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トゥールダルジャン 東京
ルノー・オージエ Renaud Augier

People / ChefApr. 11, 2019

トゥールダルジャンのシェフという重責をこれっぽちも感じさせない人懐っこさと温かさがある。
日本人の妻を持ち、大の日本びいき。
妻の出身地の岩手県によく足を運んだり、昨年10月と今年1月には島根県石見地方を訪れて生産者と交流を重ねるなど、地域へもまなざしを注ぐ。
料理の腕は、2019年度のMOF (Meilleur Ouvrier de France)フランス国家最優秀職人章が証明した。
日本在住のシェフが選ばれるのは 37年ぶりという快挙である。
text by Sawako Kimijima / photographs by Masahiro Goda 







原種から連なる一粒の種


「トゥールダルジャン 東京」の総支配人クリスチャン・ボラー氏はトゥールダルジャンを一冊の古い本に喩える。
1582年の創業、フランス人がフォークを使い始める前から存在してきた。「フランス料理の歴史そのもの」と言われる。レストランとシェフが一体化している現代の様相と比べると、同店におけるシェフの一人ひとりは長い歴史の一部と言える。
「私たちは、前のページの記述に続けて新しいチャプターを書かなければなりません。話の流れを急に変えることはできない」
本の中の記述は背負わねばならない重責であり、堅固な基盤でもあるわけだ。

情報が世界中で境界なく拡散していく時代を迎えて、今後、土地固有の文化の醸成は図られるだろうかと心配になる。関係のない話に聞えるかもしれないが、徳島ではジャンケンの掛け声が79種類あると言われる。山や川が立ちはだかり、容易に行き来できないため、エリアごとに独自の慣習が形作られるからだ。それが文化というもの。狭い範囲で形成された異なる文化が多様であれば多様なほど世界は豊かになる。

瞬時の拡散と共有は文化の独自性や多様性を奪いかねない。人類は今、そういう危機に直面している。せめてこれまで受け継がれてきた過去の遺産は大切に継承し続けなければ。トゥールダルジャンはそういう役割を担う。


子供の時から厨房で働く
ルノー・オージエシェフは、トゥールダルジャンが35年前、世界で唯一の支店として開いた東京店のエグゼクティブシェフだ。フランス南東部のグルノーブルから60㎞、人口1500人ほどの小さな村で生まれた。冬はスキー客が訪れる山村の駅前でレストランを営む祖母の手伝いが日課だった。
「いつも満席。子どもながらに毎日手伝っていました。午前中の授業が終わる時間を見計らって、祖父が学校まで迎えに来ていたんですよ」

勉強より祖母の手伝いのほうが好きだった。祖父の迎えを心待ちに授業を受けていた。タマネギをむくなど小さな仕事をこなしては、午後また学校に戻る日々。
「テーブルを囲んで食べることも、料理をすることも、〝分かち合い〞なんだと、祖母の仕事を見て、喜ぶお客さんの顔を見て、そう思うようになっていました。料理人になろうと無意識のうちに決めていたように思います」
お祭りの仮装はコックコートだったというエピソードが、料理人への憧れを物語って微笑ましい。

高校進学を望む父親の反対を押し切り、アプランティ(見習い)として一ツ星レストランに入ったのが15歳。キッチンはシェフを入れて4人という小さな店で基礎を叩き込まれる。その後は三ツ星街道まっしぐら。「ジョルジュ・ブラン」「ミシェル・トラマ」「ルイ・キャーンズ」での修業を経て、ランスの二ツ星「レ・クイエール」での副料理長を務めていた時に、ボラー氏から「トゥールダルジャン 東京」へと招かれた。


技能をトータルで体現する存在
「彼は土着の味を知っている。田舎の厳しいシェフの下で基礎を学んだ。移ろわないフランスの価値を知っている」
それがオージエシェフに白羽の矢が立った第一の理由だ。この事実は、フランス料理の歴史を体現するレストランの総支配人にとって、三ツ星での修業経験以上に大事だった。もうひとつ、妻が日本人であるため、日本の風土や日本人のメンタリティをよく理解していることも大きかった。

昨年、オージエシェフはMOF(フランス国家最優秀職人章)の受章が決定した。MOFとはフランスの伝統工芸技術を保護・発展すべく優れた技術者を表彰する制度で20世紀初頭に立ち上げられた。フランス料理人の称号としては最高峰。腕に覚えのある料理人であれば誰もが取得を夢見て挑戦するも獲得がままならない難関だ。試験は3〜4年に一度行われ、審査は厳格。MOFを獲得できる料理人は毎回10人から20人。昨年の審査はとりわけ厳しく、受章者はたった7人だったそうだ。

「いつか自分も目指したほうがいいと思っていました。先輩たちからもチャレンジを勧められていた」
MOF挑戦の理由がもうひとつ。「東京店開業35周年のお祝いとして、ボラー氏にプレゼントしたかった」。
試験の中身を聞いてみた。一次審査は筆記試験、二次審査は実技「海の幸のコンポジション」、三次審査は「野ウサギの3つの調理法(煮込み、ロースト、シヴェ)」とデザート「パヴロヴァ」。
「海の幸のコンポジション」はひと皿の中に、生、グラチネ、ローストと少なくとも3つの調理法が使われていなければならず、オージエシェフは、ムール貝のグラチネ、カキのポシェ・オ・シャンパーニュ、ラングスティーヌのタルタル、ウニのティエド(生温かい状態)などを盛り込んだ。パヴロヴァは、生のキウイやパイナップルのゼリー寄せの上に焼きメレンゲをのせよとの指定付き。生のパイナップルにはゼラチンを凝固させない性質があるなどの問題をクリアしながら形にしていかなければならない。「多くの難題が仕掛けられている」とオージエシェフ。

野ウサギの煮込みは本来なら1晩以上かかる料理でありながら3時間でおいしく仕上げなければならないし、審査会場のキッチンには制約があって3人の選手でひとつのオーブンを一緒に使わなければならず、選手同士の連携も求められる。また、当日は初対面のアシスタント(料理学校の生徒2人)が付くが、彼らにどんな指示の出し方をしているかも審査の対象となる。「料理の発想力や構築力、食材知識、調理技術、ディレクション力、コミュニケーション力……シェフとしての資質と技能を総合的に判断されるのです」


日本のフランス料理として
「日本でフランス料理を担う者として、成果を出してくれた」とボラー氏は語る。
トゥールダルジャンが東京にオープンして35年。その間、ボラー氏は日本におけるフランス料理の変化や進化を見続けてきた。日々提供されている日本のフランス料理のクオリティの高さ、確かさを証明できたのではないか、そんな思いもある。

今、世界中で原種や在来種を守ろうという意識の高まりがあるが、固有の料理文化の継承もやがて同様の意味を持つようになるだろう。オージエシェフは彼自身がそんなひと粒の種だ。

Renaud Augier (ルノー・オージエ)
1981年、仏グルノーブル地方の出身。「ジョルジュ・ブラン」「ルイ・キャーンズ」など数々の三ツ星レストランで修業を重ね、トゥールダルジャン パリ本店を経て、2013年春に現店のエグゼクティブシェフに就任。2019年のMOFに。日本在住のシェフがMOFに選ばれるのは37年ぶり。


◎ トゥールダルジャン 東京
東京都千代田区紀尾井町4-1
ホテルニューオータニ
ザ・メイン ロビィ階
☎03-3239-3111
昼12:00~13:30L.I.(不定期)
夜17:30~20:30L.I.
月曜休
http://www.tourdargent.jp/





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