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SDGs

緩やかな糖質制限食

ロカボが築く 健やかな未来。

2019.11.06

text by Chiyo Sagae / photographs by Hide Urabe /drawing by Shinya Tatsukawa (TOP写真):『糖質制限の真実 日本人を救う革命的食事法ロカボのすべて』(幻冬舎刊)から「メタボリックドミノ」の概念図。様々な病気の源流近くに「食後高血糖」があることがわかる。

SDGsが地球規模の持続可能な開発目標なら、ロカボ=緩やかな糖質制限食は一人の人間の持続可能な健康寿命を支える食事法と言えるでしょう。生活習慣病をはじめ、ガン、心臓病、脳卒中にもつながる血糖値異常を改善するロカボの提唱者、北里研究所病院 糖尿病センター長の山田悟医師に、日々の楽しい食を通じて実現する予防医学とその有効性を伺いました。



国連決議「Unite for Diabetes」

2006年、国連は糖尿病撲滅の決議を行ないました。「Unite for Diabetes」(世界は糖尿病対策のために一致団結しよう)。結核やAIDSといった感染症に対して決議を発してきた国連が、一人ひとりの生活習慣に起因する糖尿病に向けた決議を採択する……糖尿病対策は国際的な課題なのだという認識を突き付けたのでした。


注意すべきは食後高血糖

過食や運動不足など日常の悪しき習慣は糖尿病、高血圧、脂質異常症などの生活習慣病(=メタボリックシンドローム)を引き起こし、ひいてはガン、心臓病、脳卒中といった病気のリスクを高めます。ドミノ倒しのような負の連鎖、すなわち「メタボリックドミノ」(上図参照)です。

「現在の日本は、血圧異常者4000万人、血糖異常者2000万人、脂質異常者1400万人と言われます。糖尿病に限定すると、日本人の約6人に1人が血糖異常者、40歳以上に限定すれば約3人に1人が糖尿病予備軍なのです」と北里研究所病院 糖尿病センター長の山田悟先生は指摘します。


山田悟医師。医学博士 北里研究所病院 糖尿病センター長、一般社団法人 食・楽・健康協会 代表理事


山田先生が特に注意を促すのが「食後高血糖」です。血糖異常はまず食後高血糖として現れます。しかし、食後の血糖値が異常に上がってしまう人でも、空腹時血糖値は糖尿病になる直前まで上がらない。つまり、空腹時血糖値しか測らない通常の健康診断では異常が見つかりにくいという問題があるのです。メタボリックドミノの図に示されているように、様々な病気の根っこに食後高血糖は位置しています。根っこを押さえることが、病気の誘引となる生活習慣病の発症を抑え、様々な病気の予防になると考えると、まずは食後高血糖を引き起こさないことが第一歩。治す前に防ぐという予防医学の姿がここにあります。高齢化の進行と共に医療費の増大が問題になる今、病気を未然に防ぐことがひいては医療費の削減に繋がる意味でも、食後高血糖を意識する重要度は高いと言えるでしょう。



緩やかな糖質制限食=ロカボの意義

糖尿病対策として挙げられる食事と運動ですが、先進国の社会人の日常で理想的な運動量をこなせる人は多くありません。それよりも三度の食事で血糖値をコントロールするほうがよほど現実的です。
意外に認識されていないことですが、血糖値を上げるのは、3大栄養素(たんぱく質、脂質、炭水化物)のうち、植物繊維を除く炭水化物の「糖質」だけという事実があります。「糖質以外の栄養素は、むしろ 糖質摂取に伴う血糖値上昇にブレーキをかける働きがある」と山田先生。

「低糖質の食事は、食後血糖値の上昇幅を小さくします。血糖の激しい上下動は酸化ストレスを引き起こし、それが老化や細胞のガン化ほか、認知機能の低下を招く。高血糖そのものも、血糖の上下動も、またインスリンの過剰分泌(血糖値は正常に保つが太るという現象)も良くない。となると、糖質摂取量を少なくして血糖値をなだらかに保つことが、体にとって最も負担が少ない食事法ということになります」

とはいえ、おいしく楽しくなければ続きません。そこで山田先生が提唱するのが「ロカボ(緩やかな糖質制限食)」です。
ロカボの特徴は、1食の糖質量を20〜40gに抑えれば、たんぱく質、脂質、糖質を除く炭水化物に制限はなく、間食も1日に糖質10g内ならOKという制限の緩やかさにあります。「1食の糖質量を守って、1日の糖質の摂取量を70〜130g以内に抑えれば、お腹いっぱい食べて大丈夫」。満腹が高インスリン血症を起こすわけではなく、糖質の取り過ぎが食後高血糖→高インスリン血症→肥満へとつながることがわかっているから心配無用。むしろ満腹というシグナルは人間の身体に備わったメカニズムと捉えましょう。我慢や罪悪感を持たない糖質制限食だからこそ、長く続けられるし、リバウンドも起きにくくなるというわけです。

おにぎり2個と野菜ジュース。時間がない時の朝食や昼食の典型だが、これだけで糖質が約100gに達する。





1食あたりの糖質量を20~40gに抑え、間食として1日10gの糖質を摂る。合計で1日の糖質量を70~130gに。



社会にロカボを広める

山田先生は、『糖質制限の真実』に続けて『カロリー制限の大罪』(幻冬舎刊)を上梓。持続可能で真に効果がある食事法とは何かを世に問い続けている。



欧米人に比べてインスリン分泌能力の低い日本人は、元来、食による高血糖が起こりやすいとされています。加齢に伴う分泌の衰えを考慮すれば、生活習慣病が気になる30代以降の人は自分の血糖値を意識することが望ましいでしょう。

山田先生は、ロカボの考え方を普及させ、作り手にも食べ手にもロカボを実践しやすい、より良い社会の実現を目指して、一般社団法人「食・楽・健康協会」を立ち上げました。企業と連携して適正糖質食品の開発を推し進め、麺やパンといった本来糖質の高い食品も楽しめる環境づくりに取り組んでいます。また、料理人やパティシエとのレシピ開発は、外食産業の理解を深めると同時に、ロカボ実践者に外食の楽しみと選択肢を広げています。

社会を健康にするのは一人ひとりの健康に他なりません。ロカボとはその根幹を太く強くする食事法。ロカボの浸透が人々の健康を支え、健やかな未来をつくります。



企業と連携して開発をサポートするロカボ商品には売り場でわかりやすいようマークを付ける。

ロカボの考え方を広める活動にも力を入れる。今年9月28~29日には、東京・日本橋を舞台に「日本橋ロカボ祭2019」が開かれた。

現代人が生活に取り入れやすいロカボ商品の開発を企業と連携して推進する。



◎ ロカボオフィシャルサイト
https://locabo.net




<NEWS>
「ロカボが築く 健やかな未来。」をテーマに、山田悟先生にご登壇いただきます!

食の専門メディア・料理通信社が主催するSDGsカンファレンス
11月27日(水)開催 ‟食×SDGs” Conference-Beyond Sustainability- #1

 



ゴールとのつながり


3

健康と福祉   病気を未然に防ぎ、医療費を削減する


8

働きがいも経済成長も   活力ある労働力で経済を活性


11

まちづくり   健康で強靭な社会をつくる


12

つくる責任つかう責任   過剰に消費しない、適切な食材摂取




  

<OUR CONTRIBUTION TO SDGs>
地球規模でおきている様々な課顆と向き合うため、国連は持続可能な開発目標 (Sustainable Development Goals) を採択し、解決に向けて動き出 しています 。料理通信社は、食の領域と深く関わるSDGs達成に繋がる事業を目指し、メディア活動を続けて参ります。

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