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クリエイター・インタビュー

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PEOPLE / CREATOR

柳家喬太郎(やなぎや・きょうたろう) 落語家

People / CreatorFeb. 17, 2016『料理通信』2015年2月号掲載

「蕎麦をすすってみてください」というカメラマンの要求に応じた時、扇子は箸に見え、そこには確かに蕎麦があった。
身ひとつで、語りだけで、聞き手を江戸へと連れて行く。
言葉に命を吹き込み、その力で見えないものを見せてくれる噺家の素顔に迫った。
text by Takeaki Kikuchi
photograph by Hiroaki Ishii
『料理通信』2015年2月号掲載

新作の作り方




インタビューの前に行なわれた写真撮影。扇子を箸の代わりにして蕎麦を手繰る仕草に、思わず見とれてしまった。
「この仕草にもセオリーはあるんです。でも、その通りやったとしても、蕎麦を食べてるようには見えない。やっぱり見て覚えるものなんですね。芸を盗むと言いますけど、それですね


落語で蕎麦を食べる演目といえば、「時そば」が有名。柳家喬太郎さんはその古典落語を見事に演じるが、本題に入る前のまくらから面白く、客は爆笑してしまう。「コロッケそば」とも呼ばれるまくらは、もちろんオリジナル。喬太郎さんの魅力は、古典で唸らせる上に創作落語にも精力的に取り組んでいるところだ。昨年も五席の新作を披露した。「話を創るといっても、作家さんみたいに机の前に座って書くというわけではないので。僕は新作でも、台本を作りません。メモ書きで、高座で喋りながら作っていく感じ。流れと落ちは決めておきますけど、細かいやりとりはほぼ高座でということが多いです」 そう説明しながら即興で、夫婦の何げない会話を演じ始めた。あたかも本物の夫婦が話しているように、自然に進んでいく。この調子で、高座上で落語が完成していくのだとか。
会話の中で使う言葉には、こだわりがある。たとえば若い女性を演じる時でも、ラ抜き言葉は使わずに工夫を凝らす。「食べれない」という言い方はしたくないが、「食べられない」と言っては今やリアリティーがない。そこで「食べらんない」とする。

元は書店員だった





さて、ネタはどうやって探しているのか?
「人間観察とか、街の中をよく見る・・・・・・なんて、別にしませんね。無趣味のお父さんの休日みたいな過ごし方をしています。パチンコ行って煙草臭くなって帰ってきて怒られたとか、かみさんに言われて買い物に行ってきたとか。全然クリエイターじゃないですよ。その普通の生活の中でも、引っかかってくるものがあるじゃないですか、僕の中で。それを引き出しに溜め込み、必要に迫られた時に引き出しを開けるんです」
取材中、何度も自分のことを「普通」「クリエイターではない」と強調する喬太郎さんは、サラリーマン経験もある。大学時代に落語研究会に所属し、関東大会と全国大会で優勝。周囲はプロになるだろうと期待したようだが、福家書店に入社して銀座店で雑誌と実用書を担当した。
「噺家はあやふやな仕事だし、お給料もらえるわけじゃないでしょう。僕は、そういう世界に飛び込んでいこうというアクティブな人ではない。もともと書店員になりたかったですし、将来的には自分の本屋さんを持ちたいという夢を持っていました。会社では上司や先輩に恵まれまして、今でもお会いしている方もいます。だけど・・・・・・死ぬ時には噺家で死にたいという気持ちが高まっていって。噺家で駄目でも書店員に戻れるじゃないですか、うちの会社は無理でも。一度しかない人生なんだから、やってみたいと思ったんです」

お母さんの料理





25歳で柳家さん喬さんに入門し、25年間走り続けてきた。改めて、上手いアマチュアと本職の落語家との違いを感じるという。春風亭昇太さんは両者を「上手い素人はお父さんの料理、プロはお母さんの料理」と喩えたそうだ。喬太郎さんもそれに賛同する。お父さんは月に1回くらい、最高の食材を買ってきて朝から腕を振るって素晴らしい料理を並べる。それに対してお母さんは毎日冷蔵庫の中を見て、ある材料で作り、家族を満足させる。
プロは毎日、難しい条件の下でお客を満足させないといけない。寄席で何を演じるかは、当日の楽屋で決めるそうだ。まずは楽屋に入ってネタ帳を見る。前座に、客はどんな話に反応していたか、古典を聞きたがっている感じか、それとも新作を聞きたがっていそうかなどを尋ねる。さらにトリに向かって流れを作るべく、後の落語家の顔ぶれも考慮。その上で高座に上がり、客の顔を見てアタリをつけて話し出す。
昨年、落語協会の理事に就任した。古典芸能をより広めるべく、敷居を下げたいと語る。
「落語は芸術ではなく、芸能です。お客さんが『江戸時代のことについて知識がないからわからなかった』というのでは、芸能としては駄目。『わからなくても楽しめた』と思ってもらえるのが、僕らの仕事です」
余談だが、書店員時代の職業病で、今でも本屋に入ると乱れた棚を直したい衝動にかられるそうだ。なぜ文庫本のワ行に松本清張の著作が1冊だけあるのか。雑誌は斜めに立てると傷むからまっすぐに立てないといけない・・・・・・。気になり出すと体が動いてしまうので、ある時期から本屋に入るのを止めた。仕事を愛する喬太郎さんらしいエピソードだ。

柳家喬太郎(やなぎや・きょうたろう)
1963年東京都生まれ。中学3年の頃から、友達の影響で落語に興味を持つ。日本大学で落研に入部。「砧家駄楽」の名で関東大会、全国大会で優勝を果たす。福家書店勤務を経て、1989年10月に柳家さん喬に入門。同年12月、新宿末広亭で初高座(演目は「道灌」)。
2000年3月に12人抜きで真打昇進。師匠譲りの話芸を基調とした古典落語、「夜の慣用句」「午後の保健室」など独創性の高い創作落語の両方に長け、2009年発売の『今おもしろい落語家ベスト50』(文藝春秋刊)で堂々の1位にランクされた。ウルトラマンシリーズの熱狂的なファンで、「抜けガヴァドン」という創作落語もある。出囃子は「まかしょ」。

本記事は、「EATING WITH CREATIVITY」をキャッチフレーズとする雑誌『料理通信』において、各界の第一線で活躍するクリエイターを取材した連載「クリエイター・インタビュー」からご紹介しています。テーマは「トップクリエイションには共通するものがある」。







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