HOME 〉

SDGs

「KURKKU FIELDS」が提案する人間らしい営み、これからの豊かさ。-前編

2019.11.06

text by Chiyo Sagae / photographs by Hide Urabe

地球上の営みはみななんらかの形で繋がっていることを目の当たりにさせてくれるのが、11月2日、千葉県木更津市で第1期オープンを迎えたサステナブルファーム&パーク「KURKKU FIELDS」です。長年にわたって“サステナブルな社会”をテーマに活動を展開してきた音楽プロデューサー小林武史さんが考える、これからの人や社会の豊かさへの示唆が詰まっています。

TOP写真:サラダには採れたての野菜、生みたての卵、猟師が仕留めたイノシシのスペアリブが。イノシシ肉で作るソーセージは枝豆などの野菜入り。ジャガイモやマスタードを添えて。



サステナブルな活動が連鎖する

環境プロジェクトへの融資を目的とした「ap bank」に始まり、レストランやカフェを通して生産者と都市をつなぐ消費のあり方を提案する「kurkku」、有機農場の生産と運営を担う農業生産法人「耕す」の設立と、分野を超えた活動で注目を集めてきた音楽プロデューサーの小林武史さん。今、世界が共有するサステナブルという課題に、早くから業種の境を超える数多くの仲間と手を携えて歩みを進めてきた先駆的存在です。

音楽の最前線で活動を続けながら、環境、食、農業を取り巻く課題に、時間をかけて一つ一つ行動を起こしてきました。「クルックフィールズ」はそんな一連の活動のひとつの集大成と言えるのかもしれません。「始まりはジョン・レノン、そして、9・11だった」と小林武史さん。「経済の暴走によるダメージへの反発」から〝サステナブルな社会づくり〞をテーマとする「ap bank」を音楽家の坂本龍一氏、Mr.Children桜井和寿氏と共に創設したのは2003年のことでした。

プロジェクトの大小に関わらず、環境保護や自然エネルギー促進など、環境にポジティブに働きかける個人や団体へ低金利で融資する、これまでにない非営利団体の創設は、強い想いと新しい発想を持ちながらも資金の調達に悩む人々を動かす機動力となりました。環境をテーマに開催する野外音楽イベント「ap bank fes」では、会場でのオーガニックフードの提供や識者によるトークイベントなどを通じて、数万人規模の参加者にメッセージを伝えています。

東日本大震災後にはいち早く「ap bank Fund for Japan」を立ち上げて、募金、炊き出し、ボランティア派遣に尽力。17年からは石巻と牡鹿半島を拠点として、アート、音楽、食を楽しむ「Reborn-Art Festival」を約2カ月にわたって開催するなど、小林さんの活動の根底にはいつも人間らしさとは何かを問い続ける姿勢がありました。今年の「Reborn-Art Festival」のテーマは「いのちのてざわり」。もはや復興支援という意味合いを超え、人や自然の本質的なあり方を問うイベントとなっています。


経済の中でサステナブルを実践

小林さんには、もうひとつ、サステナブルを経済社会の中で実践していくという考え方があります。有機生産者と都市生活をつなぐレストラン・カフェ「kurkku kitchen」や総合的な食の商業施設「代々木VILLAGE by kurkku」は、未来を見据えた新しい消費のあり方の提案と言えるでしょう。
人と人が交差し、出会いが生まれる場の生は、新たな仲間を呼び寄せます。

「時間をかけても土を生かした農業を」と、ap bank と地元の株式会社千葉農産との協働による「耕す 木更津農場」を開場したのが10年前。目指したのは、次の世代も使い続けられる農地でした。20年ほど前まで牧場だったという全30haの敷地は、長い間、残土の受け入れをしていたため、コンクリートのガラを撤去しながらの開墾と土づくりからスタート。今、「耕す 木更津農場」は6・6haの畑に有機JAS認証を取得して、ニンジン、カブ、ジャガイモなどの根菜、レタス、枝豆などを栽培しています。


オーガニックファームでニンジン、ダイコン、カブ、オクラなど10数種の野菜を、エディブルガーデンでハーブや食用花を栽培。枝豆の品種は千葉県君津市の小糸川流域で守り育てられてきた小糸在来。

平飼いする鶏の品種は日本にルーツを持つもみじ、岡崎おうはん。くちばしを切らないため硬いエサも食べるため、腸が長いそうだ。


オーガニック普及率が1%にも満たないオーガニック後進国の日本において少しでもオーガニックを当たり前にするには規模も重要と考え、すでにニンジンだけでも年間100トンに及ぶ生産能力を持ちます。発酵飼料入りの餌で平飼いする鶏は1500羽を超え、知る人ぞ知る人気商品として流通しています。



循環、持続、自立のモデル

KURKKU FIELDSの農業部門の中心的存在、新井洸真さん。この壮大なフィールドをこれからさらにどう実らせていくか、構想する。

今秋、「耕す 木更津農場」は「クルックフィールズ」へと大きく舵を切りました。
水牛やブラウンスイスを飼ってチーズを作り、近隣にジビエの解体処理場を設置して場内でシャルキュトリーに加工。一般客のためのダイニングやベーカリー、シフォンケーキのアトリエが設えられ、採れたての卵や野菜から調理される料理やお菓子を提供。農と食のつながりが見事に可視化されています。

斜面ではヤギやブラウンスイスを放牧。

水牛を約30頭飼育。雌牛19頭、雄牛1頭、自然交配で今春生まれた仔牛が10頭。

水牛の乳からチーズ職人の竹島英俊さんがモッツァレッラチーズを作る。そのまま提供される他、ピッツァにも使われる。



ダイニングの食物残渣はミミズを活用したコンポストに、飼育動物の糞は堆肥に、ダイニングの排水はバイオジオフィルター(*1)の小川となって敷地を巡ります。斜面を覆う膨大なソーラーパネルによる発電事業は、農場の消費をはるかに上回る電力を蓄え、農場経営の一端を支えます。「オーガニックなまちづくり」を打ち出す木更津市とも連携し、環境省が推し進める「地域循環共産圏」(*2)の小さなモデルとも言えます。

*1 植物や微生物など自然の力による浄化システム *2 地域資源を生かした自立・分散型の社会形成を目指す。


オープン直前、台風15号に見舞われ、ビニールハウスなどの施設が破損。停電が続く中で、動物のケア、建物の修復、畑の整備に追われました。オープンを延期せざるを得なかった反面、見えてきたことも。ことにエネルギーの問題は大きく、より自立性を高める方向へと向かっています。
誰もが「自分を耕す」ことから何かが変わる。「クルックフィールズ」誕生の軌跡に、そんな想いがよぎります。



◎ KURKKU FIELDS
千葉県木更津市矢那2503
9:00~17:00
定休日:祝日以外の火曜日、水曜日
入場料:平日無料、休日:大人(中学生以上)1000円、
子供(4歳~小学6年生)500円、未就学児無料




<NEWS>
「食と農のつながり、これからの人と社会の豊かさ」をテーマに、「kurkku」代表 小林武史さんと、「アイーダ」オーナーシェフ小林寛司さんにご登壇いただきます!奮ってご参加ください!(※本カンファレンスは終了しました)

食の専門メディア・料理通信社が主催するSDGsカンファレンス
2019年11月27日(水)開催 ‟食×SDGs” Conference-Beyond Sustainability- #1

 



ゴールとのつながり


7

エネルギー   エネルギーとの向き合いを見直す


11

まちづくり   人、地域、自然との連携を大切に


12

つくる責任つかう責任   食と農のつながりを知り、持続可能な農業品を選ぶ


13

気候変動   温暖化を促進する行動を控える


15

陸の豊かさを守ろう   生態系を守る




  

<OUR CONTRIBUTION TO SDGs>
地球規模でおきている様々な課顆と向き合うため、国連は持続可能な開発目標 (Sustainable Development Goals) を採択し、解決に向けて動き出 しています 。料理通信社は、食の領域と深く関わるSDGs達成に繋がる事業を目指し、メディア活動を続けて参ります。

料理通信メールマガジン(無料)に登録しませんか?

食のプロや愛好家が求める国内外の食の世界の動き、プロの名作レシピ、スペシャルなイベント情報などをお届けします。