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飲食店は何のためにあるのか? 11

真価を正しく届ける。

「HIBANA」 永島農さん

Feature / Movement Aug. 30, 2021


シリーズ【飲食店は何のためにあるのか?】

どんなに優れた音楽もシチュエーションが適切でなければ雑音になる。かける順番を間違えれば心地良く響かない。「お酒も同じ」と、東京・荒木町のワインバー「HIBANA」の永島農(あつし)さん。「サーブするシチュエーションや順番を間違えれば、真価は発揮されない」。そう考える永島さんは「良き差し出し手」であることに照準を合わせて仕事をしてきました。酒類提供停止要請が出された3回目の緊急事態宣言下では約2カ月休業。その間、改めて自分の仕事の意味、お酒の意味を考えたと言います。

本企画は、食のプロたちに飲食店の存在意義や尊厳を問い掛けていくシリーズです。

text by Sawako Kimijima / photographs by Atsushi Nagashima





問1 現在の仕事の状況

「人間は社会的な生きものであると痛感」。

「HIBANA」の本来の営業時間は20時~翌2時です。レストランでの食事の後の店と位置付けているためですが、「20時まで」という時短要請により、開店時間には閉店しなければならないという皮肉な状況下に置かれました。社会人である以上、社会に迷惑をかけたくない思いがあります。要請を順守し、17時オープン・20時クローズに変更して営業していたところ、今度は酒類提供停止要請が出された。となると、話は変わります。お酒が出せない、すなわち営業ができない。結局、3度目の緊急事態宣言下の4月25日~6月20日は休業しました。
7月12日から4度目の緊急事態宣言下に入っていますが、今回は、予約次第で店を開けています。

これはあくまで自分都合の理由です。3回目の緊急事態宣言下の約2カ月の休業時に、「このまま休んでいたら、精神的におかしくなるのではないか」と感じたからです。

休業に入る前は2カ月だろうが3カ月だろうが休めると思っていました。好きな本が読める、好きな映画も見られる。溜まっていた課題もできる。しかし、2カ月ほど経つと、精神的なバランスがとりづらくなってきたんです。平常心が保てなくなってきた。ウイルスより別のものにやられてしまうのではないか? 危険を感じました。
ワクチンを打とうが、どんな防御策を採ろうが、それ以前に人間を支えているのは「気」です。「気は持ちよう」の「気」をやられてしまったら、自分という存在の維持がむずかしくなる。つくづく人間とは社会的な生き物であり、社会的なつながりを確認しなければ生きていけないのだと痛感しました。

仕事をしていないと、食事のおいしさも変わります。僕は基本的に一人では飲み歩かないのですが、1軒だけ行きつけの居酒屋がある。6月1日から営業を再開したその店へ、休業期間中、飲みに行きました。でも、お酒をそんなにおいしく感じないんですね。仕事していないからでしょう。痛感しましたね、酒場というのは、一生懸命に仕事をした人間が胸を張って飲む場所なんだって。食事のおいしさも同じでしょう。

もう振り切って、一生懸命汗をかこう。人が喜ぶお手伝いを精一杯してから食事をとろう。それが、私が緊急事態宣言下で営業する理由です。


中目黒「the GARDEN」の一角に小さなワインショップ「HIBANA nakameguro」を2019年10月から営む。その売り上げで救われた面もある。


コロナ禍初期は巣ごもり需要で比較的高額なワインが売れたが、「こう長期化するとデイリーワイン主体になる」と永島さん。



問2 あなたが考える「飲食店の役割」とは?

「共食」と「共飲」という文化の場。

2カ月という長い休業期間に、京都大学の前総長・山極壽一氏の『「サル化」する人間社会』という本を読み返しました。サルは見た目には集団で食べていても実質的には個で食べている。あくまで生命維持のための食事だそうです。一方、ゴリラやチンパンジーは分かち合って食べる。また、サルにはヒエラルキーがあって、強いサルと弱いサルが食べ物を挟んで向かい合うと、弱いほうは手を出さないという暗黙のルールがあるのに対して、ゴリラやチンパンジーは分かち合うことで互いに序列や優劣をつけずに平和を保つのだそうです。

分かち合うのはもちろん、一緒に食べる相手の気持ちや状況を推し量り、相手の速度やリズムに合わせて食事をする人間の「共食」は文化だと思います。強い連帯感を生む行為でもあるでしょう。
しかし、コンビニもファストフードもある現代において、食は孤立化していると感じます。僕が子供の頃、夕飯とは家族の時間でした。食卓を囲んで同じものを食べて、そこに属するからこその好き嫌いが生まれたりする。今、そういったことがどんどん希薄になっている気がします。“夕食=家族の風景”と考える人は少ないでしょう?

なぜ、共に食べるのか? 人は1人では生きていけないからだと思います。人とのつながりを感じないと、自分の存在の確認ができない。人間は他者がいて初めて自分というものを認識できるのではないでしょうか。

僕はそれを「共飲」でできればいいとずっと考えてきた。1本のワインを同じカウンターに座った者同士、店に集った者同士で分かち合う。そのボトルは誰の所有物でもない。そんな思いでこの店を開業したんですね。「共飲」の場をつくりたい。そのためにはある程度の秩序が必要で、自分1人でやっている店ということもあり、紹介制という形に落ち着いたわけですが。

なぜ、「共飲」かと言えば、お酒が持つ力への期待もあります。お酒は単純にカロリーではないですよね。酩酊する、トリップする。それによって、今、この世の中だけではない、違う世界を感じる眼を持つことができる、抽象的な意味で旅することができる。また、酩酊することで殻を脱ぎ捨て、普段話せないことが話せたり、勇気を持たないと言えないことが言えたりもする。つまり普段とは違うコミュニケーションが成立するツールであり、人とのつながりが作れるツールだと言えます。アルコールを召し上がられない方への配慮に欠ける見方かもしれないのですが。



問3 飲食店の存続のために、今、考えていること。

真っ当なワインを正しく届ける「差し出し手」になる。

どんなにすばらしい音楽もタイミングを間違えて流せば雑音になります。ワインも一緒。サーブするシチュエーションや順番を間違えれば、真価は発揮されないでしょう。ワインの真価を発揮させる、真っ当なワインを正しく届ける「差し出し手」になることが僕の目指す地点です。

「おいしい」とは本来、口内における感覚ではなかったはずだと僕は考えています。
太古の昔を想像してみてください。生きていくだけで精一杯、食料を採集や狩猟で得ている状況ではおそらく口内の快楽は存在していなかったでしょう。それよりも翌日身体がラクだとか、消化が良いとかが大事で、せいぜい何と何の食べ合わせをしたら違う地平に行けるとか、そんな感覚だったのではないか。きっと体への当たりの良いことが歓迎されていたと思うのです。

現代においても、一瞬の口内の快楽的なおいしさを求めるのであれば、ナチュラルワインはこんなに浸透していないと思います。口内のおいしさだけではない何かが伝わり、正しさみたいなものが伝わった。だから市場が増えた。ワイン全体に占めるパーセンテージで言えば微々たるものですから、まだまだではありますが。

地球誕生の歴史からすれば、人類が生きている期間なんて瞬きより短い一瞬です。そこにワインを落とし込んで考えると、どの生産者もほんのわずかの時間、畑を所有しているにすぎない。なのに、そこでワインを造ろうという時、生産性であったり、量を採ることを考えてしまうんですよね。地球は無限に引き出せるATMではありません。自分が死んだら、自分ではない誰かがその土地の担い手になる。であるならば、その人たちに後ろめたくない仕事をすることが大切ではないでしょうか。

とある造り手が言っていました、「ひとつの品種を植えたら、そこの土地はモノカルチャーになる」。ひとつの人種しかいないことになる。さらに除草剤を使って、他の植物を駆逐していったとしたら、いじめられっ子が転校すると、違ういじめられっ子ができる、そういう話でしょう。僕が扱っているある生産者は言います、「雑草ひとつとっても、駆逐するのは簡単。薬を撒けばいい。でも、何百万年、何千万年という歴史の中で、今、2021年にその雑草が存在していることには意味があるはず。自分にとって都合が悪いというだけで排除すべきではない」。

そんなことを教えてくれるのが、僕にとっての真っ当なワインです。


永島さんが真っ当なワインとは何かを考え始めるきっかけになったイタリアのヴォドピーヴェッツ。


ANAの造り手、スロヴェニアのヴァルテル・ムレチニックも永島さんが敬愛する1人。

真っ当なワインが正しく届くか否かは、僕たちの「差し出し方」次第です。僕たちの仕事のすべては「差し出し方」に帰結する。ワインのデータを覚える以上に、お客様に最初にかける言葉、席へのご案内、その人の体調を慮ること、ワインを差し出す順番やタイミングであったりを、知恵熱が出るくらい考えなきゃいけないんです。

このアナログでしか達成し得ない、煮詰めたアナログみたいなものを感じたくて、人は飲食店に行くんだと僕は思っています。この職業はAIに取って代わられない仕事の筆頭であると信じていますから。


【動画】インタビュー・ダイジェスト版をご覧ください。




永島 農(ながしま・あつし)
1974年、東京都生まれ。高校時代からイタリア料理店でアルバイトをし、95年、六本木「サバティーニ」でサービスマンとして本格的に働き始める。97年、麹町「ラ・スカーラ」に入って研鑽を積む一方で、「ヴィーニ・ディ・アライ」などでもイタリアワインの知識を深める。99年から代官山「キアッケレ」、02年からは表参道「フェリチタ」で支配人を務める。2017年9月、現店オープン。






◎HIBANA(紹介制・要予約)
東京都新宿区荒木町3−6 第三ハルシオン 3階
☎03-6380-5375

◎HIBANA nakamegro
東京都目黒区上目黒2-44-9 the GARDEN内
☎03-6452-4395(the GARDEN)
11:30〜23:00
不定休
https://hibananakameguro.stores.jp/
Instagram:@hibana_nakameguro















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