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SDGs

国内外に発信するサステナブルな街づくり

「大丸有SDGsACT5」プロジェクトが示唆するこれからの都市の在り方。

2020.10.16

トップ写真提供:大丸有エリアマネジメント協会 text by Kyoko Kita / photographs by Daisuke Nakajima

連載:大丸有SDGs ACT5

新型コロナウイルスの感染拡大がもたらした社会の停滞は、これまでの当たり前を見直し、豊かさについて改めて考える機会となりました。
そんな中、大手町・丸の内・有楽町エリアでは、5月から11月半ばまでの約半年間、「大丸有SDGsACT5」と題し、SDGsの目標達成を目指して様々なアクションを展開しています。
豊かな暮らしを実現するために街ができることは何か、また持続可能な街づくりに必要な要素とは何か。
三菱地所、農林中央金庫、日本経済新聞社、日経BPという異なる分野の企業が連携し、地方との新しい関係性から、これからの都市のあり方を模索していきます。




領域が違うからこそ、組めば新しいことができる

消費地である都市が抱えている問題。産地として地域が抱えている問題。
「大丸有SDGsACT5」では、それらを個別に考えるのではなく、生産から消費までを一つの繋がりと捉えて解決の道筋を描こうとしています。
大手町・丸の内・有楽町エリアに拠点を置く企業が互いに連携し合い、設定した5つのアクト(=テーマ、①サステナブルフード ②気候変動と資源循環 ③WELL-BEING ④ダイバーシティ ⑤コミュニケーション)の下、35個のアクションを約半年間に渡り展開していくこのプロジェクト。リードするのは、丸の内を中心とするまちづくりに100年以上の歴史を持ち、常に都市の新しい可能性を見出してきた「三菱地所」と、農林水産業と地方に基盤を持ち、金融を通じて日本の食や地域の暮らしを支えてきた「農林中央金庫」。都市と地方、消費地と産地、異なる場に軸足を置く両者が、それぞれのネットワークや視点を生かしながら、街を利用する人々と共にこれからの社会を考えていく試みです。

片や国内最大手のデベロッパー、片や日本の第一次産業を支える大手金融機関。大きな組織が主体となるこの取り組みが動き出したのは、意外にもトップが顔を揃える会議室ではなく、両社のオフィスのすぐそばにあるカフェでした。

「大丸有エリア全体を巻き込んでSDGs達成に資する取り組みができないか」と考えていたのは三菱地所サステナビリティ推進部の長井頼寛さん。一方、農林中央金庫の伊藤良介さんは、「第一次産業を盛り上げるためにやってみたいことはいくつもあったけれど、自社だけで進めるには限界を感じていた」と言います。それぞれの思いを知る共通の知人の紹介でテーブルを囲んだ2人。「三菱地所にできることと、農林中金にできることは違う。だからこそ、一緒にやればとにかくいろいろなことができそうだと、期待が高まりました」(伊藤さん)。互いに同じ熱量を確認し合うと、それぞれの組織を巻き込み、計画は一気に走り出します。



三菱地所の長井頼寛さん(左)と、農林中央金庫の伊藤良介さん(右)。今年の1月から二人三脚でACT5の計画を練り上げてきた。「この一大イベントを実現に漕ぎ着けられたのは、お互いにSDGsに対する熱量を共有できたから」。ボトムアップの取り組みだからこそ多くの人が共感し、仲間も広がっていく。


消費者も生産者も喜ぶ物流のシェアリングエコノミー

実は2社の連携自体は4年前から始まっていました。丸の内エリアと全国の生産者やJAが手を携え、食と農の課題解決を目指すというもの。その中で実装され、すでに一定の成果を上げている仕組みもあります。高速バスの空きスペースを活用した「産地直送あいのり便」です。新宿駅や東京駅には全国各地と都心を結ぶ1000台以上の路線バスが日々発着しています。そのトランクスペースに出発駅の地域で採れた野菜や果物や加工品をのせて運び、都心の飲食店に卸したり、マルシェで一般消費者向けに販売する。貨客混載を活用した仕組みで、農産物のブランディングやコンサルティングを手掛ける「株式会社アップクオリティ」と協業で進めています。

「大丸有エリアには850店以上の飲食店があります。この一大消費地に対して、国産の農産物をもっと使ってもらいたいと様々なアプローチをしました。しかし、ただ国産というだけでは、飲食店にも一般の方にも響かなかった。求められているのは、ストーリーが感じられるもの、手に入りにくいものなんです」と伊藤さん。
「あいのり便」がのせるのは、そんな物語性と希少性のある食材です。その日の早朝に収穫したばかりのトウモロコシ、前日の日暮れを待って収穫された枝豆、地元や近隣の消費地にしか出回らない加賀野菜、生産量が少なく傷みやすいなどの理由で県外に出ることのない珍しい品種のイチゴ……。輸送に2日かかるため冷凍での出荷しかできなかった高知のシラスも、路線バスなら1日で到着するため、ふっくらとした食感を残したままチルドでの発送が可能になりました。

現在、北は岩手県、南は沖縄までの50地域56路線を活用する「あいのり便」。出荷から早ければ数時間、九州、沖縄でも24時間以内で都心のターミナル駅に到着します。「農家直送の宅急便以上」というその鮮度は、レストランや消費者から喜ばれるだけでなく、生産者にとっても多くのメリットがありました。

産地では当たり前の「朝採れ」や「夕採れ」も、都心では大きな付加価値になります。県外に出ることのなかった品種なら、その希少性はより評価されて、地元より高い値段で販売できる。また、一部が傷んでいるため房での出荷ができないブドウも、きれいな粒だけかわいい小袋に入れて「あいのり便」にのせれば、都心のオフィスワーカーが仕事の合間に喜んでつまんでくれます。「産地と消費地がダイレクトに繋がるので、生産者の思いやストーリーも届けやすい。地域産品のブランディングにも効果的です」と「アップクオリティ」代表の泉川大さん。少ロットでの出荷が可能なため、新規就農者や少量多品目を栽培している農家にとっても貴重な出荷先となります。

10月8日、「あいのり便」の仕組みについて紹介するワークショップを開催。感染防止を徹底して行われたワークショップの会場には30名の参加者が集まり、あいのり弁当を食べながら「あいのり便」の仕組みや可能性について理解を深めた。


ワークショップで配られたあいのり弁当。高知からチルドで届いたシラスは、冷凍品よりもふわっとした食感が魅力。短角牛のモツ煮込み丼に使用したモツは、一次加工までを産地で行い冷凍で輸送することで、産地に加工費が落ち、消費地のレストランはオペレーションを簡略化できる。

「ただ空気を運んでいただけの空間に、ストーリー性のある食材をのせて走るあいのり便は、エコで可能性に満ちたシェアリングの仕組み。コロナ禍でバスの運休も出ているので、今後は観光と物産を繋げながら相乗効果を狙っていきたい」と、アップクオリティ代表の泉川大さん。

ビデオメッセージを寄せたJA三島函南の外岡賢大さんと生産者のみなさん。少量多品目で栽培している農家が多い地区のため、通常の流通では県外への出荷が難しい中、あいのり便の活用で新しい販路ができたと話す。

南アルプス市でブドウ栽培を手掛ける「やまなし農業女子」メンバーの片山京子さんは、「山梨県は東京のお隣。あいのり便で“ほぼ地産地消”の鮮度を楽しんでほしい」と会場の参加者に呼びかけた。

“あいのり”という名のシェアリングはエネルギーの有効活用という意味で地球にやさしく、利用者の減少が続くバス事業者にとっては収益の穴埋めに、またトラック運転手の負担軽減や人手不足の解消にも繋がっています。「良いことづくめ」と、関わる誰もが納得する、新しい物流の形なのです。

ACT5では、この「あいのり便」を活用したさらなる取り組みも行われています。大丸有エリアで使われている生分解性のカップやストローを回収して堆肥化、下り便にのせて長野県の圃場へと返し、栽培に役立ててもらいます(ACT②気候変動と資源循環)。「今後は『あいのり便』にジビエをのせることで、害獣駆除という名の下で山に埋められているシカやイノシシを積極的に都市で消費する流れを作っていきたいですね」と長井さん。

ワークショップでのパネルトークより。「関わるすべての人が喜ぶ仕組み。今後はオンラインなども活用して、もっと地域のストーリーや作っている人の顔を直接消費者に届けていきたい」と、「大丸有SDGsACT5」の実行委員会運営委員長を務める三菱地所の井上成さん。

「産地で安く消費されていた野菜や果物の販路が広がり、付加価値によって現地より高い値段で販売できる。生産者にとってもメリットが大きい」と、農林中央金庫の飯川茂さん。


国内外に発信するサステナブルな街づくり

こうした食のサステナビリティについて考えるワークショップは、第1回目の「あいのり便」、第2回「海洋資源のサステナビリティ」に続き、第3回「フードロス解決に向けて金融が担う役割」(10月30日) 第4回「持続可能な農林水産業のあり方」(11月9日)と計4つのテーマを設け、それぞれの領域におけるトップランナーをゲストに招いて行われます。

他にも、新型コロナウイルス感染拡大の影響を受けている漁業者や花き生産者を支援するイベントや、三菱地所と農林中央金庫の社員食堂でのフードロス削減に向けた実証実験(ACT①サステナブルフード)、ソーシャルディスタンスをデザインの力で楽しくする「Social GOOD Distance展」(ACT③WELL-BEING)、座学と農村でのフィールドワークを通じて持続可能な地方創生を考えるワークショップ(ACT④ダイバーシティ)、エリア内のホールやカフェ、インキュベーション施設を活用したSDGs映画祭(ACT⑤コミュニケーション)など、都市と地方、街と自然を軸に様々な切り口のイベントが企画されています。
地球規模の課題解決を目指すSDGsは、スケールの大きさゆえに日常との接点を見出しにくいも面あります。一人ひとりの興味や関心によって、また企業の特性によって、その接点は違うはず。ACT5が起こす35のアクションは、そんなSDGsへの具体的な関わり方の提案とも言えます。

主導している三菱地所と農林中央金庫も、この協業を通じて、社会が抱えている課題に対して理解が広がり深まっていると言います。「一次生産者を応援したいという思いで取り組みをしても、一方通行の発信になりがちでした。欠けていたのは消費者の目線。テナントさんと密に連携している長井さんたちと一緒に動くことで、レストランや食べ手の方々のリアルな声が集まってきました」と伊藤さん。一方、「産地が何を求めているかは想像の範疇でしかありませんでした」と長井さん。「伊藤さんたちを介して生産者の方々と繋がり、仕入れや流通まで遡り関わってみると、一つのサプライチェーン上にある様々な課題が見えてきました」。企業や業態の垣根を越えた人との出会いや繋がりも、共に一つのプロジェクトを進める過程で「アメーバ状に広がっていった」と言います。
「都市と地方はある意味、表裏一体の切っても切れない関係で、僕たちは双方の窓口にいる。協力することで得られる知見やネットワークは未知数です」(長井さん)。

「11月までの取り組みを通じてさらに関わる人や企業の輪を広げ、来年以降も継続的にアクションを起こしていきたい」と長井さん。国内外のトップ企業がオフィスを構える大丸有エリアは、街を利用する人だけでなく、日本の各地、そして世界に対しても強い発信力を持ちます。この街を舞台にしたサステナブルな取り組みは、一つのロールモデルとしてエリアの外にまで広く波及していく可能性に満ちています。



◎ 大丸有SDGsACT5
https://act-5.jp/

▼10月30日(金)18:30~20:00
食のサステナビリティ・ワークショップ#3 フードロス解決に向け金融が担う役割
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