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JOURNAL / JAPAN

日本の食 知る・楽しむ

すき焼き「ちんや」 since 1880

連載 ― 世界に伝えたい日本の老舗 服部幸應

2016.05.01

日本の食 知る・楽しむ すき焼き「ちんや」 since 1880 連載 ― 世界に伝えたい日本の老舗 服部幸應

雌牛は香りのよさが特徴。牛脂(もちろん雌牛のもの)を加熱するだけで、いい香りが立ちのぼる。産地ではなく、肉質で見極められた肉は火が入ってもつややかで、舌触りもピチピチッとどこか女性らしさが漂う。。

text by Michiko Watanabe / photographs by Toshio Sugiura

連載:世界に伝えたい日本の老舗

世界の人々が認識する日本料理の双璧といえば、寿司とすきやき。それを東京を代表する観光名所、浅草で食する。外国人にとっては憧れに違いありません。浅草・雷門のお膝元にある「ちんや」は、明治13 (1880)年創業。何代にもわたって通う客はもちろん、外国人客も多いそうです。私も親の代から……。6代目を継ぐ住吉史彦さんにお話を伺います。

老舗が雌牛にこだわる理由

すきやき屋を始める前は、店名の由来でもございますが、「狆の店」でした。ご存じの通り、日本原産の犬種ですが、お旗本の奥方様や大商人を相手に、今で言う獣医やブリーダーのような仕事をしていたようです。

明治になりましてから、庶民の旅行が自由になり、また、肉食も許され、これからは飲食業がいいのでは、と転じたようです。以来、ご愛顧いただいて、今では、お客様も5代目、6代目にお越しいただいております。ご自分のお子さんばかりでなく、お孫さんも連れてきてくださる。これが大事だと思っております。子供の頃から食べ慣れている味だからこそ、いかに食環境が変わろうと、変わることなく足を運んでくださる。

手前どもの牛肉は、黒毛の雌牛のみを使用しております。日本で肉牛の生産が盛んになったのは、昭和1桁ぐらいから。それまでは、引退した高齢の農耕牛を食べていたので、どうしても獣臭かった。雄牛ですと、どうしてもその匂いがよりハッキリ出てしまいますので、お客様の目の前でサービスする時に、その匂いが困ります。

すきやきの店以外にも、左隣には洋食レストラン、右隣には肉屋も併設している。全店、使用しているのは雌牛のみ。ちんやの牛肉は枝肉を購入後、冷凍をいっさいしないため、繊細な肉の質感がそのまま生きている。

すきやきの店以外にも、左隣には洋食レストラン、右隣には肉屋も併設している。全店、使用しているのは雌牛のみ。ちんやの牛肉は枝肉を購入後、冷凍をいっさいしないため、繊細な肉の質感がそのまま生きている。

ですので、手前どものように、その頃からすきやき屋をしている店は、今でも雌牛にこだわっている所が多いですね。今では雄牛は去勢しますし、比較的若齢で出荷しますので、昔のようなきつい獣臭さはありませんが、それでもやはり、手前どもの甘口の割下には合わないんですね。それに雌牛でしたら、加熱した時、「和牛香」という、とてもよい香りがしますので、お客さまの目の前で調理すると、とても喜んでいただけます。

肉は噛んだ時に旨味が感じられるよう、昔からの案配で少し厚めに切っております。当然ながら、部位によって厚みも変えます。また、最近は赤身肉をご所望されるお客様も増えておりますが、赤身はよく動く部位で硬くなりがち。少し寝かせて熟成させてからお出しいたします。


肉は1人前125g。長ネギ、春菊、焼豆腐、しらたき、椎茸、麩、卵がついて、椿3500 円、楓5000 円、桐8000 円の3 コースがある(写真は桐コース2 人前)。

肉は1人前125g。長ネギ、春菊、焼豆腐、しらたき、椎茸、麩、卵がついて、椿3500 円、楓5000 円、桐8000 円の3 コースがある(写真は桐コース2 人前)。

割下は砂糖の多い甘口。ですが、これは肉の旨味とのバランスでして、バランスがよいと「おいしい」が先で、甘く感じない。ところが、肉が残念ですと甘く感じる。そこが面白いところです。

当店のすきやきは、鍋に牛脂を引いてから、まずネギを焼き、割下を注ぎます。そして牛肉、という順番です。ネギの甘味と割下の甘味が合わさって、何とも旨味が増してまいります。卵につけてどうぞ。少し厚めですから、口の中が肉で一杯になりますでしょ。ごゆっくりどうぞ。

英語のパンフレットには、すきやきの解説に加えて、知っておくと便利な簡単な日本語会話も収録されていて親切。

英語のパンフレットには、すきやきの解説に加えて、知っておくと便利な簡単な日本語会話も収録されていて親切。

個室はテーブル席、掘りごたつ、お座敷など様々なタイプを用意。

個室はテーブル席、掘りごたつ、お座敷など様々なタイプを用意。

6代目の住吉史彦さん。「すきやきは人数にあった大きさの鍋を使うことも実は大切なんですよ」。

6代目の住吉史彦さん。「すきやきは人数にあった大きさの鍋を使うことも実は大切なんですよ」。



◎ちんや
東京都台東区浅草1-3-4 
☎03-3841-0010 
12:00~21:30(土曜11:30~21:30、日曜、祝日11:30~21:00)
火曜休 
東京メトロ浅草駅より徒歩1分

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