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真鍋太一さん 連載 “小さな食料政策” 進行中。
第9回 「食にまつわる5つの妄想」

People / Life InnovatorMar. 1, 2021

2011年10月、OPENharvest のプロジェクトで新潟 南魚沼の自遊人さんの稲刈りを手伝わせてもらった日のひとコマ。ここには、Chez Panisseで当時働いていたメンバーに加え、職業も立場も人種も性別もばらばらの多様な人たちが集っていた。私の食への関わりの原点だ。

その0.10年前からの妄想

食の文脈に関わり始めたのが2011年。OPENharvest というプロジェクトがきっかけだった。そのときに出会った料理人たちと2012年にNomadic Kitchenという活動をはじめた。活動開始から3年くらいは、産地をめぐり、その土地のつくり手と出会い、食を共にした。その時、出会った人たちとの関係はずっと続いている。

しばらくぶりにNomadicのサイトをみたらこう書いてあった。

Creating Community for Good Food System. 
より良い食のための地域をこえたコミュニティづくり。

Nomadic Kitchenは、料理人が中心となって、
つくる人と商う人、そして食する人が、世代や立場、地域をこえ、集う時間をつくります。
食べることを通じて語り合い、より良い「食のつながり」について、
みんなで学び、考え、行動する、コミュニティづくりを目指しています。

昨今は、徳島県の神山町でフードハブ・プロジェクトという農業の会社をはじめたのでNomadic Kitchenとしての活動はほぼ休止状態だった。連中と集まっても何も決まらないというのもあったが。

2020年以降、レストラン業界は大変なことになっている。食というエッセンシャルなものごとに向き合う中で、料理人たちやそこに従事する私たちの存在価値は問われている。

「支配人、そろそろ動きだす時じゃない?」

料理家の野村友里と出会ってから10年が経とうとしている。この人の言葉はいつも私に重くのしかかる。

Nomadic Kitchenを本格的に組織化することで、今、私たちに何ができるのか。営利追求を目的とした枠組の中で今更やってもつまらない。

たとえば、料理人たちの叡智を世の中の共有価値として開放し、社会の役に立つプラットフォームをつくる。そのための組織は、日本各地の生産者のためにある、料理人を中心とした小さなつくり手が集まったワーカーズコープなんかもありかもしれない。


Chef's Workers Coop

ともすれば名のあるシェフたちによる“表現”活動になる可能性もあるが、私たちが先の世代のために大きな意志と覚悟をもって、そろそろ動き出すときに来ているのかもしれない。みんなもいい歳にもなってきたので 汗

ここからは、更なる妄想を書いてみたいと思う。

妄想1.中規模流通の仕組みの構築

2014年4月に行われた香川県 女木島でのひとコマ。島で料理屋を営む松内日出男さんが、「海の魚は海水で洗うと味が新鮮に保たれる」の一言からみんなでイベント用の魚をせっせと海でさばく。D&Department で食のディレクターを務める相馬有輝さん(手前)が一緒に魚をさばいているが、先日「今でも忘れられない経験」と話してくれた。

Nomadicを組織化するとしたら、その目的のひとつは、小さなつくり手たちの本格的なネットワーク化だ。小さなつくり手とは地域に根ざす農家、地元の食材を使う加工者、料理人やパン職人。

“ネットワーク”というと抽象的な話になりがちなのであえて具体的に。ここでは“中規模流通の仕組み”(ミディアム・サプライチェーン)をネットワークと位置づけたい。

なぜ中規模流通の仕組みなのか。

大元鈴子氏の著書「ローカル認証|地域が創る流通の仕組み」では、大規模なグローバルに展開されている画一化された流通の仕組みをロング・サプライチェーンとし、地産地消などの小規模な産直販売などをショート・サプライチェーンと定義している。


その大規模と小規模、グローバルとローカルの二項対立の真ん中に位置するミディアム・サプライチェーンを、地域外にも流通させる“生産地域発信型"の流通としている。

私たちが徳島の神山町でやっているフードハブ・プロジェクトなどは、極端なショート・サプライチェーンからミデイアムに移行しつつあるとも言える。

自営業の規模を超え、地域の課題を解決しつつ、企業として自立させるには人口5,000人の中山間地域の需要だけで維持するのはなかなか難しい。

また小規模ゆえに既存の流通の仕組みに乗らず、取り扱いがむずかしいなんて話は幾度となくあった。それを解決していけるのが、小規模のつくり手たちによる協同の中規模流通の仕組みじゃないかと考えている。

新しく立ち上げた「ものさす社食研」で手掛けるコントラクトフードサービス(社食)では、1日700食ほどのランチを提供する職域食堂を運営する計画で、小さな農家たちの安定的な取引先としての仕組みを確立していくことを目指している。

このミディアム・サプライチェーンに関して、著書の中で印象に残った言葉を抜粋してみる。

・関係性の濃い流通経路を構築
・生産物に産地や生産者のアイデンティティを投影する
・生産者の想いを共有できる関係以内の流通
・生産地域のアイデンティティを保持したサプライチェーン

Nomadic Kitchenの組織化の意味は、料理人たちの力を使い、この中規模の流通網を再発明ことにあるのではと考えている。

妄想2.ローカル認証制度の構築

Nomadic Saltは、2012年の年末に「和歌山のぶどう山椒をもっと世の中に広めたい」とFrom Farmの大谷幸司さんから突然連絡をもらい、地道に2年くらいやりとりをつづけ、発売にいたったNomadic唯一の商品だ。現在でも彼が製造・販売を手がけてくれていてじわじわと売れ続けている。大谷さんは、今では若者が農家さんを手助けする蜜柑援農の仕組みを立ち上げ運営したり、カフェを経営されたりと多角的に地域の食を盛り上げる存在となっている。

地域発信型の中規模流通の仕組みをつくるには、"ローカル認証制度”というものが有効だということが大元氏の著書には書かれていて以下のように定義している。



“地域の気候、生態系、土壌環境などの特徴を活かし、
地域の状況に即した基準を設けた認証制度で、
特定の生態系の保全だけではなく、
地域全体の持続可能性を目指す取り組み。

また、経済的利益を中心的目的とせず、
地域的な課題を組み込み社会、文化、環境的な地域づくりを重視し、
経済と農環境の多様性、地域農水産の加工と販売を向上させる仕組み。”


手前味噌ながらこれは「地産地食」を合言葉に2016年から活動してきたフードハブが実現しようとしていること、そのままだなと思うところではある。また、先のNomadic Saltも、和歌山の食材を使って大谷さんと一緒に開発し、発売し続けていることがきっかけで彼の食を通した地域での活動は広がり続けている。

これを全国規模で料理人たちと協力しながら"ローカル認証”なるものを共有価値としてつくり社会に実装していくことはできないのかと考えている。

都会向けの地域商品のブランディングでもなく、海外から導入されたお墨付きのラベルでもない。それぞれの地域の社会的・環境的課題の解決を担い、各地域が自立分散的に自らのアイデンティティを食を通じて見出し、アメーバーのように有機的に繋がっているローカル認証制度を、料理人を真ん中にすえれば可能なのではと考えている。

妄想3.認証制度の方向性

2017年の春先にNomadic Kitchenの料理人たちが神山を訪れた際に振る舞われた地元のお母さんたちの自慢の料理。この料理にだれしもが感嘆の声をあげ、宴会は明け方まで続いた。このような"無名の味”を残し、広めていくこともこの活動の目的のひとつだ。

無名の質:Quality Wihtout A Name

いろいろな活動の中で個人的に大切にしてきている言葉だ。

この言葉は、クリストファー·アレグザンダーという都市計画家·建築家が、パタン·ランゲージという建築·都市計画理論の中で提唱した考えだ。

Quality Without A Name
無名の質

Alive 生き生きとしていること
Whole 全一的なこと
Comfortable 居心地のいいこと
Free とらわれていないこと
Exact 知識の正確なこと
Egoless 無我であること
Eternal 永遠であること

前からこんな感じの人になれたらいいなとか、こんな組織や空間をつくれたらいいなと思い活動してきたつもりだ。それが今後このローカル認証制度みたいなもの、それぞれの地域のアイデンティティを象徴するような食べること全般のものづくりの方針として活かしていけないかと考えている。

それを“無名の味”とよんでみたい。

Nomadicのこれからの活動は、この“無名の味”が鍵じゃないかと思っている。

何をおっしゃいますか、
有名なシェフたちのお集まりでしょ~。

という声が聞こえてきそうだが、それはあくまでもきっかけの話で、先に書いた“料理人たちの叡智を世の中の共有価値として開放し、社会の役に立つプラットフォームをつくる”という意味でも名のある料理人に加え、地域に根ざして活動する有名無名を問わない食のつくり手が入り混じった“無名の味”が重要になってくるのではないか。

これを無印良品に例えて話してみたい(無名だけに)。

無印良品の商品開発の背後では日本(世界)屈指のデザイナー、クリエイター陣がディレクターを努めているが、彼らの名にたよって商品を売るということはやっていない。しかしながら商品やお店づくり、広告コミュニケーションの細部に至るまで彼らが目を光らせている。これを無名の質と言っていいかわからないが、その仕組みそのものが無印をつくりあげていると思う。

この背後にいるディレクター的な役割をNomadicで活動する料理人たちが担っていく。かれらが地域のそこにある“無名の味”を見出し、料理を通してさらなるアイデンティティを地域の人たちと内発的につくりだし、育てていくことができると考えている。

しかしながら料理人なら誰でも良いという話ではない。

NETFLIXでよくみる利己心丸出しの料理人にこの手の話が通じるとは思わない(リアルにこういうタイプが多い)。自分の作りたい味のために食材を世界中から調達し、素材を分解し、自分の味に再構築していくタイプより、自然に寄り添い今ここにある食材の味を引き出していく料理人。例えていうなら“無名の味”を追求している料理人のほうがこの手の活動に向いていると思う。

また無印は、その利益や価値体系の大部分は皮肉にも「MUJI 無印」というブランドに集約され、企業のさらなる成長を促す仕組みで運営されている。本来の“無名の質”をたくさんの人が関わる形で実現するために、株式会社という枠組ではなく、Workers Coopという方法が有効なのではと考えている。

妄想4.料理人協同組合の設立

2016年4月に女木島で行われたイベントの運営メンバー。Nomadic Kitchenの活動は有志によるボランティアベースの活動だった。だからこそできた活動でもあるし、つながりは今でもつづいている。これは社会的な課題の解決を目指す、ある種の広域な食の「市民活動」だったのかと今更ながら思う。

Chef’s Workers Coop|料理人(労働者)協同組合

先に書いた妄想を実現していくには“Coop”という組織形態が合っているではと思っている。

コープと言えば、生活協同組合(生協/コープ)が全国各地にある。生協は一般市民が集まって生活の質の向上を目的に事業を行う協同組合で、消費生活協同組合法(生協法)の基に運営されている。そもそも生産者の仕組みではなく消費者側の仕組みだ。

その法律の中には県をまたいで事業を行ってはならないなどの条項があり、昨今は、同じ県内でも新たな生協が設立され競争が生じたり、生産者の扱いがずさんな生協も存在すると聞く(うちの農業長がコープ◯◯◯とは絶対に取引したくないと言っているw)。

また会員に公平に行き渡ることや欠品ができないなどのニーズ?から、小規模の生産者のものはあつかいづらく、生産も流通も大規模化されてしまっている現状があるそうだ。もちろん全てのコープがそうではなく、フードハブは福岡を拠点とするグリーンコープさんから多大なるお力添えを頂いている。

また生産者協同組合というものもあるが、これは生産者が集中購買や機械の共有化や販促を目的に協力して立ち上げるものだ。

以前から生産者と消費者が横にならんでいるような関係性の組合的なものをつくれないかとずっと考えてきた。Chef’s Workers Coopは、生産者協同組合と生活協同組合の間に位置し、2つの存在を優しく包み込んでいく存在になるのではないか。

話を労働者協同組合にもどす。

いまだ勉強不足ではあるが労働者協同組合法が2020年末に法律として制度化された。その目的はこんな感じだ(参考記事)。

労働者協同組合は、地域の課題を解決し、働きがいのある仕事(とその環境)の創造、持続可能で活力のある地域社会の実現と振興に資する目的のものでなければならない。

原則としてこの組織は地域社会に根ざしたもので、料理人協同組合でやるべきことはざっくりこんな感じで考えている。

1 料理人を一次産業にエンベットする
神山での活動の最大の特徴は、農業という一次産業のプロセスに料理人やパン職人をエンベット(埋め込んだ)ことにある。これを日常化したことで日々の活動の中で地元の農作物を使い、その土地のアイデンティティとなるような加工品が内発的に生み出されていくさまをこの5年見つづけている。Chef’s Workers Coopはこれを各地に適切に埋め込んでいくための組合だと考えている。

2 食による地域課題の解決
最初に書いたようにこの組織の目的は、料理人の叡智を使い、食を通じて地域社会の課題解決につなげていくことにある。また食は多くの人に関わる日常のことだ。これを利益でのためではなく(資金は重要)、料理人によって地域の食の生産における自治力を高めていくことにつなげていく。

3 食のつくり手のネットワーク化
小さな食のつくり手を中規模の流通やローカル認証制度によってネットワーク化することでノウハウの共有、地域の食文化の継承、人材の発掘や育成、地域間での人材の流動化につなげていく。

4 セクターを超えた食の有機的な自治組織
上記の内容を料理人を中心としつつ、食にまつわる研究者、農家、ジャーナリスト、流通の専門家、教育者など、領域を横断したメンバーが所属する組織にし、経営者と労働者の二項対立の関係ではなく組織そのものも自治的に運営していく。

先にあげた“無名の味”は、地域社会やコミュニティのためにある、市民活動のような自治的な組織形態だからこそ可能になると考えている。



妄想5.プラットフォーム協同組合主義による自治

2014年秋、小布施ワイナリーの曽我さんの声がけにより実現した葡萄畑での食事会。このテーブルには、食にまつわる多様なつくり手たちが全国から集っていた。食べるを真ん中に人が集い、つくる人と食べる人が横並びの関係を料理人と共に築いていく可能性が感じられる時間だった。ちなみに曽我さんに「畑で食事会をやろう」と言ってもらうまで3年の時間がかかっている。

この一連の妄想は、"プラットフォーム協同組合主義(Platform Cooperativism)”という組合型のデジタルプラットフォームに自然と発展していくのではと思っている。

UberやAirBnBなどの中央集権型のシェアリングプラットフォームは、労働者またはサービスの提供者にリスクや労働を担わせ、多額の利用料を効率的に搾取することで、その利益の多くを株主に配当することが問題になってきている(資本主義では当たり前のはなしなのだが)。

一方でプラットフォーム協同組合は、その多くをサービスの利用者に還元しつつ、利益の一部を再分配、またはそれを運営するコミュニティや地域そのものに再投資していくというものだ。

この食にまつわる組合型のデジタルプラットフォームの主たる利用者は、地域に根ざし多くのリスクを取っている小規模な生産者であり、その利益の多くは彼らに還元されていく。

またそれを運営するコミュニティは、料理人を中心に食の分野の研究者、ジャーナリスト、私のような立場の人間が含まれ、更には行政やNPOとも連携していくことで有機的なデジタルプラットフォームが内発的に生え上がってくる。

日本各地のつくり手と食べ手がこの組合型のプラットフォームで有機的につながり、都市と地域で分断してしまっている食にまつわる生産、流通、消費の関係性そのものが再構築されていく。

私たちは、分断によって失われたコミュニティにおける相互扶助という助け合いの関係性と食料生産における自治をこれによって取り戻していくのだ。

という妄想でした。







真鍋 太一(まなべ・たいち)
1977年生まれ。愛媛県出身。アメリカの大学でデザインを学び、日本の広告業界で8年働く。空間デザイン&イベント会社JTQを経て、WEB制作の株式会社モノサスに籍を置きつつ、グーグルやウェルカムのマーケティングに関わる。2014年、徳島県神山町に移住。モノサスのデザイン係とフードハブ・プロジェクトの支配人、神田のレストラン the Blind Donkey の支配人を兼務。
http://foodhub.co.jp/











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