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JOURNAL / JAPAN

日本 [山形]

地域の一体感が、天童のおもてなしの心を盛り上げる

2021.03.01

ホテルが環境保全に取り組む理由


山形県のJR天童駅にほど近い小さな畑で栽培されているのは「山形赤根ほうれんそう」。この茎の赤い丈夫なほうれん草は積もった雪の下でも元気に育つのです。畑では、他の作物も少量ながら芽吹き、畑の裏にある温室では白菜、ネギ、トマトも栽培。畑にある小屋には大型のコンポストがあります。


この畑とコンポストの所有者は、1911年に温泉旅館として創業した全86室の老舗リゾートホテル「ほほえみの宿 滝の湯」。癒されるお風呂と極上のおもてなしで知られています。「ここで育てている野菜は完全に有機栽培なんです」とは栽培担当の若月好昌(わかつき・よしのり)さん。栽培された野菜は、宿泊客への食事に使われます。


ホテルの厨房から出る生ごみをコンポストで堆肥化、腐葉土と混ぜ合わせます。また、藁、もみ殻灰、竹炭を混ぜ、数カ月間発酵させてから畑に投入します。同ホテルがコンポストを設置し、自家農園を始めたのは20年以上前。環境への取り組みがこれほどまでに重要視されていなかった頃です。


「当時、ある出来事がきっかけで、この地域の環境問題が表面化したんです」と、営業推進部部長の梅澤麗(うめざわ・ひかる)さんは説明します。「私たちは大型の宿泊施設で、与える影響も大きいため、地元の自然環境の保全に真っ先に取り組もうと考えました。地域社会を優先し、二酸化炭素排出量の削減など、環境にかける負荷の低減を目指す。食材だけでなく、アメニティからシーツやタオルの洗濯洗剤に至るまで、ホテル全体で、天然由来の製品を積極的に使用しています」

◎山形県天童温泉 ほほえみの宿 滝の湯
https://www.takinoyu.com/



天童に人が集まる場作りを

「地域の活性化という観点から、2020年初めに屋台村をイメージしたカジュアルな飲食店街『と横丁(とよこちょう)』の立ち上げに関わりました。『ほほえみの宿 滝の湯』の向かいの角地にあり、8つの飲食店が入っております。鉄板焼きやおでんから、韓国料理やすしまで、専門店が、山形の食材を使った料理を提供。様々な料理と飲みものを、お店からお店へとホッピングして満喫してもらおうという趣向です。『と横丁』がきっかけの一つとなり、県内外問わず多くの皆様に、天童を訪れて欲しいと思っています。お客さまにホテルの食事だけではなく、この天童で色々な料理を楽しんでいただける場を提供してもよいのではないかと考えました。そうすれば、天童全体でお客さまにおもてなしができ、楽しんでいただきながら、地域の経済も活性化する。まさに三方よしですから」と梅澤さんは語ります。


「と横丁」は、天童が将棋の駒の生産量日本一であることにちなみ、「歩兵」の裏「と金」からその名を取っています。訪れた人が、地元の人たちとおいしい料理やお酒をいただきながら交流できる、人が集まる場を目指しています。


ここ天童で、江戸前寿司を通して、山形の食材や酒の旨さを知ってもらうチャンスと考えたのが「鮨 天ぷら 左馬(ひだりうま)」の大将 梅津学(うめつ・まなぶ)さん。梅津さんの目利きで仕入れた魚介と、地元を中心とした日本酒が頂けます。


「この辺りは米にこだわり、伝統的な赤酢を使うような、本格的なすし店は珍しいのです」と話します。「すしは日本を代表する料理。その伝統的な技術で山形の旬の食材や旨い酒を、より多くの人々と共有したいのです」。ある日の夕方、店では数人のお客さんが山形の地酒について語り合っていました。握りをいくつかとそれらに合う一杯を注文すると、筆者を会話に誘ってくれ、地元天童の酒蔵や酒に関する、様々な話を聞かせてくれました。その土地の酒を酌み交わすことで、気軽な仲間意識も生まれ、つかの間、コミュニティの一員になれたような気分になれたのでした。

◎山形県天童温泉屋台村「と横丁」
https://toyokocho.jp/

◎鮨 天ぷら 左馬(ひだりうま)
https://toyokocho.jp/shop/hidariuma/



酒蔵ツーリズムとは、
地元の方々との愉快な“呑みニケーション”の旅

友人同士で、同僚同士で、はたまた地元の居酒屋でたまたま隣に座った者同士で。日本の食文化において、酒は社会的なつながりを形成し、コミュニケーションを円滑にする重要な役割を果たしています。「呑みニケーション」。文字通り「呑む」と「コミュニケーション」を組み合わせた言葉です。


呑みニケーションに最適な場所といえば、カジュアルな空間で飲みものや、小皿料理をシェアしながら楽しめる居酒屋。 日本中に数多ある素敵な酒場が、旅人を待っています。


天童にある「酒処 とくとく」は、眼鏡をかけた人なつっこい料理人がとりしきる温かみのあるお店。ジューシーな焼きししゃも、お揚げにチーズ入りの餅を詰めたもの、アイデア豊かなカレーパンといった自家製料理と、少数精鋭の品揃えの地酒との相性が抜群です。

◎酒処 とくとく
山形県天童市三日町1-5-25
☎023-651-2882
日休


地元の酒屋を訪れれば、自宅に「呑みニケーション」気分を持ち帰ることができます。天童の「出羽桜酒造」に隣接する「丸十仲野(まるじゅうなかの)酒店」には出羽桜の酒がずらり勢ぞろい。だだちゃ豆を干したものなど、地元の農産物を使ったスナックも販売しています。

◎丸十仲野酒店
https://marujyusake.co.jp/

酒蔵を巡る旅、酒蔵ツーリズムとは、単に酒蔵を訪問するだけではなく、実は、こうした地元の酒場で、地元の人たちとの「呑みニケーション」を楽しめるところに醍醐味があるのです。その土地の「おいしい」や「楽しい」に出会う旅なのです。





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