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パスタ界の“ワールドカップ”、日本代表が決定!

パスタ界の“ワールドカップ”、日本代表が決定!「パスタ・ワールド・チャンピオンシップ2018 日本最終予選」レポート  | The Cuisine Press  

2018.07.06

text by Reiko Kakimoto / photographs by Kouichi Takizawa

バリラが主催するパスタ界のワールドカップ「パスタ・ワールド・チャンピオンシップ」(2018年より「バリラ・パスタ・ワールドチャンピオンシップ」から改称)。世界中の若手イタリアンシェフの支援・育成を目的に2012年より開催され、今年で7年目を迎える。パスタのオリジナルレシピを実演し、プレゼンテーションすることで、料理技術とパスタへの情熱を競い合うものだ。本大会からは、イタリア料理界の発展とイタリア食文化の啓発のため、イタリア料理の最前線やサステナビリティをテーマとした講演やクッキング・ショーなど、食通たちの興味をかき立てるイベントも多数用意されている。
参加資格は35歳以下で、イタリア料理店で3年以上の勤務経験があること。そして、英語またはイタリア語でのコミュニケーションができること。イタリア料理の真髄を理解しつつ、個性やメッセージを込められるかが焦点となる。
10月24日(水)・25日(木)にミラノで開催される「パスタ・ワールド・チャンピオンシップ2018」世界大会に向けて、現在、各国で予選が行われている。日本では、本大会の選考より初の実技審査を導入。書類審査を勝ち抜いた3名のシェフが、本番さながらの実技デモンストレーションとプレゼンテーションで日本代表の座をかけた熱い闘いを繰り広げた。最終選考の実技審査は6月4日(月)に行われ、石川県七尾市のイタリアンレストラン「ヴィラ・デラ・パーチェ」の平田明珠(めいじゅ)シェフが日本代表に選ばれた。



本選は17ヵ国以上から18名のシェフがミラノに集結



世界大会の舞台はミラノ。今年はミラノの中心のファッションエリアに位置し、歴史的なランドマークとしても有名な「La pelota」で開催される。本選では17ヵ国以上が出場し、用意された3つの審査テーマに従ってトーナメント方式で勝ち進んでいく。優勝者は「ワールドパスタデー※」である10月25日(木)の決勝戦の後に発表される予定だ。審査員は星付きのイタリア料理のシェフたちのほか、ミラノを拠点としてグローバルに活躍する建築家のFabio Novembre氏をはじめ、作家やTVパーソナリティなど世界的にも有名な6名(現時点)が選任されている。大会前日にはガラディナーもあり、各国で活躍する料理人との交流の場にもなる。若手料理人にとって、グローバルでボーダーレスな価値観を経験でき、世界に通じる表現力を身につける、またとないチャンスだ。
※1995年10月25日にイタリア・ローマで「第1回世界パスタ会議」が開催されたことを記念し、制定された記念日。

パスタにおける世界シェアNo.1を誇るバリラは、1877年にパルマで創業。イタリア料理とその文化にまつわる情報を収集・保護し、さらなる発展を目的とした学術機関「アカデミア・バリラ(バリラアカデミー)」を設立し、今回のコンテストも共催している。イタリア料理としてのパスタに限定して行われる世界大会は、本大会のみといえる。



これまでの日本代表は、レストラン・コンサルタント山田剛嗣氏(2012年世界大会・初代チャンピオン)、「ICARO miyamoto」宮本義隆シェフ(2016年世界大会・ファイナリスト)、「SALONE2007」弓削啓太シェフ(2017年世界大会・ファイナリスト)など。輝かしい成績を残した歴代の日本代表シェフが、今回の日本予選の審査員を務めている。



審査員の皆さん。左より「SALONE2007」弓削啓太シェフ、レストラン・コンサルタント山田剛嗣氏、「ICARO miyamoto」宮本義隆シェフ、バリラジャパン株式会社 業務用営業課長・堀込玲氏。



本大会では全国から出場者を募集し、書類審査を通過した3名が、実技審査である最終選考会へと選出された。 審査課題の一つは、各自のオリジナリティを表現するシグニチャーディッシュだ。本大会のテーマ「EAT POSITIVE」に倣い、実技審査では「Tasty, Beautiful for the eyes, Joyful for the mind, healthy and sustainable(おいしく、見た目にうつくしく、気持ちがうれしくなるようなパスタでありながら、健康的であり、伝え続けられるパスタであること。)」をテーマとした。これを8項目の審査基準(芸術性、味、地中海式食事法の要素、技術力、テーマ性、サステナビリティ、創造性、メッセージ性)に従って、審査員が採点する。各自に与えられた調理時間は30分間。本選と同様、仕込みなしでスタートし、審査用と試食用の皿を用意する。その後、料理の解説をイタリア語または英語で2分間行い、質疑応答に続く。





予選は本選と同じく、公開実技&プレゼンスタイルで

会場の緊張が高まる中、東京「ビオディナミコ」浅賀直斗さんの実技がスタート。



浅賀直斗さん。1989年、神奈川県生まれ。パスタ好きが高じて整体師から転身。2013年より九段下「トルッキオ」林シェフの下で修業を開始。16年サローネグループ入社。横浜「SALONE2007」、渋谷「バカリダポルタポルテーゼ」を経て、18年より渋谷「ビオディナミコ」スーシェフ。



実演レシピは、栄養豊富な岩牡蠣を使った一品「Oyster, Sea lettuce and Truffle Fusilli」。修業先で学んだ「海の幸(牡蠣)×山の幸(トリュフ)」というコンビネーション、そして「牡蠣とアオサの組み合わせ、魚介とライムの組み合わせ」を多層的に構成してレシピを作った。



浅賀直斗さん作「Oyster, Sea lettuce and Truffle Fusilli」。ハマグリなどでとった出汁と白トリュフオイルをフジッリに絡め、バターソテーした岩牡蠣、カラスミ、刻んだ黒トリュフをかけ、ライムの皮をすりおろす。



「僕はイタリアでの修業経験がないので、修業先でシェフから教えていただいた現地での調理法、食材の組み合わせ方や考え方をヒントにして、イタリア料理の枠から逸脱しないようにレシピを作りました。テーマの“EAT POSITIVE”を、健康的に食べ続けられるための食という意味で捉え、栄養価の高い岩牡蠣を使いました。生活習慣病の予防を期待できる成分も多く含まれています」と浅賀さん。




審査員からは「自分の修業してきた経験をどこで投影したと感じているか」「トリュフは他の食材に置き換えることができるか」などの質問が続いた。

続いて京都市内のリストランテ「カ・デル・ヴィアーレ」の川崎大輔さん。



川崎大輔さん。1991年、京都府生まれ。料理専門学校卒業後、2011年よりロイヤルホテルに勤務し、バンケットやカウンターフレンチ懐石を担当。13年より京都「イル・ヴィアーレ」に入店。渡辺武将シェフの下で研鑽を積み、現在、京都「カ・デル・ヴィアーレ」スーシェフ。



実演レシピは、フィノッキオとサーモンを合わせたショートパスタ「Penne al pesto di finocchio con salmone」。イタリアでは目下、日本食ブーム。すしにはよく使われているが、それ以外の調理法ではあまり見られないサーモンに着目した一品だ。イタリア料理の郷土性を、フィノッキオや松の実、ケイパーなどイタリア食材の用い方で表現し、日本人としての個性を魚の扱い方で見せた。



川崎大輔さん作「Penne al pesto di finocchio con salmone」。フィノッキオはパスタの茹で湯でさっと茹がき、すり潰してソースにし、ペンネに絡める。松の実やパン粉は直前にフライパンでローストしてふりかけ、仕上げに表面を炙ったスモークサーモンをのせて。



川崎さんはファイナリストの中で唯一、イタリア語でのプレゼンテーションを行った。「これまで3回イタリアに行ってイタリア料理の勉強をしてきました。イタリアでの修業を目標に、今も継続的にイタリア語会話の練習をしています。皿の上だけではなく、言葉を使って、自分の料理について説明できなくてはならない時代だと思う。こうした大会に自分が出場することが、仲間を刺激する材料になったらうれしいと思っています」。




審査員からは「このお皿の『おいしさのポイント』は、自身では何だと思うか」などの質問があった。

最後は、2016年に石川県七尾市に移住し、リストランテ「ヴィラ・デラ・パーチェ」を独立開店した平田明珠さん。



平田明珠さん。1986年、東京都生まれ。明治大学を卒業し、一般企業に就職後、2009年、大泉学園「della Casa」へ。12年より渋谷「ビオディナミコ」、「CICADA」、代々木上原「Fresh Seafood Bistro Saru」を経て、16年に石川県七尾市へ移住。同年9月「Villa della Pace」開業。



都内のレストラン勤務時、石川県から魚介を直接取り寄せており、そこから同地に興味を持ったという。「食べ手だけでなく、食材の作り手やその地域も幸せにしたい」との思いで、地元の甘海老を使ったカルボナーラ「Spaghetti alla Carbonara con Gamberetti」を作った。市場には生きている甘海老しか流通しないが、頭がもげてしまったものでも、新鮮なうちに乾燥させれば、臭みもなく旨味の濃い出汁が取れる。これまで捨てていたものに工夫を加えて資源として再生し、買い取ることで、少しでも漁師や漁場が潤う仕組みを、と始めた取り組みだ。



カルボナーラを石川県の食材で表現。半干しにした甘海老から煮出した出汁で直接パスタを茹で、煮含ませた後、いしり(いしる)で味を調え、ピンクペッパーでアクセントを。



カルボナーラで使うグアンチャーレの代わりに甘海老を使い、甘海老に合わせて黒コショウをやめ、清涼感が際立つピンクペッパーに。バリラの特長である小麦の香りを生かすために茹で汁も余さず使い、石川県で作られている魚醤「いしり(いしる)」を隠し味にしてパスタソースに膨らみを持たせた。「EAT POSITIVE」のテーマにふさわしく、見た目に美しく、食べてもおいしく、地元の方にもポジティブでうれしい1品となった。




「石川県という土地を知ってもらうというのが、大会に出場するモチベーションになっています。昨年は別の料理大会に出場したのですが、うまく表現ができなかった。土地の個性、自分の個性をどう伝えるべきかを、この1年間で意識して過ごしました」と平田さん。




「サステナビリティ、無駄をなくすという考え、生産者への配慮など、皿の背景にしっかりとした考えが見えた。レシピにも必然性があった」と、審査員の宮本シェフ。




「大会があるから、大会のためにと無理に考えても、いいものは出てこない。審査の皿には、普段の仕事ぶりが出てきます。だから、常に意識していい仕事をして、いいクセをつけよう。色々と考えている人の料理には、なぜこうしたか、どうしてこの作業を行ったかということの必然性がある」と評した。




「今は、料理人のメッセージが皿の中でいかに表現されていかを求められる時代です。日常でやっていること以外のこと、突飛なことをしようとしても、必ず失敗する。日々の仕事を忠実に行うことが、実は自分らしい皿を作る一番の近道。その意味で、平田さんの料理は非常にストーリーのある皿でした」と、弓削シェフが続けて評した。




「課題点としては、添えたハーブサラダ、盛り付けの美しさ、海老の出汁の抽出加減などもうひと工夫の余地があるが、僕たち3人もミラノ大会本選までの数ヵ月、平田さんをサポートさせていただきたいと思います」と山田氏。





10月の本選に向けて“チームジャパン”が始動!

日本代表となった平田さんは、10月にミラノで開催される本選に向けてトレーニングを開始する。今回の審査員である3名の料理人がアドバイザーとなり、本選での上位入賞を目指す。
世界の最前線で活躍する若手イタリアンシェフたちが、パスタを通して研鑽する年に一度の祭典。ぜひ今年の行方を楽しみにしてほしい。そして若手のイタリア料理人には、来年のコンテストに挑戦すべく、研鑽を始めてほしい。厨房の中での経験とは違う刺激が、大きく成長させてくれる糧になるだろう。



【パスタ・ワールド・チャンピオンシップ2018大会概要】
開催日時:2018年10月24日(水)・25日(木)
会場:La pelota(イタリア・ミラノ)
参加国:イタリア、日本、カナダ、米国、ブラジル、オーストラリア、中国、アラブ首長国連邦、トルコ、スウェーデン、ノルウェー、フランス、ドイツ、オーストリア、ギリシャ、ルーマニア、ポーランドの17ヵ国以上から、合計18名

◎ パスタ・ワールド・チャンピオンシップ2018(英語サイト)
https://www.barilla.com/en-us/world-pasta-masters

◎ 平田さんのレストラン
Villa della Pace(ヴィラ・デラ・パーチェ)
石川県七尾市白馬町36-4-2
http://villadellapace-nanao.com/

◎ バリラジャパン
http://barilla.co.jp/





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