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FEATURE / MOVEMENT

レストランの総合力の生かし方

「THE HIRAMATSU 軽井沢 御代田」を訪ねて

2021.05.20

text by Takanori Nakamura

土地と共存するガストロノミーが世界的な潮流となる中、日本の地方に展開する“宿泊施設を備えたレストラン”「ひらまつホテルズ」への期待を、「世界のベストレストラン50」「アジアのベストレストラン50」の日本評議委員長を務める中村孝則氏が語る。


「アジアのベストレストラン50」に見るフーディたちのローカル志向

さる3月25日。今年で9回目を迎える「アジアのベストレストラン50」2021年版の日本の授与式が、ザ・カハラホテル&リゾート横浜で開催された。この日、アジアの最新のベスト50のランキングが発表され、日本は3位の「傳」を筆頭に、9店のレストランが入賞をした。

今回のランキングは、コロナ禍で苦境を強いられているアジア全体のレストランを応援するという目的を掲げ、特例措置として51位から100位までのリストも発表して話題となった。その中に日本のレストランは9店舗がランクインし、新たな顔ぶれが登場したのはチェアマンとしても嬉しい限りである。

私が特に注目したのは、64位の「Villa AiDA」(和歌山)、71位の「天寿し 京町店」(福岡)、91位「cenci」(京都)である。この3店舗の名前がベスト50関連で挙がるのは、初めてのことである。いずれも地元やフーディには知られた名店であるものの、ランクインに関しては専門家筋もノーマークだったに違いない。地方というだけではなく、どの店も小規模個人経営で席数もかなり限られ、予約も困難であるからだ。

この「アジアのベストレストラン50」は、投票者が過去一年半以内に、自分が訪れた店にしか投票できないという厳密なルールがある。100位以内といえども、日本のみならずアジアから投票者が訪れ、しかも投票に導かなければ、ランクインなど叶うはずはない。しかも、このコロナ禍である。現実に投票者をこれらのレストランが所在する和歌山や福岡といった地方に呼び込んだのは、大きな変化だと思う。

各レストランが、卓越した魅力を持っているのは当然のことだが、日本の地方に眠る美食が徐々に知られてきた証でもあろう。私は今後も、食のローカル志向はさらに進行すると確信している。なぜなら、フーディたちの“未知なる美食への欲求”は加速こそあれ、普遍的になくならないと思うからである。日本のローカル・ガストロノミーは、まだまだ未知数であり、知られざる魅力が埋蔵しているのだ。

個人的には将来の「アジアのベストレストラン50」において、日本海側のエリアや北海道、長野や岐阜といった海なし県、あるいは沖縄などの島々のレストランが入賞する可能性も十分にあると睨んでいる。その文脈でいえば、日本の地方だけで展開する「ひらまつホテルズ」は、まさに時代の流れに先駆けたものだと思うのである。


ガストロノミーがけん引役、その受け皿に宿泊施設は必須


「ひらまつホテルズ」は、日本を代表する高級レストラングループ、ひらまつのホテルブランドとして、2016年に立ち上げられた。その前段として、2015年に奈良でオーベルジュの運営をスタートし、2016年にグループ初の直営ホテル「ザ・ひらまつホテルズ&リゾーツ 賢島」を三重県賢島にオープンさせてから今日に至るまで、熱海、箱根、沖縄、京都、そして先ごろ開業した軽井沢・御代田(みよた)と、日本の地方に合計7施設を立て続けにオープンさせている。どのホテルも客室数を抑え、いわゆるスモール・ラグジュアリー・ホテルのお手本のような施設を誇るが、何と言ってもその最大の魅力と武器は「食」である。

ご存知の方も多いと思うが、ひらまつグループは、1982年に東京の西麻布に開店した24席のフランス料理店「ひらまつ亭」からスタートしている。1988年にその名を「レストランひらまつ」に変え、高級フランス料理としてのブランド・ストーリーが始まった。2001年には、開業わずか4カ月でパリ店がミシュランの星を獲得し、現在は全国に30店舗以上の飲食店を展開している。「ひらまつホテルズ」は、そうしたレストラン・ビジネスで培った技術や経験やネットワークを活かし、日本の地方の魅力を発掘する美食体験を最大のウリにしている。


そもそも日本に「宿泊施設を備えた地方レストラン」をつくることは、創業者平松氏の30余年の念願であっというから、その目の付けどころは卓見というべきだろう。今でこそ、日本の地方において、ローカル・ガストロノミーと呼ぶにふさわしい魅力的なレストランが続々と誕生しているが、それに見合うホテルを併設していることは稀だからである。

私は、地方を美食で活性化することを目的とした「DINING OUT」というプロジェクトに長年関わっているが、ゲストの宿泊施設を確保するのに苦慮するケースは少なくない。いま多くの地方自治体は、食で富裕層の観光誘致を推進しているが、それに見合うだけのホテルや宿泊施設を整備することは、急務になっているのだ。その意味で「ひらまつホテルズ」は、地方活性においても試金石になると思うのである。


一流レストランの総合力で御代田の魅力を開拓する


試金石という意味で、2021年3月16日に、7番目のホテルとして開業した「THE HIRAMATSU 軽井沢 御代田」は注目に値するのではないだろうか。軽井沢から車で20分ほどの御代田で、ほぼ手付かずの豊かな森の6万㎡の敷地を擁し、わずか37室という圧倒的なスペーシャス感を演出している。都心の美食ファンや軽井沢の別荘族を呼び込むだけでなく、地域の生産者の活性化という意味で地元からも大きな期待が寄せられている。


他のひらまつホテルズ同様に、地元の御代田を中心とした長野県を料理で表現するために、料理長の柳原章央さんは開業に先駆けて野菜の生産者はもちろん、果樹園や畜産業者、ジビエのハンターや鱒や佐久鯉の養殖業者など40近いサプライヤーを訪ねたという。ホテルの敷地内には立派な温室ハウスも併設し、土作りからはじめて、自家製ハーブや野菜などを育てている。


料理だけではない。ひらまつグループが培った、スタッフの高いホスピタリティや様々なアイデアで、顧客満足度を高めようと試みているのも興味深い。朝食はダイニングの他に「モーニングバスケット」をチョイスでき、テラスや芝生に広げてもいいという。敷地内に設置された「TAKIBIラウンジ」や森では、アウトドアでの食体験も計画中であるという。また、本館の他にヴィラタイプも9棟あるが、すべてのヴィラにミニキッチンを配し、内2棟はペット同伴可。御代田の大自然と融合した、ここでしか味わえない特別な体験を創造してくれることを大いに期待するのである。


個人的には、海外の富裕層をこの地に呼び込み、地域を活性化するという意味でも、日本のローカル・ガストロノミーのけん引役としても、その強みを生かし「アジアのベストレストラン50」のランクインを狙って欲しいと願うのである。





◎THE HIRAMATSU 軽井沢 御代田
長野県北佐久郡御代田町大字塩野375番地723
☎ 0267-31-5680(予約受付9:00~18:00)
https://www.hiramatsuhotels.com/miyota/



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