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JOURNAL / JAPAN

日本 [新潟] 日本の魅力 発見プロジェクト ~vol.10 糸魚川(いといがわ)~

世界最古のヒスイ文化発祥の地 糸魚川

2018.12.25

沼河比売(ぬなかわひめ、奴奈川姫)は、出雲の大国主命(おおくにぬしのみこと)から求婚されたと『古事記』では伝えられている。 

ヒスイと塩の淵源(えんげん)のまち

地球上最古のヒスイ文化が興ったのは、マヤでもインカでも中国でもない。新潟県の最西端に位置する日本の日本海側の小さなまち、糸魚川。約6000年前の縄文人が糸魚川ヒスイを加工して首飾りを作り始めたのが世界最古級のヒスイ文化と考えられている。さらに驚くべきことに、日本全国の遺跡から発掘されているヒスイの全てが糸魚川産であることも解明されている。

時代は下って、戦国時代。日本海沿岸を領地とする上杉謙信が海のない甲斐国の武田信玄に塩を送ったことから、敵の弱みにつけこまず、逆にその苦境から救うという意味で「敵に塩を送る」という言葉ができた。その塩は糸魚川から、長野県の白馬を通り松本方面に至る松本街道=「塩の道」を通って運ばれたのだ。

糸魚川へは、東京からは、金沢行きの北陸新幹線「はくたか」に乗って約2時間である。改札口に向けて歩みを進めると電車の出発を知らせる童謡「春よ来い」が駅に響く。糸魚川出身の相馬御風(そうまぎょふう)がこのメロディーに 「春よ来い 早く来い 歩き始めた…」と詞を付けたのは、春を待つ糸魚川の人々の気持ちを綴ったものだったのかもしれない。

1200年の空白を埋める、海岸のヒスイ探し



昭和13年に糸魚川市の姫川支流、小滝川上流でヒスイの原石が見つかり、国内の遺跡から出土するヒスイ製品は海外からもたらされたものと考えられていた当時の定説が覆された大発見があった。その後研究が進み、日本全国の遺跡から発掘されるヒスイ製品の全てが糸魚川産のヒスイで作られていることが分かり、2016年にはヒスイは日本の「国石」にも選定された。

糸魚川で最初にヒスイが発見された小滝川ヒスイ峡では、昭和31年に国の天然記念物に指定されて以降、ヒスイを採集することが禁じられているが、ヒスイ海岸や青海海岸では、誰でもヒスイ探しに興じることができる。




ヒスイの原石が海岸に打ち上げられるとのことで、他地域の砂利浜よりも綺麗な石が転がっているように思えるのは先入観のためだろうか。童心に帰って、海水に濡れてキラキラと光る石をただただ拾い集めるもよし。「硬度が高いヒスイは削れにくく、角張っていて重い。」という大人の知識を活用して、本気でヒスイの原石を探すのもよし。ただ、日本海の高波にはくれぐれも気を配りたい。拾った石をフォッサマグナミュージアムへ持ち込めば、本物のヒスイの原石かどうかを鑑定してもらえる。



沼河比売(ぬなかわひめ、奴奈川姫)は、出雲の大国主命(おおくにぬしのみこと)から求婚されたと『古事記』では伝えられている。 


天津神社境内社・奴奈川神社をはじめ、糸魚川市内に沼河比売を祀る論社が3社ある。
天津神社  新潟県糸魚川市一の宮1-3-34


小滝川ヒスイ峡
https://geo-itoigawa.com/igp/about/24geosite/geosite9/
新潟県糸魚川市 大字小滝
☎ 025-553-1785(糸魚川市観光案内所)
北陸自動車道「糸魚川IC」より車で約40分
4月下旬~11月上旬(積雪のため冬季通行不可)

ヒスイ海岸
新潟県糸魚川市押上2丁目4
☎ 025-552-1742(糸魚川市観光協会)
北陸自動車道「糸魚川IC」から国道8号経由で車で約10分

青海海岸
新潟県糸魚川市須沢
北陸自動車道「糸魚川IC」から車で約10分

フォッサマグナミュージアム
http://www.city.itoigawa.lg.jp/4586.htm
石の鑑定  火・木・土・日・祝日 10:00~12:00/13:00~16:30




埋められた太古の地質の溝

フォッサマグナとは、「フォッサ=溝」「マグナ=大きい」という意味のラテン語で、マグマとは一切関係ない。しかし、この意味を理解していると糸魚川への旅はより一層面白いものとなる。



日本列島がおよそ2000万年から1200万年前頃に大陸から離れる時、西側は時計回りに40から50度回転し、東側は反時計回りに40から50度回転した。簡単に言えば、観音開きのように折れ曲がりながら移動したのである。移動した際にできた大きな溝はフォッサマグナと呼ばれている。フォッサマグナは海であったが、フォッサマグナの北部は長い時間かけて土砂や火山の噴火物などが堆積し、さらに東西から押されて隆起し陸地になった。フォッサマグナの南部は、フィリピン海プレートが伊豆半島を伴って日本列島に近づいてきた時、この溝が圧縮され隆起し、現在の丹沢山地や南アルプスとなったのである。そして、糸魚川は、静岡の安倍川付近まで南北に延びるフォッサマグナの西の境目(糸魚川-静岡構造線)の出発点なのである。

このような日本列島の成り立ちを深く学ぶことができるのが、平成6年(1994年)に開館したフォッサマグナミュージアムである。テーマに分けて糸魚川の、ひいては日本列島の生い立ちが美しく、そして分かりやすく展示されている。

フォッサマグナミュージアム
http://www.city.itoigawa.lg.jp/
新潟県糸魚川市大字一ノ宮1313(美山公園内)
☎ 025-553-1880
入館料  一般 500円、高校生以下 無料
9:00~17:00(入館は16:30まで)月休・祝日の翌日休(12月~翌年2月)(3月から11月までは無休)




日本海の魚種が集まる昼ゼリ

画像提供:糸魚川市


糸魚川は日本海に面したまち。海産物が美味しくないわけがない。しかし、ここの海には他の海とは異なる特質がある。フォッサマグナや糸魚川-静岡構造線は、陸地だけで納まることはなく、海底にも繋がっているためである。フォッサマグナの深さは6000メートル級であると言われているが、糸魚川の近海には、陸から近い場所でも1000メートルの深さに達する溝があり、他の地域より多種にわたる海の恵みを近場でとることができるのだ。この利点を最大限に活用しているのが能生(のう)漁港。ここでは魚のセリが昼の15時から行われ、とりたての魚が市に並ぶ。



道の駅マリンドリーム能生には、日本海一のベニズワイガニ直売所がある。漁師直営の店の店番はお母さん。試食しながらお母さんとのおしゃべりを楽しむのも一興。カニを茹でるお湯に入れる塩の配合など、それぞれの店のこだわりも隠されている。

上越漁業協同組合 卸売市場 糸魚川市能生7567-2
☎ 025-566-5155
基本的に火・土曜休、悪天候の場合は休み。上越漁業協同組合のスケジュール表に準ずる)
北陸自動車道「能生IC」より車で約7分/能生駅より車で約5分
(市場は自由に見学できるが、ガイドを付ける場合には要予約)

道の駅マリンドリーム能生
http://www.marine-dream.net/
新潟県糸魚川市能生小泊3596-2
☎ 025-566-3456
通常(4/25-10/30) 8:00 - 17:30
冬季(11/1-4/24) 8:00 - 17:00
※禁漁期間:1・2月(一部店舗は県外産品にて営業)
北陸自動車道「能生I.C.」、えちごときめき鉄道「能生駅」より車で5分




糸魚川駅前商店街 ~大火を乗り越えて~


最近の糸魚川といえば、2016年の年末に起きた大火災(糸魚川駅北大火)が記憶に新しい。昼前に発生した火災は運悪く風の強い日で、火の手は糸魚川駅北側から日本海沿岸まで大きく拡がり、鎮火までに約30時間を要するほどの規模であった。まだ全面復興とまではいかないが、火災に見舞われた糸魚川駅前商店街の人たちには、前を向いて力強く歩む意志と笑顔が戻りつつある。




「おめでとう」と、すしを握る大将に挨拶しながら客がのれんをくぐる。糸魚川駅の日本海口から日本海に向かってまっすぐに延びるヒスイロードという駅前通りを、一本東に入った路地にある「重寿し」で見かけた光景である。「重寿し」は火元に近かったために全焼を免れなかった。被災して1年半ほどは約300メートル離れた場所の仮店舗で営業をしていたが、およそ2年経過した2018年11月1日に元の場所での営業を再開させたのである。地魚のすしが食べられる店として、地元の人にも観光客にも人気の重寿しの復活は、多くの人々が待ち望んでいた。



3代目大将の谷村潔さん。二人の板前とともに家族でお店を切り盛りしている。お米はすしに合うように、糸魚川産と他の米を独自の配合でブレンドした米を使う。父親の代からの配合だ。「細かいうんちくは苦手なんだよ」と言いながら、家族の味を守っている。

かさご、くろむつ、あら、まとうだい、南蛮エビ(甘エビ)など、糸魚川の海で揚がった地魚握りセット。弾力のある白身魚は、むっちりとした歯ごたえ。ほのかな甘味が口に広がる。

重寿し
新潟県糸魚川市大町1-3-12
☎ 025-552-0098
11:30~23:00 火曜休
JR北陸新幹線 糸魚川駅 徒歩4分




駅前通りを海に向かって右手側の大町に、昭和の始めに建てられたレトロモダンな建物がある。糸魚川で初めての鉄筋コンクリートの建物で、国の登録有形文化財に指定された「旧高野寫眞館」。過去に二度、火事に見舞われたが、2016年の大火では被災を免れた。「まちの人たちが集い、会話や笑い声がする空間として蘇らせたい」という思いを受け止めた現当主の髙野正明氏の厚意で、2017年5月に写真館の第二の人生が始まった。

ここから車で10分ほど東へ行った所にある「渡辺鶏園」直営の菓子屋である「フェルエッグ」の支店、「フェルのはなれ」という店に生まれ変わったのだ。「渡辺鶏園」が美味しいお菓子を作るために独自の研究を重ねて開発した洋菓子のための卵「ピュアエッグ」を原料にして作った焼き菓子やプリン、マヨネーズ、そしてお洒落な雑貨を販売している。もちろん、ただのお店ではない。糸魚川の人々が憩いの時間を過ごすための空間が用意されており、人々が集うイベントも随時開催されている。人の心を癒せるのは、人と人とのつながりだということをあらためて気づかせてもらった。



2階に上がると、そこはアナログの時代の寫眞館。家族写真を撮影する人たちが座っていただろう待合室や、暗室、昔のスタジオがそのまま残されている。

フェルのはなれ
https://f-agg.biz/
新潟県糸魚川市大町2-5-27
☎ 025-555-7360
4月~9月  11:00 – 17:00
10月~3月  11:00 – 16:00
水曜、第4木曜休



お目当ての「牛乳パン」は水の代わりに牛乳を練りこんだ生地に、バタークリームを挟んだ、素朴な味わいでフワフワの食感。昭和レトロなパッケージが、むしろカッコイイ。今はレトロと言われても、作り始めた頃にはハイカラと呼ばれた牛乳パン。

町の人から、糸魚川のソウルフードだと聞いた「牛乳パン」を製造販売するリーベルイノヤ。「私のひいおじいさんが戦後まもなく始めた店なんです。」と語る猪又久世(いのまたひさよ)さん。東京でパンとお菓子作りを学んだ後、糸魚川に戻り実家を継いでいる。「ただただ長く続いただけ」と、久世さんは控えめに語るが、開店当時の趣と商品を保ちながら、昭和、平成、そして新たな元号の時代を続けていくのは容易なことではない。

あの糸魚川駅北大火では、調理場で家族全員がクリスマスケーキを作る準備に奮闘していて、大火になっているとは思わなかった。近所の人が駆けつけ、初めて事の重大さを知ったが、この店を捨てて逃げる決心がつかなかったという。自宅に戻れたのは3日後のことだった。電気がつながった後、名前も知らない遠方の方から、無事の確認をする電話が何件もかかってきたのだ。地元の人たちだけでなく、遠くに住む人たちからも愛され続けている名店、リーベルイノヤ。古きよき温かく丸みのある空気に包まれた店である。久世さんの父、健之(たてゆき)さんがドイツパンの店で修業をしたことから、懐かしい昭和の香りのするパンとともに、ドイツ菓子がショーウィンドウに並んでいる。



リーベルイノヤのある本町通りは、雁木(がんぎ)が連なる商店街であったが、被災後の今も、少し残っている。雁木とは、雪が降っていても通りを歩けるようにするために、各商店自ら軒先を伸ばして作った、いわばアーケードの原型のような屋根。鳥の雁(がん)が群れをなして飛んでいる姿に似ていることから、この名前が付けられたという。

「美味しさとロマンを求めて頑張ってきました。これからも個性あるパン製造の原点にもどって一向研鑽。皆さんに喜んでいただけるパン、ケーキをと思っております。」
店を創業した久世さんのおじいさんが考えた口上が店に掲げられている。


リーベルイノヤ
新潟県糸魚川市本町6-8
☎ 025-552-0260 8:30~18:30 日曜休





Vol.10 糸魚川
世界最古のヒスイ文化発祥の地 糸魚川

(長野県白馬村/新潟県糸魚川市 小冊子PDF)
(長野県白馬村/新潟県糸魚川市【印刷用】PDF)

※本プロジェクトは、経済産業省関東経済産業局が実施する「平成29年度地域とホテルコンシェルジュが連携した、新たなインバウンド富裕層獲得のための支援事業」と連携して、グランド ハイアット 東京 コンシェルジュ/明海大学ホスピタリティ・ツーリズム学部教授 阿部佳氏のアドバイスを得て実施しています。



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