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大地からの声――18
100年先を見据える。
「仁井田本家」 仁井田穏彦さん

People / ProducerAug. 11, 2020

text by Kyoko Kita

福島県郡山市で地元産の自然米による酒造りと、酒米の自然栽培を手掛ける仁井田穏彦さん。見つめる先は、今日明日ではなく、遠い未来です。「100年後に誇れるものを造る」。300年を超える蔵の歴史と共に脈々と受け継がれてきた精神は、法隆寺など日本の古い建造物にも共通して見られるもの。近視眼的な価値観に捉われがちな現代日本人にも、その心はDNAに組み込まれているはずと語ります。



問1 現在の状況

YouTube配信で次世代のファンを増やす。

居酒屋や酒屋・百貨店が休業、インバウンド需要は激減し、イベントも中止に。4月は例年の5割程度まで売り上げが落ち込みましたが、家飲み需要が追い風となって、6月には平年並みに戻りました。回復が早かったのは、飲食店、酒屋、スーパー、イベント、直販、通販と、売り先を分散させてバランスを取ってきたことが功を奏していると思います。これからは作るのも消費するのもある程度地元で完結するように、地元循環の比率を高めていきたいと考えています。

売り上げが停滞している時期は、大きなイベントや出張がなくなって時間ができたこともあり、以前から興味のあった「水酛(菩提酛)」に挑戦してみました。
水酛は室町時代に考案された伝統的な酒造りの手法です。現代は冬の寒い時期に1年分を造る寒造りが主流ですが、水酛は夏の暑さを生かして造る酒。生米と炊いた米を仕込み水に浸し、乳酸菌を一気に増やして醸します。 このチャレンジを自粛中の皆さんにもドキドキしながら見守ってもらえたらと、YouTubeで動画配信をしました。これまでもFacebookやInstagramでの情報発信はしてきたものの、YouTubeは初めて。撮影、編集を担当した妻は、それはもう大変そうでした(笑)。

YouTubeに取り組んだ理由には、若年層のお客さんを増やしたいという狙いもあります。
昭和42年から造り続ける看板商品の「にいだ しぜんしゅ」は100%自然栽培米と天然水で仕込む酒。コアなファンは60~70代ですが、今の20~30代にもこの先50年愛される酒であってほしいとの思いから発売50周年を機に、3年前、ラベルを刷新しました。新聞や折り込み広告で行っていたイベントの告知もSNSでの発信に切り替えたことで、若くておしゃれな方の来場が増えている気がします。
大切なのは、つないでいくこと。これまでのお客さんを大切にしつつ、次世代のファンを増やしていくことも、私の代が果たすべき大切な役目だと考えています。

代表銘柄である「にいだしぜんしゅ」は発売50年を機にラベルを刷新。インクや紙の使用量を控えたサステナブルなデザインで、50年先も愛される酒を目指す。


問2 気付かされたこと、考えたこと

100年後に誇れる仕事を。


都市部での感染拡大やマスクなど日用品の極端な品薄は、人口の一極集中や製造拠点の海外依存といった、便利さや安さばかりを追求する現代社会の歪みの表れだと感じます。

私は仁井田本家の18代目に当たりますが、長いスパンで物事を考えることが大切だと、代々の当主より教えられてきました。言葉で教育されたわけではなく、「100年後に誇れるものを造る」という精神が仕事を通じて脈々と受け継がれてきたのです。コンクリートではなく木造の蔵を建ててくれたのも、裏山に木を植えてくれたのも、自然酒を造り始めたのも、子の代、孫の代できっと役に立つだろうと見越してのことだったと思います。

蔵のある田村町金沢地区の自社田では、蔵人総出で自然栽培の酒米作りに取り組む。「ゆくゆくは自社田だけでなく田村町全体を自然派の田んぼにしたい」と仁井田さん。

2003年より、契約農家から酒米を買い付けるだけでなく、自分たちでも自然栽培による米作りを始めました。ワイナリーではブドウ栽培から一貫して手掛けますし、高齢化により地域の農業の担い手が減っていたことも理由のひとつ。そして、酒造りの生命線と言える水を守るために、自然環境が丸ごと豊かでなければならない、人任せにはできない、自然栽培を自分たちで習得しておかなければという危機感がありました。

自然栽培は農薬も肥料も使わないため、慣行農法から切り替えると一度は収量がガクッと落ちます。しかし、農薬や肥料の費用は掛からず、地力がついてくると収穫量も増えていく。付加価値がついて適正な価格で販売できるようになるため、結果的に農家は潤うことになります。
私たちが率先してモデルケースになることで、周辺の農家さんにも自然栽培への切り替えを促しやすくなるだろうと考えました。

東日本大震災から9年経ちますが、未だに福島産の農産物への風評被害は続いています。オーガニック市場では特に根強いようです。私たちは同じ福島の酒蔵として、県内でも風評被害の深刻な農家さんのお米を優先的に使うようにしています。この10年を切り取って考えれば、他県の米を使えばいいかもしれない。でも今、彼らを支えなければ100年後の福島の農業はないのです。

問3 これからの食のあり方について望むこと

自然がもたらす多様性を楽しんでほしい。


かつて日本人は地域の環境と共に自給自足してきました。山の木から道具を作り、火をおこし、山菜やキノコを摘んで、畑で野菜や米を育てる。森を手入れし、次の世代のために木を植えた。それと比べれば、現代人の生活は、地域外に依存しすぎているかもしれません。コンビニや外食といった便利なものを活用しながらも、地域内で完結する暮らしを見直す時が来ているのではないでしょうか。

今年から、裏山の杉を切り出して1年に1本ずつ木桶を作り、ホーロータンクから切り替えていこうとしています。伐採した場所には必要以上に杉を植えず、広葉樹の種が落ちて育つのを待つ。必要な杉林は維持しつつ、山を自然に近い姿に戻し、かつて里山にあった森と人との持続的な関係を取り戻したい。

杉桶で仕込むことで酒は複雑味を増します。味に奥行きが出て、温めればより穏やかになる。杉桶は「しぜんしゅ」にとても合っていると思います。

「しぜんしゅ」は100%自然栽培米と天然水で醸す。酵母無添加の生酛仕込みで、米の旨味、甘味、力強い味わいを引き出す。

今秋からはラベルにヴィンテージ表記をしていくつもりです。これまで日本酒には「同じ銘柄は同じ味」という暗黙の了解がありました。その高度な再現性は日本が誇る職人技でもありますが、「ワインは農産物」という言葉を借りて「日本酒は農産物」と考えれば、毎年味が違って当然です。特に「しぜんしゅ」は、蔵に棲みつく天然の酵母菌で仕込むため、年によって主役になる菌が替わってきます。酸味が前に出たり、甘味が出たり。今年は苦味が出ているから1年長く寝かせよう、なんてこともある。そんな違いも含めて楽しんでほしいと思っています。
均一性や潔癖さも、行き過ぎれば身を滅ぼします。自然界が本来持つ多様性をもう一度受け入れるべきではないでしょうか。

仁井田穏彦(にいだ・やすひこ)
福島県郡山市にある創業1711年の酒蔵「仁井田本家」の18代目蔵元であり杜氏。いち早く全量自然米(無農薬無化学肥料で栽培した酒米)、生酛仕込みの酒造りを実践し、自社田で酒米の自然栽培にも取り組む。「日本の田んぼを守る酒蔵になる」という決意のもと、田植えから稲刈りまでを体験できる「田んぼの学校」や、麹を使ったスイーツ等を販売する「スイーツデー」を開催するなど、若い世代の取り込みにも力を入れる。

有限会社 仁井田本家
https://1711.jp/
仁井田本家オンラインストア
https://niida1711.shop/
仁井田本家Facebook
https://s.r-tsushin.com/31kPpW3
仁井田本家Instagram
https://www.instagram.com/niidahonke/
仁井田本家YouTubeチャンネル
https://www.youtube.com/channel/UCMkmyj3T0Gpl4Qn8aNf93UA




大地からの声

新型コロナウイルスが教えようとしていること。




「食はつながり」。新型コロナウイルスの感染拡大は、改めて食の循環の大切さを浮き彫りにしています。

作り手-使い手-食べ手のつながりが制限されたり、分断されると、すべての立場の営みが苦境に立たされてしまう。
食材は生きもの。使い手、食べ手へと届かなければ、その生命は生かされない。
料理とは生きる術。その技が食材を生かし、食べ手の心を潤すことを痛感する日々です。
これまで以上に、私たちは、食を「生命の循環」として捉えるようになったと言えるでしょう。

と同時に、「生命の循環の源」である生産現場と生産者という存在の重要性が増しています。
4月1日、国連食糧農業機関(FAO)、世界保健機関(WHO)、関連機関の世界貿易機関(WTO)、3機関のトップが連名で共同声明を出し、「食料品の入手可能性への懸念から輸出制限のうねりが起きて国際市場で食料品不足が起きかねない」との警告を発しました。
というのも、世界有数の穀物生産国であるインドやロシアが「国内の備蓄を増やすため」、小麦や米などの輸出量を制限すると発表したからです。
自給率の低い日本にとっては憂慮すべき事態が予測されます。
それにもまして懸念されるのが途上国。世界80か国で食料援助を行なう国連世界食糧計画(WFP)は「食料の生産国が輸出制限を行えば、輸入に頼る国々に重大な影響を及ぼす」と生産国に輸出制限を行わないよう強く求めています。

第二次世界大戦後に進行した人為的・工業的な食の生産は、食材や食品を生命として捉えにくくしていたように思います。
人間中心の生産活動に対する反省から、地球全体の様々な生命体の営みを持続可能にする生産活動へと眼差しを転じていた矢先、新型コロナウイルスが「自然界の生命活動に所詮人間は適わない」と思い知らせている、そんな気がしてなりません。
これから先、私たちはどんな「生命の輪」を、「食のつながり」を築いていくべきなのか?
一人ひとりが、自分自身の頭で考えていくために、「生命の循環の源」に立つ生産者の方々の、いま現在の思いに耳を傾けたいと思います。

<3つの質問を投げかけています>
問1 現在のお仕事の状況
問2 新型コロナウイルスによって気付かされたこと、考えたこと
問3 これからの私たちの食生活、農林水産業、食材の生産活動に望むことや目指すこと


































































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