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横田幸典さん(よこた・ゆきのり) 広島「ジビエヨコタ」

People / PioneerMar. 12, 2018『料理通信』2018年4月号掲載

東京・神田「the Blind Donkey」を訪れた時、ジェローム・ワーグシェフが捌く肉の美しさに思わず息を飲んだ。
鮮烈な色彩を放つ赤身に、さくりさくりと包丁が入っていく。
聞けば、広島の「ジビエヨコタ」から送られてきたイノシシで、捕獲後4週間を経過しているという。
こんな美しいイノシシを送ってくる「ジビエヨコタ」とはいったいどんな仕事をしているのか?
text by Sawako Kimijima




猟師肉からの脱却。

ジビエの評価基準はどこにあるのか? 考えてみればいまひとつ曖昧かもしれない。
飼育肉ではないから規格がなくて当たり前、状態の良し悪しも「野生だから」の一言で済まされがちだ。季節や入手が限られて経験値が上がらないため料理人も食べ手も"良いジビエ、悪いジビエ"のイメージを描きにくい。良くも悪くも自然の恵みとして受け入れてきた部分は否定できない。
「ジビエヨコタ」の横田幸典さんには、良いジビエの明確なイメージがある。
11月15日~2月15日の猟期中に出荷するイノシシの数、約20頭。キジやマガモ、カルガモが約150羽。もっとたくさん獲れているのだが、肉付きや肉質に納得がいかず、出荷を見送ることが少なくない。それというのも横田さんは、猟師肉からの脱却を目指すからだ。
理想の肉へと導く仕事
自社ビル内に食肉処理施設を設け、「ジビエヨコタ」の名で狩猟肉販売を本格化したのが2011年。以来、獲った肉を理想の肉へと導く試行錯誤を続けてきた。
「料理人が肉を脱水シートに包んで置いておくのを見たのがきっかけでした」
新鮮だからおいしいわけじゃない。では、何をすればおいしくなるのか。横田さんは探求し始める。狩猟肉の処理の仕方を調べてみると、ハンターによってまちまちで確立されたものがない。そのやり方が正しいのか検証されることなく慣習で行われているケースが多かった。

「猟師肉ですよね。狩猟の免許はあっても、肉のプロではない」猟師は猟師のやり方で肉を捌き、料理人は決して多いとは言えないジビエ経験の上に立って調理する。そこには、肉質を見極め、精度を上げる、いわば肉屋の存在がない。
"ジビエ=硬い、臭い"という先入観を持たれてきたのは、猟師肉のまま出回っていたせいではないか。そう感じた。
「肉である以上、肉屋の知識や技術を持ったほうがいい」

横田さんは、自分が獲ったジビエの質を上げるため精力的に勉強する。広島食肉市場を訪ねて適切な食肉処理法を学び、ドライエイジングビーフで知られる「さの萬」開催のセミナーで熟成に関する知識を深めた。並行して、どんな環境にどのくらいの期間置いておくと、味や匂いが変わるのか、実験を繰り返す。
「見えてきたのは、雑菌を排除することの重要性でした。短い毛がたった1本付着しただけで、そこから腐敗が始まる」
そうしてたどり着いたのが次の方法だ。

イノシシの場合、
1 箱罠で獲り、エアライフルで眉間を撃って脳死させる。大動脈にナイフを刺して放血。
2 鼻先を落として〝血の道〞を作り、逆さ吊り。血を出し切る。
3 高圧洗浄ノズルで全身にくまなく水流を当てて洗う。
4 内臓(肛門から舌まで)を取り出し、肋骨の内側も洗い流し、アルコール消毒。
5 0℃の冷蔵庫に逆さ吊りして約3週間。
6 皮を剥いで出荷。


一番のポイントは全身洗浄である。皮膚の表面と毛の1本1本を洗い流すかのようにジェット水流を当て、潜む雑菌を取り除く。足の裏まで、蹄の隙間まで、徹底的に。
ここまでを内臓腐敗が始まる前に行った後、雑菌が繁殖しにくい環境下に逆さ吊り。

0℃の冷蔵庫に3週間ほど逆さ吊りしておく間に、リンパ液なども排出されて余計な水分が抜け、肉は熟成されていく。毛皮を付けた状態ではあるけれど、「精肉業の人々が"枯らし"と呼ぶ工程に近いのではないか」と横田さんは言う。
一方、鳥の場合は、散弾銃で撃ち落とした後、お尻から腸を取り出し、そこへノズルを突っ込んで水で内部を洗い流す。その後、0℃の恒温恒湿冷蔵庫内に吊るす。
Photograph by Tsunenori Yamashita
東京・神田「the Blind Donkey」で。「ジビエヨコタ」のイノシシを捌くジェロームシェフ。モモは炭火でグリルし、他の部位は赤ワイン煮込みに。ひと言で言えば“きれいな味”。軽やかにしてコクのある旨味。ヘーゼルナッツを思わせる風味がある。煮込みも軽快な味わい。




箱罠で獲る理由
猪を捕獲してから出荷するまでの約3週間という期間は、繰り返し繰り返し自ら食べて導き出した。
「取り組み始めた当初は10日の壁が越えられなかった。10日間過ぎると、匂いが出たり、肉が劣化するんです。捕獲後の処置の精度が上がるにつれ、2週間、3週間と保存期間が延びた。でも、40日を過ぎた途端、状態は良くとも味が抜ける。40日を境にスコンと抜ける」
横田さんはイノシシを半身か1頭で販売する。店の規模にもよるが、使い切るのに約1週間と見て逆算しての3週間なのだ。

捕獲後の手間と時間のかけ方が並大抵でないが、実は捕獲の仕方から肉質の探求は始まっていて、横田さんは箱罠で獲った猪しか扱わない。犬で追った猪は撃つ直前に走り回って体温が上がってしまうし、括り罠に掛かった猪は罠を外そうと暴れて脚を損傷したり体力を消耗しやすいからだ。「いずれも肉質が落ちる原因になる」。その点、箱罠にかかると、「半ば諦めるのか、罠の中で寝ていることが多いんです」。

3人の罠師と連携して、「掛かった!」との連絡を受けると駆けつけ、自らエアライフルで眉間を撃ち、脳死させる。間髪入れずに罠から出して、心臓が動いているうちに放血して「横田基地」(自らの食肉処理施設を横田さんはこう呼ぶ)へ運ぶ。
「内臓腐敗が始まる前に処置を終えなければならないため、箱罠は基地から車で30分以内の場所と決めています」
鳥にはハンター、猪には肉屋として
釣りが趣味だ。海外まで出向いて行って釣るほどの釣り好きである。
「魚の締め方とその考え方がジビエにも活かされました」
本業は親の代からの建設業だが、日曜ハンターの父親に連れられて、子供の頃より狩猟の現場を体験していた。「仕留めた猪を放血する際、猪の脚を持たされたものです」。釣りやバイクツーリングにはまって、自分が銃を持ったのは意外に遅く、36歳の時。どちらかと言えば犬との共同作業の鳥猟に惹かれてのことだった。今もブリタニースパニエル2頭、イングリッシュセター、イングリッシュポインターを1頭ずつ飼い、仲間と共に鳥猟に出向く。

「鳥にはハンターとして、猪には肉屋として向き合っているように思います」
猪にせよ鳥にせよ目指すのは「クリアな味」。害獣駆除の点からも今後、狩猟肉は広まるだろうが、「おいしくなければ真の意味での浸透はない」と横田さんは考える。
「野生だから」を言い訳にしない、「野生だから」を武器にする仕事をこれからも突き詰めていくつもりだ。


◎ ジビエヨコタ
広島県広島市中区東平塚町12-20
☎ 082-246-1975
www.gibieryokota.com/

横田幸典(よこた・ゆきのり)
1967年、広島県生まれ。ハンターの父親に連れられて小学生の頃から狩猟の現場を体験し、高校生で猪の捌き方をマスターする。釣りやバイクツーリングに熱心なあまり、狩猟免許の取得は遅くて36歳。愛犬家でもあり、猟犬による猟に興味を持ってのことだった。2011年から「ジビエヨコタ」として本格的に狩猟肉の販売に取り組む。





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