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SDGs

365日、名水生活~島根・隠岐(おき)諸島~

島の名水が支える暮らし

2019.03.06

photographs by Hide Urabe

本土からおよそ60km離れた日本海に浮かぶ隠岐諸島は、「日本名水百選」に選ばれた名水の地のほかにも、島のあちこちに湧き水が点在する水の島。雨のない日が続いても、水は枯れることなく、人々が安心して暮らせる環境を島の中に築いています。



水を思い、水を祀る



島々をつなぐ交通手段はフェリーや高速船。空港があるのは、隠岐の島町のみ。

断崖から空中を流れ落ちてくる「壇鏡(だんぎょう)の滝」。その崖にはりつくように神社の本殿が建つ姿を見た時、自然も凄いが、ここに本殿を建てようと考えた昔の人の信仰心も凄い、と息をのんだ。隠岐諸島には「日本名水百選」に選ばれた名水の里が2つある。その一つが人里離れた山深い場所にある、壇鏡の滝だ。



壇鏡の滝は岩肌を伝うのではなく、空中から降り注ぐように流れる。800年続く島の名物行事「牛突き」では、ここで汲んだ水を牛に与える儀式が執り行われ、神聖な水として今も人々とつながっている。



島根県の本土からおよそ60km離れた日本海に浮かぶ隠岐諸島は、4つの島からなる。壇鏡の滝がある隠岐の島町が最も大きく北に位置する。
そこから南西へ20キロメートル離れた海士町(あまちょう)に、もう一つの名水の里「天川(てんかわ)の水」がある。ここからは海も見え、道を挟んだ向かいには手入れされた田んぼが続く。水汲み場の両脇にはお地蔵さんが見守るように何体も佇み、流れる水の先には、人の手で束ねられた榊がお供え前の水上げをしていた。水に恵まれた土地と言われる隠岐諸島だが、島の人々が水を大切に思い、日々、手を合わせている姿が、景色の中に見え隠れする。



「天川の水」を見守るように何体ものお地蔵さんが佇む。一帯には神聖な空気が流れる。


米は酒へ、稲藁は牛へ。水がつなぐ島の営み

海士町で米を栽培する波多剛さんも水を大切に扱う島の人の一人だ。湧き水は、一年を通して温度も水量も安定しているが、「大量の水を一定期間必要とする米作りには足りない」という。島では昔ながらの溜め池に雨水を溜め、田植え前から夏の終わりにかけて、田んぼを潤す。波多さんは海士町初のブランド米「海士の本氣米」をはじめ、島で唯一の専業米農家として、モチ米や酒米も栽培し島の米文化を支える。



海士町初のブランド米「海士の本氣米」は、農薬を半分以下に減らし、島で養殖する牡蠣殻と隠岐牛の堆肥を混ぜた土壌で栽培したコシヒカリ。

「年間まだ80俵ほどですが、試験場の食味値検査では毎年数値が上がっています」と波多剛さん。



その酒米を天川の水で醸した純米酒が「承久の宴」だ。隠岐は倒幕に敗れた後鳥羽、後醍醐、二人の天皇が流された島でもある。「隠岐酒造」の毛利彰さんは島の歴史を酒造りにも映し、室町と江戸、二つの時代の文献を紐解き、当時の酒を復元する。ほぼ精米しない、精米歩合90%の生酛造りの酒は、いま、若い世代が求める自然な味わいの酒に仕上がっていた。



海士町で栽培する酒米「改良雄町」と名水百選の天川の水で醸す「承久の宴」。

「隠岐誉室町の純米酒90」(左)は琥珀色でしっかりとした甘味、「隠岐誉江戸の純米酒90」(中央)は室町より色は明るく、味わいは室町より軽やかで食中酒としても。現代の造りの純米酒もある。

島の酒を次代へつなぐ「隠岐酒造」の毛利彰社長(右)と杜氏の小島修一さん(左)。


湧き水を飲んで育つ、島生まれ、島育ちの牛

水の恩恵を受けているのは人間だけではない。島では牛も湧き水を飲みながら育つ。4つの島の中で人口が最も少ない知夫村(ちぶむら)は牛と人の数がほぼ同じ。山の上でも水が湧く赤ハゲ山には、あちこちに水飲み場が点在する。島では繁殖用の母牛も子牛と一緒に放牧生活を送る。ストレスがないせいか、牛舎につながれている牛よりも子牛がたくさん産めるそう。



赤ハゲ山に放牧された牛は、海のミネラルを含んだ牧草を求めて歩き回り、湧き水を引いた水飲み場で喉を潤す。

赤ハゲ山で牛を放牧する川本巌さん。孫嫁の理子さんと牛の様子を見に来ていた。



「優秀な子牛が育つ環境がありながら、離島というハンデもあって、肉牛まで育てる生産者がいなかった」と語るのは海士町で15年前から肥育を手掛ける「隠岐潮風ファーム」の田仲寿夫さん。

田仲寿夫さん。「隠岐潮風ファーム」では、生後1年以上の放牧で胃袋と体が丈夫に育った子牛を購入し、約2年肥育して、32~38カ月で出荷している。

肥育には濃厚飼料だけでなく、稲藁が有効なエサとなる。田仲さんは、島の間伐材を牛小屋に敷き、完熟させた堆肥を稲藁と引き換えに田んぼに撒く、循環型の畜産を実践する。より安全な国産の稲藁が手に入るのも、減農薬で米を栽培する農家が島内にあるからこそ。島の水が育む米、酒、牛は、次の時代に向けて新しい循環を島の中に作り始めている。



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