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料理人は社会といかに関わるのか?

「the Blind Donkey」、第2章へ。

Feature / MovementAug. 27, 2020

ジェローム・ワーグさんと原川慎一郎さん、2人の料理人が立ち上げた東京・神田のレストラン「the Blind Donkey」が、9月から新しいステップを踏み出す。
原川さんが離れ、ジェロームさんを中心とするメンバーで航海を続けていくことになる。
30席という小さな拠点で、「100% Organic Japan」という大きな旗印を掲げてきた、その理念に変わりはない。クルーは新しくなっても、目指す地点は変わらない。


「100% Organic Japan」をミッションとして。

今、レストランや料理人のあり方が変わろうとしている。
「新しい生活様式」という旗印の下に、営業形態、提供方法、人員体制、つまりは経営の構造自体が見直しを迫られている。
レストランの役割とは何なのか? レストランは社会の中でどう機能すべきなのか? 店の機能にもまして、料理人自身はどんな役目を担ったらいい?
すでに考え始めていたことではある。地域の資源を循環させて小さな経済を健全に成立させる手段としても、気候変動や食糧危機といった地球規模の大きな課題解決の手段としても、食は有効だ。レストランや料理人が社会で果たす役割が明確化されようとしていた時に、コロナはやってきた。

ジェローム・ワーグと原川慎一郎、2人の料理人は少し先を歩んでいたと思う(少なくとも日本のレストラン界においては)。
タッグを組んで「RichSoil & Co.」という会社を設立したのが2017年。「豊かな土壌をつくっていこう」との思いを社名に刻み、「100% Organic Japan」をミッションに掲げた。

100%オーガニック!? ナンセンスだ、絵空事だ、と思う。なにせ、日本の耕地面積における有機農業が占める割合は0.5%である。
ジェロームさんも原川さんもそんなことはわかっている。
「美しくもクレイジーなアイデアです。でもね、船に乗って、水平線の広がりを見て、私たちがどこへ進もうとしているのか確認する時に、30%とか50%ではなく100%が掲げられているほうが全員で前進すべき地点が明快でしょう? ゴールにはならないかもしれないが、針路は明示される。それにクレイジーであるほど活力が湧いてくる(笑)。言ってみる価値はあると思った」
もうひとつ、ジェロームさんはひそかに夢見たのだという。
「日本は島国です。もし、100%オーガニックが達成されたら、完璧なオーガニック状態が実現する。日本を自然いっぱいの庭に見立てることで、それは面白い実験になるんじゃないかって」

同年12月、2人は東京・神田駅近くに「the Blind Donkey」を開く。
「the Blind Donkeyは、店というより場」、そう語るのは原川さんだ。開業までの準備期間中、北海道から沖縄まで全国々浦々の生産者を訪ね歩いたジェロームさんと原川さんは、the Blind Donkeyを“全国の生産者が集う場”と位置付けたのである。「シェ・パニース」で20年以上働く中で米西海岸のオーガニックムーブメントを体験しているジェロームさんの眼に、日本のオーガニック生産者は「個」にして「孤」と映った。
「西海岸のムーブメントは、農民、料理人、食べ手、みんなで手を組んで作り上げた。日本のオーガニック生産者は、個々で取り組み、孤立しがちな印象を受けた」
そんな生産者たちがthe Blind Donkeyを通して、互いに知り合い、交流し合えないだろうか。彼らを日本中の人々に知ってもらう場になれたら。神田という東京のど真ん中でレストランを営む意味のひとつはそこにあると考えた。

ジェロームさんが目指したのは「農家の存在を伝えるフロントウィンドウになること」。実際、「様々な生産者がやって来て、農業、漁業に関わる人たち、取り巻く人たち、食材に興味のある人たちが一緒にカウンターを囲み、独特の雰囲気が醸し出されるようになりました。これまで料理関係者やメディアの人たちが集うレストランの光景というのはよく見受けられたけれど、ここで繰り広げられるのはまた違った光景」と原川さんは言う。


The Blind Donkeyでの料理。



東京で発信する、地域で料理する。

コロナによる自粛期間中のthe Blind Donkeyは、2人が目指してきたレストランと料理人のあり方を体現していたと言っていい。
3月31日から営業を自粛する代わりに情報発信を強化。SNSで生産者の紹介を始めた。フィロソフィ、バックグラウンド、自然との向き合い方、栽培や飼育の仕方、作物の持ち味などを克明に伝えていく。並行して4月11日からは原川さんが各地の生産者や自然環境家と語り合うインスタグラム・ライブトーク“Let’s talk about RichSoil!”を敢行。北海道・ニセコ「LaLaLa Farm」服部吉弘さん、山梨・北杜「ソイルデザイン」四井真治さん、長崎・雲仙「オーガニックベース」奥津爾さん、広島・宮島「中岡農園」山本悟史さんなどが登場して、全16回実施された。
「the Blind Donkeyをオープンして3年弱ですが、志の高い小さな生産者が増えたと感じています。マイノリティであることに変わりはないけれど、誇りを持って上を向いて仕事して、ポジティブなエネルギーを発している」
the Blind Donkeyを訪れたことのない人にもそういった生産者の考え方や仕事ぶりを知ってもらう格好の機会と、原川さんはライブトークに注力した。


5月18日に行われたインスタライブトーク第16回は、新刊『奥津典子の台所の学校』を出版した雲仙の奥津典子さんと。奥津さんは風土と身体に根ざした料理を伝える「オーガニックベース」主宰、オーガニック野菜の直売所「タネト」を運営している。

原川さんがthe Blind Donkeyのキッチンから生産者の声を届けている頃、ジェロームさんは徳島県神山町にいた。
「なぜ、神山に」という疑問には、神山の「フードハブ・プロジェクト」支配人・真鍋太一さんに答えてもらおう。
「昨年9月からフードハブ・プロジェクトがRichSoil & Coの経営に参画し、the Blind Donkeyと連携するようになったからなんですね」。
真鍋さんは、食のプロジェクト「ノマディックキッチン」を通して原川さんやジェロームさんとの親交が厚く、その縁からの参画となった。
ジェロームさんは神山に第2の住まいを構え、畑にする土地を借りた。神山の野菜を使って、フードハブ・プロジェクトの中核施設である「かま屋」の料理人たちと一緒に料理を作り、「Donkey at Home」の名称でニンジンのケチャップや梅チャツネといった加工品の製作にいそしんだ。畑の開墾や掃除にも汗を流した。
「お皿の上の仕事は、農家が半分、料理人が半分」――ジェロームさんは「かま屋」のメンバーに伝えたそうだ。「『農家が半分』と聞いた時、改めてそのことに気付かれました」とかま屋料理長の清水愛さんは言う。田畑に囲まれ、新鮮な野菜を使える環境にいる身からすれば、当たり前すぎて見過ごしていた事実なのだろう。「そこにある季節のものを『直前』に料理し、食材の力を可能なかぎり引き出すんだ、と言われました」。


かま屋の調理場に立つジェロームさん。西海岸でも東京でも神山でも、食材との向き合い方は変わらない。

「野菜を切るポイントとして、ジェロームが『野菜本来の形を感じられるように切った方がよりおいしくて楽しいよ』と言っていました。揚げ物にする時、ナスは輪切りや乱切りにしがちでしたが、なるほど!と思う一コマでした」とスタッフ。

料理人として「100% Organic Japan」のために採れる方法はいろいろある。the Blind Donkeyというレストランである必要はないのかもしれない。東京・神田でなくてもいいのかもしれない。営業自粛の事態は図らずも目的と手段の関係の見直しを静かに迫った。
「Be political.」――これは、フードハブの真鍋さんがジェロームさんから授けられた言葉だ。ジェロームさんから言われたもうひとつの言葉、「土地が食を育み、食が人をつくり、そして人が社会をつくる」を真鍋さんはフードハブ・プロジェクトの原点に据えている。自らの営みが社会とどう関わり、社会をどう動していくのかを意識しなければ、存在の継続が危ういことは、コロナ禍が証明している。


スピリットは続く、じわじわ広がる。

原川さんは今夏、大きな決断をした。Rich Soil & Coの経営から退き、the Blind Donkeyに立つのは8月末までと決めた。
「長崎県雲仙市で35年にわたって在来種・固定種の野菜を自家採種しながら有機栽培で育てる岩崎政利さんの近くに拠点を移すことにしました。岩崎さんと奥様が2人で手掛けてきた農業は世界に誇るべきもの。その種継ぎの文化をしっかり見ておきたいのです」
これまでは東京に軸足を置き、広く伝える役割を果たしてきたが、これからは生産者の側に身を置いて、彼らの仕事をより深く理解したいと願う。
「年内にも、岩崎さんの野菜を使った料理を提供する小さな店を開けたらいいなと思っています」
生産者の傍らで料理によって彼らの文化を伝えていくことを当面の使命として、原川さんはこれからの料理人人生を進めていく。

一方、かま屋でのジェロームさんの料理は、世代を超えて好評で、客層の幅を拡げた。
ジェロームさんは自身の料理を「自然の料理」と表現する。清水さんが伝授された「そこにある季節のものを『直前』に料理し、食材の力を可能なかぎり引き出す」ように調理される料理は、型にはまらず自由だ。夏野菜のグラタン、夏野菜のファルシ、スイカとトマトのガスパチョ、ナスのフリット、レモングラスとコリアンダーシードを炊き込んだごはん……出身地のフランス、20年以上働いたシェ・パニース、the Blind Donkeyでの日々、神山の暮らしが混然一体となった料理でもある。ジェロームさんのエッセンスが加わることで、かま屋の料理は解放され、神山に新しい風が吹いた。
「食堂からレストラン寄りになって、地元の人が来にくくなるかなと思ったら、逆に同じ野菜でも家と違うものを食べさせてもらえると評判がいい。地元の農家さんも以前より頻繁に来てくれるようになった」と真鍋さん。
「和食は素材を生かす調理法ではあるけれど、多くの料理にだしを使う。だしを使わずに素材の味をダイレクトに表現するおいしさをもっと実感してほしいかな」とジェロームさん。彼には地域の人々にこそ知ってほしい味がある。確かに有機栽培による味の濃い野菜はだしの旨味を介入させないほうがいい場合は少なくない。RichSoil & Co.が目指す「100% Organic Japan」は実のところ調理法と結び付いている。


ジェロームさんの教えは神山にじわじわと浸透。「実がなったけん、どうする!?」とキッチンに届いたイチジクをスタッフはタルトに焼き上げ、生産者へ届けた。「受け取るだけでなく、どのようなカタチになったのかまで伝えられる作り手でありたい」と。

ジェロームさんが神山の素材で作る加工品「Donkey at Home」には次のようなメッセージが込められている。
From rich soils to your everyday life 豊かな土から、あなたの毎日の暮らしへ
この地球は、わたしたちの“庭”です。その庭を耕すことで、わたしたちは生命を育んでいます。地球が健やかであることは、生きとし生けるものにとっての命の条件であり、私たちの人間性を保証するものです。 ”Donkey at Home”は、自然環境や動物をこよなく愛する日本の小さな生産者が育てた作物をつかい、the Blind Donkeyのキッチンで生まれた職人のこだわりがつまった商品です。 


7月末、ジェロームさんは東京に戻ってきた。原川さんが抜けたからと言って、the Blind Donkeyが大きく変わるわけではない。「能舞台の松のように、壁にマラカイト(顔料の松葉緑青)で日本地図を描いた絵を設置して、そこに農家をマッピングしようと思っている」と、ジェロームさんはこれからの航海の道標を思い描く。
8月末現在、The Blind Donkeyはマネージャーを募集中だ。Facebookの募集のお知らせには次のように記されている。

“100% Organic Japan”をかかげる私たちの活動が、レストランという枠組みをこえ、自然と共に豊かなものごとを育んでゆく土壌となるよう、一緒にそれを楽しみながら耕してゆける仲間に出会えることを願っています。






◎ the Blind Donkey
東京都千代田区内神田3-17-4
☎ 050-3184-0529
11:30~14:00LO
17:30~21:30LO
日曜、月曜休
https://www.theblinddonkey.jp/
Instagram: @theblinddonkey.jp
Facebook: https://www.facebook.com/theBlindDonkey.jp/















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