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MEETUP

熊本応援MEETUP開催!

美味しい熊本との新たな出会い

2016.06.27




photographs by Hide Urabe



「今回の大地震には大変に心が痛みましたが、自然環境と我々は共存せねばならないということを、私よりもずっとご存知な皆さんが、ぜひ今後の地震国日本のフラッグシップになってください。阿蘇の緑のようにがんばっていきましょう。でもあまり無理はされないでください。熊本の食材が僕は大好きです!」

これは、5月29日に広尾アクアヴィーノで開催した「熊本の食材を味わって応援しよう!」MEETUPの参加者募集時に、被災された生産者への応援として寄せてくださった参加者からのメッセージのひとつです。

「熊本は大好きな土地だから」「この機会に熊本の食材のことを学べたら」「何をしていくべきなのか一緒に考えたい」。 応募理由は様々ですが、「自分にできることはないか?」という共通の問いを携えて集まった参加者の皆さん、そして、熊本の生産者、アクアパッツァ/アクアヴィーノスタッフの皆さんとともに、未来に向けてステップを踏める会にしていきたい。そんな想いで開催したMEETUPの様子をご紹介します。


私たちの食卓を支えてくれている熊本食材









雑誌『料理通信』および当サイト「The Cuisine Press」でも取材で訪れている熊本は、豊かな自然が育む独自の食文化が形成され、その食の担い手である生産者が多様性に富んだ地域の生態系を守りながら、優れた食材を生み出している日本有数の大農業県でもあります。

全国5位前後にあたる、年間約3000億規模農業産出額を推移する熊本において、今回の地震による被害額はその約1/3の1000億にのぼると推測されています。トマトが出荷量日本1であるのをはじめとして、スイカやナス、イチゴ等、野菜果物類のみならず、肉用牛や生乳など畜産物においてもトップクラスを誇り、日本の農業に大きく貢献している熊本。 熊本から届く食材が、私たちの食卓を支えてくれているといっても過言ではありません。同時に、今回の被害は、日本の家庭の多くの食卓に影響を及ぼすことを意味しています。




今回のMEETUPでは、大規模な流通に乗せておらず独自の販売ルートを開拓しながら営業してこられた個人の生産者のこだわりの食材が使われました。ご自身が被災されただけでなく、出荷先が被災してしまったことで販路を失った方々も多く、こうした生産者さんの大事な農産物との安定的な取引を創出していくことが大きな課題となっているなか、現地でのこうした状況にすばやく対応し、恒常的な物流機能構築に尽力されている、「みなまたオーガニックマーケット もじょか堂」澤井健太郎さんも、駆け付けてくれました。




会冒頭の挨拶で、澤井さんはこう語りました。
「高齢の生産者はこれを機に農業をやめようという方もいます。農地に亀裂が入り、物理的に農業を続けていくことが難しい側面があるのも事実です。今回、販売先を失ったこだわりの農産物を、もともと地元でしか味わえなかったものを、もっと美味しい熊本を、全国の人々にも知ってもらおうと考えました。そして、もとの姿以上にパワーアップしてもらいたいと願っているのです」。

これから味わっていただくお料理の背景や土地にイメージを膨らませてもらい、いよいよ食事のスタートです。
「こういうときこそ食べて元気になろう。料理をつくって元気にしていこう。ということが、レストランの意義だと思う。皆さん、とにかく食事を楽しんでください!」と、日高シェフは力強く乾杯の音頭をとってくださいました。




料理に合わせて提供されたお酒は、『料理通信』でも何度か紹介をしている瑞鷹(ずいよう)の「崇薫(すうくん)」。自然栽培によるお米と阿蘇の伏流水で仕込まれた香り豊かな純米吟醸酒です。150年近い歴史を持つ熊本市南部の蔵元で、建物と設備に大きな被害がありました。水俣のオーガニック甘夏ジュースと割ったカクテルも格別の味わいに。




熊本から駆け付けてくださった生産者と料理人さんのテーブル。「熊本のつくり手と繋がれたら」という気持ちで、一般の食べ手のみならず、飲食業界からも多くの参加者が集まりました。




水に磨かれた食材の力





熊本は、阿蘇という偉大な自然の存在によって、“山と水”に特徴があるのではと思いますが、今回はとりわけ水によって磨かれた食材の力を感じることになりました。
日高シェフの指揮のもと、時間をかけて食材と向き合いメニューを考案くださったアクアヴィーノの渡邉敏樹シェフは、調味料に使ったローズマリー等のハーブ類を除き、コースのすべてを熊本の食材で構成しました。全体的に、きれいで繊細な印象を受けたと言います。




イタリア料理の調理法を採ることにより、従来の食べ方では引き出されにくかった側面である繊細さ。そして、やはりイタリア料理ならではのパワーが食材の持ち味と合わさって生み出す力強さ。今回の熊本食材がもつ両側面が見事に表現された5皿が生まれました。




antipasto 1
奥阿蘇マスのハーブマリネ
(奥阿蘇マス、からし菜、マスタードグリーン、ヨーグルト、ミニトマト)


「臭みがなくきれいでクリアな味を、強い味付けで壊してしまわなうように」と、ハーブでマリネし、ヨーグルトをソースに使った一皿目。
ニジマスの緻密で透明感のある身質がすばらしく、つるりとすべるようなテクスチャーは特筆ものでした。サーモンのような脂肪体質ではない、身の締まった、清らかな身質は、いろんな調理法によっても生きるであろう可能性を感じさせます。
参加者からは、「たんぱくで食べやすい!」「添えられたからし菜と合わさって、ニジマスの甘味が際立って感じられる。」「ヨーグルトソースが魚料理にこんなに合うとは!」と感嘆の声があがりました。




このニジマスを育てているのが、阿蘇郡高森町「村上養魚場」です。
阿蘇の雄大な自然環境の中で、冷たく美しい湧水を利用して、安心して食べられる川魚を卵から大切に育てています。阿蘇から駆けつけてくださった村上さんは、「ニジマス特有の香りと実質という個性を大事にしている。多くの方たちにこの味を届けていきたい」と語りました。
地元に愛される村上養魚場の顧客は、8割程度が阿蘇地域に集中しています。今回の地震で加工場が崩壊するなどの被災があり、さらに出荷先がなくなるという局面にたち、育てている魚の出荷時期、需要供給のバランスを戻すことを課題に、東京でも営業活動を始められています。




antipasto 2
山女魚のコンフィ
(山女魚、スイスチャード、ほうれん草、乾し椎茸、コサン筍)


アクアヴィーノでは、この時期旬を迎える鮎をコンフィで提供しています。川魚という共通項から、今回、村上養魚場の山女魚をコンフィにし、同じく阿蘇の美しい自然が育んだ野菜とともに美しい一皿が出来上がりました。
骨があることを感じさせない、柔らかく優しい味わいに仕上がった山女魚は、「炉端で塩焼きにして食べるヤマメ」とは違う、新たな魅力につまっていました。




「季節的には鮎でコンフィにし、軽くスモークをする料理を考えていたのだけれど、鮎じゃなくてヤマメがいいんじゃないか?と感じた。身が繊細で火入れも軽くするのが良いな、と。いろいろと発想が湧き、ワクワクします!」とは、料理人ゲストの感想。参加された他の飲食店従事者にもインスピレーションを与えた料理でした。




primo piatto
那須ファームの卵を使ったペンネ カルボナーラ
(八十八卵、香心ポーク バラ肉)


「コクもさることながら、優しくまろやかな味をストレートに伝えたい」と、シンプルでポピュラーな卵料理であるカルボナーラに。「濃厚ながらも、さらっと食べられる。」という参加者の声が物語るように、「那須ファーム」の八十八卵は、コクとしつこくない甘味が特徴で、首都圏でも高い評価を得ています。そのこだわりの卵づくりを、宇城市で48年前から養鶏を営む那須ファームの那須啓志さんが語ってくれました。




八十八卵は、8年前から「もっと美味しく安心して食べられるたまごを、そして地域、社会、環境にも貢献できる卵を」。という想いで開発されました。飼料穀物の高騰による畜産問題の解消と、生産者の高齢化で増加の一途をたどる休耕田問題を解決するために、まずは宇城地域にある休耕田を活用し、飼料米の栽培を推進させます。那須ファームが飼育する日本に5%しかいないという純国産鶏が、この米を食べ、熊本の美味しい地下水を飲んで、健康な状態で産んだ卵が八十八卵です。

那須ファームでは、度重なる地震により、水・餌やりのシステムに大きな被害が出ています。多くの鶏を食用として処分せざるを得ない状況に至ってしまいました。飼育できる数の鶏で生産活動と出荷を少しずつ再開されたところです。
「完全な復興まで2年くらいかかりそうですが、私たちは元気です。皆さんからの励ましでこれからも大丈夫です。元気にやっていきます。」と、言葉を噛みしめながら話してくれた那須さんの温かい表情が印象的でした。




second piatto
香心ポークのポルケッタ
(香心ポーク バラ肉、ロメインレタス、赤イタリアンレタス、プッチーニ)


メインで使われた阿蘇の厳選ブランド豚「香心ポーク」は、天然のミネラル分豊富な阿蘇の伏流水を飲み、さらに鉄・マグネシウムを豊富に含む、阿蘇の火口の土、黄土(リモナイト)を食べることで、鉄分豊富で臭みがない味わいを実現、竹林に放牧されることで免疫力も高い、まさに健康な豚に育てられています。
ポルケッタもまた、アクアヴィーノを代表する料理のひとつ。旨味が強く、脂が甘い香心ポークの特徴が存分に活かされたメインに仕上げられました。素材がよくなければ、完成し得ない一皿です。

「馬肉に代表されるように、パワーのある“力強さ”が前面にたつ肉のイメージが強い熊本だったが、力強さのみならず、きれいで上品な味わいの食材が豊富だということを学んだ。自分の土地で栽培された食材を、違う土地で楽しんでもらえるということが、どんなに嬉しいことか、痛感している」。とは、出身が仙台で東北大地震を経験された参加者から。

香心ポークさんでは、飼料タンクが壊れてしまったり、ストレスで豚の流産が増えてしまったり、と被災によるダメージと向き合いながらも、力を合わせて復旧活動を進めています。




dolce
苺 バルサミコ
ジャージー牛のミルクジェラートを添えて


「この濃厚さと甘さは、余計なものを使わずにジェラートにするのが一番」と、食事を締めくくるドルチェには、阿蘇郡南小国町「山のいぶき 高村牧場」の高村武志さんご夫妻が、二人三脚で大事に育てているジャージー牛の新鮮な牛乳が使われました。
高村さんは、濃厚で甘い味わいを生み出すために、乳酸菌を混ぜた自社堆肥を使った牧草づくりを丹念に手掛け、徹底した衛生管理のもと、1本1本手仕事で製造を行っています。この牛乳から加工されたヨーグルトは、1皿目のニジマスのソースに使われました。

その味わいに全国にファンがいますが、一番の出荷先は、日本屈指の温泉地である地場の黒川温泉地域。観光客が激減したことで、大きな打撃を受けていますが、前を向きながら頑張って生産・営業活動を続けています。

そして、ポルケッタを味わった後のドルチェにふさわしい、すっきりした味わいを添えたのが阿蘇市村上農園さんのイチゴです。高段二段ベンチ栽培という新しい手法で、やはり、阿蘇の豊かな水資源を活用して、育てられています。

ドルチェ以外のほとんどの料理に使われていた野菜もまた、熊本の大自然と寄り添いながら、独自のものづくりを続けてこられた生産者によるものです。
マスタードグリーンやスイスチャードなどの葉物野菜を育てる阿蘇のつじ農園さんでは、なんと24時間モーツァルトの音色を聴かせて野菜を育てています。その鮮烈な味わいに、多くの参加者が驚いていました。農園内に亀裂が入り、ハウスにも被害があり、食べごろを迎えた野菜たちを出荷できないという大きな打撃を受けてしまいました。飲食店との息の長い取引を再構築していくことが課題になっています。

ほうれん草や乾ししいたけを栽培される南小国町の井 正恵(い・まさよし)さんは、地域の農業青年部を牽引するまだ33歳の若手農家さん。阿蘇の山から染み出した栄養たっぷりの湧水を与え、濃く甘い味わいのほうれん草に仕上げています。井さんは、ご自身よりもっと被害が大きかった生産者さんのサポートに奮闘されています。
日高シェフの大ファンで、支援にも繋がるという理由で参加されたゲストは、「生産者さんの熱意を強く感じた。美しい自然と美味しい食材がある熊本に、積極的に足を運びたい。」と熊本にエールを送りました。




もじょか堂澤井さんと熊本出身の参加者。阿蘇の景色、季節ごとに豊かな自然を堪能できる熊本を思い出しながらの食事だったようです。




村上養魚場の村上さんと、『料理通信』でもお馴染の外苑前アミニマ鳥山オーナーと阿部真子シェフ。本MEETUPを機に、ヤマメを取り入れたメニューを提供し始めています。








「震災のあとの食事になりましたが、食材に感動してそれを料理にするのが料理人だと思う。これまで日本の北から南までいろんな生産者さんと出会ってきましたが、また大切な人との出会い、食材との出会いがありました。」と、会最後に結んでくださった日高シェフの言葉の通り、今回のMEETUPでは、被災状況を受け止め、再開の道を希望を持って一生懸命歩もうとする人々、そして、熊本の食の新たな魅力に出会えた機会となりました。

会を終えて、ある参加者から「“美味しい”を支えているのは、生産者さんの日々の努力もさることながら、“おいしいものを届けたい”という気持ちがあるからなのだ、ということを実感した時間でした。丁寧に作られた食材の味がひしひしと伝わってきました。」という声が寄せられました。

熊本という土地に限ったことではありませんが、途方もない時間と知恵を積み重ねながら、土や飼料にこだわり、大切に育てられた食材には、人を元気にさせていく力があること、そして、そんな食材を食べ支えていくことの重要性を、集まった一人ひとりが感じたのではないでしょうか。

自然の力が大きければこそ、その力を生かせばこそ、食材が持つ力も大きくなる。
しかし、その自然が時折、猛威をふるう・・・
その狭間で営みを続けていらっしゃる生産者の方々には、敬意の念しかありません。




魅力溢れる今回の食材は、365日出荷体制を整えているもじょか堂さんのサイトでも購入可能です!
◆村上養魚場 奥阿蘇マス・山女魚
◆香心ポーク 阿蘇天然ミネラル豚 
◆つじ農園 モーツァルトを聴いて育った野菜
◆山のいぶき ジャージー牛乳・ヨーグルト
◆井正恵さん ほうれん草・乾ししいたけ
◆坂上農園 カラフルミニトマト   等。
(那須ファームさんの卵は、都内では伊勢丹新宿店や銀座熊本館などで取り扱いがあります。詳しくはホームページをご覧ください。)






食の危機管理プロジェクトを立ち上げます。





世界でも他に例を見ない地震大国の日本で暮らす私たちにとって、平常時から災害時に備えていく意識をもつことがとても重要になっています。
自然と寄り添って暮らすなかで、地震だけではない。色々なことが起こりうることを意識していくことにこしたことはありません。
私たちは、本MEETUPをキックオフとして、「食の危機管理」をポイントに、志を持った生産者、料理人、生活者それぞれの立ち位置での経験から学びを得、知恵を共有し、未来への備えに繋げていく継続的なプロジェクトを立ち上げる準備中です。
必要な知恵を寄せ合い、必要なときにその知恵を引き出していくような「知恵BANK」を作っていく構想をより具体化していくべく、サイトを訪れてくれる皆さんにも関わってもらい、共有の場を持ちながら情報発信していく構造を作りたいと思っています。 ぜひご注目ください。


























































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