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PEOPLE / クリエイター・インタビュー

ナガオカケンメイ(ながおか・けんめい) デザイナー

2017.02.03

text by Masahiro Kamijo
Photograph by Hiroaki Ishii
『料理通信』2009年1月号掲載

「ロングライフデザイン」とは、発売から数十年以上経っても生産され続け、使い続けられているデザインのことだ。
それは、人とモノとの付き合い方を考える提案でもある。
ナガオカケンメイさんは、そんなロングライフデザインの旗振り役。
自らの店を核に「長く作り、長く売る」考え方を根付かせようとしている。

ゴミを前に「何か変だ」

ナガオカさんの本業はデザイナーだ。以前は、日本でも有数の大手デザイン事務所にグラフィックデザイナーとして勤務し、広告や商品パッケージなど最先端のデザインを手掛けていた。

大量生産・大量消費の世界で働きながら「何か変だ」という思いが頭にあった。頻繁にデザインの変更が行われ、その新陳代謝がなければ、価格や売り場の活力を維持できない産業構造にデザインが加担している。そんな業界の合理が、ナガオカさんには非合理に映った。同じ頃、まだ十分使える品々が無惨に捨てられるゴミ置き場の光景を前に、日本が「使い続ける文化から、買い換える文化」になったことを強く感じるようになる。「自分が憧れてきたデザインは、こんなものではなかったはず」。そうした思いがナガオカさんをある行動に向かわせた。

消費期限がないから安心。

それは、デザインと消費の両面から「ロングライフデザイン」を考えるショップを持つこと。2000年、東京・世田谷の環八通り沿いに立つ築40年近いマンションの一角に、「D&DEPARTMENT PROJECT」(以下、D&D)をオープンさせた。「デザイナーが売り場を持つなどナンセンス」と指摘されたりもしたが、循環型社会の必要性が叫ばれる中で、デザインの新しいあり方に挑んでいるという信念は揺るがない。
店頭に並ぶ家具やキッチン雑貨、食器類はどれもリサイクルに耐えうるデザイン性の高い品ばかり。一定の役割を終えれば買い取りもする。消費期限がないから安心してモノ選びができる。デザインや商品を安易に消費しない売り方も含めた活動が業界に与えたインパクトは決して小さくなかった。
「生活者の視点で業界をチクチク突いていきたい」とナガオカさんは明かす。つくることだけに熱心なデザイナーの姿勢や、国の補助金によってブームと化した地場産業の活性化事業に対し、辛辣な意見を述べることも度々だ。それもデザインに対する愛情ゆえの叱咤激励。
活動の核であるD&Dは今年で9年目を迎えた。
「社会から必要とされているから続いているとは思っていなくて、まだロングライフデザインという発想が新種のデザインみたいで面白がられているからだと見ています。それを確かめたくて47都道府県にD&Dをつくりたい」

なんでも作ってくれた父親

ナガオカさんは加古、口にしたことの大半を実行してきた。屈託のない笑顔で多くの人を惹きつけながら「とにかく、やってみる」という信条でもって。その気質や行動力は、鉄鋼マンだった父親から譲り受けたとも言える。
「何か欲しいというと、眉間にしわを寄せてそんなもの買えないと言うんじゃなくて、ニコニコして、じゃあ作ろうかと言う人。鯉のぼりが欲しいと言うと、じゃあ作ろうか。妹が雛人形を欲しがった時も同じ。子供心に、百貨店に行って立派なものが欲しい気持ちはあるけれど、身近な材料で実際に父親が作り始めるとワクワクするんです。使う道具も専門的になっていって。そうした体験を通じて、デザインや建築に憧れていったんでしょうね」
一番の思い出を尋ねると、部屋の改装のエピソードが披露されたが、これにはちょっと驚く。
「天井の低い部屋に住んでみたいと言ったんです。すると、材木屋さんから木片を持ち帰って、3か月くらいかけて床を上げてくれた。部屋にあった勉強机や箪笥は以前の高さのままだから不便極まりなかったけれど。でも、デザイン=楽しいというのはやっぱり大事ですよね。」

農業に教育、つくりたいのは?

現在、両親は千葉で、野菜づくりに励んでいる。これもナガオカさんのプロジェクトの一環だ。新鮮な無農薬野菜をカフェで提供するほか、店頭での販売も行う。
「なぜ1週間を月、火、水、木、金・・・・・・と呼ぶのか。人はこの7つの要素に絶えず触れていないと二元らしく生きられないからだと思うのです。土に触れると気持ちよかったり、水を蒔いたり、葉に触ったり、光をどうやって与えるかを考えていたら、それを実践できるのが農業だと気づいた。いずれはここに、スタッフが気持ちよく仕事のできる環境を用意したい」
頭の中では常に新たなアイデアが無数に駆け巡っている。来年からは、デザインの教育機関で教鞭を執ることも決まっているが、その構想にナガオカさんの真髄が見え隠れする。
「『D&Dゼミ』と称し、売り場で授業をするつもりです。中古品の引き取りから始めて、接客まで体験してもらう。輝いて見えていたデザインの実態を少しは感じるでしょうね。この店は〝デザイナー名で商品を紹介したい″というルールがあって、すると自分の力や経験で商品を伝えることが求められる。こうした積み重ねがデザインの価値観を変えるきっかけになれば」

ナガオカケンメイ(ながおか・けんめい)
1965年北海道生まれ。日本デザインセンター原デザイン研究室(現研究所)を経て、drawing and manual を設立。2000年に東京・世田谷にデザインとリサイクルを融合した事業「D&DEPARTMENT PROJECT」を開始する。02年には大阪・南堀江に、07年には札幌に、08年11月には4番目となる静岡店をオープンし、47都道府県での展開を目指す。「日本のものづくりの原点商品・企業だけが集まる場所」としてのブランド「60VISION」(ロクマルビジョン)を02年に発案し、60年代の廃番商品をリブランディングするなど、現在12社とプロジェクトが進行中だ。また08年9月には47都道府県からデザイン性に優れた伝統工芸品や土産物、地方誌などを「物産展」形式で紹介した「デザイン物産展ニッポン」(東京・松屋銀座)展を企画。地域の多彩さや、日本の地場産業の魅力を、デザインを通じて再発見するイベントに6日間で1万5千人が詰めかけた。写真のナガオカさんが頭にのせた紙袋は再利用品で「D&D」の手提げ袋。

 

本記事は、「EATING WITH CREATIVITY」をキャッチフレーズとする雑誌『料理通信』において、各界の第一線で活躍するクリエイターを取材した連載「クリエイター・インタビュー」からご紹介しています。テーマは「トップクリエイションには共通するものがある」。

 

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