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PEOPLE / 食の世界のスペシャリスト

83歳。「朝早くから、こんなところまで、よう食べに来るなと思うけど」

生涯現役|香川・まんのう町「三嶋製麺所」三嶋アキミ

2021.05.06

text by Kasumi Matsuoka / photographs by Taisuke Tsurui

連載:生涯現役シリーズ

世間では定年と言われる年齢をゆうに過ぎても元気に仕事を続けている食のプロたちを、全国に追うシリーズ「生涯現役」。超高齢化社会を豊かに生きるためのヒントを探ります。


三嶋アキミ(みしま・あきみ)
御歳83歳 1936年( 昭和11年)11月14日生まれ
「三嶋製麺所」

香川生まれ。3代目の元に嫁ぎ、店で働き始める。もともと精米所だった店の創業は、昭和35年頃。子ども3人、孫5人。10~4月の間は、蕎麦も販売。現在、娘の松尾洋子さん(55)、孫の弘季さん(32)と店を切り盛り。弘季さん、猫1匹、犬1匹と同居中。2019年末に免許を返納した。

(写真)うどんを茹でる三嶋アキミさん。一緒に働く娘曰く、「すごい働き者で、小さい頃から仕事をしている姿しか記憶がないぐらい」。6年前まで、休みは元旦のみだった。


粉を捏ねて、打って、玉にするの繰り返し。


うちはもともと精米所で、この辺りの畑で採れた小麦や蕎麦を水車で挽いて、粉にしよったんよ。3代目にあたる私の夫の代から製麺所になりました。こうやって店の中に机と椅子を置いて、座って食べられる場所を設けたのも10年ぐらい前と、わりと最近のことなんよ。

ほら、山間のこの辺りは、ご飯を食べられるような店がないろう。山に猟をしに猟師が来ても、食べるところがない。それで製麺所やったうちに、自分らでお椀とお箸を持ってきて、その辺りで立って、茹でたうどんを食べ始めたのが始まり。それから讃岐うどんが映画になったり、ブームみたいな流れが来て、人がようけ来るようになってね。とりあえずこうやって食べられる場所を作ったんよ。

夫が亡くなって、今は娘と孫と3人で店を切り盛りしよる。娘は丸亀市から、車で40分ぐらいかけて通ってくれとる。孫は1回、都会で就職したんやけど戻って来て、今はここで一緒に暮らしてます。土日には、会社員の息子も駆けつけてくれて、手伝ってくれる。週末は、朝から外に人が並ぶんよ。

こんなところまで、よう食べに来るなと思う。朝早くから並ぶ人ほど、遠方から来る人が多いね。けんど、朝早うから、わざわざこんな辺鄙な場所に来て並ぶなんて、私にはよう分からん(笑)。だいたい、うどんを食べに店に行くということがないもの。うどんが好きかって? すごく好んで食べるというわけやないね(笑)。小さい頃は、どちらかというと嫌いやった。この辺りは給食でも月に1~2回は必ず出るんよ。子どもの時は仕方なく食べるんやけど、大人になっておいしさに気付くという人も結構多い。


メニューは、温か冷かを選び、小150円、大250円、卵40円(すべて税込)といたってシンプル。写真は、冷・小。打ちたてのうどんの、抜群のコシを味わえる。醤油は、香川県の丸尾醸造所の濃口醤油。前の畑で育てているネギをたっぷり添えて。

朝は5時頃に起きて、うどんの仕込み。粉を捏ねて、打って、玉にするの繰り返し。うどんの仕込み方は、全部見よう見まねで覚えました。わざわざ教えてもろうたりはせんよ。私も娘や孫に、手取り足取り教えたりせんもの。ここら辺りは、家でもうどんを打って食べるから、小さい頃から自然と見て育って覚えるもんよ。法事とかがあると、100玉単位でまとまった数の注文が入ることもよくあるし、一日に仕込む量は、日によってだいぶ違うね。

仕込みを終えたら、6時半頃から30分、犬の散歩に行きます。山と畑に囲まれとるから、季節を感じられて気持ちいい。散歩から戻ってきたら朝ごはん。だいたいご飯、味噌汁におかずを添えた和食やね。食べたら一息ついて、8時頃から店を開けて支度。午前中も結構人が来るんよ。

店での役割ははっきり決まってはないけんど、私は主に茹でる担当。娘がうどんを打つ担当、孫が接客。昼のピークを過ぎたら、いったん二階の自宅に上がって、ちょっと休憩させてもらう。それから閉店の16時半まで、また店に出て仕事を終えます。

こうやって店を続けてきたことは、良かったと思う。お客も来てくれるし、家族で切り盛りできる。嬉しいことです。でも、いつまでできるかは分からんね。店を継いでいってほしいという気持ちも特にない。いつ辞めてもかまんと思うてます。

さて、うどんを茹でろうかね。もうそんなにしゃべることないで(笑)。


毎日続けているもの「うどん」


◎三嶋製麺所
香川県仲多度郡まんのう町川東276
☎0877-84-2266
平日 9:00~16:30
土日祝 9:00~16:00
金曜休
コトサンバス美合線中通バス停から徒歩5分
美馬IC、善通寺ICから車で約30分

雑誌『料理通信』2020年5月号 掲載)
※年齢等は取材時・掲載時点のものです




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