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日本ワインテイスティング@ミニミニゴロザリア in TOKYO

第1部「これだけは飲んでおきたい!実力派の10本」ルポ

2017.02.13

photographs by Hide Urabe

「カフェ・ブリュ」岩倉久恵さん(以下、岩倉):
みなさん、こんにちは。私は12年くらい前から日本ワインを追っているのですが、ワインは土地が造るものであると同時に、人が造るもの、という感覚が私の中では大きくあります。そこで第1部は、日本各地の10本のワインを通して、どんな造り手が、どんな想いで造っているのかをマッソブリオさんに知っていただけるようナビゲートをしていきたいと思います。

では、みなさん、どうぞグラスをお手にとってください。
1本目のワイン(タケダワイナリー/サン・スフル白 発泡2016)は、タケダワイナリーという東北で二番目に古いワイナリーです。ブドウ品種は、ワインとしてはあまり馴染みがないかもしれませんが、デラウェア。アメリカ原産です。亜硫酸無添加で、瓶内一次発酵で造られています。

(一口飲んで)本当に、ブドウのナチュラルな香りですね。あと酵母の香り。昼間に飲んでも、罪にならないような味です。造っているのは岸平典子さんという女性で、この方は代表取締役兼栽培醸造責任者でもあります。酵母の香りの中に、程良い苦味が感じられます。

パオロ・マッソブリオさん(以下、マッソブリオ):
このワインは相対的に言うと、シンプルなワイン、と言うことができるんですけれども、口に含むとボディがしっかりしている、口当たりの柔らかさの中に強さがありますね。一口目のイメージとはまた違ったものがあると思いました。素晴らしいワインです。

岩倉:2本目のワイン(島之内フジマル醸造所/キュベパピーユ・DSL 2015)は、本日会場にいらっしゃっているフジマル醸造所さんのものです。では、藤丸さん、お願いします。

「フジマル醸造所」藤丸智史さん:
みなさん、こんにちは。今、お注ぎしているのが、デラウェアのシュル・リー。略してDSLと記載しています。デラウェアというとフレッシュな、爽やかな造り、というイメージがあると思うんですけれども、このデラウェアは少し皮と漬け込んだ後にブドウを搾っています。だいたい12時間くらい。そして3週間ほど経ったら、澱引きをせずに澱と一緒にワインを漬け込んでおきます。デラウェアはシンプルなワインになりがちなんですが、澱と寝かせることで澱からくる旨味だったり、そういったものを取り出せる感じなんです。デラウェアは食用だと皮はあまり食べないのでシンプルに感じやすいんですけれども、この方法だと旨味とか苦味とかいろんな要素がでてきます。

僕のワイナリーは大阪のミナミ、心斎橋から徒歩10分くらいのところにあるんですが、畑自体はそこから40分ほど車で走ったところにあって、大阪府内になります。デラウェアは普通、お盆前くらいに収穫することが多いのですけれども、自社畑に関しては10日~2週間ほど遅く収穫してわざと皮を分厚くし、果実とともに漬け込んでいます。そこからさらに発酵させるので、ボディが普通のデラウェアより生まれるような造り方をしています。



岩倉:藤丸さんは造り手としてはもちろん、酒屋さんとしても、レストラン経営者としても有名な方なんです。もともと酒屋さんの仕事でワインに携わっていく中で、耕作放棄地になっていく土地を目の当たりにして、自分でもワインを造ってみようとワイナリーを始められた経緯があります。

マッソブリオ:なるほど。ではまず、久恵さんからワインの説明を。

岩倉:はい。一番初めに飲んだブドウ品種もデラウェアで、こちらもデラウェアです。次の3本目も、ブレンドになりますがデラウェアなんですね。藤丸さんのワインは飲んでいて楽しくなるようなワインで、食事に寄り添うワイン。それは、レストラン経営もしている藤丸さんのバックボーンからくる発想といえるものですよね。

マッソブリオ:初めに試飲したワインに比べると、まず色を見ただけで醸しが長いな、ということがわかります。また、デラウェアというと、誰が飲んでも飲みやすい、そういう造りになりがちなワインにもかかわらず、藤丸さんのものは非常にしっかりとした、デラウェアの印象を一新させてくれるワインだと思います。非常に素晴らしいです。

では3本目(金井醸造場/ヴィノダ万力 シャルデラ2015)に。先ほど久恵さんが、ブレンドだとおっしゃっていたので気になって香りを嗅いでみたのですが、どうですか? 最初の二つよりも、デラウェアの存在感が香りとしてあると思うんですけれども。実は、イタリアでは、デラウェアでのワインの醸造は禁止になっているんです。ただ、ゾーニンというとても有名な造り手は、自家醸造用のワインにデラウェアを入れるんです。そのデラウェアを飲ませてもらったことがあるんですけれども、抜群でした。



岩倉:今回、造り手の方の想いをパオロさんにお伝えするために、アンケートをとりました。まずは、造り手自身が自分の性格をどう思うか。二番目に、ワインについて。三番目に、ワイナリーを一言で。四番目に、飲んでいただくワインを一言で。最後は、どんな風にパオロさんに飲んでほしいか。
金井さんからの回答は、①性格は大雑把なのに、気付くとこだわっている。②造るスタイルは、自由。③ワイナリーはとても小さい。ちなみに年間の生産量が15000本。④飲んでいただくワインのイメージは、果肉を感じられる。⑤豆類と合せて飲んでみてほしい。

マッソブリオ:これまでの3本の中で一番難しいワイン。好き嫌いが分かれるんじゃないでしょうか? 野菜を使った和食やスパイス感のあるもの、そういったものと合うんじゃないか。たとえば、おすしだったら、自分はこれと飲んでみたいかな。久恵さん、どうですか?

岩倉:通して飲んでいただくとわかると思うんですけれども、日本にはだしの文化というものがあって、だし感を感じるものもある。もし、またパオロさんがこのワインを飲む機会があれば、粕漬けとかと合わせてみてほしいです。

マッソブリオ:では4本目を。



岩倉:こちら(ヴィラデストワイナリー/ヴィニュロンズリザーブ シャルドネ2015)は、3本目とは対照的なものになります。

マッソブリオ:ブドウの品種は?

岩倉:シャルドネです。長野の東御(とうみ)と言うところで造られています。標高が900から950メートルほどあり、日本の中でも高地で造られているワインです。洗練されたクリアな味わいです。

マッソブリオ:まさにシャルドネの特徴を持っているワインです。テクスチャーもきちんとあって。さらに自分としては、とてもピュアなワインだと思うんですけれども、先ほどのテロワールのことを聞いてしまうと樽なしのものを比較するために飲んでみたかったなと思いました。

岩倉:確かにそうですよね。

マッソブリオ:でも、すごくおいしいワインです。



岩倉:醸造責任者の小西さんのアンケートには、性格は「真面目で細かい。でも大雑把な部分も持ち合わせていて、根気もある」とあります。

マッソブリオ:彼が国際的にも受け入れられるワインを目指して造っているのがわかります。実際、じゅうぶん国際的に太刀打ちのできるワインだと思いますよ。造り手自身が、大雑把なところもある……と言っているのとは逆のものが、このワインの中に見え隠れしていると思います。

岩倉:ワインって、そういうものであってほしいと私も思います。



マッソブリオ:では5本目に(ココ・ファーム・ワイナリー/2014プティ・マンサン)。こちらのブドウ品種は?

岩倉:プティ・マンサン100%です。調べてみると、プティ・マンサンを単体で仕込んでいるのは世界的にもすごく珍しいんです。このワイナリーは栃木の足利にあるんですが、知的障害者の方々も造りに参加しています。



マッソブリオ:まず色を見ると、黄金色で非常にテクスチャーもしっかりしていて、香りも素晴らしいんですけれども、口にいれてみると驚くんですね。この甘味になるところ。これは惣菜と合わせたいワインです。僕はぜひ、こういう勇気あるワイン造りをしている人と知り合ってみたい。もうちょっと辛めに造られたら、もっといいんじゃないかな。

岩倉:私は、これに出汁巻き玉子を合せたいです。

マッソブリオ:じゃあ、作ってくださいよ!

岩倉:あはは。次のこちらは、長野の塩尻で造られているワイン(kidoワイナリー/プライベートリザーブ ピノ・グリ2014)です。日本の中でもすごく良いと言われている地域です。何種類ものワイナリーが軒を連ねています。



マッソブリオ:まず、色を見ても、これまで試飲してきたものと違いますね。確かに造りはおいしいと思うんですけれども、専門家のコメントに反論するわけではないんですが、ちょっと酸味が感じられずバランスに欠けるところがあるんじゃないか。僕としては、これまで飲んできたワインの中で、ごめんなさい、点数は一番低いかもしれない。

岩倉:今回、マッソブリオさんには、お世辞抜きで評価してくださいとお伝えしています。



マッソブリオ:ここまで見てきて、僕と久恵さんの間にシンフォニー、いやハーモニーが生まれてきていると思うんですが、ひとつだけ言わなければならない。ここまで試飲してきたワインは、非常にレベルが高い、ということ。それから、どのワインも本物のワイン、偽りのないワインだと思います。ボトルの裏に造った人の顔が見える、そういうワインであることは間違いない。それだけは、言っておきたかった。

岩倉:よかったです……! そのことが伝わっただけでも、とてもよかった。今、ヨーロッパのワインと日本のワインの造り手たちの目指すところが、近づいてきていると思います。

マッソブリオ:いや、そんなことはないです。近づいてきている、というわけではない。もしかしたら、ヨーロッパのワインを日本のワインが追い抜いていくのではないか、そういった気がしています。どうしてかというと、今、自分たちは本物、基本のワインに立ち返ろうとしているんですけれども、日本は本当のワイン、偽りのないワインから始まっているのではないかなと思います。そういう気がしました。

イタリアの造り手というのは、ワインを完璧に造ろうとするあまり、おいしく造る必要がなくなってきたんです。暗い言い方をすると、そういう言い方になる。日本は、本当の偽りのないワインを造ろうとしているからこそ、これからまだまだ成長させていかなければならない課題があるけれども、だからこそ、追い抜く可能性を秘めていると思う。



岩倉:それこそ20年前は、個人のワイナリーも少ないものでした。この20年で日本ワインを取り巻く環境は大きく変わってきていて、造る人の個性が出てきたというところがあります。本当にここからスタートするし、これからまた、日本人の穏やかさや勤勉な国民性がワインに反映されて、もっと日本のワインはおいしくなると思います。この時間を一緒に過ごせることをすごく嬉しく思います。

マッソブリオ:では次のワイン(ダイヤモンド酒造/最際 ますかっと・ベリーA 2012)に。このブドウは?



岩倉:これは、マスカット・ベーリーAと言って、日本で交配された品種です。

マッソブリオ:僕は好きだけど……ってことは僕も日本人?(笑)このワインはすごく好きです。何かに合わせて飲むのではなく、単体で楽しみたいワインですね。夕方の17時頃、きれいな景色のところで飲みたいなあと思います。すごくパーソナリティのあるワイン。完璧なワインとは言えないんだけれども、楽しめるワインだと思います。



岩倉:マスカット・ベーリーAは日本でもポピュラーなブドウで、大量生産のブドウとして今まで知られてきました。造り手の雨宮さんは、マスカット・ベーリーAの可能性をどこまで引き出せるかを考え、すごく凝縮された味わいのワインに仕上げています。マスカット・ベーリーAのワインの造り手として、日本で3本指に入ると思っています。

マッソブリオ:では8本目(ドメーヌ オヤマダ/洗馬 赤 2012)に。(一口飲んで)本当にこれは、飲むワインというより、食べるワインといっていいと思います。

岩倉:ドメーヌ オヤマダ、小山田さんのワインですね。彼はあまりブドウの品種を謳いたがらないのですが、このワインの主たる品種は、カベルネ・フランです。

マッソブリオ:すごく、アロマ感がありますね。

岩倉:彼はナチュラルな環境で造っているので、「馬小屋臭しないといいな~」と言っていました。



マッソブリオ:もし、その馬小屋臭がしていたとしたら、もっと点数を高くしていたと思います。僕の父の時代のワインっていうのは本当に自然な造りで、自然のままにボトルに詰めていたんです。残念ながら僕らの時代には、それは好まれなくなってしまいましたが。だからもし、このワインにその香りがついていたら、僕はすごく嬉しかったかもしれない。

偽りのないワインを飲んでいる中で、このワインはなんて言うんだろう、すごく骨があって。そういうワインを造れる人であるにもにもかかわらず、アロマ感をあえて足してしまっているのが、ちょっと残念だなと思いました。

岩倉:9本目(kidoワイナリー/プライベートリザーブ カベルネ・フラン2014)は、白ワインでも飲んでいただいたkidoワイナリーです。赤い花のお花畑でブルーベリーを食べているようなイメージ、と城戸さんは言っていました。



マッソブリオ:本当に、ブルーベリーを搾ったような。カベルネ・フランのワインはいろいろなスタイルがありますが、これはしっかりと造られたワインだな、と感じます。

岩倉:カベルネ・フランという品種は、日本で栽培しているところが、まだまだすごく少ないんです。が、日本のテロワールに合っていると思います。ロワールやボルドーで造られるカベルネ・フランに引けをとらないですね。

マッソブリオ:そうですね、カベルネ・フランも良いのだけれど、日本のワインが完璧な厚い層を造るためには、バルベーラを入れてほしいな。

岩倉:何人かはやっていますよ。

マッソブリオ:最後の1本はなんでしょう?

岩倉:これは、山形のワインです(酒井ワイナリー/鳥上坂 名子山2014)。東北で一番古いワイナリーです。カベルネ・ソーヴィニヨンとメルローのブレンドですね。



マッソブリオ:これは、本当になんて言うんですか、単にフルーティさと酸味とのバランスではなく、いわゆるボルドーの造りのような。ただ、この4本の赤の中で何が一番好きかと聞かれたら、僕はマスカット・ベーリーAと答えるかな、と。やはり、日本人が造るワインは、日本人のオリジナリティを感じるものでなければならないと思います。それがやはり、いいと思うものでした。日本で造るのであれば、国際品種で国際市場で求められているワインを造るのではなくて、日本だからこそできる品種で勝負すべきだと思う。一番初めに飲んだデラウェアもすごく面白かった。そういうことを目指していったら、いいんじゃないかなと思います。

岩倉:日本は、生産本数も少ないですし、世界に照準を合わせるというよりは、日本人に向けて発信している。そして、それを日本人が楽しいと思っている。その土地で造ることでその土地を知れることが強みだと思います。

——第2部は注目の産地、北海道の造り手をフィーチャーします!

<第1部でテイスティングしたワイン>

1 山形/タケダワイナリー/サン・スフル白(発泡) 山形県産デラウェア種100% 2016

2 大阪/島之内フジマル醸造所/キュベパピーユ・DSL(デラウェア・シュール・リー)2015

3 山梨/金井醸造場/ヴィノダ万力 シャルデラ 2015

4 長野/ヴィラデストワイナリー/ヴィニュロンズリザーブ シャルドネ 2015

5 栃木/ココ・ファーム・ワイナリー/2014 プティ・マンサン

6 長野/kidoワイナリー/プライベートリザーブ ピノ・グリ 2014

7 山梨/ダイヤモンド酒造/最際 ますかっと・ベリーA 2012

8 山梨/ドメーヌ オヤマダ/洗馬 赤 2012

9 長野/kidoワイナリー/プライベートリザーブ カベルネ・フラン2014

10 山形/酒井ワイナリー/烏上坂 名子山(とりあげざか なごやま) 2014






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