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FEATURE / WORLD GASTRONOMY





「マドリード・フュージョン2020」レポート

社会の課題に料理で挑み続けるシェフたち。

Feature / World GastronomyFeb. 10, 2020

text by Yuki Kobayashi

2020年1月13、14、15日の3日間、スペイン首都にて恒例の「マドリード・フュージョン」が開かれた。今年から運営がメディアグループVOCENTOに託され、 料理学会の性質が変わるのではないかと囁かれる中での開催である。
まず、会場がこれまでのマドリード市立会議場から見本市会場IFEMAのパビリオンに移された。
IFEMAは毎年4月に「サロン・デ・グルメ」という国内最大級の国際食品市が行われる場所である。長年のグルメ関係者にとってはそのイメージが強い。パビリオンの一部が講演会場に充てられたが、隣接する食品市スペースが大きく、その騒音が講演会場に聞こえてくるなど、ベストな環境とは言い難かった。また、食品市には、例年通りスペイン各地の特産物を試食できるスペースやワインに特化したスペースがあるものの、一般スペースの国際色は薄まり、大手食品加工会社の出展が目立つ。これでは「サロン・デ・ グルメと変わらないのでは?」というのがジャーナリスト間で最も聞かれた意見だったことは確かだ。
講演会場では、3日間、様々なシェフや専門家の講演が行われた。その中から目立ったものを紹介しよう。


COP25で世界の首脳たちを動かそうとした料理とは。

ユネスコの親善大使も務めるカン・ロカ兄弟の発表は圧倒的だった。
兄のジョアン・ロカは初日に登場。2019年12月にマドリードで行われたCOP25国際会議で世界各国の首脳陣のディナーを担当した時の詳細を語った。

この依頼を受けて、「世界のリーダー達の環境破壊に対するモラルを動かすよう、味で伝えようと考えた」と言うジョアン。「責任感のある倫理感、地球からいただいたものをまた土に返すという理念も表現したかった」と語る。
紹介された数品の中でも特に「Agua clara, Agua sucia(きれいな水、汚い水)」と題されたスープの一皿が印象深い。キクラゲ、トリュフなどのキノコ類とヒヨコ豆を固めた「土」はまるでアフリカの乾いた大地のよう。そこに野菜のスープを注ぐことで「土」が溶け出し、滋味深いスープになる。

メニュー全体のテーマは「地球が終わる」。汚れた水に見える液体を飲んで、その味わい深さに世界のリーダーたちは何を思っただろう?
従来、世界の首脳陣が集まるイベントでは最高の食材を使った美しい料理が饗されてきた。しかし、今回は発想のスタートから違う。挑戦的とも言えるメニューを展開できるのも、ロカワールドだからこそだ。



気候変動が急速に進行し、COP25に世界中から注目が集まる中で料理を担当したジョアン・ロカ。

「Agua clara, Agua sucia(きれいな水、汚い水)」と題されたスープについて語る。

弟でソムリエのジョセップ・ロカは2日目に登場し、長い大学講義を思わせる「不寛容とアレルギー」をテーマに発表した。
年々、客のアレルギーや拒否反応に対応することが、レストランの必須業務の一つになっていると警鐘を鳴らす。通常のコースメニューでは250種、最長のデギュスタシオンコースでは最大400種もの素材を扱うことになる「カン・ロカ」の調理場では、予約が入った11カ月前から、客のアレルギーや拒否反応の状況を把握。1カ月前にはさらに電話で客と確認し合って、細心の注意を働かせる。客のアレルギー情報をスタッフ全てに行き渡らせるのも重要な仕事だ。過去、半月で1589人の客に92 人のアレルギー患者がいたという。

アレルギー対策に費やす時間と労力はこれまでになかったレストラン経営の課題だ。環境同様、食べ物によって私たちの体がいかに変わってきており、体の発するアレルギーという警報がいかに一般化しているかを痛感せざるを得ない機会となった。



増え続けるアレルギーは人体の叫びの証。悲鳴をあげているのは地球だけでなく人間も。



逆が良い!? コースの流れを再検証する。

「AI」という言葉がマドリード・フュージョンの演目に出たのは今年が最初ではない。だが、今年、ガストロノミーとテクノロジー関連の発表が目立ったのは確かだ。コックコートを着ない人々が壇上で発表するのも違和感がなくなってきた。

バレンシア・ポリテクニカ大学、コンサルティング会社Breating Brain社と研究を重ねたアリカンテ県のレストラン「レスカレタ」のキコ・モヤは、会場の参加者1人を壇上に上げ、研究内容を実践して見せた。
「昨日の夕飯は覚えていないのに、ある特定の料理は強烈に覚えていることがある。そういった感情やインパクトはどのように起こるのかを解明したい」、料理を感情から計測しようという試みだ。
目の動きを追うアイトラッキング、心拍数、脳波の装置を体に取り付けて、デギュスタシオンメニューが提供されている間の被験者の感情の変化を計測する。当然のことながら、ソムリエが上手にワインを説明した時は、感情が高まる。盛り付けが美しい料理も反応を高める。満腹が近くなり、コース料理に時間がかかると集中力は落ち、感動も少ない。

キコはこうしたデータから、メニューの構築を山と谷のようにメリハリのあるものにすることが大事で、提供の仕方は前菜、肉、魚という順序にこだわらないという結論を出している。
こうした研究は、昔ながらの料理人が見たら、「科学的に計測しなくても、お客さんの顔を見ればわかる」と一笑に付す類のものかもしれない。しかし、現在はビッグデータの時代だ。研究によって数値化され、可視化され、大衆の好みや嗜好傾向が科学的データとして取れるのであれば、その情報の有効利用の可能性は計り知れないだろう。大量生産される加工食品やチェーン店の世界ではすでに行われている研究方法なのかもしれない。



「レスカレタ」のキコ・モヤは、料理の進行に伴う食べ手の感情の変化を計測し、考察した。

メニューの構築に関して同様の結論に到達していたのが、アストゥリアス州のレストラン「カサ・マルシアル」のナチョ・マンサノだ。彼はテクノロジーを使用せず、壇上に2人の被験者を出して、メニューを逆から試させた。
「反対の方が良い」というタイトルのこの講演では、前菜、主菜、デザートではなく、いきなりイノシシ肉の一品から提供。次にヤマシギの胸肉、最後にはセロリの茶碗蒸しのようなクアハーダの一品を出した。

よくレストランで最初にパンをサーブするのに対して、「あれはお腹が空いた感覚を鈍らせる」と指摘。また、スペインの高級店では食事に3~4時間かかることがめずらしくないが、「客の居心地の良さを考えるべき」「誰も4時間食べ続けることはできない」「理想的な食事とは、食べ終わって4、5時間後にはお腹が空いた状態になる食事」と持論を展開。店では逆の流れでサーブして、客のコンフォート感を追求するという。
講演最後には会場にいたジャーナリストたちと「シェフはメニューを組み立てる際、客のお腹を考えず、利己的に献立を決めていないか?」というミニディスカッションにまで展開。興味深い一幕だった。



「反対の方が良い」と題して、客にとっての心地良さを考慮したらコース料理は逆から提供すべきと論じた。

かつてフェラン・アドリアが際限もなく創造を繰り返していた時期、彼に創造の打ち止め現象は起こらなかったのだろうか。料理を創造と表現の場と考えるアーティストたるシェフたちにとって、創造の枯渇は恐怖だろう。
ソニーとコラボレーションをしたフランス人、フランソワ・シャルティエの発表は、創造に余念のない人々には朗報だったかもしれない。

ソムリエとして25年のキャリアを持ち、6万本ものワインのレファレンスを持つ彼は、香りの科学の専門家でもある。そうした下地の上に立ってソニーと彼が開発したソフトには、5000種の食材と無数のレシピがデータベース化されている。

食材に関しては、その化学的性質はもちろんのこと、旬や栄養価、色や香りなど様々なデータが含まれる。たとえば、シェフが新しいレシピを開発したいと思ったら、一つの食材に注目する。その食材を画面でタッチすれば、それと良好な組み合わせとなり得る食材がいくつも選出され、味覚、色彩、適温、テクスチャー、文化的背景、はてはそのシェフのGPSも考慮して、レシピを提案してくれる。もっともシェフの腕が良くなければどうしようもないが。無論、組み合わせのインスピレーションの助けになるわけで、創造を続けなければならないシェフにはありがたい最新技術なはずだ。


ソニーと共同で5000種の食材とレシピをデータベース化したフランス人ソムリエのフランソワ・シャルティエ。




シンプルは一日にしてならず。

毎年研究発表に余念のないエレナ・アルサックは、今回、果汁などに含まれる自然の酵素を利用して、肉や魚を軟らかく仕上げる技術を紹介。やはり毎年会場を満席にするアンヘル・レオンは、釣り餌に使うミミズを食用にして見せた。野菜の色素の発表をしたガリシアのシェフ、ルシア・フレイタスの4色の料理は印象に残る美しい料理だったが、彼女は一ツ星店をほぼ女性ばかりのスタッフで回しているという。男女格差が急速に縮まってきているスペインならではの一幕だった。

右が調理前のミミズ、左が調理後。食糧危機問題と向き合うのもガストロノミーの役目。

昨年「三陸国際ガストロノミー会議」に登壇したルシア・フレイタスの店では女性スタッフが活躍する。

野菜の色素を活用したルシア・フレイタスの美しい料理。


マドリード・フュージョン ヨーロッパ最優秀シェフ賞に輝いたイタリア人シェフ、ニコ・ロミートは、授賞式で、自身のシンプルな料理への変遷を回想。「私の求める簡潔さというのは、複雑な料理を経た上での結論であり、数々の研究と勉強、実践の後にたどり着いたものです」と語った。
今回の共通テーマは「料理のエッセンス、計算された簡潔さ」だったが、まさにその王道をゆくニコの作品。料理の佇まいのシンプルさ、潔さが、数ある発表の中で最も食欲をそそった講演となった。

「変遷を経てシンプルにたどり着いた」と語るヨーロッパ最優秀シェフ賞のニコ・ロミート。











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