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PEOPLE / 寄稿者連載

「いい空間」の定義って? つづきのお話

東野華南子さん連載 「暮らしを創る、店づくり ―いい空間て、なんだろう― 」第3回 

2020.06.22

PEOPLE / LIFE INNOVATOR

連載:東野華南子さん連載

店の担い手に愛されていること、
店の担い手がその場所を楽しんでいること。

それこそが、前回お話ししたあの店の居心地の良さの理由だったとわかったのは、
私たちの店の原点でもある、アメリカの「ReBuilding Center」(以下、リビルディングセンター)を訪れた時でした。

ポートランドで出合った、不思議な場所

新婚旅行で行ったポートランドやサンフランシスコ、シアトルでは、
20軒くらいのサルベージショップを巡り、リビルディングセンターはそのひとつでした。




1日数軒のサルベージショップを巡った新婚旅行。とにかく見るものすべてが新鮮だった。

リビルディングセンターは、何度も行きたくなる不思議な場所で、
実際に1週間の滞在で3回も4回も訪れることになりました。
商品には、ちぎった段ボールで作られたポップがあちこちに貼ってある。
なんだかよくわからないけど、(アメリカを開拓した伝説の巨人・ポール・バニヤンになれる)顔ハメパネルがある。
レジがある小屋のなかで、おばちゃんが音楽をかけてノリノリで、売っているTシャツとは違う(おそらく以前に売っていたであろう)リビセンTシャツに、切りこみを入れたり編んだりしてアレンジして着ている。
そして、長い棒の先に筆をつけて、踊りながらペタペタと壁にロゴを描いている。
レジ前で売ってるステッカーには、ロゴの下に“I love that place”と書いてある。
日本から来たんだー、と言ったら、ぎゅーぎゅーにハグしてウェルカムしてくれる。
私達のリビルディングセンター、とっても楽しいでしょ!と、にこにこ。
行くたびに、また行きたくなる。そんな場所でした。



私たちの志の基となった、リビルディングセンター。雑多なのに、とにかく居心地が良い。


スタッフのおばちゃんたちも、とにかく楽しそう。


たくさん訪れたサルベージショップを今振り返ってみても、
ポートランドにある「salvage works」の方がお洒落だったし、
在庫も豊富で売り場が整理されていて買い物しやすいのは、シアトルの「second use」でした。
でも、リビルディングセンターの愛され方に、とにかく心を掴まれました。

私たちが見たリビセンは、働く人たちの「店をこうしたいな」が持ち寄られてできていました。
担い手それぞれが、鼻歌まじりに手を練り、その場所で生きることを楽しんでいる。
片づいてるわけじゃないどころか、むしろごちゃごちゃしてるのに、
健やかに楽しげに愛されている気配が店のあちこちに落っこちていて、
「あんたたち、可愛がられてるんだねぇ!」と、空間に声をかけたくなるくらい、
とてつもなく嬉しくなったのを覚えています。

心を動かす空間とは

岡山で出合ったあの店もまた、担い手が店を楽しんでいたのだと思う。
「楽しさ」なんていうと、なんだか軽く聞こえてしまうのだけれど、
こうしてみようかな、これやってみようかな、あんなこといいな、できたらいいな、というような、
空間に対する楽しみかたを見ているようでした。
店のブランケット、市販でいいのないなぁ……よし、作るぞ!みたいなストイックさじゃなくて、
編み物でもしたいな、あ、ちょうどブランケット探してたし作ってみようかな、というくらい自然な流れのなかで、あの店は出来ていったんじゃないだろうか。

実際はどうだったのかはわからないけれど、ストイックさや、隙のなさや考え抜かれた完璧さだけを自分たちの辿り着くところとせず、その場所を大切に思って考え続け、繰り広げていっている様子に、どうしようもなくぐっときてしまう。だから、自分たちの店も誰かの胸にそんな形で届けばいいな、とそう思ったのです。

思考と行動と暮らしの軌跡の末に、店はある。
自分達自身が空間に心動かされ導かれながら店を作り、そうして作った店が、訪れた人の心を動かすものになれたらいいな。

諏訪のリビルディングセンターの仲間たち。みんないい笑顔!


私たちは格好いいグラフィックを使ったビジュアルづくりや洗練された美しさは、アウトプットとして出せない。けれど、アメリカのリビルディングセンターで感じた、担い手に愛されている場所に身を置く心地良さやときめきは、作れる。私たちなりの愛でかたで、楽しみ方で、諏訪でリビセンを育てていけるし、来てくれる人にも届けたい、と考えています。

大好きな店達で感じた、あの温かな気配を空間に広げながら。



東野 華南子(あずの・かなこ)
1986年埼玉生まれ。中央大学文学部を卒業し、カフェで店長、ゲストハウスでの女将経験を経て、2014年よりフリーランスデザイナーだった夫・東野唯史氏とともに「medicala」として空間デザインユニットとしての活動をスタートする。15年に新婚旅行で訪れたポートランドのDIYの聖地とも言われる古材住宅資材販売ショップ「ReBulding Center」に感銘を受け、名称の使用許可を得て、16年に同名にて店をオープン。代表取締役は唯史氏。リサイクルショップとしてだけではなく、「REBUILD NEW CULTURE」を信念に掲げ、捨てられていくものや忘れられていく文化を見つめ直し、人々の生活を再び豊かにする仕組みを作るチームを目指す。
http://rebuildingcenter.jp/





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