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日本 [茨城]


森枝幹シェフと巡る
東京から1時間圏内・茨城の魅力発見ツアー

―前編 結城市・坂東市・鹿島―

Journal / JapanDec. 21, 2020

text by Saori Bada / photographs by Hemi Cho, Kosuke Kanno

東京から車でおよそ1時間も北上すれば、そこは農業王国の茨城県。
東西南北に広がる県内は、海沿い、山あい、湖畔、平地と地域ごとに全く違う自然環境を持ち、個性的、独創的な食の生産者が多い。
国内外のガストロノミーレストランで修業し、北欧、ヨーロッパ、豪州など多様な食文化に通じ、独自の視点を持つ若きシェフ、渋谷のタイ料理店「チョンプー」の森枝幹さんと茨城県の食の生産者たちを訪ねた。



江戸時代から変わらぬ水で造る、
ふくよかな日本酒

晩秋の朝、まずは茨城県の西部、結城市にある「結城酒造」へ。
ここは杜氏を含め家族3人で切り盛りする小さな酒蔵で、江戸からの歴史を継いでいる。


酒蔵の敷地内にある高さ約10mの煉瓦煙突は、明治36年の建設された国の登録文化財。


11月初旬はまさにこれから酒造りが始まらんとする頃。

麹室では数日前に麹造りが始まったばかり。嵐の前の静けさにも似た、静かだが緊張感のある空気に満ちていた。朝晩はきゅっと冷え込み乾燥がちなこの時期の気候は、人には厳しいが酒造りには適している。
杜氏の浦里美智子さんは、酒蔵に嫁入りするまでは日本酒とは無縁だった。最初は何も分からず家業を手伝っていたが、あるとき蔵の大吟醸のしぼりたてを飲んで、そのきれいな味わいに驚いた。日本酒っておいしいんだ、という驚き。それから浦里さんは日本各地のさまざまな吟醸酒を飲み、素晴らしい味に心動かされ、酒造りを志す。
子育てと並行して酒造りを一から学び、ついには杜氏になったのだ。その経歴も非常に珍しいが、なにより彼女の感性が生み出すふくよかな酒には、全国に熱心なファンがいる。


結城酒造の杜氏、浦里美智子さん。桐であつらえた麹箱で麹の温度の経過に常に気遣う。


「米を磨き込んだ華やかな1本から、磨かなくてもきれいな味わいが出るものまで、さまざまなタイプをつくっています。米も、個人的に好きな酒米の雄町を筆頭に、酒米ではない一番星や、まっしぐらなども使います。さまざまな米を使うと、出来上がる酒にも個性が出る。
お客様にはその中から、好みに合う1本を探して欲しいのです。酒造りで最も意識しているのは、ふくよかさ。呑んだときに口当たりがふわっと柔らかく、同時に芯を感じるお酒を届けたい。


結城酒造では完成した日本酒はできたてを-3℃で瓶貯している。

材料に選ぶ米や酵母は仕上がりの味をイメージして複数種選びますが、水だけはすべての酒に共通。蔵ができた江戸時代からずっと、うちは鬼怒川系の伏流水を汲み上げて使っています。もともとミネラルが豊富でやわらかな水なので、何もせずに汲みたてをそのまま。水は酒造りの命とも言えますから、結城の酒らしさの根本は、この水にあると思います」。


浦里さんが森枝シェフに選んだのは、地元結城市産の米、「一番星」を使った亀口直汲み無濾過生原酒(右)、岡山県の雄町を使った純米大吟醸(中央)、同じく雄町の特別純米(左)の3種。

森枝さんは、浦里さんが選んだ3種それぞれを少しずつ口にして「純米大吟醸は研ぎ澄まされていて、これだけで楽しめる主役の完成度。特別純米は旨味や酸など味の要素が複数感じられて、料理と一緒に食中酒がいいですね。できたてを詰めているから酸がしっかりあってフレッシュ」と、それぞれの個性を表現。


「同じ蔵の酒でも味の幅が広くていろんな楽しみ方ができます」。と森枝さん。

それから、こんな思いも口にした。「僕、日本酒を飲む時にいつも思うんですが、日本酒ってこれだけ味に幅があるのに“辛口”といった言葉だけで表現されることが多い。でも、もう従来の表現でだけではこの多様な味わいを伝えるのは難しい。もっと日本酒の味わいを伝える言葉が増えるといいと思います」そばで聞いていた浦里さんも、森枝さんの言葉に何度もうなずいていた。


次は「米を磨かずにいかにきれいな味を出せるか挑戦中です」と浦里さん。



日本酒
◎結城酒造

☎0296-33-3344




しまった脂ときめ細かい赤身の、
茨城が誇る豚肉

次に訪れたのは、茨城県西部、坂東市にある山西牧場。会長の倉持信之さんに、「常陸の輝き」という豚肉についてお話を伺った。


山西牧場では、衛生管理規格として「農場HACCP認証」を2018年1月に取得。抗生物質の残留など必須管理点(CCP)の記録を取りながら安全な豚肉を作っている。

「茨城が誇れる最高級の豚肉を生み出したいという思いから、研究を始めました。生育環境を清潔に整えたり、ストレスを与えずに育てることなどはもちろん大切なのですが、肉質に一番影響するのは食べさせる飼料。中心になるトウモロコシも質の良いものを選び、様々な飼料を組み合わせて今の配合にたどりつきました」。


「常陸の輝き」の開発に携わった「常陸の輝き推進協議会」、「茨城県養豚協会」会長でもある倉持信之さん。

「一番の特徴は脂の味の良さです。しまった脂で旨味がしっかりあります。さらに筋肉間脂肪の値も一般が3%程度のところ、4%以上と高くなるように育て、肉の味わいにも差を生んでいます。育成期間も180日までを目安に、80キロ近くまで大きく育てて肉の質を上げています。業界内では少し重量オーバー気味ですが、ここまでしっかり育てることで、肉も脂も味が一層濃くなるんです」。


赤身の繊維がきめ細かいので、焼いても縮みにくい。料理人には得にモモ肉がすばらしい、と評価が高い。

加熱するとぱさつきがちなモモもしっとりしているので、和食の料理人からはしゃぶしゃぶなどにも向くとも言われるそう。
お話を伺っていると、森枝さんの目の前に肩ロースのグリルが登場。調理したのは、3代目の倉持信宏さん。低温調理でゆっくり火を入れたら、塩とハーブをまぶしてこんがり焼くというシンプルさ。卓上には、食欲をそそる香りが広がった。


山西牧場社長の倉持信宏さん。山西牧場ではサラミやハムなどのシャルキュトリーの販売も充実している。


食べ応えがありながらするすると食べ切れるのは、上質な脂だから。

「豚肉の赤身が持つ香りや味わいがしっかり引き出されていて、脂自体も旨味が強いです。質の高い肉は、シンプルな調理法こそ肉の良さを引き立てられるということを実感しました」と森枝さん。



豚肉 常陸の輝き
◎山西牧場

☎0297-44-2195




自然に委ねることで生まれた、
農作物と人の楽園

日は傾きだし、畑が金色に染まる夕暮れ、県南東部にある鹿嶋市の畑に着いた。待ってくれていたのは唐澤秀さん。唐澤さんは、自然栽培による農産物の生産や加工、販売を行う若手農業集団「鹿嶋パラダイス」の代表で、鹿島神宮の表参道にあるマイクロブリュワリー兼自然食レストラン「Paradise Beer Factory」も運営している。


唐澤さんは、以前は農業法人に勤め、農家の人たちに野菜作りの指導や提案などを行っていた。

2006年に奇跡のりんごで有名な木村秋則さんと出会い、肥料も堆肥も農薬も使わないという自然農法を知り、興味をもった。その後埼玉の自然農法を実践する農家で小松菜を食べ、その味に衝撃を受けた。それ以来、自然農法は唐澤さんの生き方の軸になった。




おいしさとは、
素材がそのままの味として育つこと

「自然農法をやると決めた理由はシンプルです。群を抜いておいしかったから。自然農法でできた野菜のおいしさは、肥料や堆肥でかなえた過度な甘さや味の濃さを追求した人為的な“おいしさ”でなく、まるで野菜がもつ遺伝子の情報がそのまま出てくるような、味と香り。だから無理がないし、人の本能的な部分に訴えてくるんじゃないかと」。


10haの広大な畑では、前年にこぼれたルッコラの種などが発芽して覆っている。


「これは旨い!」とルッコラをかじって目を見開く森枝さん。


自然農法の実践は、まずは畑を健康な状態に戻すことから始まる。“大豆で肥料をやり、麦で耕せ”という表現もあるように、1年目は大豆を植え、根に共生する根粒菌の働きで土中の菌のバランスをあるべき姿へと戻す。翌年は麦を植え、麦の根が地中深く張ることで固くなった土を自然と耕し、柔らかく水はけのよい畑へと少しずつ変わっていく。そうやって畑を自然な土の状態に戻す工程で生まれたのが、オール自家製のクラフトビール「Paradise Beer」だ。


大豆の根に丸くついているのが根粒。この中に根粒菌がたくさん詰まっている。

「最初からビールを作ろうではなく、自然農法の一歩目で麦を育てる事になった、それならその麦でうまいビールも作ろうという流れ。正直、麦を売ってもお金にはならないが、うまいビールならお金を生み出せる。それに、自分もうまいビールにありつけたら、こんな良いことないじゃないですか」


「自然栽培麦芽のビールは世界で唯一じゃないかな。農薬や除草剤に依存した麦は安くできるからね。原価率は世界でダントツナンバー1かも」と笑う。

ビール造りに使う仕込み水、長命の水ともいわれる鹿島神宮の御神水。ご利益ありそうだから選んだわけではなく、県内近隣の水質を何か所も調べた結果、この御神水は硬度が95(日本の平均のおよそ2倍)もあり、硬度が高い方がエールビールに適しているとわかったからだ。
醸造時は、1回の仕込みにポリタンク18個分360Lを汲む。「手で運ぶし、柄杓で汲むのにも時間がかかるけど手間は惜しまない」。


「御神水を地道に運んでいると、ちょっとご利益ありそうな気もする」と唐澤さん。

ビールのラインナップは7種類。それぞれに使っている副原料のオレンジピールやコリアンダーシード、山椒や鷹の爪などもすべて畑で栽培している。「ビールを作っているというより、もはやスープを作っている感じ。味の骨格を決めたら、旨味や香りをスパイスなどで調える。子供でも飲めそうなスムースな仕上がりが目標です」。


苦味やエグ味が控えめな自然栽培ホップで作ったクラフトビール。ベルジャンホワイト、セッションIPA、IPA、ペールエール、ダークエール、酒粕ホワイト、セゾンの7種。


一次発酵が終わる寸前に瓶詰め・樽詰めを行い、酵母濾過・機械的なCO2封入もせず、酵母が排出する炭酸を利用しながら自然の力で醸している。

森枝シェフは数年前に偶然このビールを知って味に驚き、以来店を訪ねるなどして唐澤さんと交流が続いている。
「唐澤さんのビールは、体にスーッと染み込む感じ。アルコールなんだけど、もっと料理に近い味わいなのかも。アルコールっぽい引っ掛かりもない、ピュアな味がします」と森枝シェフ。
店の一角には、自然栽培の大豆で作った味噌や納豆なども並ぶ。一度そのおいしさを知ったお客は、リピーターになって唐澤さん達を消費で支えていく。できた作物をどうやって消費者に食べてもらうか。原料の農産物を作るだけにとどまらない、唐澤さん達の創意工夫はまだまだ続く。


唐澤さんのレストランで提供されるワサビ菜などの旬菜のサラダ。「茎も甘くて絶品だった!」と森枝シェフ。



クラフトビール、自然栽培の野菜
◎Paradise Beer Factory

☎0299-77-8745



茨城県生産地ツアー1日目が終了!
2日目はコチラ。




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