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JOURNAL / JAPAN

日本 [新潟] 

〈新潟フルコース〉開催!「雪」をテーマに気候風土や自然環境、暮らしを体感しながら味わう会。

2020.03.19

料理の説明をする、「里山十帖」料理長の北崎裕さん。

2019年、料理通信では<夏編><秋編>と2度に渡って新潟を訪れ、MEETUPを開催するなど、新潟の魅力あふれる食文化を知ってシェアする活動を行ってきました。その集大成として2020年2月20日、「食と地域」をテーマに活動するオピニオンリーダーや新潟の食の担い手の方々にお集まりいただき、料理通信社を擁するアマナグループ天王洲オフィス内にある交流スペースにて、「新潟フルコース」を開催。ともに食卓を囲み、情報交換を行いながら、新潟県・南魚沼「里山十帖」の総料理長・北崎裕さんによる料理を堪能しました。



今回のフルコースを提供するにあたって北崎さんが意識を置いたのは、深い雪に覆われる冬を越え、春の足音が聞こえ始めた「今、この瞬間の里山の季節感や雰囲気」をリアルに感じてもらうこと。会場には、昔ながらの雪国の暮らしを思い起こさせるソリや味噌打棒、小千谷縮、生活工芸品が飾られ、新潟の風土と文化の香りを漂わせていました。



料理の説明をする、「里山十帖」料理長の北崎裕さん。

コースには、地元農家の蔵からでた骨董の器や漆塗りの椀、お膳も使用され、参加者の目を楽しませました。

運ばれてくる料理から、早春の里山の息吹が広がります。



いよいよ〈新潟フルコース〉がスタート。

季節をリアルに再現するために、コースには必ず二十四節気七十二候を記載するという、北崎さん。この日は「立春の候 黄鶯睍睆(うぐいすなく)」と、春の到来を告げる季節の暦が記されました。


「節季料理」 鮃 大根 炒り豆
昆布締めのヒラメにカリッとした炒り大豆とシャリッとした大根を合わせたひと皿。燻した香りのオイルをかけ、雪の下で育ったフキノトウを散らして。お猪口で添えられたのは、仄かに甘いイタヤカエデの樹液。

(写真左から)新潟を拠点にローカルガストロノミーを提唱する「自遊人」のクリエイティブ・ディレクター岩佐十良さんは「里山十帖」のオーナーでもある。地域商品を専門にプロデュースしてきた「良品工房」の白田典子さん、沿線地域の魅力を再発見する「地域再発見プロジェクト」で地域の魅力を紹介するショップ「のもの」を手掛けるJR東日本商事の山本成則さんも参加。

南魚沼の米仙人・清さんのコシヒカリを炊き上げた、甘い香りがいっぱいに広がる煮えばなのご飯。冬の雪山が巨大な貯水場となり、春に雪解け水となって新潟の米を育む。

「粕仕立て」牛蒡 大根 人参 溶辛子
塩茹でした大根と蒸し煮のニンジン、濃口醤油で煮たゴボウを、「えちごいち味噌」の「匠の味」白味噌を合わせてほっとする粕味噌仕立てに。新潟の豊かな水の恵みをお椀で表現。

「D&DEPARTMENT」ディレクターの相馬夕輝さん(写真右)。『料理通信』2019年10月号と12月号の「食の文化遺産巡り」で、2度にわたって新潟の食を巡る旅に出かけ、その豊かな食文化を体感、MEETUPに昇華してくださいました。「旅するDEAN & DELUCA」プロジェクトを通じて地域のつくり手を紹介する「DEAN & DELUCA」横川正紀さん(写真中央)は、「里山十帖」にもよく出かける新潟ファン。



食材や器の作り手が語る
新潟の歴史と風土

会の途中では、今回のフルコースで使われた食材や器の作り手から、それぞれの製品についての説明やもの作りにかける思いなどが語られました。

鰤の料理と人参の料理で使用された「TSUKI」シリーズは、江戸末期から作り継がれる安田瓦独自の色とシワの表情が、月のように印象的なテーブルウェアです。「震災で瓦の需要が減ってきたことをきっかけに、瓦の宣伝も兼ねて器を作ったのが始まりです」と、丸三安田瓦工業の遠藤さん。1200℃以上の高温で瓦と一緒に26時間焼き上げられ、硬くて丈夫な質感が特徴です。


「保存・熟成・発酵」鰤 青くるみ またたび フェンネルの花 /器 「TSUKI」Bowl 170
雪中で1週間ほど寝かせたブリを、低温でじっくり火入れし、フライパンで皮目をパリッと。未熟で小さい青クルミを塩漬けにし、塩抜きしてから香辛料で味を付け直したものや、フェンネルの花の酢漬けなど、雪国伝統の保存・貯蔵食文化に思いを馳せた自家製の美味を散りばめた美しいひと皿。

新潟県阿賀野市にある丸三安田瓦工業株式会社の遠藤宗文さん。

「雪室の野菜」人参 味噌/器 「TSUKI」Flat plate oval 300
雪室で熟成して甘みを増したニンジンを、エチュベやピュレなど、さまざまな調理法で味噌とともに味わうひと皿。「えちごいち味噌」の「匠の味」赤味噌とココアパウダー、小麦粉を合わせたクランブルや、ニンジンのピュレと味噌のドレッシング、フキノトウの天ぷらを添えて。


二人目のお話は、新潟県長岡市で味噌を造る、株式会社越後一の川上 綾子さん。「味噌そのものが醸し出すおいしさを大切にするには、麹づくりの善し悪しが重要な鍵となります。良質な麹菌は清潔な蔵に宿りますので、『職人としての一番の技術力は洗浄』というのが、亡くなった先代の父がいつも口にしていた言葉でした」。今回の料理「雪室の野菜」に使われた「匠の味」は、皮むきした大豆をやわらかく蒸し、しっとり、なめらかに仕上げたこだわりの逸品です。


株式会社越後一の川上 綾子さん。

「小吸物」野菜出汁 うめ
野菜のむき屑に里山の湧き水を加え、コトコト煮てお出汁に。塩気は梅干しでほんのりと。

(写真中央)中川政七商店のフードアドバイザーを務める神谷禎恵さんも新潟の食文化に触れて刺激を受けた。


三人目のお話は、雪深い新潟ならではの雪室で食肉の熟成を手掛ける、株式会社ウオショクの宇尾野伸さん。「雪室は冷蔵庫と違って庫内の温度と湿度が一年中安定しています。そのためドリップを出さずに熟成出来るので、旨みが逃げず、非常にジューシーに仕上がります」。この日の料理に使われた豚肉は14日間熟成され、グルタミン酸や甘みの主成分は1.5~2倍にアップ!


「雪室熟成豚」ビーツ 酒粕漬け
「ごちそうごはん」南魚沼の米仙人・清さんのコシヒカリ 自家製漬け物
雪室熟成の豚肉は、漬けものに使われていた酒粕(八海山)を塗りつけ、オーブンでロースト。色とりどりの漬けものやビーツのチップと相まって、発酵の香りがやさしく広がります。つやつや、ふっくら炊き上げられたご飯とともに。

株式会社ウオショクの宇尾野伸さん。

「甘味」酒粕チーズケーキ
「鶴齢」の酒粕を使ったチーズケーキに、ミカンのコンポートを添えて。

食後は、アマナグループ所属のコーヒーマイスター・中川亮太さんによる、新潟の雪室で熟成された鈴木コーヒー「雪室クラシック」の生豆と新潟生まれの道具を使ったコーヒーのデモンストレーションとテイスティング。

左から順に、新潟市の株式会社朝倉家具による、桐製のコーヒーキャニスターとコーヒードリップスタンド。右は、三条市の川﨑合成樹脂が手掛ける銅製のコーヒーミル。豊かな森や金属加工技術など、自然資源、人的資源を活かしたモノ作りも新潟の強みといえる。


会の終わりには、素晴らしい料理を提供してくださった北崎さんと「里山十帖」のスタッフのみなさんへ、参加者から称賛の拍手が送られました。「里山では、毎日ちょっとずつ季節の変化が感じられます。その感覚をお伝えすることは、実際に里山までいらしていただかなければできないので、ぜひいらしてください」と、北崎さん。


料理を提供してくれた料理長の北崎さんと、「里山十帖」のスタッフのみなさん。


続いて、新潟県農林水産部食品・流通課 課長の新井一郎さんは、「食材を個別にPRしても、そもそも新潟そのもの、そして新潟の食全体のイメージがないとなかなか伝わりません。そのイメージを高めていただく活動を、今後も継続していきたいと思っています」とのご挨拶があり、会はお開きに。


新潟県農林水産部食品・流通課 課長の新井一郎さん。


「雪室の野菜や保存食、発酵食をふんだんに使ったコースから、皆さんに雪国の風景や歴史、文化をイメージしていただけたならば良かったな、と思っています」と語ったのは、「里山十帖」のオーナーでもある「自遊人」の岩佐十良さん。

参加者からは、「新潟県の食材のことを少しは知っているつもりだったけれど、改めてそのバリエーションと豊かさを勉強させてもらいました」(コラムニスト 中村孝則さん)、「目で見て知識として得るだけでなく、食の担い手の方々の話を聞きながら実際にコースとして食べる仕立てが、非常に面白かった」(株式会社ONESTORY 代表取締役社長 大類知樹さん)、「新潟は雪による試練が多いと思っていましたが、それが豊かな食材や食文化を育むと知りました。改めて、新潟の食材や調理法を試してみたい」(中川政七商店 フードアドバイザー 神谷よしえ) 、「新潟で生活する方々の知恵や込められた想いに触れることができ、とても居心地が良かった」(JR東日本商事 山本成則さん)との声が。奥深い新潟の魅力にお腹も心も頭も満たされ、たくさんの刺激と発見にあふれたフルコースとなりました。

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