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JOURNAL / 世界の食トレンド

COVID-19対策―― アメリカ編

世界の飲食店はどう復活へ向かう? 

2020.08.11

COVID-19対策―― 世界の飲食店はどう復活へ向かう? アメリカ編

text by Akiko Katayama

世界の飲食店&飲食業に携わる人々はこの危機にどう対応し、何を学び、何を模索しているのか?“ウィズ・コロナ時代”を歩み始めた、各国在住のジャーナリストがリポートします。

(2020年7月15日時点の各国の状況に基づきます。)


コロナ禍を通じて見直しがかかる飲食業界

3月16日、ニューヨーク州の約5万軒の飲食店を、テイクアウトとデリバリー営業に制限する行政命令が発令され、州内労働者の9%、約87万人いる飲食業界関係者の多くが解雇された。3月27日には、連邦政府が「新型コロナウイルス対策関連法」による経済救済策を講じたが、支援を受けるにはコロナ前と同数のスタッフを6月末までに再雇用する必要があるなど、開店の見通しがない飲食業界には非現実的な内容。「GDPの4%を創出する業界の重要性を軽視せず、法に反映すべき」と、独立レストラン連合など業界団体が政府機関に訴え、6月3日にはより業界の現場に即した修正案が可決された。

一方、多少なりとも収益を確保しようと、ミシュラン星付きの高級店までデリバリーサービスを始める中、配達代行会社の30%にも及ぶ手数料は各都市で批判を受け、ニューヨークでも手数料の上限を20%にする行政命令が6月2日に発効された。 

飲食店を顧客にするビジネスが、柔軟に危機対応する例も見られる。州北部の有機農園「ノーウィッチ・メドウズ・ファーム」のゼイダ・クディア氏は、顧客の60%がレストラン。各店の依頼に応じて新しい食材を育てるなど、シェフの間で評価が高い生産者だ。氏は飲食店の営業規制で売上げの90%を失い、即座にオンラインでの消費者宅配販売に転換した。

スタッフは農作業から箱詰めなどの配送作業に移り、新鮮な青果を1箱50〜100ドル( 約5500~11,000円)で提供。感染を恐れて消費者が小売店での買い物を控える中、危機をチャンスに変えて現状を乗り切っている。氏はシェフたちに対して、こうアドバイスする。「“自分は高級フレンチのシェフ”といった発想を捨てること。そしておいしい食をコミュニティに届けるためにシェフの仕事が存在することを忘れず、求められる価値を提供すること。そこで得る柔軟な発想が、困難を打破するばかりか、新たなビジネスの開拓につながるかもしれません」

新店オープンに漕ぎ着く寸前に、コロナ禍に直面したのはヤエル・ピート氏だ。「プルーン」ほか屈指の人気店で修業後、慎重な準備を経て物件を確保し、この夏初の独立開業の準備を整えていたが、6月中旬に投資家が現状に鑑み出店を断念。「残念な気持ちは言葉にできませんが、コロナ前の人気店ですら再開が危ぶまれる中、適切な判断だと思っています。接客スタイルやテイクアウトの比重など、コロナの影響で今後大きく変わっていくであろう外食の姿を見極めながら、どんな店をやりたいかを再考します」。氏の展望は広い。

「飲食業界は、繁盛店でも利益率10%。投資家への配当重視で、実際に店を支えるスタッフの賃金・労働条件を圧迫するという不健全な体質を抱えてきました。全業界の中で最大数の失業者を出した今、飲食業界は新たなビジネスモデルを導入するいい機会。例えば、非営利事業として他業界と同レベルの賃金や労働条件を確保し、健康的でおいしい食事を援助が必要なコミュニティのために提供することも考えています」。
窮状の中、コロナ禍は飲食業界にとって新たな発想の起爆剤となっているのかもしれない。

TOP写真:コロナ危機に面して全米飲食業界関係者が立ち上げた、独立レストラン連合( The Independent Restaurant Coalition ) は、4 月29 日にオンラインセミナーを開催。連邦政府による飲食業界への適切な支援要請を訴えながら、関係者からの質疑に応答した。


世界のコロナ対策:アメリカの場合

▼行動制限要請、地域・全国封鎖の時期

*州により大幅に対応が異なるためニューヨーク州関連のみ

3/16~ 外出制限発令および学校閉鎖
*ヘルスケア、インフラ、食品・医療機器・医薬品等製造、ごみ収集・配送サービス、ニュースメディア、金融・保険、その他サプライチェーンに影響を及ぼす業種など必要不可欠な事業を除き、州内の全ての事務所や店舗を閉鎖し、全従業員を自宅待機させるよう指示

(以下、解除の流れ)
段階1 6/8~ 建設業・農業・製造業・卸売業・小売業(対面制限)が再開
段階2 6/22~ オフィス勤務・不動産業・理髪店・小売業(店内販売を含む)、飲食店(屋外)他が再開

*再開は4段階に分かれ、州内を10地域に分けて地域ごとに段階を踏む。感染者数、病院収容可能数、救急病床の確保数などに基づき再開のタイミングを判断

▼飲食業への要請や命令内容

3/16~ ニューヨーク州および隣接のニュージャージー州、コネチカット州において、テイクアウト、デリバリー営業に制限。ただし従来の規制を緩め、アルコール類も共に販売することを許可

(以下解除の流れ)
6/22~ 屋外での着席サービス再開(申請制で舗道、路上へのテーブル設置も可能)
7/6~ 店内での着席サービス再開予定が延期(7/15現在、州政府の許可待ち)

▼飲食業(企業全般)への主な救済策

(連邦政府による)

◎ 給付金
成人に1200ドル(約13万2000円)、未成年者(17歳以下)に500ドル(約5万5000円)を支給(所得により金額制限あり)

◎ 失業手当
対象者の拡大および給付期間の延長。各州からの給付に加え1週間あたり600ドル(約6万6000円)を給付

◎ 融資
中小企業向け短期融資
1000万ドル(約11億円)を上限に、無担保で全従業員(500人以下)の平均月額給与(基本給や健康保険料、年金積立金などを含む)総額の250%まで融資。返済期間5年。従業員給与(最低でも融資額の60%)、金利、水道光熱費に当てた場合は返済免除。既に解雇した従業員の再雇用も可

◎ 中小企業向け融資対象拡大
最長30年の低金利長期融資。審査基準は通常より緩い。金利は3.75%固定。融資額は被害と必要性に応じ最高200万ドル(約2億2000万円)まで


◎ Norwich Meadows Farm
https://www.norwichmeadowsfarm.com/

(『料理通信』2020年9・10月合併号/「ワールドトピックス」より)

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