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PEOPLE / 食の世界のスペシャリスト

佐藤英之さん(さとう・ひでゆき)地産品加工スペシャリスト

第4話「都市生活者の視点」(全5話)

2016.09.01

どこで勝うか

売るチャンス(場所)で悩んだことはない、という佐藤さん。「でも、いつも売る現場で悩むんです」。
売る現場というのは、これまでは多くが百貨店の「九州展」。その一角の大分コーナーにブースを構えて販売します。
「から揚げや鶏めしなど、大分を代表する商品と売り上げを競うのは、相当厳しいですよ。その中でも、何とか生き残る方法があるのでは?ともがいてきました」。
しかし最近、「そうじゃないだろう」と思い始めました。ずっと想いを込めてきた商品を広める舞台は、ここではない、と。

「それは、自然食品店や、ベジフードフェスタ、ファーマーズマーケットなど、喜多屋の商品を必要としてくれる、ベジタリアンを中心とした人たちが集まる場所。





Text by Kyoko Kita




彼らの需要を正確に捉えて、もっと寄り添っていくことが大切だろうと」。

特産品ではない





佐藤さんは商品開発の段階から、「都会の消費者」をターゲットに考えてきました。
「地元の食材を使って特産品を作ろうとしている人は、周りにたくさんいました。
彼らとお客さんの取り合いをしたくなかったんです。
だから、これまでの経験や自分ならではの視点を生かして、違う土俵で勝負しようと」。

佐藤さんの故郷は東京。
東京の人が求める味、手に取りたくなるパッケージ、売り場の雰囲気は、周囲の誰よりもよく知っていました。
ならば、地方土産や特産品ではなく、都市生活者の日常に馴染む商品を作ろうと考えます。

売り場を想像する





ヘルシー&ライト志向が堅調な都市部の消費者を意識し、海外展開も視野に、原材料を植物性素材のみにしました。
「今後もそのマーケットが縮小することはないという確信があります。
どうせ手作りで少量しか作れないのであれば、思い切ってターゲットを絞り込もうと」。

パッケージも田舎らしさを廃し、ピンクや紫、黄色、緑、青などカラフルな色を使いポップに仕上げました。
「食品パッケージのセオリーから外れて、クレヨンのような雑貨をイメージしました。目指したのは、ディーン&デルーカや新宿伊勢丹の地下に並べても違和感のないパッケージ」。

プラスアルファの個性





東京など都市で仕事が入った際は、食料品に限らず、化粧品や雑貨など、時間を見つけてはいろいろな売り場を見て回ります。
「これほどあらゆるものが、あらゆる地方から出尽くした感じのある商品群の中で、他とは違う特徴を出し、選択してもらえるようなモノづくりをすることは簡単ではありません。
竹田の野菜は確かに素晴らしいけれど、他の地域でも似たようなものがとれないわけではない。
竹田の野菜を主役にしつつも、プラスアルファ、他にないアイデアを入れ込まなくては」。

「和TaRu」には、ピクルスの代わりに切干大根の漬物を、「マイルド チリソース アロイイ」には、ナンプラーの代わりに大分特産の原木椎茸の戻し汁を使い、フレンチドレッシングの「カケベジ」には竹田特産のサフランの色と香りを加えました。

ブランドコンセプトはきっちりと守りつつ、味の構成にもひとひねり。
その上、「きちんと着地した完成度の高い味」(『料理通信』第3回全国お宝食材コンテストでの評価)に落とし込むさじ加減は、一つのセンスと言うしかないかもしれません。

攻めに転じる





今年(2014年)に入り、要冷蔵だったのを、常温保存が可能なパッケージに変更しました。それに伴い、専用の充填機がある隣町の加工場に製造を委託。
「フレッシュ感を出すのに『要冷蔵で賞味期限3カ月』というのも悪くないと思っていたんです。
けれど、常温化することで販売の可能性が広がりました。
まず、製造から手が離れたことで、新しい売り場を積極的に開拓する時間がとれるようになりました。それに、屋外での販売が可能になったので、ファーマーズマーケットのように、ターゲットとなる人と直接会える屋外の売り場に出て行ける。海外への展開も考えやすくなりました」。

自分が動くことから





喜多屋復活プロジェクトは、竹田の活性化と切っても切り離せないと気づいて6年。
「今はまだ、もがいている最中。地域全体のことを考える余裕は、正直ないんですけどね」。

かつては、地域活性イベントを企画しようとしたこともありました。けれど、“よそ者”が提案しても、なかなか話は通らないことを痛感したそうです。
ならば、と思い直した佐藤さん。
「自分が動いて成果を出すことで、追随する人が出てきたらいいですね。
ボランティアで参加する地域活性ではなく、商売として儲かりそうだからやってみる。結果的にそれが地域全体の活性化に繋がる、という。その方が持続性もあると思うんです」。
竹田に限らず、各地で同じような試みをしている人と少しずつ繋がっていければ、そこでまた何かの動きが生まれるのでは、とも。

道半ば。
東京と竹田、2つの故郷を又にかけ、今日もせっせと手を動かし、足を動かします。




佐藤英之(さとう・ひでゆき)
1974年、東京生まれ。広告代理店、大学生協での勤務を経て、西表島に移住。ホテル業に就いた後、カヌーのネイチャーガイドの会社を起業する。2005年、大分県竹田で、江戸時代には武家宿、明治以降は郵便電信事業などで町の中心的役割を担ってきた父方の実家「喜多屋」の相続を決意し、移住。農業地域である竹田の魅力を発信するため、地元の食材に付加価値を付けて加工品を製造・販売。竹田の活性化を目指す。

























































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