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「山翠舎」の持続可能な店づくり

vol.3 息づく空間を生む、「古木」の使い手

SdgsAug. 31, 2020

photographs by Daisuke Nakajima

昔の職人の手仕事が残る古民家で使われた、質のいい「古木(こぼく)」を再利用し、深く温かい空間から、最先端のファッションブランドのショップまで、人々が集まる空間づくりで注目を浴びる施工会社「山翠舎」。その未来を見据えた取り組みを追います。




オープン時から“立派”になる

千葉県JR柏駅から5分歩いた先にあるイタリアン「オステリア レ テッレ」。オーナーシェフの大野裕介さんはイタリアで約5年修業後、東日本大震災、福島県の原発事故を機に、食の安全、人間社会が自然に及ぼす影響などへの意識を強め、3年前、出身地である千葉で現店をオープンした。地元で作られた顔が見える生産者の食材を多く使い、体に寄り添う味わいの料理と自然派ワインを揃える。店名の由来は「大地を食す」という意味だ。



国道沿いの角、陽当たりよい場所に位置。入口左の表札には、丁寧なエイジング加工が施されている。

大野裕介シェフは、麻布「リストランテ ラ・コメータ」で修業したのち、渡伊。フィレンツェ、ピエモンテ、シチリアなどで5年修業した。

正面奥の扉はやわらかなアーチ状に。右手奥は個室。小さな格子状の窓からは、忙しく立ち働く厨房の様子が覗ける。





フラットなチームの強み

建築の現場では、依頼主の「施主」、施主の希望にそって図面を引く「設計(デザイン)」、設計にそって現場で実際に作る「施工(工事)」と、大きく3つにわかれる。建築物の規模や性質に応じて、役割分担はさらに細分化され、関わる人員も増える。「オステリア レ テッレ」の担当チームは山翠舎の中でも比較的若手だった。営業の田中亮さん、デザイナーの山岸利香さん、工事の岸航平さん、同じく工事担当で現場監督を担った内藤崇弘さんだ。

まずは打ち合わせで施主である大野シェフと夢を膨らませる。大野シェフの希望は、イタリアの都心から離れた郊外の一軒家レストラン。肩肘張らずに落ち着ける、ぬくもりのある場所が希望だった。「“大地を食す”という店のコンセプトに表れるように、大野シェフは料理やワインに対する考え方が、木や自然なつくりのものを好む私たちと一致していました。共通言語も多くて、店のイメージもすっと理解できたと思います」と工事の岸さん。



営業の田中亮さん。大野シェフは山翠舎が手掛けた神保町のイタリアン「ジロトンド」の店内が心地よく、山翠舎に問い合わせをした。



デザイナーの山岸さんは打ち合わせでできたイメージを、2次元の紙に落とす。チームは近しいので、山岸さんは設計をしながら、スタッフと都度施主の意向を確認しながら図面を仕上げる。「設計を一人でやっていると、どうしてもエゴが入ります。核となる施主さまのイメージからブレないように細かく確認します。いくつも案件を通じて、私たちは信頼ができているから意見交換はしやすい」と山岸さん。物件は凸凹した空間だったが、個室やワインセラー、テーブル席などをうまく配置することで、座る場所によって表情を変える空間の設計になった。一方図面と並行して、工事の現場監督、内藤さんは予算を組み、計画を立てる。計画に1~2カ月、施工は1~2カ月をかけた。



「長く続けることを考えながら設計しているので、経年劣化も楽しんでほしい」とデザイナーの山岸利香さん。

工事グループ現場監督、内藤崇弘さん。入口の柱の塗り直しなど、細かな部分も手を抜かない気質で、現場では徹夜作業もあったとういう。

奥から見える、カウンター風景。左側はワインセラー。

入口右側に配置されたテーブル。ワインセラーの中をながめることもできるスペース。




施工を経て、施主の手に馴染ませる

トップダウンでないフラットな連携が強みだ。施主である大野シェフの意向の吸い上げは設計だけでなく、施工レベルでもさらに細かくアジャストする。
「例えばカウンター横の壁。設計上特に指示はなかったのですが、コートかけや大きな絵をかけたいという希望が出てくることがあります。そこで大野シェフに直接お尋ねしました」と内藤さん。慎重な大野シェフ、「何かかけるかも知れないです……」と返答。では、と当該箇所の壁一部だけ、重い負荷に耐えうる壁面加工を施した。

「これがあると、後に何かかけたくなっても対応ができる。施工自体は簡単ですが、事前の作業がないと、後から気が変わると一から壁に穴を開けたり、大きな改修作業と予算がかかります」と岸さん。こういったケースは多い。コンセントの位置、ワインセラーの棚の仕切りの高さ。細かな使い勝手を調整しながら、忙しく立ち働く場所を店主の手に馴染ませる。



工事グループの岸航平さん。図面を超える、現場レベルでのチューニングを大事にする。

全体にまっすぐで洋風な材を使い、入口付近の空間には、囲うように100年以上前のチョウナの手斧が残る深い色合いの古木の柱と横木を配置した。お客を迎える空間を、古木が見守る。このイメージに即して、カウンターや壁面の材のテイストを決める。古木を模した板材や加工を施した材は、新材でも入口の悠々とした古木のイメージに引っ張られる。


入口の古木のイメージは、店の顔として機能する。施工では繰り返し色の調整を行った。

店が完成した時、大野シェフは「立派になったなぁ」と感じた。古木の力を宿した空間ならではの褒め言葉だ。




店主を支える、空間

飲食店を開く人とって、一日の大半を過ごす店づくりは、将来を決める。店の空間は店主のパートナーだ。仕事へ向かうまっさらな朝は、新しい気持ちを鼓舞し、業務中はめまぐるしい仕事を支え、招き入れるお客をもてなす。夜は働き疲れた店主を癒す。
パートナーの個性は、やがて持ち主の個性になる。木や皮の質感が馴染んでいくように、持ち主の色と混ざりあう。近年、店をもたない料理人も増えたが、働く上で、店という自分の理想をイメージした空間は、先々料理人の支えになっていく。


取材後、テイクアウトの販売やレイアウト変更を考えるために、一部改修の相談をした大野シェフ。




経験値と技術が集結した「道の駅 小谷」



施工の場所が大きくなると、チームも大きくなる。
例えば第2回「目覚める土地の文化 古木の記憶」で紹介した長野県小谷村にある「道の駅 小谷」の改修。この事例は経験年数が長いチームが担った。設計を担当したのはデザイングループの小林敬介さんと山岸利香さん。工事グループでは現場監督の佐藤正宏さん。山翠舎が誇る古木5000本を知りぬく田村永さん、そして古木の扱い、また仕事の正確さと技術に関しては社内一を誇る大工、中島重雄棟梁率いる5~6名の大工たちが関わった。

「話があったのは白馬村にスノーピークと隈研吾氏建築の施設ができた後でした。依頼主である株式会社おたり振興公社代表、幾田美彦さんは白馬村に負けないくらいの施設を作りたい、との要望でした。美しさはもちろん、小谷の土地の良さを生かしたどこにもない個性と格好よさのある施設にしたいと、明確なヴィジョンがあったんです。それ形にするために話をしながら、では地元の素材、職人の技術を細部に施してはどうか、と案に至った。例えば小谷の古木、土、茅葺、それに伴い陶芸家や茅葺職人など使い手に至るまで、小谷の地元の職人の起用を考えたんです」。


「作為的ではないフォルムが古木の魅力」と語る、チーフデザイナーの小林敬介さん。


幾田さんと大きく膨らませた小林さんたちのイメージは図面となり、施工へ。工事の佐藤現場監督が予算や計画を立てて、古木を管理する田村さんが倉庫の中からデザインと予算、さらに大工の技術と手間、扱いやすさを考えながら現場に適した古木を選ぶ。材料が出揃ったところで中島棟梁たち大工のチームが実際に手を動かし始める。




設計を越える、施工

今年76歳、60年以上大工一筋のキャリアをもつ中島重雄棟梁は、当時を振り返り、「あの仕事は実にクリエイティブだった」と語る。同じ古木を扱う仕事でも、古民家移築では設計図はすでに決まっている。しかし小林さんたちが設計した図面では、道の駅の施設内に、小さな古民家を立てるというもの。物販スペースや通路の確保、または基礎の構造まで、移築とは条件がまったく違う。古木を使い、これまでにない創造的な建築物を作る場合、大工は自らの経験と知識をフル動員させ、未知のチャレンジをする。やりがいはあるが、設計と大工の厚い信頼関係と、大工の技量がないと実現できない仕事だ。



左が中島重雄棟梁。古木加工のスピードと正確さは社内一で、今でも現場の第一線で活躍する“生きるレジェンド”。右は工事の田村永さん。長野の本社から遠隔で取材に応対してくれた。




信頼を、余白で渡す

「いかに素晴らしい空間の設計図でも、それを具現化してくれる技術をもつ職人がいないとできません」と小林さん。中島棟梁はデザイナーの小林敬介さんを「先生」と呼ぶ。2人にはぶ厚い信頼関係がある。銀座一丁目「縁」の店舗を手掛けた時、棟梁は独断で曲がった古木を柱に使った。するとデザイナーである小林さんは図面にない施工に対し、「よくこれを使ってくれましたね。私のイメージした世界にぴったりです」と言ったという。棟梁はこの言葉に感激し、「先生が褒めてくれたんだ」と嬉しそうに話す。
意図的に配するには、ちょっと勇気がいる形状。現場だからこそできた挑戦。「こーんなひん曲がった木だったんだよ」と棟梁は笑う 。なぜ使ったのですか?と聞くと、「店っていうのはさ、変わったもの利用したほうが人気がでるんだよ」と。

山翠舎では古木を扱う際、捨てる部分を極力出さず、自然にできた線を生かすデザインを考える。古木を選ぶ工事の田村さんも必要なぎりぎりの長さで古木を切断し、短い古木も積極的に繋げて使おうとする。それも、中島棟梁の技術と信頼ゆえにできることだ。



棟梁の話す「縁」エピソードを、すっかり忘れていたというデザイナーの小林敬介さん。



自然なものは曲がっている。大地が長い時をかけて育んだ木を敬う山翠舎は、直線の美も曲線の美も尊ぶ。それを映すかのように、のびのびと羽を広げて仕事をするスタッフがいる。技術と信頼を持った設計、施工との間ではここちよい余白を生み、デザインは施主のイメージを越え、施工はデザインを越える。だから山翠舎の手がけた空間は、想像を超えた、息づくような生きた空間が生まれる。



大野シェフの料理。千葉県八街市のエコファームアサノのフィノキエットのソースをかけたキビキのカルパッチョや、木更津市「クルックフィールズ」の卵を使ったフリッタータ。

いすみ市のマダイと柏市の万願寺ししとうのパスタ。




◎ オステリア レ テッレ
千葉県柏市旭町2-5-6
☎ 04-7157-0703
www.osteria-le-terre.jp/

◎ 山翠舎
本社:長野県長野市大字大豆島4349-10
☎ 026-222-2211
東京支社:東京都渋谷区広尾3-12-30 1F
☎ 03-3400-3230
www.sansui-sha.co.jp/







ゴールとのつながり


7

エネルギー   古民家の古木を活用し、脱炭素化を図る


9

産業基盤   循環型の飲食店を、空間から支える


11

まちづくり   古木を活用した空間で、地域、人のコミュニケーションの場をつくる


12

つくる責任つかう責任    短期的でなく、長く愛される空間をつくる


15

陸の豊かさを守ろう    古木を活用して、新材の消費を少なくする






国連が、世界各国の報道機関を対象に発足させた「SDGメディア・コンパクト」は、SDGsに対する認識を高め、さらなる行動の活性化を支援することを目的としています。
料理通信社は「SDGメディア・コンパクト」の加盟メディアとして、今後より一層、食の領域と深く関わるSDGs達成に寄与するメディア活動を続けて参ります。









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