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JOURNAL / 世界の食トレンド

COVID-19対策―― 世界の飲食店はどう復活へ向かう? インド編

2020.08.24


COVID-19対策――

世界の飲食店はどう復活へ向かう? インド編

Aug. 24, 2020

text by Akemi Yoshii

世界の飲食店&飲食業に携わる人々はこの危機にどう対応し、何を学び、何を模索しているのか?“ウィズ・コロナ時代”を歩み始めた、各国在住のジャーナリストがリポートします。

(2020年7月15日時点の各国の状況に基づきます。)





世界最長のロックダウン下で飲食業界の未来を模索

3月25日から始まったインドのロックダウンは、状況を見ながら延長が続けられてきたが、感染者数が6月末には56万人を超え、感染が集中する封じ込めゾーンを中心に、複数の州がロックダウンを7月末まで継続することを決定した。

ロックダウン中の飲食店の営業は、デリバリーとテイクアウトに限られ、営業時間短縮などの制限や警察の巡回も行われる中、細々と続けられてきた。飲食店約50万軒が加盟するインド・レストラン協会(以下NRAI)は、国・各州政府などに対して各種支援措置の要請を行うと共に、今後の飲食店の在り方を考えた取り組みを多方向から進めている。

「今回の危機は、飲食業界の贅肉をそぎ落とし、ビジネスモデルを再考して、より時代に合った形に生まれ変わる機会でもあるはずです」と、NRAI会長アヌラーグ・カトリアール氏は語る。コロナ禍の前から、大手フードデリバリー業者などいわゆる“デジタル大家”の台頭を危惧していたNRAIは、1件の手数料わずか1ルピー(約1.4円)のQRコード式セルフオーダーシステムの開発をロックダウン中に急ピッチで仕上げ、導入を開始した。またデリバリーシステムの改革にも着手。店舗賃料の算出方法を固定型から利益分配型に移行する交渉も進行中だ。一方で、今後、利用客にとって最も大切になるのは衛生管理だとし、飲食店用「コロナフリー・ガイドライン」を作成・無料配布し、各店が迷うことなく感染防止対策を行うための支援も6月末より始めている。

NRAIが配布する飲食店用「コロナフリー」ガイドライン。
訓練用動画も併せて作成。

南インドのチェンナイ市とベンガルール市で展開するケララ郷土料理レストラン「カッパ・チャッカ・カンダリ」の共同経営者兼カリナリーディレクターのレジ・マシュー氏は、伝統文化から新たな価値を創造しながら店内での営業再開に備えている。

同店は、南インド・ケララ州の家庭料理やトディショップと呼ばれる現地の居酒屋の料理を、現代風に再定義して提供しているが、現地で集めたレシピの研究をしていくうちに、多くの食材に薬効があることがわかったという。インドの伝統医学アーユルヴェーダが盛んなケララらしい話だ。そうした“母の知恵”が詰まったレシピを増やしながら、免疫力アップを促進するメニューなどを取り入れていきたいとマシュー氏は話す。

また、夜の営業は8時で終了となるため、アイドルタイムを利用した新企画を準備中だ。「ケララ州のキリスト教徒コミュニティには早めの時間に軽い夕食をとる習慣があるのですが、お粥や、蒸しヤム芋を添えた唐辛子のチャツネ、キャッサバを添えたフィッシュカレーなどを提供する時間を設ける予定です。現地のティーショップで人気のスナックとローカルドリンクを楽しむティータイムの導入も考えています」。

ゲストとの接触は最小限にせざるを得ない中でも、他では得られない食事体験を追求し、伝統食文化を再デザインするマシュー氏の姿勢から学ぶものは多そうだ。

TOP写真:レジ・マシュー氏。事前のテーブルセッティングは推奨されないため、バナナの葉に料理をサーブして手で食べる伝統的なスタイルをより積極的に勧めていくという。




<世界のコロナ対策:インドの場合>


▼行動制限要請、地域・全国封鎖の時期
3/16~ 学校休校、在宅勤務要請、集会禁止、人の集まる施設閉鎖
3/22~ 全国外出自粛(7:00~21:00、基本的に休業)
3/23~ 地域封鎖
3/25~ 全国封鎖
(以下、解除の流れ)
6/1~6/30 全国封鎖緩和 段階1
許可証があれば州境移動可、感染が集中する封じ込めゾーン以外で限定的に経済活動再開 (6/8~)。ただし夜間外出禁止および封じ込めゾーンのロックダウンは継続
7/1~7/30 全国封鎖緩和 段階2
州境移動許可証不要、夜間外出禁止時間の短縮、封じ込めゾーンのロックダウンは継続

▼飲食業への要請や命令内容
3/17~ テーブル間を1メートル以上空ける
3/22~ 全国外出禁止に伴い、全国の飲食店は休業
3/25~ テイクアウトおよびデリバリーのみ限定的に営業可。食料品は生活必需品と見なされ限定的に営業可
6/8~ 店内利用を限定的に再開可(封じ込めゾーンを除く。州によって異なる)

▼飲食業(企業全般)への主な救済策
◎ 年金等前払い
従業員準備基金の積立額の75%、もしくは3カ月分の基本給分どちらか低い額を引き出し可能など

◎ 納税猶予
支払い義務等の一時的停止措置(州によって異なる)

◎ 救済基金( インド・レストラン協会による)
新型コロナに感染した飲食店従業員を支援






◎ NRAI - National Restaurant Association of India
https://nrai.org

◎ Kappa Chakka Kandhari
www.kappachakkakandhari.com


(『料理通信』2020年9・10月合併号/「ワールドトピックス」より)



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