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日本 [和歌山]


「サンペレグリノ ヤングシェフ」優勝者、和歌山へ。
和食の守り手たちと出会う旅 vol.1

Journal / JapanOct. 29, 2018

text by Saori Bada / photographs by Bungo Kimura


イタリア・ミラノのサンペレグリノ社が主催する国際料理コンクール「サンペレグリノ ヤングシェフ」で、第1回2015年に優勝したアイルランド出身のマーク・モリアティさんと、第2回2016年に優勝したアメリカ出身のミッチ・リーンハードさん。30歳以下のシェフコンペで世界一になった彼らが向かったのは、長い歴史と豊かな自然環境に恵まれた和歌山県。日本古来の食文化の源流を守る担い手達に会いに、現地を訪ねた。

ふっくら優しく、厳しく酸っぱい。白干しの紀州南高梅。


箱の中に整然と並ぶ、ふっくらと柔らかそうな淡いピンクベージュの大きな粒。手塩にかけて丁寧に作られた見事な紀州南高梅は、まるで和菓子のようにとても優しい佇まいだ。この柔和な見た目、白干し梅(塩のみで漬けた昔ながらの梅干)の本気の酸っぱさを味わったことがない外国の人には、ひょっとしたら淡い味を想像させるかもしれない。

料理の説明をする「うめあそびグループ」代表の東栄子さん、興味深く耳を傾けるミッチ(中)とマーク(右)。

和歌山県日高郡みなべ町は、400年もの長い梅栽培の歴史を持つ。この地で梅仕事を担う、「みっちゃんの梅」代表の二葉美智子さんと、「うめあそびグループ」代表の東栄子さんは、紀州南高梅をよく知る梅農家。と同時に、梅や梅酢、梅びしお、紫蘇の葉など、梅を使った料理上手として地元でも有名だ。ヤングシェフ2人がお昼時に訪ねるとあって、彼らのために紀州南高梅を使った様々な料理を準備してくれていた。


お膳に並んだのは、香り豊かで果実味たっぷりな梅ジュースに、梅びしおでアクセントをつけたじゃがいもコロッケ、梅酢を隠し味にしたから揚げ、紫蘇の葉で巻いた上品な香りと酸味の巻きずしに、梅干しと白米、黒米を炊き合わせたほんのり梅風味のごはんなど、心のこもった料理たち。味はもちろん、目にも楽しい梅料理の数々に、ミッチもマークも次々と味わいながら材料や作り方を細かく質問し、産地ならではの家庭料理を味わえたことが嬉しいと、覚えたての「おいしい」を繰り返しつぶやいていた。とくに和の食材に詳しいミッチは、以前自分で梅干しを作ろうとチャレンジしたが、上手くいかなかったから正しい作り方を知りたいと、梅と塩の割合や仕込みの手順などを教わっていた。




するとマークがさり気なく、目の前にあった南高梅の梅干しを上手に箸でつまみ、大きくがぶり。そして、想像以上の酸っぱさにたちまちびっくり顔に。見守っていた全員は驚いて心配すると同時に、その場が不思議な一体感に包まれた。それはきっと、本物の梅干しの酸っぱさを知る者同士の共感だ。昔ながらの梅干しは、きちんと酸っぱい。「酸っぱいけど、おいしい。完熟した梅の香りや旨味が感じられるから、鶏や鴨に合わせてみたい。料理のインスピレーションが湧いたよ」と、26歳の未来の巨匠は梅干しの味にインスパイアされた様子。これから始まる和歌山の旅、まだまだ驚きに満ちている。




400年の歴史を持つ紀州南高梅の産地、みなべ・田辺の梅システム。


ところで、紀州南高梅の梅林は、日高郡みなべ町・田辺市の地に根付く特殊な生態系の一部でもある。2015年にFAO(国連食糧農業機関)から世界農業遺産にも認定された、400年続く持続可能な里山なのだ。

梅林の中に立つと誰もが気づくのが、ここは傾斜のきつい山肌にあるということ。30度から40度近い場所も多い。土壌の水はけが良いのは、梅の成長に最適な反面、山全体で見ると土砂崩れなど山が荒れる原因にもなりやすい。
そこで、この一帯は昔から、紀州備長炭を生み出すウバメガシなどの薪炭林(しんたんりん)と梅林を存在させることで、山が健全な状態に保たれるように考えられてきた。遠くから見ると、薪炭林と梅林がパッチワークのように山肌を覆う。

薪炭林の木を切る際には、すべて伐採せずに、細い枝は残して後継樹を育てる「択伐(たくばつ)」を行う。薪炭林のおかげで森林の土壌は雨水を貯留しやすくなり、ゆるやかに川や海へ流れ出る。結果的に、雨水は山中で浄化されることになり、川や海の健康も保たれるというわけだ。

また、梅林の花の受粉は地域に生息するニホンミツバチが行うため、彼らの貴重な活動の場にもなっている。山のてっぺんから裾の海まで、生物多様性を抱き込みつつ環境全体が守り育てられているシステムは、世界的にも貴重な在り方だ。人間が環境を守る意識を持つことで里山が健全に保たれる上に、高品質な紀州備長炭や紀州南高梅、二ホンミツバチが集めた天然はちみつ、海産物なども得られる。人間が自然と共に生きる豊かなモデルが、和歌山県にはあるのだ。




◎ 紀州みなべ育ち みっちゃんの梅
和歌山県日高郡みなべ町東本庄1737-37
micchanume@gmail.com
http://www.micchannoume.jp/




300年の伝統と誇りを胸に、天然醸造を守る若き蔵人。

醤油造りの説明をする「堀河屋野村」18代目 野村圭佑さん(中)。

和食の調味料として欠かせない醤油だが、今では“Soy Sause”として世界的に認知度も高まり、海外のスーパーなどでも難なく手に入れられる時代。しかし、その醤油が実際にどのように造られているのか、古来からの伝統的な醤油造りとはどんなものか。それを知る人は、日本人でもそう多くない。

和歌山県御坊市には、1688年の創業以来、300年以上に渡って伝統的な造りを守り続けている醤油・味噌の醸造蔵「堀河屋野村」がある。18代目を継ぐ野村圭佑さんに、長い歴史が刻まれている蔵を案内していただいた。



ある味噌から生まれた醤油。


「堀河屋野村」から車で約15分、和歌山県由良町にある「興国寺」。この寺の開祖の僧が13世紀に宋に留学し、帰国後、宋で学んだ味噌造りを興国寺で伝え広めたとされる。修業先の寺の名を取り、「径山寺味噌(きんざんじみそ)」と呼んだ。本来の径山寺味噌は、米、大豆、大麦で作った麹に、茄子や紫蘇、生姜、瓜など塩漬けした夏野菜を刻んで和え、ゆっくり発酵させた味噌で、現在巷で目にする金山寺味噌とはかなり違う。紫蘇や生姜などが加わることで、味わいも風味も深く奥行きがある。
径山寺味噌を造る発酵の過程で生まれた上澄み液が、「堀河屋野村」の醤油造りの起源。当時の人達がおいしいと感じ、そこから独自の製法が生まれ、今に続いている。和歌山県は、日本の醤油が生まれたところと言われる。このような歴史ゆえ、「堀河屋野村」では、径山寺味噌と醤油の2つを大切に造り続ける。




丁寧に、頑なに。手間をかけて味を生む。


「堀河屋野村」の三ツ星醤油は、伝統的な製法「手麹」を頑なに守り、すべての工程を今も手作業で行う。そして、材料は当主が厳選したもののみを使う。大豆、小麦は全て北海道産。どの工程においても「食べてうまい」。これが代々「堀河屋野村」のポリシーだ。

ミッチとマークはさっそく野村さんの案内で、醤油造りの工程を教わった。丸大豆は水と共に三州釜と呼ばれる和釜に入れ、薪で熾した柔らかい火で、9時間かけて煮蒸しする。小麦は巨大な焙烙で竹箒を使って香ばしく煎る。これらを合わせたものに麹菌を付け、麹室で人の手で優しく空気を含ませ、50℃を越えないよう手の感覚を頼りに温度管理をしつつ、4日間をかけて麹を育てる。これを高さ3メートルはある年代物の巨大な木桶に移し、塩と水を加えて醪(もろみ)を作り、じっくり熟成させる。蔵人は、梯子を上って木桶の上から櫂を入れて醪を攪拌し、蔵に住み着く菌が醪に及ぼす働きを活性化させ、発酵・熟成を促す。そうしてふた夏ほど越し、いよいよ醪を搾って生揚げ(生の醤油)が生まれ、仕上げに和釜で4時間かけて火入れしたものが、江戸時代から続く三ツ星醤油となる。




蔵の中には100年以上も活躍する木桶が所狭しと並ぶ。どれも醪を発酵中で、独特の香りが広がる。その香りをマークは「イタリアのモデナで見学した、バルサミコ酢の蔵と同じだ」と言って喜んでいた。
醤油を味わうと、ミッチは「醤油は大好きで以前から使っているけど、これは香りも旨味も知っているものと全然違う。まろやかだけど力強い」と驚き、マークも「すべて手仕事で伝統を守って造られている様子は、まるで芸術品のよう。ぜひ自分もアイルランドの店で使いたい、どうしたら買えるの?」と、嬉しそうな表情で野村さんに質問していた。




◎ 三ツ星醤油 径山寺味噌 堀河屋野村
http://www.horikawaya.com/
644-0002 和歌山県御坊市薗743
tel0738-22-0063
fax 0738-22-9500
営業時間09:00~17:00




天然鮎の故郷、南紀熊野の古座川へ。

この日最後に訪ねたのは天然鮎の産地。世界広しといえども、鮎は日本の澄んだ清流にしかいない川魚だ。まずは鮎釣りの様子を見学するために、東牟婁郡の古座川へ向かった。

古座川漁業協同組合の代表理事 組合長でもある橋本尚視さんは、この道40年の鮎釣り師。ミッチとマークに鮎の生態や釣りのコツを教えてくれた。鮎は生きた鮎で釣る。だから、仕掛けの鮎がいかに自然な動きに見えるかを、竿でコントロールする。そこが難しい。また、水中の岩に生える苔を食べる鮎は、川の中に点在する岩にそれぞれが縄張り意識を働かせているから、それらを刺激するといいという。



橋本さんが川にずんずん入り、仕掛けを狙ったポイントにリリースすると、あっという間に鮎がヒット。釣ったばかりの天然鮎を見せてくれた。澄んだ川で育った鮎は、表面がつるつると光り輝いている。
特徴的なのが香りだ。苔を食べているから、鮎はキュウリのような爽やかな瓜の香りがするのだ。さあ、この鮎はどんな料理になるのだろう。



月の瀬温泉の天然鮎料理とジビエ料理。

古座川のそば、月の瀬温泉にある「ぼたん荘」の名物は、天然鮎など地元の食材を使った日本料理。旬を生かした四季折々の料理を目当てに遠方から客が訪れる。近年では熊野の山々で育った鹿などのジビエも人気だ。



猟師と肉を捌く職人がチームとなり、仕留めたジビエをたちまち最新鋭の施設「古座川ジビエ山の光工房」で処理する。施設は「ぼたん荘」の目と鼻の先という至近距離。だから、新鮮できめ細かな肉質でクセのない味わいを、料理人が新しい和食として提供できるのだ。



わかやまジビエ処理施設衛生管理認証制度は、より安全なジビエの提供と消費者のジビエに対する安心、信頼の確保を目的に、衛生管理ガイドラインの遵守、履歴管理システムの導入等の自主的な取組を評価し、認証する制度です。

「ぼたん荘」料理長の深海政也さんは古座川の隣町、串本町出身の41歳。地元を離れ、大きな料理旅館やホテルなどで日本料理の腕を磨き、20年のキャリアを持つ。長く故郷を離れたことで、改めて生まれ育った古座川の食材の素晴らしさに魅せられ、地元へ戻ることを決意。野菜、果物、肉、魚、米に酒に醤油に酢など、地産地消の旬を生かせる環境で、存分に腕を振るっている。今回は、世界一の若手シェフが来るということで、深海さんはとても緊張したそう。「古座川が誇る食材、特に天然鮎を様々な料理で楽しんでほしい」と、職人技が随所に光る日本料理で彼らをもてなした。



旬の野菜と鮎の白子のうるか和えや鮎ずし、鮎の洗いは南高梅の梅醤油で、鮎の塩焼き、鮎のから揚げ、鮎の干物としいたけでだしを取った鮎のおにぎり茶漬けと、どれも鮎を知る深海さんならではの日本料理。






なかでもみんなが驚いたのは、鮎のしゃぶしゃぶだ。昆布と鰹のだしに豆乳を加えて上品なコクを出し、これに天然鮎をしゃぶしゃぶしていただく。さらに身をそいだ残りを頭ごと豆乳だしに入れてスープにし、好みでおじやにもできるという贅沢。ミッチもマークも、あっという間にスープを飲み干していた。



ぼたん荘料理長の深海政也さん(中)。

食事が終わり、すべての料理を無事出し終えて少しリラックスした深海さんが顔を出すと、料理のお礼や感想を伝えながら、3人でがっちり握手。若手の料理人同士が刺激し合う、貴重な場になった。




◎ 月の瀬 ぼたん荘
http://www.botansou.jp/
649-4106 和歌山県東牟婁郡古座川町月野瀬881-1
tel0735-72-0376
fax0735-72-3666
チェックイン15:00/チェックアウト10:00




※国際料理コンクール「サンペレグリノ ヤングシェフ」とは
世界中の美食家に愛されるファインダイニングウォーター「サンペレグリノ」を世界150 カ国で販売しているサンペレグリノ社(ネスレグループ)が主催する、30 歳以下の若手料理人の世界一を決める国際料理コンクール。2015年から始まり、3回目となった今年は、シグネチャーディッシュ「Across the Sea」を創作した日本地区代表 藤尾康浩氏(ラシーム/大阪)が優勝した。ジャンルを問わず、料理の味わいはもちろん、素材選びの目や技術、プレゼンテーション力や美しさ、メッセージ性までが評価の対象になる。著名な料理人が審査員や指南役を務め、世界各国の次代を担う才能の発掘を業界全体で盛り上げていこうという試み。未来ある若い世代に開こうという試みは、今後ますます注目を集めるだろう。
https://www.nestle.co.jp/asset-library/documents/media/sanpellegrino-young-cheff.pdf











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