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荒井康成さん(あらい・やすなり) 料理道具コンサルタント
第3話「できることは何でもやる」(全5話)

People / PioneerMar. 28, 2016

魅力と欠点は表裏一体





海外のブランドをゼロから広めていくことは、容易ではないはずです。
それが料理道具のように、日常生活に密着したものであれば、なおさら。本当の意味で暮らしに取り入れてもらうには、文化や習慣の違いを越える、様々な仕掛けが必要です。
荒井さんは、エミール・アンリの営業リーダーを務めた11年間、あらゆることを試しながら、その壁を越えていきました。

エミール・アンリの場合、最初のネックになったのは、その色。
日本の食器にはないビビッドな色使いは、大きな魅力でありながら、「日本の食卓には馴染まない」と百貨店のバイヤーに冷たくあしらわれました。
しかも、「分厚くて、重い」。
photograph by Masahiro Goda




photograph by Yasunari Arai




さらにもう一つ、エミール・アンリの特徴は、耐熱性や熱伝導性、保温力に優れているため、加熱調理に使い、そのままテーブルにのせることが可能な点にあります。
器でありながら、道具でもある。
当時の百貨店は、食器売り場と道具売り場が完全に分断されていたため、エミール・アンリはあやふやなポジションに立たされてしまったのです。

荒井さんはそうした厳しい反応に対し、根気強く説得を続けました。
鮮やかな色は、食材の色をヒントにしているということ。
確かに分厚くて重いけれど、急激な温度変化に強く、しかも割れたり欠けたりしにくい性質があること。
熱伝導の良さや保温力の高さを販売員に実感してもらうため、百貨店の朝礼にオーブンを持ち込んでプレゼンをすることもしばしばでした。
photograph by Yasunari Arai






器と道具は文化そのもの





半年後には産地研修の機会に恵まれます。

ブルゴーニュ地方マルシニは、住民の4割がエミール・アンリ社に携わっている製陶の町。荒井さんが泊っていた民宿で使われる器も、すべて同社のものでした。
工場では職人たちの仕事を、町ではエミール・アンリと共に生きる人々の暮らしを目の当たりにしながら、滞在すること1週間。

「器は、料理をのせるためのもの。料理と器(道具)は、切っても切り離せない関係にあると、改めて感じました」。

その気づきは、荒井さんに「日本と欧米での台所環境や食文化の違い」という、越えるべき新たな壁を提示しました。

マルシニの民宿では、オーブンでの加熱調理が中心でした。一方、日本では、電子レンジはあっても、オーブンはまだまだ遠い存在。せいぜい、冬にグラタンを作るくらいでした。
耐熱性に優れ、オーブン料理に強いエミール・アンリの魅力を発信するには、その溝を埋める必要があることに思い至るのです。


荒井さん流営業の3つの法則





さて、ここからが荒井さんの本領発揮。
着任当初5店もなかった取引先を、1年半後には、120店にまで増やすのですが、そこには大きく3つの要因がありました。
1 固定観念やこれまでの常識に囚われない⇒業界の垣根を越える
2 視野を広く持つ⇒関連分野を研究する
3 制約をバネにする⇒手足を動かす


業界の垣根を越える





荒井さんは、試しに「アッサンブラージュ」の店頭で、発売されたばかりの「デロンギ」の小型コンベクションオーブンをセットで販売してみることにしました。家電なら家電、器なら器と縦割りでの販売が一般的だった当時、それは新しい挑戦でした。
結果は見事、大当たり。双方の売れ行きが順調に伸びたのです。

これを弾みに、荒井さんは「エミール・アンリとデロンギの協賛で、オーブン料理のレシピ本を出さないか」と文化出版局にオファー。簡単で日常的に、季節昼夜を問わずオーブン料理を楽しみましょうというコンセプトで、出版までこぎつけます。
photograph by Yasunari Arai
『上野万梨子のオーブン料理―オーブンがなければはじまらないクッキングブック』(文化出版局)。オーブンを使うと料理の幅が広がること、朝昼晩のごはんにも、ごちそう料理を作るにも便利なことを伝える一冊に。




業界の垣根を越えた異例の販売展開は、同業者の間でも話題に。
「それまでは、エミール・アンリ単品で売ることばかりを考えていましたが、商品の性質上、ライフスタイルそのものを提案していくのが効果的だと気づいたのです」。


関連分野を研究する





ところで、数ある出版社の中で、なぜ文化出版局だったのでしょう?
「価格的にも、ビジュアルや機能の面でも、誰にでも売れる商品ではありませんから、まずは強くPRする層を絞り込む必要があると感じていました。
そこで、どんな書籍や雑誌の読者とエミール・アンリが結びつくか、マーケティングを兼ねて研究を重ねていたんです。
その中で、ストロボではなく自然光を生かしたり、真上から撮影するなど、これまでにないテイストの料理写真をいち早く誌面にのせはじめたのが、文化出版局だったように思います」

闇雲に当たって砕けるのではなく、研究を重ね、照準を絞り込んで狙い打ち。
遠回りのようで、実はとても効率的な営業方法なのかもしれません。

また荒井さんは、「色」の効果についても、図書館に通って勉強しました。
カラフルなバリエーションが目を引くエミール・アンリですが、「実はいろんな色をバラバラに並べると、印象が良くありません。虹色の並べ方にしたり、暖色系を端の目立つところに置いたり、組み合わせのよい2色展開で並べるなど、購買意欲を刺激するための法則があるんです」。
実際、並べ方を変えるだけで、売り上げが伸びた店舗がいくつもあると言います。
photograph by Yasunari Arai
荒井さんによるディスプレイ。棚ごとに色が絞り込まれ、飾っている小物も鍋や器の色合いに合わせてある。


手足を動かす





順風満帆に見えた営業活動ですが、伸び悩んだ時期もありました。店頭に置いてはもらえるけれど、なかなか売れない。
そこで始めたのが、販売店の全国行脚。120店舗、大きな百貨店から小さな専門店まで隈なく出向き、ディスプレイの仕方や売り方をレクチャーして周りました。
まさに、足で稼ぐ、営業の鑑!

さらに、販促用の資料やカタログ、ポスターもすべて自前で作りました。エミール・アンリの器に食材や料理(もちろん自家製)をのせ、自宅で撮影。原稿やキャッチコピーも自分で考え、デザインまですべて一人でこなしました。
「とにかく予算がなかったんです。でもそれがバネになりました」


子供を育てる思い





できることは何でもやる、が荒井さんの営業スタイル。その原動力となったのは、ひとえにエミール・アンリに対する愛情でした。
「自分の子供みたいなものでした。売ってくれれば、買ってくれれば誰でもいいわけじゃない。この子はこういう性格だから、こんなふうに面倒みてほしい。大事にしてもらえる預け先を探していたように思います」。

(次の記事へ)


荒井康成(あらい・やすなり)
1968年東京都杉並区生まれ。幼少期より海外の生活雑貨に憧れて育つ。南海通商(株)に入社し、11年に渡りフランス耐熱陶器メーカー「エミール・アンリ」のブランドを日本で育てる。
2010年、料理道具コンサルタントとして独立、料理道具の本を出版。各媒体の料理道具特集記事での編集やコラム、イベントやセミナー、スクールでの講師を務める。







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