしたちが朝ごはんにと買ったのは、甘い生ホタテと脂ののったえんがわ。これに、ごはんと漬物、みそ汁を付けて市場内に置かれたテーブルでいただきました。代金を支払うとき、イサバのカッチャが、 「ちょっとしたサービス」とウィンクしながら、明太子の皿を手渡してくれたのでした。

八戸港は、イカと脂ののったサバについては日本有数の水揚げ高を誇り、その他にもマグロ、ミズダコ、サメ、ウニ、ホタテ、ズワイガニなど、膨大な種類の魚介類を国内に供給しています。八戸市では、イタリア料理店「カーサ・デル・チーボ」を営む池見良平さんをはじめとする若いシェフたちが、地元の水産業を支えようと地域社会に働きかけています。


「最初から、八戸産の魚介類や農産物しか使わないと決めていました」と池見さん。地元生産者の助けなくしては、レストランは軌道に乗らなかったといいます。

2011年、池見さんがカーサ・デル・チーボの開店準備をしていた最中に、東日本大震災が東北地方を襲いました。漁船も大きな被害を受け、漁師たちはしばらくの間漁に出ることもままならず、地元の飲食店も魚の調達に苦心しました。しかし、八戸の漁師たちの努力により、カーサ・デル・チーボ開店の5月には、約束していた魚介類の納品ができるまでに復旧を果たしました。池見さんは今でも、彼らに感謝し続けています。

池見良平さんは、重さが12kg以上もある生きたオオダコで、得意料理のタコのテリーヌを作る。複数の技法を用い、注意深く料理することにより、テクスチャーのコントラストを強調している。

6年前に地元水産業界の有志によって立ち上げられた「八戸ハマリレーションプロジェクト」などの活動も、地域の特産品である魚介類を通して産業と消費者をつなげ、経済を活性化することを目指しています。同団体は毎年地元レストランが参加する八戸ブイヤベースフェスタを開催。八戸港に水揚げされる約600種類以上の魚介類から4種類以上を使い、各店舗のシェフのアイデアによって、このクラシックなフランス料理にオリジナルのひねりを加えます。

青森県南東部では、農業が漁業に次ぐ重要な産業。八戸市から車で20分程の距離にある南部町の丘陵地に広がる肥沃な沖積平野は、サクランボ、リンゴ、ニンニクの名産地。そして最近は若い農家たちが、郷土の伝統野菜である南部太ねぎと呼ばれる茎の太いねぎを復活させています。数百年前、このネギの青い上部は近隣の村から南部までの道順を示すちょっとした目印の役割を果たしていました。当時の南部は、収穫が不安定な作物が育つ、辺りで唯一の地域だったのです。普通のネギの1.5倍の糖分を含むため驚くほど甘味があるものの、南部太ねぎは育成が難しいことから商用栽培は約100年間中止されていました。

2012年、名久井農業高校の生徒たちとともに、この伝統野菜を復活させるプロジェクトに乗りだしたのが、「NPO法人青森なんぶの達者村」沼畑俊吉さん(写真中央)、根市大樹さん(写真左)、杉澤均和さん(写真右)の3人です。

沼畑さんと根市さんは、約30件の生産者から協力を得て地元でのアグリツーリズムを推進する「NPO法人青森なんぶの達者村」のリーダーも務めています。その目的のひとつは、文化エクスチェンジ。同団体は、ヨーロッパから農家を招いたり、インドネシアなど外国の生産者を訪問する旅行も主催しています。

「作物の栽培や収穫に参加できるファームステイを年中実施しています。華道、陶芸、蕎麦打ちなどの文化体験もできるんですよ」と根市さん。

現在30代の根市さんは、2011年の東日本大震災後に、ジャーナリズムのキャリアを捨て、農業で暮らす生活へと転身。「農業は僕らのルーツでもあるんです」と語る根市さんは、農業を「地域復興」のひとつの方法であると同時に、先祖から受け継いだ遺産と再びつながることでもあると考えたのです。

南部太ねぎ復活プロジェクトのミッションには、次世代農家の育成も含まれる。最初の高校生参加者のひとり、沖田皓基さんは現在、大学で農学と経済学を学習中。卒業後は大企業で仕事の経験を積む予定だが、「10年後には自分の農場を立ち上げたい」と語る。

地震と津波による壊滅的な被害があったにもかかわらず、この出来事は食料生産と地域社会との接点をさらに浮き彫りにしました。その結果、新世代のシェフと生産者が協力して地域を強化することに価値を見出すケースが、全般に増えてきています。

「農風kitchen Yui」シェフの根市拓実さん(左)と友人で生産者の木村宏太郎さん(右)


農家である根市大樹さんの弟でシェフの根市拓実さんは、八戸市の中心地にあるフランス料理店「農風kitchen Yui」で地元産の果物や野菜を使い、顧客にその素晴らしさを伝えています。メニューを固定させず、その日に入手した食材をベースに料理を決めている拓実シェフ。
「そのほうが難しいですが、よりクリエイティブになる訓練にもなるんです」と語ります。

根市拓実シェフのシグニチャーディッシュのひとつは、野菜のプレート。地元産野菜と、摘んできた野草のカラフルな盛り合わせだ。シェフの巧みな手さばきが、食材の味を輝かせている。

農風kitchen Yuiを訪問したとき、農家をやっている拓実さんの友人、木村宏太郎さんが、シーズン最後のイチゴが入った大きな木箱を抱えてふいに登場。ルビーレッド色のイチゴからは、キャンディのような甘い芳香がしました。 「シャーベットかソースにしようかな…」と拓実さんは、イチゴをひとつ口にほうりこんで思案していたのでした。

魅力的だけれど一風変わった「インド食堂かふぇぴこてぃり」では、独学で料理を覚えたシェフ、羽田修さんが、地元の農産物を使ったインド料理を作っています。

それは、日本で食べたなかでも最高レベルにおいしいインド料理でした。2011年の東日本大震災後のチャリティー・イベントでカレーを料理したことが、料理人としてのスタートとなった羽田さん。地元食材しか使わないというこだわりが、地域住民としての誇りの源になっています。サグ・トウフの材料であるホウレンソウと厚揚げから、アルゴビに使うカリフラワーとジャガイモまで、ほぼすべてが八戸とその周辺の産品。目玉食材は、市の南部にある南郷地区の南風農園でとれた信じられないくらい甘いニンジンとタマネギです。

南風農園は、水野浩司さんと美香さんが夫婦で運営。浩司さんは、ワーキングホリデービザでオーストラリアのホストファミリーの所へ滞在後、農作業のアルバイトでファームステイを体験し、人生が変わりました。オーストラリア大陸の自然の美、土地の雄大さ、汗を流して働く気持ちよさに目覚め、農家になろうと決心したのです。

茨城県で有機農業に従事していましたが、八戸にある美香さんの祖父母の農地で農業をしないかという話が舞い込みました。浩司さんは、そのチャンスに飛び付いたのです。

「地元農家の方たちが受け入れてくださり、色々と助けてくださいました。ここは僕にとって特別な場所です」と浩司さんは、畝が何本も並ぶニンジン畑を感慨深くながめながら語っていました。

Column1: 八戸酒造

青森は、澄んだ湧水が豊富に出ることもあり、酒処として有名です。1775年創業の八戸酒造は、専務の駒井秀介さんと、その弟で醸造責任者の伸介さんを中心にした家族経営企業。同酒蔵では、クラシックで辛口の「陸奥男山」や、繊細な香りとテクスチャーのモダンなシリーズ「陸奥八仙」といった代表銘柄に、自然農法米など青森県産の米と酵母を使っています。



「当初、陸奥八仙は、海鮮がおいしいことで知られる地元の料理に合うように作っていました」と駒井秀介さん。「でも、さまざまな料理と一緒に楽しめるよう、商品の種類を広げているんです」



八戸酒造 専務 駒井秀介さん

訪問客は、歴史のある煉瓦造りの倉庫や木造の本館を巡る試飲付きツアーに参加することもできます。建物はコンサートなどのイベントに使われることもあり、特別な祭事のときには醸造所の敷地が一般開放されます。



Column2:貝守やまゆり会

貝守やまゆり会 代表 中澤幸子さん(左) と 会員 和田良子さん(右)

廃校となった貝守小学校跡地に、食品加工所や木材加工施設、集会所として地域活動の拠点となるウッドロフト貝守が建てられました。「貝守やまゆり会」は、毎朝4時にそこに集合し、八戸市とその周辺で販売されるよもぎもちや酒まんじゅうなどを調理します。

和田良子さんがかき混ぜているのは、湯気が立つ凍み豆腐(自然に凍結乾燥させた豆腐)入り味噌汁の10リットル鍋と、タラと寒干し大根(自然に凍結乾燥させた大根)を使った栄養たっぷりの煮もの。



保存食は、青森の食文化において重要な役割を果たしてきました。貝守やまゆり会の婦人たちは毎年、すべての材料を糸に通し、屋外に吊るすという昔ながらの方法で凍み豆腐と寒干し大根を作ります。豆腐や大根に含まれる水分は、夜間に凍ります。日中、それがしずくとなってゆっくりと溶けだし、食材の味わいが濃縮されるのです。



Data
◎ 種差海岸 民宿 石橋


青森県八戸市鮫町棚久保14-12
☎ 0178-38-2221
http://www.heronet.ne.jp/~ishibashi/index.html

◎ 陸奥湊駅前朝市


青森県八戸市JR八戸線 陸奥湊駅前
月~土 午前3:00~正午 ※朝ごはんは5時頃~10時頃で終了
(日曜・第二土曜休 ※日曜日は館鼻岸壁朝市開催)
https://hachinohe-kanko.com/10stories/asaichi/mutsuminato-ekimae-asaichi
館鼻岸壁朝市
https://hachinohe-kanko.com/10stories/asaichi/tatehanaganpeki-asaichi

◎ イタリアンレストラン「Casa del Cibo カーサデルチーボ」


青森県八戸市湊高台1-19-6
☎ 0178-20-9646
http://www.casa-del-cibo.com/

◎ フレンチレストラン 農風Kitcen Yui(キッチンゆい)


青森県八戸市番町25 グレイス番町1F
☎ 0178-44-3035
https://tabelog.com/aomori/A0203/A020301/2006540/

◎ 南風農園


青森県八戸市南郷大森字片平山2-1
http://nanpufarm.com

◎ 八戸酒造


青森県八戸市大字湊町字本町9番地
☎ 0178-33-1171
http://www.mutsu8000.com/





本記事の取材・掲載は、復興庁 平成29年度「新しい東北」交流拡大モデル事業として実施しています。

本記事でご紹介している人々を自転車で巡り、地域の自然と食を存分に味わうグルメライドイベントを2017年10月14日に開催します!
詳しくはコチラ









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