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日本 [山梨] 

星野リゾートのファームプロジェクト――2

狩猟体験をリゾートのアクティビティに。

Journal / JapanNov. 11, 2019

photographs by Shinya Morimoto

山梨県の富士河口湖町「星のや富士」では、秋の訪れと共に鹿肉や猪肉などの狩猟肉を使ったジビエ料理の提供が始まります。併せてスタートするのが、プロの猟師に導かれて森へ入る狩猟体験ツアーです。害獣駆除の影響もあってジビエが市民権を得つつあるものの、猟師から直々に狩猟肉のレクチャーを受けられるのは得がたい機会。自然を活かし、自然に生かされる、人間と自然の関係を考えるアクティビティと言えます。
サステブルという視点を持った時、リゾートのアクティビティは変化していく――その一例とも言える取り組みをクローズアップします。

自然と一体になるために。

「星のや富士」での滞在はリュックを選ぶところから始まる。アウトドアライフを満喫できるよう、宿泊者全員にリュック(虫除けスプレー、双眼鏡、ヘッドランプ、マット&ピロ―、ドリンク用のオリジナルボトル、ビスコッティ入り)が貸し出されるのである。



宿泊客が最初にアクセスするレセプション。ここで日常から非日常へ気持ちが切り替わる。壁には滞在中に貸し出されるリュックがずらり。


河口湖の北側、富士山を真正面に望む南斜面に「星のや富士」はある。標高830m~930mという約100mの高低差を活かして点在する施設は、斜面の草叢や林の中に埋め込まれていて、自然との一体感が見事だ。
開業は4年前の2015年10月30日。“丘陵のグランピング”をコンセプトとして構想された。

「当時、グランピングをテーマとする施設はまだ数えるほどしかありませんでした。僕たち立ち上げメンバーは、この環境で何を提供できるのかを徹底的に議論しました」と語るのは「星のや富士」の料理長、田川貴章さんである。彼らが出した答えは、「1.遊びをデザインできるフィールド、2.屋外を感じることができる快適な客室、3.ワイルドライフ好きなシェフが演出する食事、4.グランピングマスターが提案するアウトドア体験」の4つだった。

「どこにどんな機能を持たせると最も気持ちよく過ごせるのかを考えたランドスケープデザインになっているんですよ」と広報の角田瑠里子さんが説明する。
敷地の標高差は植生の違いをもたらし、斜面を覆う緑は下から上へと上るにつれて、草原、杉林、松林と変化していく。その植生を生かして、春は桜、秋には紅葉が彩る草原ゾーンには客室(キャビン)、杉林にはダイニングやフロント、松林にはパブリックスペースとなるクラウドテラスや木洩れ日デッキが配置されている。デッキには空を仰ぐチェアが置かれ、テラスは傾斜をなぞるように階段状に備え付けられるなど、地形に寄り添う設計が敷地内の移動を楽しくする。林の中にはハンモックが吊るされていたり、民族楽器を演奏できるテントがあったり。朝には空中ストレッチ用の布も張ってある。

外で過ごすことが前提だから、キャビンの造りは必要最小限でコンパクト。客室でも屋外の空気や景色を感じられるようにと、部屋の1/3をテラスが占め、内装に色は使われていない。
「でも、まだまだこの環境を活かし切れていない。もっといろんな楽しみ方ができると思う」と角田さんたちは新たなアクティビティプランを思案する日々である。



斜面を覆う繁みの中に埋もれて建つ客室。窓からより広い景色が見えるような設計になっている。

右がフロント、左がダイニング。斜面のほぼ中腹に位置する。チェックイン時はレセプションからキャビンエリアまでSUVで上がってくる。

傾斜を活かしたテラス。斜面上部に雲海のような形状で設置されているため、「クラウドテラス」と呼ばれる。

客室は1/3がテラス。夜には火が点され、備え付けの大きなソファで寝転んでもいい。テラスで寝たい人用に寝袋も貸してくれる。



「1.遊びをデザインできるフィールド」と「2.屋外を感じることができる快適な客室」は前述の通りだが、「3.ワイルドライフ好きなシェフが演出する食事」の柱として浮上したのがジビエだった。
「滝口雅博さんという優れた猟師との出会いがきっかけでした。狩猟から食肉としての仕上げまで、類を見ないクオリティで提供している。山梨県でも鹿や猪による農林業の被害は深刻です。鹿肉や猪肉を魅力的な食材として活用することで、捕獲・消費の促進に貢献したいとの思いもありました」と語るのは、グランピングマスターを務めてきた梶川洋祐さんだ。

ジビエを提供するにあたって、梶川さんは正しい知識を得るために、滝口さんに弟子入り。度々、狩猟に同行しては、鹿や猪の生態、猟の基本や極意、解体法、食肉として扱うにあたっての留意点などを本格的に学んだ。その経験を重ねるうちに「動物の生命をおいしい食材へと昇華させる技と心得を、一人でも多くの人に知ってもらえたら」と企画したのが「命と食を学ぶ狩猟体験ツアー」である。今では「4.グランピングマスターが提案するアウトドア体験」を代表する重要なプログラムとなっている。



左が料理長の田川貴章さん、右はグランピングマスターを務めた梶川洋祐さん。梶川さんは今、「星のや沖縄」の開業準備室に勤務する。



鹿の生態を知り尽くした猟師に教わる。

滝口雅博さんは狩猟歴40年以上というベテラン猟師だ。北海道など地元以外の土地での狩猟経験も豊富で、日本の猟師が蓄積してきた知恵や技を体に叩き込んでいる。富士河口湖町の「ジビエ食肉加工施設」の設立や安全に食すためのガイドラインの作成に尽力し、所長も務めた。「星のや富士」をはじめとする近隣の飲食店に卸すほか、自分でもジビエレストランを営む。ちなみに鳥獣保護委員も務めていて、湖でルアーを飲み込んでしまった白鳥の保護にもあたれば、森林組合長でもある。自宅裏庭で日本みつばちを飼育したり、キノコを栽培したりと、自然との関わり方は深く、かつ幅広い。

10月上旬、「命と食を学ぶ狩猟体験ツアー」を実地に体験してみた。
66歳の滝口さんは後継者の育成にも力を注いでおり、ツアーには愛弟子の古屋永輔さんが同行する。朝8時30分にホテルを出発、滝口さんが猟の本拠地とする本栖湖エリアへ向かう。滝口さん、古屋さん、梶川さんからオリエンテーションを受けた後、猟場へ。
滝口さんたちが主として行なうのは、わな猟である。青木ヶ原樹海に隣接する林の獣道にわなを仕掛けるのだが、その数、1回に5、6カ所から10カ所。翌朝、掛かっているかどうかを見て回り、掛かっていれば、その場で止めを刺して、速攻で放血。ジビエ食肉加工施設へと運ぶ。



滝口雅博さん(中央)はシーズン中ほぼ毎日猟に出て、年間約200頭を仕留める。古屋永輔さん(右)は、夏はダイビングのインストラクター、冬はハンターになる。

真ん中に見えるのが獣道。「これは大きな鹿が通る道ではないね」と滝口さん。大物を狙う時は大きな獣道にわなをかける。

滝口さんが指さす枝の下にくくりわなが仕掛けてある。「鹿の習性に合わせてかかりやすいように枝を置いてある」

人間が間違ってかからないよう、わなを仕掛けた上に、このような札を下げておくことも。



10月、富士五湖周辺では鹿の鳴き声が響き渡る。発情期を迎えたオスが自分の存在をアピールする声だ。テリトリーを主張し、メスを多く獲得しようとするボス争いの声でもある。
「鳴き声の回数で鹿のサイズがわかりますね。回数が多いのは肺活量が多い証。3回鳴いたら80~100kg、4回鳴いたら120kg」と滝口さん。その鳴き声が滝口さんには「私は今、最高においしいですよ。さぁ、今、私を捕ってください」と聞えて、挑発されている気分になるそうだ。「というのも、発情期に入ったばかりの頃のオス鹿が一番、肉質が充実しているんです」。

本栖湖周辺はミズナラやアブラチャン、スダジイ、コナラといったドングリの生る樹木が多い。鹿や猪はそれらのドングリを食べる。木から落ちたばかりのドングリにはエグミがあるが、落ちてしばらくするとアクが抜ける。猪はアクが抜けたタイミングで食べるから、肉にもドングリの旨味や甘味がのってくるという。「仲間内では、イベリコ豚をもじって、イベリコ猪と呼んでいるんですよ」と笑うのは梶川さんだ。
「今年はドングリが3年ぶりに豊富に実った。ポトン、ポトンって、音を立てて落ちる。鹿たちはあの音にしびれてると思うね(笑)」と、鹿との付き合いが長い滝口さんは、鹿の気持ちになって語る。かと思えば、「今年は鹿も猪もおいしいですよ」と太鼓判を押した。



わなにかかった鹿は止めを刺して、足を高くし、心臓マッサージを施して放血。自治体に報告するため、印を付けて、狩猟免許と一緒に写真を撮り、尻尾を切り落とす。

表皮をはがされてしまった木。「はがされた高さから見て、猪のしわざだね」と滝口さん。



良い肉に仕立てる工程と精緻なナイフ使い。

狩猟肉は、仕留め方、血抜き、温度管理、解体技術、それらの素早さが味わいを左右する。捕獲の環境がシビアで、不測の事態も多い狩猟においては、従来、処置が不適切で味わいを損なっているケースも多かった。「ジビエは臭い、まずい」といったネガティブなイメージがつきまとった一因はそこにある。
最近は、全国各地で衛生管理の行き届いた解体処理施設が設置されるようになり、肉質の向上が図られているが、自身がジビエ食肉加工施設の設立や加工のガイドラインの作成に携わった滝口さんの解体技術はピカ一だ。

解体を見せてもらう。4日間熟成させた80kgのオス鹿の肉を、猟具専門メーカーとして知られる「三生」のナイフを手に、その刃、峰、腹、さらには手包丁も駆使しながら、モモ、前脚、背ロース、首と解体していく。骨を外し、筋を外し、膜を取り除き、見る見る間に、まるでマグロの赤身のサクのようにエッジの立った光り輝く赤身肉の塊ができていった。



安全でおいしい肉に仕立てるには、しっかり放血する、すぐに冷やす、エタノールで消毒する、0~3℃の貯蔵庫で管理するといったことを厳守する。

マグロのサクのように美しくカットされた鹿肉。使わない部分はドッグフード業者やオオカミ犬を飼っている知り合いに提供。ロスは出さない。



すべての部位を無駄なく使い切る。

「3.ワイルドライフ好きなシェフが演出する食事」の目玉はもちろん、滝口さんや古屋さんをはじめとする地元の猟師が捕った鹿や猪で作るジビエ料理だ。森の中のフォレストダイニングで、秋には鹿の鳴き声を聞きながら堪能できる。
今冬、用意されるのは、鹿肉をダッチオーブンでグリルして赤ワインソースで野菜と共に蒸し焼きにする豪快な一品や、ジビエのコンソメでキノコと一緒に煮る猪のつみれなど。猪のソーセージはチーズフォンデュに。鹿の大和煮の炊き込みご飯にはジビエのコンソメを張って提供する。
「骨でブイヨンをとり、端肉をコンソメやつみれにするなど、あらゆる部位を無駄なく使い切ります。滝口さんのような猟師とお客さまとのパイプ役になり、鹿や猪の消費量を少しでも増やすことができたら」と田川料理長は語る。


鹿の背ロース肉を野菜と共にダッチオーブンで豪快に調理する。

キノコ汁の中に猪肉のつみれをポトリポトリと落として滋味深い味わいに。

カマンベールチーズをウイスキーの「白州」でフォンデュスープ状にして、猪のソーセージに付けて食べる。

鹿の端肉とキノコやタマネギで作る大和煮の炊き込みご飯にはジビエのコンソメを張って。



狩猟から食事まで通して見ると、鹿肉も猪肉もただ肉として食べていた時とはまったく異なる景色が見えてくる。食を“自然界に生息している生き物を食べる行為”と実感することは、今の時代、特に都市部においては稀有な体験だ。
「食材とは生命であると感じながら、それが、どのようにして優れた食材へ加工されていくのか、そして、魅力的な料理へと変化していくのか、一連の流れを把握していただくことには意味があると思うのです」と梶川さん。このツアーを“大人の食育”と位置付ける所以だ。
自然の中で過ごす価値を体感することがグランピングだとすれば、狩猟ツアーはさらに一歩深く入って、人間も含めた生き物が自然の中でいかに生かされているのかを知る機会と言えるだろう。



◎ 星のや富士
山梨県南都留郡富士河口湖町大石1408
☎ 570-073-066
https://hoshinoya.com/fuji/









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