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日本 [和歌山]


トップシェフから次世代料理人、生産者へ。土地を伝える味づくり-前編-

Journal / JapanJan. 28, 2021

text by Kei Sasaki / photographs by Kiyu Kobayashi

店やジャンルを越えたシェフたちの横のつながり、生産者との交流は年々、盛んになっている。コロナ禍で停滞する飲食業界や生産現場を、自分たちで盛り上げようという試みを取材しに、11月中旬、和歌山県田辺市を訪れた。
発起人は「ヴィラ アイーダ」小林寛司シェフと、日頃から交流の深い柑橘農家「紀州原農園」原拓生さん、「藏光農園」藏光俊輔さん。彼らの発案を和歌山県が全面バックアップするかたちで県内外のトップシェフを招聘し、地元の若手料理人、生産者とチームを組んで産地を訪ね、料理を作るワークショップを企画した。
錚々たる顔ぶれのトップシェフたちが集まると聞き、自ら手を挙げて参加した地元料理人と生産者たち。熱い交流の一部をリポートします。


地元の未利用食材をたまごに変換「とりとんファーム」

小林シェフの声かけで全国から集結した6人のトップシェフたち。それぞれがリーダーとなり、地元和歌山の新進・若手料理人、生産者とチームを組んで、5チームが別々に食材の産地を訪問。午後、メイン会場となる「秋津野ガルテン」に集まり、テーマ食材を用いて料理をし、意見交換を行うというのが1日の流れだ。早朝から三々五々に目的地を目指す。取材班は「メツゲライクスダ」楠田裕彦シェフが率いるチームに同行した。


人里離れた山中に佇む「とりとんファーム」の平飼い養鶏場。鶏舎はDIY。

最初の訪問先は、県内でもとりわけ山深い龍神村の「とりとんファーム」。4年前、この地に移り住み開業した石﨑源太郎さん、亜矢子さん夫妻による新しい養鶏農家だ。育てているのは採卵用の鶏がメイン。平飼いの鶏舎をDIYで建てて、飼料も近隣で手に入る米やその糠、規格外の野菜や外葉、大豆、おからなど、安全なものだけを使用して自家配合。発酵飼料にして与えている。


2018年に龍神村に移住、養鶏場を開いた石﨑源太郎さん、亜矢子さん。

「うちでは自動給餌器は使わず、私たちが手で餌をあげています。手間はかかるけれど、鶏が“餌をくれる”と認識するから、人懐っこくなる(笑)。うちの鶏たちは豆腐が好きで、入っているととても食いつきがいいんですよ」
我が子の話をするように、愛情たっぷりの笑顔で話す亜矢子さん。食の安全性に加え、アニマルウェルフェアに配慮した環境を整え、堆肥を利用した循環農業で地域農業にも貢献したいというのが2人のスタンスだ。


食品加工の副産物であるおからや醤油かすを発酵させて飼料に配合。

「餌を変えて2~3週間すると、たまごの味が変わります。カロリーにたんぱく質、ビタミン、殻を形成するカルシウムと必要な栄養素はあるけれど、栄養基準だけをクリアした安価な配合飼料は、鶏たちの食い付きがよくない。いいたまごは、健康な鶏から。健康のためには鶏が喜んで食べる餌が不可欠なんです」と、源太郎さん。


たまごは一つひとつ手作業で検品、ブラッシングして出荷する。

「たまごは、まだまだおいしくできる」と、楽しそうに話しながら、少しずつ食肉用の鶏の飼育にも力を入れるなど、新しいことにも取り組んでいる。2021年は、古くから龍神地域で飼育されている固有地鶏を交配した新品種のたまごの生産販売を予定。日高川町の養鶏研究所と広島大学が共同で復活させた地鶏は、2人がこの地で養鶏を始めるきっかけにもなった幻の日本鶏だ。
養鶏業が落ちついたら、中山間地域の休耕田の活用やフードロスを再利用した放牧養豚にチャレンジ予定という。

訪問に先んじて大和肉鶏を試食していた楠田シェフは「肥育期間の割に体は小さいけれど、しっかりとした旨味がある」と話す。意欲あふれる養鶏農家の仕事に触れた一行は、和歌山の食材のポテンシャルと、石﨑夫妻のような生産者を惹きつける和歌山の自然の魅力を改めて確認した。


◎とりとんファーム
https://toriton-farm.com/



農業もジビエも地元の資源に「ひなたの杜」

「とりとんファーム」を後にした一行は、次なる目的地に向かう。地元農家と食肉解体・加工のプロがタッグを組んで開いたジビエ解体処理施設「ひなたの杜」だ。農作物にとっては害獣となる猪や鹿を、地域資源として活用する試み。柑橘などの果樹栽培を中心に、農業が基幹産業である田辺市で、害獣駆除は死活問題だ。


地元の若手農家チーム「(株)日向屋」が中心となり2018年、誘致したジビエの解体処理施設。

「この辺りには年配の猟師もたくさんいて、害獣駆除の目的から新たに猟を始める若い農家も多い。問題は“出口”、つまり食肉としてどう生かしていくかなんです。今も地元の人に聞くと“臭いから”という理由で、猪や鹿などのジビエを敬遠する人は多いので」
株式会社日向屋代表で、「ひなたの杜」設立の発起人である岡本和宣さんは、そう話す。


みかん農家で(株)日向屋代表の岡本和宣さん。自身も狩猟免許を持ち罠猟にいそしむ。

「問題解決のカギは、適切な処理と調理」だと、衛生環境を整えた解体施設を構え、長く食肉加工に関わり、ジビエの処理にも長けた湯川俊之さんを招き入れた。狩猟のガイドラインを設けて、基準をクリアしたものだけ持ち込みを可能にし、放血、洗浄から脱骨、解体までの処理を湯川さんらプロが行う。安全性や味の良さなど、肉の質を担保することで、紀州産ジビエのブランド化を目指している。


加工所と現場を往復しながら止め刺しと解体を行うエキスパート、湯川俊之さん。

「ジビエは、テロワールが反映されやすい食材。例えば、良質な木の実が豊かな森で育つ猪はアミノ酸量も豊富で、脂も豊富でその味もいい。寒冷地ならば、筋繊維が強く、赤身の旨味が強くなる、というように。海と山に囲まれた、柑橘の産地・和歌山らしい爽やかでピュアな味が確立すれば、ブランド化ができるはず」と、楠田シェフ。


日向屋のサポーター、更井亮介シェフ作の猪のストロガノフ。臭みの全くない、軽やかな味わい。

「湯川さんが処理する鹿や猪は、赤身、脂身それぞれの旨さがあって、臭みはまったくないんです。性別も月齢も生育環境もまちまちな野生動物を、処理・加工するには、個体を見極める目と、適切な処理を施せる技術が不可欠なのだということを教えてもらいました」と、話すのは「Restaurant Caravansarai」の更井亮介シェフ。大阪や長野のフランス料理店で腕を磨き、地元・田辺市に店を開いた、和歌山の次代を担う料理人だ。店のメニューに活かすのはもちろんのこと、家庭向けレシピを考案するなどして、「ひなたの杜」を盛り立てている。


◎(株)日向屋
https://team-hinata.com/



地元料理人が作る肉加工品を「メツゲライクスダ」楠田シェフが試食

更井シェフが2020年3月にオープンしたレストランは、「ひなたの杜」から車で1分ほどの場所にある。祖父から譲り受けた古い梅蔵を改装し、自然と共生し、地域の食育の場へという想いを込めて「Restaurant Caravansarai」と名付けた。
更井シェフはこの日、楠田シェフチームの昼食を用意。「ひなたの杜」の猪のストロガノフに「とりとんファーム」の温泉たまごを添えて。臭みや雑味のないピュアな旨味。産地訪問で触れた食材の真価をそれぞれが舌で確かめた。


「Restaurant Caravansarai」更井亮介シェフが作るジビエのパテを「メツゲライクスダ」楠田シェフが試食。

昼食に続いて、地産食材で作る地元料理人の食肉加工品を楠田シェフが試食、講評する時間が設けられた。若い料理人たちにとっては、またとない機会。嬉しさと緊張感が入り混じる瞬間だ。
楠田シェフは、更井シェフの「ジビエのパテ」から試食。
「味付けはとてもいいし、素材の良さも伝わる。あえて言うならテクスチャーに改良の余地がある。滑らかにし過ぎると、ソーセージ、もっと言えばかまぼこのようで、赤身と脂身、それぞれの旨さが口の中で合わさるパテならではの食感が損なわれてしまうので」


ここぞとばかりに質問する更井シェフ。

コメントを聞く更井シェフも、真剣そのもの。油脂の合わせ方、卵の使い方など、改良試作に向けての質問を楠田シェフにぶつけた。
イタリア料理店「アルベロ」の木戸地直紀シェフは、トスカーナ風のレバーパテを用意。ヴィンサントの代わりに、紀州の梅酒を隠し味として使っている。


「アルベロ」木戸地直紀シェフ作。鶏レバーとハツ、和歌山県産梅酒で作ったトスカーナ風レバーパテ。

楠田シェフはやはり、「いい素材の味が生きた味に仕上がっている」とコメントした上で、使用する内臓の部位や配合、酒の合わせ方で表現できる味のバリーエーションを伝えた。


◎Restaurant Caravansarai
https://caravansarai.jp/

◎L’Albero
Facebookページ



果物農家とパティシエのワークショップ

生産者訪問、産地視察を終え「秋津野ガルテン」に戻った一行は、他のチームと合流。木造の小学校を改装した農家レストラン兼宿泊施設の「秋津野ガルテン」には、広い厨房が複数あり、トップシェフたちが若手料理人とともに料理を始めていた。


沖縄在住パティシエの西尾萌美さんは、小林シェフが今回真っ先に声をかけた一人。

地元和歌山「オテル・ド・ヨシノ」の手島純也シェフ、東京「レフェルヴェソンス」の広瀬隼人ヘッドシェフ、長野県「LA CASA DI Tetsuo Ota」の太田哲雄シェフなど、名だたるシェフに並び、パティシエチームを統括したのが、西尾萌美(めぐみ)さん。「ヴィラ・アイーダ」の小林シェフが、厚い信頼を寄せる気鋭の菓子職人だ。


柿、イチジク、キウイ、みかん農家と養蜂家が参加した西尾さんチームのワークショップ。

西尾チームはメンバーのパティシエそれぞれが、参加した果物農家と養蜂家の食材をテーマにデザートを作り、試食座談会を開催。
プレゼンは、地元のパティスリー「シュー」の矢倉実咲さんから。
「柿を素材として使った経験があまりなかったので悩んだのですが、柿の凝固作用を利用してプリンを作ってみました。香り付けに柚子を使っています」


「シュー」の矢倉実咲さん(中央)は3つの方向性から柿の生かし方を探る。

2020年8月「ヴィラ・アイーダ」で研修をした岡阿弥音さんは、今回参加した若手料理人の中でも最年少だ。
「新鮮なフルーツをおいしく食べるためのお菓子として、何が作れるかと考え、パヴロヴァを作りました。メレンゲの上にフレッシュなみかんとキウイをのせて、生クリームにはスパイスを効かせています」

一人ひとりのプレゼンに注意深く耳を傾ける西尾さん。
「凝固作用を活かすならば、よく熟した柿がいいです」「柿と柚子との相性はよく、和菓子でも見られる組み合わせ」「甘さの強いメレンゲに、フレッシュなフルーツの組み合わせは、年間通して様々なフルーツがとれる和歌山の強みを生かせるデザートですね」と、短いコメントで、的確に素材使いや味作りの考え方を伝えた。パティシエたちもメモを取るなど、熱心だ。


日頃から親交のある3軒の柿農家がそろって柿スイーツを試食、コメント。

座談会には、チームが訪問した柿畑の生産者も参加。
「自分たちの作る柿が、こんなにも華やかなデザートに活かされるなんて」と、感慨深い表情で一品一品を味わった。


西尾さん考案の柿の葉とイチジクの葉のバターサンド。柿の葉すしの要領でそれぞれの葉に包み、香りを楽しむ。

最後に、西尾さん作の柿の葉とイチジクの葉のバターサンドが登場し、プレゼンがスタートした。
「フルーツ大国・和歌山にはブランドフルーツがたくさんあり、全国に出荷され、どこでも手に入ります。わざわざ産地を訪問する意味は何か、と考えると“畑から発想する”ことが不可欠になる。香りのいい柿やイチジクの葉は、畑にしかない。しかも紅葉は、今の時期だからこそ見られるものです。柿とイチジク、2種のバターサンドをそれぞれの葉で包み、柿のほうのバタークリームには、柿の葉をバターでアロゼして粉末にして加え、イチジクのほうはイチジクの葉から抽出したエキスを練り込んで香り付けをしています。柿の木やイチジクの畑をイメージしていただけるでしょうか」


バタークリームの香りの決め手。柿の葉をバターと少量のみかんの皮、ハチミツでゆっくりアロゼして乾かし、粉末に。なんともいえない芳しい香りに一同驚きの声。

良質な素材の味を活かすのはもちろん、産地の情景を皿に載せる発想と技法。西尾さんがバターサンドで示した素材との向き合い方は、若いパティシエたちに新しい視点を与えた。



他トップシェフが率いるチームの様子はコチラ











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