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吉岡知子さん(よしおか・ともこ) オカズデザイン
第2話「料理で人とつながる」(全5話)

People / PioneerMar. 17, 2016

迷いから抜け出すきっかけ





おいしいものが好き。人をもてなすのが好き。
でも、料理人やサービスマンになりたいわけじゃない。
だから、調理師学校に行ったり、どこかの店で何年も修業をするのは、ちょっと違う。
カフェをやる?
  でも、自分の店を持つなんて、あまり現実味がない。
じゃ、何をする? 何になる?

食の仕事に就きたい。
漠然とそう思っている、日本中の若者の頭の中から聞こえてきそうな、こんなつぶやき。吉岡知子さんも、20代~30代前半にかけて、似たような自問自答を繰り返していました。

では、その迷いから抜け出す糸口は、何だったのでしょう。
吉岡さんが一つ挙げるのが、「人とのつながり」です。
Photograph by Tsunenori Yamashita




人は何を考えて生きているか?





大学卒業後は、喫茶を併設した日本茶専門店に就職しました。ただおいしい日本茶を販売するだけでなく、季節のお菓子、茶器、花、空間、もてなしの心をトータルで提供するお店でした。そこでの接客の仕事は学ぶことが多く、とても充実していたそうです。
でも、「苦しくなってしまったんです。素晴らしいものを提供しているという誇りがある、知識もそれなりに身につきました。けれど、実際にお客様に向かって伝える言葉が、私自身のものではないような気がして」。
自分の「浅さ」を思い知ったと、振り返ります。

就職してから9年、生活の9割が仕事でした。壁にぶち当たり、自分の仕事について、生き方そのものについて悩んだ吉岡さんは、人と会うことを始めました。古い友達と連絡を取り、その友達の、全く知らない世界で働く人とも食事をしました。

人が何を考え、何を大事にしているか?
自己啓発本よりもリアルな声を聞きたかった。
どうやってこれからの自分の人生を形作っていくべきか、そのヒントが欲しかった。

そんな中で、夫となる秀治さんと出会います。一度全てリセットしようと、結婚を機に退職。グラフィックデザイナーとして独立したての夫の手伝いに専念することにしました。順番にやりたいことを実現すればいい。自分のことは、彼の仕事が軌道に乗ったらまた考えよう。とりあえず、手に職をつけるかと、パン屋でアルバイトをしてみたり、簿記の試験を受けてみたり……。ちょっとしたモラトリアムでした。

しかし実は、この頃、現在に繋がる最初の一歩を踏み出していました。

1. クライアントを自宅に招き、食事やお茶をふるまう⇒料理で価値観を伝える
2. コーポラティブハウスの住人に、夕食をケータリングする⇒料理でお金をもらう

まさか、それが先々の仕事に繋がっていくなんて、当時は全く考えていなかったそうです。
ただ、良かれと思って、周りに求められて始めたことでした。

飲み物一杯でも、伝わる





「あまり社交的とは言えない」秀治さん、当初から仕事はあったものの、トラブルも多かったと言います。また、独立間もないこともあり、自分たちが望む仕事がなかなか来なかった。そこで吉岡さんは、クライアントを「巣に招き入れる」ことにしました。

外で会うのではなく、自宅に招くというだけで、距離が縮まるのではないか。言葉ではない形で自分たちの価値観を伝えられたら、つまらない誤解が減り、少しずつでもやりたい仕事が増えていくのではないか、そう考えたのです。

毎回、凝った料理を出していたわけではありません。
けれど、「飲み物一杯でも、伝わる」。そんな確信がありました。

誰だって、もてなされて悪い気はしません。心を開いてくれたクライアントが、また別のクライアントや、新しい仕事を紹介してくれることも少しずつ増えていきました。
Photograph by Tsunenori Yamashita
今でもアトリエの食材庫には果物のシロップ漬けなどがズラリと並ぶ。




料理はどのように覚えたのでしょう。
母親の手伝いをする中で、基本は自然と身に着けていました。また、料理本をたくさん持っていたわけではありませんが、プロのレシピが写真付きで詳しく紹介された雑誌は、好きでよく読んでいたそうです。
「塩分の%まで書いてある通りに作ってみると、自分では出せなかった味が出せる。それが面白くて」。

100円でもお金をもらうなら、プロ





吉岡夫妻は、結婚当初から現在までコーポラティブハウスに住んでいます。言ってみれば長屋住まい。仕事もライフスタイルも価値観も異なるけれど、住人同士、何らかの形で関わりを持ちながら暮らしたいと思う人たちの集まりです。
「住み始めた頃は、週末の度に、誰かの家に料理やお酒を持ち寄って宴会をしていました。私たちが一番若くて、周りはみな40代の働き盛り。いろいろなことを教わりました」。

吉岡さんの料理は毎回評判でした。ある日の飲み会の席でこんなことを頼まれます、「時々でもいいから、夕食をちょっと多めに作って、うちに届けてくれない?」。夫婦共、夜遅くまで忙しく、日々の食事が疎かになりがちだというのです。どうせ自分たちの食事を作るのだから、手間は大して変わらないと、軽い気持ちで引き受けました。すると、「ならばうちも」とあの家も、この家も。気づけば15世帯あるうちのほとんどの家庭に、週1~2日夕食を届けることになりました。

ご飯は各家庭で炊いてもらい、2~3品の惣菜を届けて、お代は1食500円。初めは量の検討もつかず、原価計算も全く考えていなかったそうです。仕事にしようと思っていたわけではないので、材料費をもらえればそれで十分という気持ちでした。
Photograph by Tsunenori Yamashita
吉岡さんが作るのは、定食屋のメニューにあるような、深くて強くて優しい味がする料理。






ただ、第一線で働く彼らは、外食で舌が肥えていることも承知していました。毎回、真剣勝負。きちんと手をかけ、その日のお品書きも添えて届けました。それでも時々、厳しいダメ出しが……。

味についてだけでなく、たとえばこんな指摘もありました。
始めたばかりの頃、料理名に“自家製”や“手作り”などの枕詞をつけることの多かった吉岡さん。それに対し、「その言葉にどれだけの意味があるか考えたことはある? 必要なら使えばいい。でも、そこに付加価値を感じてほしいというような、いい加減な気持ちなら、やめた方がいいよ」と。

住人には編集者やデザイン関係の仕事をしている人が多いそうです。一種の職業病のようにも思えなくはないのですが、吉岡さんはその一言で、自分の意識の甘さを痛感したと言います。 「100円でもお金をもらうなら、プロなのだ」と。
そんなことを続けているうちに、ケータリング先の1軒から、初めての大仕事が舞い込むことになります。レコード会社の社長が、音楽系イベントへの出店を依頼してきたのです。食の仕事はしばらくお休み、そう腹を括っていた吉岡さんに思わぬ転機が訪れました(第3話に続く)。

食以外に目を向けること





食の世界を目指し、迷い続けた吉岡さん。今、当時を振り返り、大切なのは「食の世界にこもらないこと」だと言います。

「食は、食だけで完結するものではありません。生活の一部であり、人生の一部。何を見て、どんな音楽を聴き、どんな服を着て、どんな暮らしをするか、どんな人と付き合うか。自分の生き方そのものを見つめ直すことで、目指す方向や、自分の軸が明確になっていくのではないでしょうか。

そのためには、食に限らず幅広い世界の人と接点を持ち、常に感性が刺激されるような状況に身を置くことが大切だと思います。人との出会いが、予期せぬ方向に自分を導いてくれることもあります。私にとっては、コーポラティブハウスを選んだことが、今の自分を形作る上で、とても重要でした。
(次の記事へ)


吉岡知子(よしおか・ともこ)
料理とグラフィックのデザイン会社「オカズデザイン」料理長。雑誌&WEBでのレシピ 制作、映画やテレビドラマでの料理制作・監修、ケータリングなどを料理とデザインの両 方から手掛ける。プロダクトデザインや料理本の出版など、活躍の場は多岐にわたる。







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