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大地からの声――13
生産者と消費者の相互理解が、農と食の未来を変える。
「アグリシステム」 伊藤英拓さん

People / ProducerJun. 15, 2020

text by Kyoko Kita


北海道の十勝平野で契約生産者と共に環境保全型農業に取り組み、顧客のニーズに合わせた流通や情報共有を行う「アグリシステム」。代表の伊藤英拓さんは、現代の農業が抱える課題は、産地と消費地との分断にあると考えています。今回の危機が、これからの農や食のあり方を見つめ直すきっかけになることを期待しています。



問1 現在の仕事の状況

経済不安が安価で健康的な日常食の需要を底上げ。

扱っている主な作物は小豆、小麦、大豆で、それぞれに状況が異なります。
小豆の卸し先は和菓子屋が主となりますが、COVID-19による緊急事態宣言発出以降、京都の中堅~大手和菓子屋などインバウンドや観光客を主なターゲットとする店舗では売上が平年の2割も動いていません(4月~5月)。駅構内、百貨店内の和菓子屋も厳しい状況です。インバウンドが本格的に戻るにはかなりの時間を要するでしょう。

一方、小麦の卸し先は路面のリテールベーカリーがほとんどで、売上は前年並み~やや好調ですが、商業施設や駅構内に出店しているチェーンベーカリーやベーカリーカフェなどはやはり苦戦しています。
家庭用小麦粉に関しては、一時スーパーでだいぶ品薄になっていました。国内での小麦原料備蓄は十分にあり安定供給できる体制は整っているのですが、メーカーのパッケージが追い付いていない状況があります。今回のような急激な需要の伸びは一時的なものなので、そこに投資できない事情もあるでしょう。

大豆は主に小売店向け食品製造メーカーへ卸していますが、外出自粛の中、免疫力向上食品として、また安価な個食としての需要から納豆の販売が好調です。そのため供給が追い付かず、メーカーの工場はフル回転していますが、スーパーなどからの受注に対して7割程度しか対応できていないところもあるようです。

COVID-19をきっかけに広がっていく経済危機は、今までに誰も経験のしたことのない事態が予想されます。自粛が始まった当初は、加工品・冷凍食品以上、嗜好品未満といった、自宅で手間をかけずささやかな贅沢を楽しめる食べ物に需要が集中しましたが、その後は自宅で過ごす時間が長くなり食事に手間をかける余裕ができたことから家庭用の小麦粉も売上を伸ばしました。加工品よりも安価で活用の幅が広いという理由もあるでしょう。そして今後の経済状況によってはますます消費の傾向は変化し、より安価で栄養価の高いもの、健康や免疫力向上に寄与するものにシフトしていくと予想しています。



問2 今、思うこと、考えていること

オーガニックへの切り替えを考える時。

大規模な感染症の広がりを受け、健康や免疫力など生命の根本に対する意識が高まっているのではないでしょうか。中でも食品の安全性についてはこれまで以上に注目されているのを感じます。

ここ数年、小麦の収穫の手間を省くためにプレハーベスト(収穫前農薬)として使われるグリホサートを主成分とする除草剤が、人体や自然環境に悪影響を及ぼすとして、使用を規制したり禁止する動きが世界的に広がっています。アメリカのゼン・ハニーカットさんが『アンストッパブル』という本を出版し、その危険性を訴えた活動は日本の生協などにも影響を与えました。世界的に見れば数十万人単位で反対運動が起こっているのです。

そんな中、日本ではグリホサートの残留基準値が大幅に緩和されました(5ppm→30ppm)。市場に流通している多くの外国産小麦を原料とする小麦粉(主に北米産)や、パン、パスタなどで検出されています。
ポストハーベスト(収穫後農薬)についても、長期輸送に耐える品質を確保するため、有機栽培などを除く輸入小麦に使用されており、有機リン系農薬のマラチオンなどの残留が多くの検体より確認されています。

宣伝広告により過剰消費を促し、大量生産される現代の食品流通は果たして本質的に、人間の食や生活を豊かにしているといえるのでしょうか。

今現在、国内産小麦の自給率は15%程度ですが、自給率を上げるために作付面積を拡大していくにも限度があります。また数年前からは国内でも小麦、大豆などに対してグリホサート農薬の収穫前の使用が許可されており、国内産小麦の安全性にも疑問が出てきました。国産か外国産かを問わず国内で消費されるすべての小麦の安全性を確保できるよう、産地と消費地が一体となって取り組む必要があります。

生産地としては、土づくりによってできるだけ農薬や化学肥料に頼らない栽培方法を確立しつつあります。それらは低コスト・高品質・環境保全型であり、次世代を見越した持続可能な農業でもあります。収量は多少落ちても、土への負荷や投入コストが少なく、付加価値により相場に左右されず安定した価格で販売できるため、長期的には収益性も含め一般的な農法以上に成果をあげている事例もあります。
収穫量のみを求めてしまうと生産環境に負荷がかかり、最終的には持続性を失ってしまいます。既存のシステムや価値観に捉われることなく、観察と芸術性をもって今の生産システム・流通システムを変容させていかなければなりません。

COVID-19の感染拡大の背景として、自然破壊により住処を脅かされた野生生物と人間との接触が増加したことや、遺伝子組み換え作物や抗生物質の過剰投与による家畜の免疫低下が指摘されています。遺伝子組み換え作物やグリホサート系農薬、ネオニコチノイド系農薬などの化学物質は人間の免疫力も低下させ、感染者が重症化する原因の一つにもなると考えられています。
ミネラル、ビタミン、酵素を取り入れた食事で免疫力を向上させること、つまりオーガニックな食事がウイルスへの対抗策として有効だということです。『アンストッパブル』でも、遺伝子組み換え食品をオーガニック食品に変えることで多くの人の病気やアレルギーが改善し、医療費が削減できることが報告されています。
今、アメリカでは食品流通の1割に迫る勢いでオーガニック食品が伸びています。日本でも、まず消費者一人ひとりの意識が変わること、そして私たち食の生産・流通に関わる者は消費者の健康を第一に考え、リードする使命があると改めて感じています。

今回の経済危機は私たちに「本当に必要なものはなにか?」「今後どう在るべきなのか?」という大きな課題を与えているのではないでしょうか。


330haのバイオダイナミックファーム「トカプチ」では、放牧による酪農やオーガニック乳製品製造の他、小麦やライ麦、豆などを栽培。収穫した麦を自社のパン工房「風土火水」で使用する。



フィルドマンと呼ばれるスタッフが契約農家のもとを頻繁に訪ね、植え付け作物の相談から、施肥設計、生育管理、適期収穫指導などサポート。協力しながら高品質な農産物の生産に取り組む。こちらは契約農家のとくら農場 土蔵信さん。



問3 シェフや食べ手に伝えたいこと

生産と消費の分断をなくし、共に支え合う社会へ。

現在の流通の仕組みでは、生産者と消費者の繋がりが分断されています。生産者は自分たちが生産したものがどこに行き、誰が食べるのかを知ることができないし、消費者も今食べているものが、誰がどのように作ったものか関心を持つことはありません。
今後は生産地と消費地がもっと深く繋がり、相互理解を深め、共に新しい豊かさのある流通を確立していく必要があるでしょう。消費者には積極的に生産地に足を運んでほしいと願います。

現代社会では、自分自身の心身を作り、生きていく上で欠かせないはずの食べ物の優先順位が下がっているのを感じます。今日どのような食品を食べるかという選択が、明日の社会や地球環境を作る。その意識を一人ひとりが持つことで未来は大きく変わっていくのです。


伊藤英拓(いとう・ひでひろ)
「未来の子どもたちのために」を理念に掲げ、産地と消費地をつなげる仕組みの中で持続可能な農業に取り組む。小麦、小豆、大豆などをメーカーや専門店に卸す他、大規模バイオダイナミックファームや、自然食品店、オーガニック薪窯パン工房を運営。

アグリシステム
http://www.agrisystem.co.jp/
アグリシステムfacebook
https://s.r-tsushin.com/2BDvKaV
伊藤英拓さんfacebook
https://www.facebook.com/global.tokachi




大地からの声

新型コロナウイルスが教えようとしていること。




「食はつながり」。新型コロナウイルスの感染拡大は、改めて食の循環の大切さを浮き彫りにしています。

作り手-使い手-食べ手のつながりが制限されたり、分断されると、すべての立場の営みが苦境に立たされてしまう。
食材は生きもの。使い手、食べ手へと届かなければ、その生命は生かされない。
料理とは生きる術。その技が食材を生かし、食べ手の心を潤すことを痛感する日々です。
これまで以上に、私たちは、食を「生命の循環」として捉えるようになったと言えるでしょう。

と同時に、「生命の循環の源」である生産現場と生産者という存在の重要性が増しています。
4月1日、国連食糧農業機関(FAO)、世界保健機関(WHO)、関連機関の世界貿易機関(WTO)、3機関のトップが連名で共同声明を出し、「食料品の入手可能性への懸念から輸出制限のうねりが起きて国際市場で食料品不足が起きかねない」との警告を発しました。
というのも、世界有数の穀物生産国であるインドやロシアが「国内の備蓄を増やすため」、小麦や米などの輸出量を制限すると発表したからです。
自給率の低い日本にとっては憂慮すべき事態が予測されます。
それにもまして懸念されるのが途上国。世界80か国で食料援助を行なう国連世界食糧計画(WFP)は「食料の生産国が輸出制限を行えば、輸入に頼る国々に重大な影響を及ぼす」と生産国に輸出制限を行わないよう強く求めています。

第二次世界大戦後に進行した人為的・工業的な食の生産は、食材や食品を生命として捉えにくくしていたように思います。
人間中心の生産活動に対する反省から、地球全体の様々な生命体の営みを持続可能にする生産活動へと眼差しを転じていた矢先、新型コロナウイルスが「自然界の生命活動に所詮人間は適わない」と思い知らせている、そんな気がしてなりません。
これから先、私たちはどんな「生命の輪」を、「食のつながり」を築いていくべきなのか?
一人ひとりが、自分自身の頭で考えていくために、「生命の循環の源」に立つ生産者の方々の、いま現在の思いに耳を傾けたいと思います。

<3つの質問を投げかけています>
問1 現在のお仕事の状況
問2 今、思うこと、考えていること
問3 シェフや食べ手に伝えたいこと






























































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